お話。
「なんで俺の魔法を食らってダメージを受けてないんだ?」
泣く泣く、ムーにリュックサックに入っている自分の着替えを渡して、着替えさせている。
「実は私達、巫女は攻撃系の能力が一切ないんですよね。その代わり防御と素早さに全振りしてまして」
「俺の魔法は魔王の防御魔法をもってしても防ぎきれなかったぞ」
「…あと考えられるとすれば…推測なんですけど」
顔を耳に近づけてこっそりと考えていることを言った。マサトは耳にかかる吐息がくすぐったかったが、その事を聞いた瞬間に凍りついた。
「なんで勇者の弱点を知ってるんだ…?」
「言ったじゃないですか。私は天才なので書物にそう書かれてたことを知っているんですよ。まぁ多少は身の上話からも推測出来ましたけど…」
それからムーは自分が魔族と人族のハーフだということを明かした。
「本格的に人と魔族が争い出す前、父と母は駆け落ちしたんですよね。それで生まれたのが私なんですよ」
「父が母が巫女の一族だったのか?」
「ええ。母です。しばらく人も魔族も入ってこない辺鄙なところで過ごしていたと聞いたんですが、戦いが始まってから私たちが住んでいた場所が魔族の駐在所になったんですよね。それで父魔族を足止めしている間に母が私を抱えて実家に転がり込んだわけです」
どこか懐かしむような悲しいような顔でムーは語っていた。
「私は父を見つけたいんです」
「でも、駐在所で魔族の足止めをしたなら生きてる確率は…」
「いいえ。母が言っていました。あの人は強い、それこそ魔王を倒せるほどに、と」
そんな人がいるわけないと思ったが、それを言えるわけがなかった。
そうして2人は迷宮の出口に辿り着いた。
「これから街に入るけど、そのツノはどうするんだ?」
「あぁ、これですか」
ムーはツノをさっと撫でると、ツノが消えた。
「!?」
「ふっふーん!私はハーフ。つまりツノはつけたり消したり出来るんです!」
褒めて褒めてと自慢するムーを無視し、素朴な疑問を口にする。
「なんで俺と会った時、ツノありにしてたんだ?」
「あんな場所に女の子が1人で彷徨いてたら確実に怪しみますよね。魔族なら警戒されながらも対話できるんじゃないかなーと」
ちょっとバカにしたようにこちらを見てニヤニヤするムーにゲンコツを落とした。
「えー!こんな狭い部屋に泊まるんですか!?」
無事に怪しまれずに街に入り、宿に着いた。がその部屋を見たムーは不満そうに声を上げた。
「いやなら別にいいよ。1部屋で2人分の料金をキッチリと貰われたし…」
何食わぬ顔で宿に入ると女将の婆さんが台帳を突きつけられたのだった。
「明日には迷宮で手に入れた素材を売却するんだ。早く寝といた方がいいぞ」
そう言って床で横になるマサトを見て、ムーは言った。
「同衾しなくていいの?」
その晩、ムーは宿の屋根で寝ることになった。
翌日、マサトがギルドに行き、買取を頼んだが面倒事が起きた。
「あなたのランクと買取素材のランクが合わないわぁ。規則に従って、買取は無理ですねぇ…」
ギルドは貴族の金で高ランクの素材を購入し、ギルドに出すことによって実力に合わないランクになることを予防してこのような規則を設けている。
「実は、催眠魔法をかけられている間に一緒に入ったパーティが全滅しちゃって、それで催眠が解けた時には素材だけが残ってたんです」
「催眠魔法!?ちょっとぉ…それは後で上に報告するわ。でも規則は規則なのよぉ…本当に申し訳ないけど…」
必死に説明しても聞いて貰えない。焦ってきたところで、ムーが進み出た。
「彼の素材を私が買取って、それを私がギルドに売るわ。それでいいかしら?」
スッとギルドカードを取り出し、受付嬢の前に提出した。そこにはランクBと刻まれていた。
「…………わかったわ、そういう事にしてあげる。よかったわねヒョロガリ」
思わぬ助け舟にムーの顔を見ると、ドヤ顔でこちらを見ていた。殴りたい気持ちをグッとこらえて受付の方を見る。
「えーと。ランクEの鎧の傷ありが2個、ランクD~C相当の鎧、凹み傷ありが1個。〆て銀貨3枚と銅貨50枚」
マサトは思った。自分がやってたチマチマとした稼ぎはなんだったのだろう、と。
「これで美味しいご飯といい宿が見つかるね!」
「あぁ、これでフォレストマウスなんて狩らなくても済むよ…」
銅貨100枚=銀貨1枚
銀貨100枚=金貨1枚
ぐらいのガバガバレートです。