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唐沢あずはの人間論  作者: あーの
6/10

ウラヤマシキヒト

席替えをして偶然にも席が隣になった頃から燐は唐沢によく声をかけるようになった。

元々あいつは唐沢のことが苦手だと話していたはずだし、俺にあいつが嘘を吐いていたなんてもっとあり得ない。

俺の知らないところであいつらに何かあったというのだろうか。


今まであんなに注意していたというのに突然現れて、突然好意を持ってもらえて、突然俺から燐を奪っていくなんて。


絶対に許さない、一体なんなんだあの女は。





燐と出会ったのは中学時代、入学して初めてのクラスで席が隣だった。


いわゆる施設育ちの俺は親の顔も知らず、当時は典型的な人を信じられない歪んだ性格をしていたように思う。

勿論施設では十分な愛情をもって育ててもらっていたし、一番付き合いの長いたづきも俺と違ってもっと素直だ。

そんな時期にまともな友人など出来るはずもなく、いつも一人で過ごしていた。


しかし燐はそんな俺と友達になりたいとしつこく話しかけてきたのである。

始めは勿論無視を決め込んでいたものの、それでもめげない燐にだんだんと絆されていき気付けば隣にいるのが当然になってしまっていた。


それから俺は明るくなったと周りはそう言う。

だが本当はその初めての感情が――燐への友情が愛情にすり替わっていくまでにそう長い時間はかからなかった。


この伝えられない片想いを始めてもう5年近くになるだろうか。

今まで上手いこと隠し通して親友として立ち回っていたはずだ。


それなのにこんな、俺のときみたいに積極的に関わっていこうと思うやつなんてずっといなかったじゃないか。

あれは俺の――俺だけへの感情じゃあなかったのか。


なんでこんな突然現れた転校生に穏やかな生活が崩されねばならないのだろう。


ああ――あいつは危険だ。

あの女を燐の傍から排除しなければと、そう頭の中で警鐘が鳴り響く。

しかしそれは燐にとって危険なのか、それとも自分にとって危険なのか、もう分からなくなってしまっていた。


ただすでに俺は自分のこの感情が異端だと、禁忌なのだと――人に知られてはいけないと十分わかっていたのだろう。

だからこそ今まで女が、特に燐に好かれる女達がただただ羨ましく妬ましかった。


奈々祁も、唐沢も――すべて。


わかっていたから中学時代から燐が好きになるやつも、燐を好きになるやつも、みんな排除する努力をしてきた。

それはこれからもずっと変わらない。


燐がそいつと話そうものなら邪魔をしに行くのは当たり前。

特に安全なのはその相手が俺のことを好きになるよう仕向ける、それが一番の常套手段だった。


燐を奪われないためならどんなことだってしてやる――今回もそう思っていたのに。


どうやらいい方向に当てが外れたらしい。

当の唐沢は俺どころか燐にさえ一切の興味を示すことはなかったのだ。

いや正確に言えば壱良以外にはというべきだろうか。


それこそ初めは俺の燐に対する感情と同じようなものかとも思ったが、どうもそうではないようだ。

もしそこに感情があるのならばきっとあんなにお手本のような綺麗な笑顔は作れないだろう。


唐沢が一体何を考えて行動しているのかはわからないし、実際わかりたいとも思わない。

ただ燐に手を出さないでいてくれるならそれだけでよかった。



そう思いながら今日も俺はふたりの邪魔をしに行くのだ。


穂積一樹から見た唐沢あずはとは。

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