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唐沢あずはの人間論  作者: あーの
10/10

アサマシキヒトタチ

人間というものはなんとも浅ましい生き物だと――私は知っている。

それはその浅ましい人間に寄生して生きている私達にも十分当てはまる表現だった。





彼に出会ったのは一体いつのことだっただろうか。

刺すような冷たい風が肌を撫ぜるとても寒い冬の日だったということだけははっきりと覚えている。


女の子の姿はいい、私がわざわざ努力しなくても勝手に餌が寄ってくるのだから。

そんな手に掛かったたくさんの男達の下でふらふらと毎日を過ごしていた。


毎日のように快楽を与え精を蓄えそして寝る――そんな怠惰の繰り返しに辟易する。

かといって何かを成したいと野望を抱いて生きるほど私は青くなかった。

仲間達はそんな物思いに耽る私を馬鹿だと笑うけれど、退屈は人間だけでなく悪魔だって殺すのだ。


そんな退屈に殺されそうになっていた時期だったかもしれない。

出会った彼はもともとそんな私を誘う男たちのうちの一人にすぎなかった。

しかしこれがまた酔狂な男でどれだけ私が誘っても手を出すこともなく、不要な同情心だけでどうやら私を受け入れたらしい。


彼に出会うまで自分の魅力は強いものだと思っていた私にとってこれは衝撃だった。

だって今までこの力を拒めたものはいなかったのだから。


彼にしてみれば誰にでもしているボランティアだったのかもしれない――だがこれは私が人間へ興味を持つ大きなきっかけのひとつとなった。





そんな彼の庇護下で暮らす生活は穏やかではあったが決して退屈ではなかった。

時折こっそり彼の夢を侵したりしたけれど、それは私の性質上仕方のないこととして捉えてほしい。

悪意を知らぬ彼へ膨らんだ興味がやがて愛へと変わっていったが、この感情に気付いたのはすでに事が起きてからだった。


ある日彼が恋をしたのだ。

もともと食い物として見ていた私にその恋を止める権利などない。

彼の邪魔にならないように傍を離れる決意をしたのが間違いであったことを知ったのは約半年後のことだ。


どうしても忘れられず訪れたときにはすでに以前の面影は薄れていた。

一体彼がふさぎ始めたのはいつからだったのだろうか。

他人かと見間違えるほど憔悴した顔、見るまでもないがらんとした部屋。

生気のない瞳が私を捉えて離さない。

俺を――と話しかけるのをせき止め私は夢中で彼を喰った。


後から聞くと彼はその恋した女に全てを貢ぎ捨てられ絶望したらしい。

それは正直自業自得な内容ではあったものの私にとっては到底受け入れられない事実だった。


私は悪魔だ――自分の欲に忠実に生きる。

あの女に対する彼の絶望、それを晴らすためならなんだって利用してやろう。

それだけを思って今日この日を迎えたのだ。


彼と同じく私に取り込まれることのない協力者は貴重だった。

南雲には感謝しなければならない――とはいえ彼みたいな人間は私達より欲深いから当然か。

世では彼らを鬼と比喩するけれど悪魔の方が性質は近い気がする。


そんなどうでもいいことを考えながら憎いあの女――壱良麻奈を蹂躙していく。

でもここで終わらせるには足りないからあとは他の悪魔にでも売ってしまおう。


お願い――もっともっと苦しんで。





そんな自分勝手で馬鹿みたいな私の復讐劇はとうとう幕を下ろした。


「あれ、もしかしてレニー?」


振り向くとそこには予想通りところどころ赤く濡れた南雲立っていた。

しばらく会っていなかった彼に少し懐かしさを感じつつもう二度と会うことはないだろうことを告げる。


「そうよかったね、でもボクの秘密はそのまま持っててその方がきっと面白いから」


そう言うことは何となく予想ができていた。

二度と会わないと言いつつきっと何かあれば私は彼を頼るのだろう。

その言葉には何も返さずに彼に背を向け歩く、歩く、歩く。


これから私は新しい餌を探してまた街を彷徨うのだ。


唐沢あずはから見た人間達。

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