出会い。
夏とは言え肌着1枚では出来ることも出来ない故に、仕方なく森に入る。女神に召喚された時、能力を付与されたがそこに生活する上で便利になるような物はない。故に金が必要なのだ。
「瞬光の矢!」
ウサギ型の魔物を射る。魔王が倒されたとはいえ未だ魔物や弱い魔族は生き残っている。それらを倒すのは所謂冒険者や兵士たちであった。
「こんなもんか…」
適当に魔力探知で引っかかった魔物を仕留め、草で編んだ紐を使ってひとまとめにする。長い間1人で旅しただけあって手馴れている。
「えぇー?受付ですかぁ?こんなおめでたな日に仕事ですかぁ?嫌ですよォ…」
とりあえず城下町を囲むように形成された貧民街の冒険者ギルトに向かって倒した魔物の買取を頼んだ。頼んだが、受付嬢も中にいる職員も酒でベロンベロンに酔っていた。
「お願いします。やってもらわないと今日の飯が無いんです」
基本魔物の肉は不味い。様々な原因があるらしいが魔物が日々取り込んでいる魔素が大きな要因だそうな。
「でもぉ…貴方みたいなヒョロガリがぁ…そんなこと出来るようには見えないぃーんですけどぉ…」
「うぐっ…」
見た目だけ見ればマサトは普通の高校生だ。特に鍛えてもいない、この世界の基準に照らすとガリガリである。
「ほらほらぁ帰った帰った…私は忙しぃいんですぅ…」
酒瓶をラッパ飲みでゴキュゴキュ飲む受付嬢。はしたない行為であるが周りもドンチャカドンチャカしているため気にする人はいない。
ひとりとぼとぼと歩いてゆく。特に行先はない。血抜きをしたせいか服に血が付いていて、ますます貧民街の住民に見えた。
「腹…減ったなぁ…」
独り言のようにボソッと呟いた。
「おうなんだ、ガキンチョ。腹減ってんのか?いいぜ今日はお兄さんが奢ってあげよう!!!」
急に後ろからバンバンと叩かれた。そこにはハチマキを巻いた屋台のお兄さんが立っていた。
「へっへーん。俺の店の食いもんはひと味違うぜ?なんたって勇者様がレシピを伝えてくれた秘伝の『タレ』で焼いたヤキソバっちゅーもんだ!」
よく見ると魔王を倒すために旅立ったあと偶然立ち寄った麺屋の人だった。そのときになんとなくで再現した焼きそばのレシピを渡していた。
「…」
「ヤキソバなんざ聞いたことがねぇだろ?ひとつ食ってみろ。飛ぶぞ」
驚きで口が開かなかった。まさかレシピを渡した自分の事を忘れていたなんて夢にも思わなかっただろう。
「どうだ。美味いだろ?っておいおい泣くほど美味いのか!ほらほら泣くんじゃねぇっての」
焼きそばは塩辛かった。