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唐沢あずはの人間論  作者: あーの
5/10

コウゴウシキヒト

初めて見たときから彼女が輝いて見えていた。


人並みの見た目に人並み以上の佇まい――立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とは彼女のことだろう。

容姿よりも立ち居振る舞いでの美しさが彼女の周りをここまで狂わせているのだ。

確かに女子の精神年齢は男子よりも高いというが、彼女の場合は下手な大人よりも大人だったように思える。


クラス委員であった私がそんな転校生の彼女、唐沢あずはのチュートリアルになるのはある意味必然だったのだろう。


はじめは私以外にもたくさんの人間が彼女と関わろうと近づいてきたが、良くも悪くも淡白だった彼女は誰とも最低限の関わりしか保とうとしなかった。

いくら目を引くとはいえそのような態度だ、当然のように彼女を囲う波はすぐに消えていった。


勿論冬乃ちゃんのような一部の人達を除いての話だが。


そして残念ながら私の片想いの相手である穂積一樹もそのうちの一人だった。

いや、正確に言うなら少し違うか。

彼の親友である棚瀬くんが偶然にも席替えで唐沢さんと隣になってしまったのが一番の原因であるように思う。

それを機に棚瀬くんは彼女と会話――いや会話というにはこれはとても一方的だったが、そうお話をするようになったのだ。


それを邪魔するかのように彼はいつも二人のお話に入っていく。

きっと穂積くんも唐沢さんのことが好きなのだ。

それは可能性としては一番高いが、同時に一番あってほしくない事実でもあった。


もしもそうなら私に勝ち目なんて万のひとつもないのだから。





雨が激しく地面を叩き霧のように飛沫をあげている。

そんななかでじっとりと濡れた彼女はとても艶めかしく儚かった。


これ以上そこにいたら――それこそ世界から融けて消えてしまいそうな。


私は居ても立っても居られず自分の傘を持ってグラウンドへと走った。

水分をたっぷりと含んで重たくなった長い黒髪がべったりと彼女に貼りついていていまいちはっきりと表情が見えない。

いくら声をかけようとも腕を引こうとも私など存在しないかのように無反応で全く動こうとしなかった。


しかしそんなことで諦めるわけにはいかない。

何よりもこんなに身体が冷えてしまっては風邪だってひいてしまう。

動く意思の欠片もない彼女を半ば引きずるように無理矢理校舎に連れ戻す。


校舎に戻ってきた彼女はもういつも通りの凛とした佇まいに戻っていて、もうあの儚さはみられなかった。





私は幼い頃から手のかからないいい子だったと思う。


しかしそれと同時に引っ込み思案で話下手だということもあり、未だに仲の良い友人というものがほとんどいない。

なので私にとっては無条件に良くも悪くも話題の中心になることができる彼女のような人に憧れを抱いていた。


彼女がもし死んでしまったら――それはもうたくさんの人々が悲しみの声を、涙をその骸へと捧げることだろう。

きっと、彼も。


不謹慎なことだけれど、本当になんて羨ましいことだろう。


無反応の唐沢さん、めげず話しかけ続ける棚瀬くん、その話に割り込む穂積くん。

私は小さくため息を吐きながら教室の前のほうで談笑する3人を読んでいる本の陰からこっそりと覗き見る。



壱良さんはお休みだった。


奈々祁陽子から見た唐沢あずはとは。

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