始まり。
マサトは2日間、なんとか食い扶持を保っていた。小さい魔物をちまちまとギルドに持っていったおかげでランクはEになっていた。
「マサト。悪いことは言わねぇ…アイツらについて行くのはやめろ。どうぜ犬死するだけだぜ…」
お節介を焼いてくれるおっさんの名はローグと言うらしい。日に何度もギルドに訪れていたせいで名前と顔を覚えられた。
「おっさん、暇なのか?」
実は訪れた時、毎回このおっはんが受付嬢に絡んでいた。
「ヴッ…そ、そんなことはどうでもいいんだよ!俺はお前を心配してるんだ!!!」
「そんなにアイツらは酷いのか?」
「んーなんだろな。アイツら自身は普通に優秀なんだよな。しかもいいとこの坊ちゃんらしいんだ。そしてここ1年で大きくランク上げたってところだ。ただ問題があってな…」
「囮役を用意して囮を襲わせている間に魔物を倒す…だろ?」
「あぁ、そういうことだ」
わかってて了承したのか、と言った顔でマサトを見る。
「厄介なことに、別に違法でもなんでもない。しかも家が背後にについてる。だから俺らはなんにも手出しできないんだ…」
考え込むおっさんを後に、マサトはギルドを出た。
街から乗り合いの馬車に揺られること1時間。『王の財窟』に到着した。マサトは大きめのリュックを背負っていた。
『王の財窟』はランクD相当と言われている。が、出てくる敵はあまり多くなくひとつひとつ対処出来る連携があれば難易度は大きく下がる。ボスを除いて。
「おい、遅いじゃないか」
3人組はゆっくり近づいてきた。そして女の1人がなにか耳元で囁いた。
その瞬間、マサトの目からは光が消え、両腕からは力が抜け傀儡の様になった。
「ガキ、走れ」
男が命令するとマサトは動く鎧の傍を駆け抜けて、奥へと走っていった。
「ちょ…脚が速いとは思ってたけどここまで速いって…」
「おいおい、鎧の魔物置いてけぼりじゃねぇか」
「まぁどうせすぐ息切れしてぶっ倒れてるわよ。そんなことより私、さっさとボス倒して帰りたいんだけど」
「賛成賛成!迷宮ってなんかジメジメしてて私も嫌い!」
「あーはいはい」
緊張感のない3人組はゆっくり、しかし確実に敵を倒して行った。
一方その頃、マサトは迷宮の最深部に到達していた。その目は傀儡ではなくしっかりとした意志を持った目をしていた。
「開幕から催眠されるとは思わなかった…なんとかレジスト出来たのが僥倖ってところかな」
ぶつぶつ言いながらボス部屋手前の休憩ゾーンになにかを仕掛けている。
「これでよしっと。あとはアイツらが来るのを待つだけだな」