魔族。
マサトはその場から飛び退いた。それを見た少女は少しばかり不快そうに顔を歪めた。
「誰だ。なぜここにいる。魔族が何の用だ」
「ちょっとちょっと。そんなに一気に質問されても答えられないよ。1つずつにして」
「わかった。とりあえずお前は誰だ」
「私の名前はムー。見ての通り、魔族だよ!」
「魔族がここに何しに来た」
「その前に私からの質問に答えてよ。私だって答えたんだし」
ムーと名乗る少女にマサトはいぶかしみながらも答えた。
「違うな。勇者じゃない。勇者は城にいるエドワードだ」
「…」
マサトの答えを聞いたムーは懐から手鏡を取りだした。そして鏡を覗き込んでから、マサトに向かって笑いかけた。
「お兄さん。なかなかのワルだね。この私を試すなんて」
「意味がわからないな。俺は勇者なんかじゃないよ」
すっとぼけるマサト。ムーはずいっと顔を近づける。
「ちょ、なにすんだよ!?」
「お兄さんって嘘つく時にまぶたがヒクヒクするんだね」
「なっ!?」
慌ててまぶたを触るが、はっとした。そして長いため息をついた。
「お前こそなかなかのワルじゃないか」
「ふふふ。この星詠みの巫女たるムーに心理戦を挑むのは100万年早いという訳だ!!!」
薄っぺらい胸をドンと叩いて自慢げにする。
「星詠みの巫女?」
「あ、やば。機密事項言っちゃった」
しまったという顔をするムーの頭をがっちりと捕まえる。尋問する気満々だ。
「とりあえずその機密事項から説明して貰おうか」
ニッコリと顔面蒼白で逃げ出そうとするムーをヒモで縛り上げた。
ムーの話を要約すると、自分は魔族に代々伝わる巫女の一族であり、巫女の役割は魔王の選定である。巫女は1人だけではなく、複数人居て、それぞれが鏡を通して魔王の素質がある者を選び、勝ち抜いた1人だけが魔王になるのだという。
「ほーん。で、俺はその鏡に選ばれた…と」
「シクシク。もうお嫁に行けない…」
逆さに吊るされたムーの傍に座り込んで考える。
「ひとつ聞いていいか?」
「なんですか?責任取って魔王選抜祭で1位とって魔王になってムーに一生ニートさせてくれるんですか?」
「いや、魔王選抜祭も気になるけど、なんで人間の俺が選ばれたんだ?」
マサトが倒した魔王は魔族であった。さらに言えばこの世界の人間でもないのだ。
「わかりません!しかし、鏡が選んだということは魔王になる資格はあるのです!」
「なんだよそれ…」
「そういえば、後ろからこっそり見てましたけど、なんか人間に恨みでもあるんですか?物凄い殺気立ってましたよ」
「後ろから見られてたのかよ…まぁかくかくしかじかで…」
マサトが自分の身の上話を始めた。すると間もなくムーは泣き出した。
「そ゛ん゛な゛の゛あ゛ん゛ま゛り゛て゛す゛よ゛お゛!」
ここまで泣かれるとマサトも少し引いてしまう。
「わかりました!!ぐすっ。勇者、いや元勇者様の復讐を私も手伝います!!!王に死を!」
「いや、いいよ」
「へっ?」
マサトにとって、他人とはなによりも信用ならない者であった。ましてや出会いって数分の他人の手を借りるなどありえてはならなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!この天才で最高にかわいくて優秀な私の協力がいらないって言うんですか!?」
ムーは信じられないものを見る様な目で見る。しかし、マサトからの返事は魔法だった。
「人は信用ならない。魔族も信用ならない。俺は俺の力だけで糞王に復讐するんだ」
ひとりごとのように言って、その場を立ち去ろうとしたマサトに誰かが抱きついた。
「けほけほ!こんなか弱い少女に魔法をブッパして服を破壊した挙句、そのまま帰ろうなんて!責任取ってください!」
なんとそこには全く無傷の少女がいた。
「へへへ!このまま抱きついて街に入ったらどうなるんでしょうかね!確実に魔族とつるんでる怪しいヤツに見られますよね!」
マサトは頭が痛くなった。