略奪。
「超絶紫電魔刻斬!!!!」
「ば、馬鹿な!この我が…この偉大で最強イケメンスーパーかっこいい魔王たる我がッ…こんな顔面偏差値50程度の村人Aレベルのモブキャラにぃぃぃぃ…」
「地味に傷つくそれ…」
某年某日、エルレシア大陸の北の半島に建てられた魔王城が轟音と共にこの世から姿を消した。人類を脅かした魔族の長たる魔王の死を世界に知らしめたこの出来事は全て1人の男によって成された。その男の名は『マサト・サイトウ』。女神によって召喚された勇者だった。
「良くぞやってくれた。勇者よ。これで我が王国も安泰というもの…」
満足そうに丸々と太った王は顎髭を撫でる。
「は、はぁ…」
「で、ここでひとつ相談がある。お主、その業績を我が息子エドワードがやった事にしてもよいか?」
「は?」
突拍子のない提案に思わずヘンテコな返事をしてしまうマサト。それを戒めるかのように大臣が大きく咳払いする。
「ほっほっほっ。いきなりの相談じゃから驚くのも無理はない…なぁに、ちょいと口裏を合わせてくれればいいのじゃよ…そうじゃな…金貨10枚渡すからほれ、さっさと出てゆくが良い」
命懸けで魔王を倒したはずなのにこの扱いはなんだ、とマサトは思ったがここで掴みかかることが出来ない。マサトの力は対魔専用の物であり、人と戦う時は高校生と全く同じ能力になってしまうのだ。故に旅でもかなり苦労した。
「ひ、姫は…魔王を倒した暁にはラターシャ姫を嫁にくださると…」
「はて?そんなことは言ったかのぉ?歳を取ったせいか記憶力が悪くなってしもうたのぉ?」
白々しい返答にもはや堪忍袋の緒が切れそうになった。だがここで歯向かえば待っているのは死だ。素の力では兵士にも劣ってしまう。
「わかり…ました…」
「ほっほっほっさすが勇者。わかりが良い」
「ほら、さっさと出ていけ。王様はお忙しいのだ」
数刻後、マサトは金貨が入った小袋を持って城門の前に突っ立っていた。城壁の中ではドンチャカお祭り騒ぎが聞こえる。もう宴は始まったのだろう。
「うっそだろ…?おい…」
乗っ取りがバレるのを恐れた王はマサトを都から追い出したのだ。
「へっへっへ…」
「ぐふふふふ…」
「ニチャニチャ…」
運の悪いことに野盗に速攻エンカウントしてしまった。門番に助けを求めようにもお祭りで門を固く閉じ、お酒を飲む為に街に繰り出しているのだ。
「有り金は置いていけ…あとその無駄にキラキラした鎧もだ…こいつぁいい鴨だぜぇ…」
マサトは今日ほど対人能力が無いことを恨んだ日はなかった。
魔王を倒して3日で身ぐるみ全て剥がされ肌着1枚になった勇者は思った。
全ての元凶、あの腐れきった王をぶち殺すと。
これは王国に裏切られた勇者が成り上がる物語。