ウツクシキヒト
グラウンドを囲む耳障りな黄色い声援を笑顔で適当に聞き流しながら空を見上げた。
雲一つない澄み切った青い空は俺達に余すことなく太陽の光を捧げている。
いつもと変わらない練習の最中、ふとひとつの窓が目に入った。
俺のクラスメイトの一人である唐沢あずはが座っていたからだ。
彼女が放課後まで学校に残っているのも珍しい。
大抵は仲のいい友人と早々に帰っているころが多いのだけれど。
今は伏し目がちで穏やかな少女に見えるが、いつもは冷めたような瞳で周りを見ては事も無げにすり寄ってくる奴らを相手にしている。
そんな姿が少し自分と被って見えて親近感を覚えたのが彼女に興味を持った始まりだったように思う。
にこやかながらも人を小馬鹿にしたような態度から当初はもちろん反感を感じる者も多かったが、彼女の美しさはその瞳はそのような感情さえもねじ伏せた。
その凛とした瞳が彼女に惹かれた一番の要因だったのかもしれない。
日本人とは思えない鋭く尖った氷のような冷たいマリンブルーの瞳。
きっとあの瞳には魔法でもかかっているのだろう。
あの瞳に惹かれてしまったが最後、俺は彼女のことしか見えなくなってしまった。
自慢ではないが俺も見た目はわりと整っているほうだ。
そして運動部のエースかつまあまあコミュニケーション能力も悪くない、それは一介の高校生にとって十分なステータスだった。
だから彼女だってここ数年途切れたことはない。
しっかりメイクの派手な女、守ってあげたいようなふわふわ女子、真面目な純粋女、そして唐沢が来るまで学年No.1美少女と言われていた今の彼女・志帆。
その他にもファンだと言ってくれる女の子やただの女友達だってたくさんいる。
しかし彼女は、唐沢あずははその誰とも違っていたのだ。
何より本当に彼女は俺達と同い年なのだろうか。
彼女の立ち居振る舞いや雰囲気はなんとなくもっと成熟しているように感じる。
また時折零れる艶かしさは年上の女にときめくものに近い。
しかしその色気は下卑たものではなくもっとこう崇高なものだ。
だから俺は彼女になかなか近づくことができないのかもしれない。
俺のような邪な想いを抱いているようなやつをきっと彼女は相手にしない。
ああ、彼女を手に入れられたら一体どれだけ甘美な心地になれるのだろう。
滑らかな白い肌、形の良い胸、しなるような手足――想像したところで見えるはずがないものに俺は憧れた。
いつか彼女に触れられたら、あの氷のような瞳に殺されたって構わない。
そんな感情がぐるぐると蠢いて頭のなかを侵食していく。
それを打ち消すようにまた周りの女の子達に笑顔を振りまいて気を紛らわした。
ふと、彼女がいた窓を見上げる。
彼女はもうそこにはいなかった。
柴木裕太郎から見た唐沢あずはとは。




