ウラメシキヒト
私、井波志帆はつい先日彼氏である柴木裕太郎と別れる羽目になったばかりである。
まだ全然彼のことを吹っ切れていないままもうすでに件の日から3日は経過していた。
こんなにも私は彼のことが好きなのになぜこうなってしまったのか。
あれもこれも全部あの女、唐沢あずはの所為と言ってしまっても過言ではない。
その忌々しい出来事を自分の中で消化するために今から語っていこうと思う。
ちなみに余談だが私と別れたゆうくんは今もグラウンドでどうでもいい女の子達の好意には囲まれているも、本命には全く相手にしてもらえていないらしい。
ざまあみろ。
事は3日前に遡る。
私はいつも通りゆうくんを校門前で待っていた。
あまり部活時間が長くない私は図書室で勉強して時間を潰してから彼と一緒に帰るのが日課になっている。
しかしその日はいつまで経っても彼は校門前に来なかった。
いつもなら部活が長引きそうなときは休憩時間に声を掛けに来てくれるか、メールで一言あるのに。
不思議に思ってグラウンドまで行くと彼の姿はなく、そして部活も終わっていた。
どうして、疑問と一抹の不安が私の心を巣食う。
ふと近くを通りかかった彼と同じ部活の棚瀬くんを捕まえてゆうくんの所在を聞くとそれはあっさり判明した。
なんでも忘れ物をして教室に戻ったらしい。
なあんだ、それならそうと連絡をくれればいいのに。
遅くなってしまっているし彼を見つけて早く帰ろうと足早に教室まで歩を進めた。
これから直面しなければならない現実など知る由もなく。
遠目に見えた教室には電気がついていて彼がそこにいることを表していた。
驚かせてやろうと足音を立てないようゆっくり近づくと中から彼が誰かに話しかける声が聞こえてきた。
他にも誰かいるのだろうか。
窓からこっそり中を覗くとそこには彼と先日転校してきた唐沢あずはがいるのが見えた。
反射的に私は教室の壁を背に座り込む。
なんで、なんでふたりが一緒にいるの?
忘れ物を取りに来たら偶然会ったっていう雰囲気じゃない……よね。
なら待ち合わせてたっていうの?
それは……どっちが……?
いくつもの不安と疑問が心の中で浮かんでは消化されないまま溜まっていく。
ああ、ここからじゃ何を話しているか半分も聞こえない。
二人に一番近いところに移動してバレないように中を覗き込む。
口の動きを見る限りゆうくんからたくさん話しかけているけれど唐沢さんは一言も返答していないようだった。
いや、今初めてその綺麗な薄い唇が動いた。
彼女の言葉を余すことなく聞くためか、あんなに話しかけていたのに突然しんと教室内が静まり返る。
――あなたって本当、馬鹿みたい。
そのすぐ後だった。
ゆうくんが唐沢さんの唇を自分のそれで塞いで机に押し倒したのである。
一瞬何が起きたのかわからなかった。
あまりの衝撃でほぼ反射的に驚愕と恐怖に震えたままの手を教室のドアにかける。
突然開いたドアに驚いたのだろう、びくりと肩を震わせてこっちを向いた彼は大きく目を見開いた。
小さく掠れた声で私は彼の名前を呼ぶ。
彼からは返ってきたのは謝罪と別れの言葉だった。
そしてひらりと彼から抜け出した彼女はいつの間にか姿を消していた。
井波志帆から見た唐沢あずはとは。