第05話 決闘
昼休み
ジールに秘密にしていた特訓内容は、俺との決闘であった。
「た、戦うってどう言うこと?」
困惑する顔でジールが言った。
「その名の通り、俺と本気で戦うんだ。魔法ありでな。もちろん、手加減はなしだ」
模擬戦と称した剣の特訓はしてきたが、ジール本気で戦うことは今までなかった。だから、ジールが困惑するのも無理はない。
「で、でも。なんでいきなりティアと戦わなくちゃいけないの?」
「入団試験のためっていうのもあるけど、俺はお前の実力を知りたいんだ」
「実力……?」
「あぁそうだ。手加減は無しだからな。本気で来いよ?」
そう言うと俺はジールまで一気に間合いを詰め、剣を振り下げた。
ガンッ。
困惑しながらも、ジールは俺の剣を防ぐ。
「い、いきなり。実力を知りたいって。それならいつもの模擬戦でいいじゃ無いか!?」
剣を交えながらジールは言った。
「いいやダメだ。アレだと意味がないんだ。実際、敵と戦うために相手が剣だけ使うとは限らないだろ」
「そ、それもそうだけど……」
「ならつべこべ言わず戦え、わかったな」
「う、わかったよ……」
するとジールはいきなり俺から間合いを取り、手の人をこちらに向けた。
「(魔法か。だが強力なのは短時間で出せない。一気に間合いを詰めるか……)」
再度同じように間合いを詰める。だが俺の読みは外れた。この短時間でジールは上級魔法を放ったのだ。
「極火球!」
強大な火の玉が俺の間の前に現出する。俺は避けきれずもろに受けてしまった。
「ぐっ。やるじゃ無いかジール」
咄嗟に水魔法で体を守らなかったらやばかったかも知れない。そう思った矢先、間髪入れずもう一発の火球が飛んできた。
おいおいマジかよ。こんな連発昔の俺でも出来ないぞ?
そう思いながらも2度目の火球はするりとかわした。だが、ジールの姿が見当たらない。
「こっちだよ」
後ろからジールの声がした。2度目の火球は囮だったのだ。ジールの背後からの攻撃はなんとか防げた。
やはりコイツは油断ならない。俺は改めてそう直感した。圧倒的な魔力量に加え、ジールにはそれを応用する圧倒的なセンスも持ち合わせていた。
最初は困惑気味だったジールの顔が今では真剣な顔つきになっている。どうやら“スイッチ”が入ったようだ。
このままだと、マジで負けちまうな。
そう思った俺はとある奇策に乗り出した。
ジールが手の人をこちらに向ける中、俺も同じようにジールには手のひらを向けた。
『極火槍』!
ジールの手から火の槍が飛びだす。
「そうくると思ったぜジール。くらえ『雷神槍』!」
俺は今あるほとんどの魔力を使い強力な魔法を練った。一撃必殺ってやつだ。
俺から放たれた雷の槍は『業火槍』を打ち消し、そのままジールへ向かって高速で直進した。
「これをどうにかしてみろよジール。」
ジールは剣を盾に“雷神槍”を受ける。本来木剣でこの威力の魔法を相殺しようとするとすぐ粉々になってしまうものだが、ジールの木剣はヒビすら入っていなかった。……やがてジールは木剣で“雷神槍”を相殺した。
「な、なんてやつだ。無意識のうちに同等以上の魔力を木剣に込めるとは……」
俺がジールと決闘をしようと思った理由。単に実力が知りたいとかではなかった。ジールの素質はおそらく昔の俺以上。今の俺とジールどっちの方が強いのかはっきりさせておきたかったのだ。
お互い魔力を使い果たした俺らは互いに剣を交えた。
しばらくの鋭い剣技のぶつかり合いののち、やがて決着がついた。
「はぁはぁ……。やっぱティアには敵わないよ」
勝ったのは俺だった。近接戦に持ち込めたから今回は勝てた。
「そうでも無いぞ?もう少ししたらお前に抜かれちまうかもな」
そう言いながら俺は倒れるジールの手を取った。
ここ数日で、俺はジールの何かを開花させてしまったらしい。おそらく今のジールなら先日の貴族たちも余裕でボコせるだろう。
「さ、帰るか」
「そうだね」
こうして俺らはラミラスさんの宿へ帰ったのだった。
いつもより早い帰宅だが、決闘で疲れたので今日は帰って休むことにした。
「「ただいまー」」
宿へ帰ったが、ラミラスさんの返事は無かった。どこから出かけているのだろうか。
まぁいいか。暫くすれば帰ってくるだろう。そう思って俺とジールは部屋へ帰るなり沈むかのように眠った。
気づくともうすっかり日は暮れていた。俺は寝ぼけながら下へ行ったがラミラスさんの姿は無い。目が覚めて暫く家の周りまであちこち探したが、どこにも見当たらない。この時間になってもラミラスさんが帰って無いのは明らかにおかしい。俺は慌ててジールを起こしに上へ向かった。だがジールは既に起きていたようで、静かに窓を見ていた。
「ジール起きたか。ラミラスさんがいないんだ。ちょっと探しに行くぞ」
窓の外を見るジールに近づき、肩をつかんで言った。
手を通してジールから出る謎の振動が俺に伝わった。ジールは震えていたのだ。
「おい、どうしたんだよジール。震えてるぞ」
今度はジールの顔を見ていった。ジールはは青ざめていた。
一体窓の外に何が見えてるんだ。そう思って俺も窓の向こうを見た。
宿から少し進んだ街の栄えてるあたりの空は、夜なのにも関わらず明るくオレンジ色に光っていた。
……その光はあの日を連想させた。
「ティア、あの光って……」
ジールが震えた声で俺に聞いてきた。ジールも気づいているようだ。
「……行くぞジール!俺らはあの時のままじゃ無い。今なら救える者もいるはずだ!震えてる場合じゃ無いぞ!」
「う、うん。わかった!」
ジールはの震えは収まる、恐怖から真剣な顔つきに変わった。
俺はあの日拾った真剣を、ジールにはラミラスさんの宿に置いてあった杖を持たせて走り出した。
「勝手に持ち出して大丈夫かな、」
「今は緊急事態だ。多分それはラミラスさんのだけど、大丈夫きっと許してくれるさ。」
「それと、何でこの杖持たせたの?僕も剣を持った方がよかったんじゃ無い?」
「いいや、お前はそれでいい。その杖の先端に宝石みたいなのがついてるだろ?それは魔力を安定させる石で魔法を出しやすくさせるものなんだ」
「な、なるほど……」
そして暫く走り、曲がり角を曲がると、案の定だった。
あの日と同じ事がこの町でも起きていたのだ。
「くそ、少し遅かったか!」
既に街の三分の一が炎に埋まっていた。魔物と前線で戦う衛兵たちに俺らも合流した。
「な!子供は下がってなさい!ここは危険だ!」
「そんな事はわかってるよ!行くぞジール!」
俺とジールで手前にいる5体ほどの魔物をやっつけた。
衛兵たちは唖然とした様子で俺らを見る。
「衛兵の方達は早く市民を非難させて!ここは俺らが食い止めるから!」
「わ、わかった!」
俺が近接でヤツらの目を引きながら戦い、ジールがそれを援護する形で戦う。バランスの取れた戦い方を取った。俺たちはまだ万全の状態じゃ無かったのだ。
ここで俺は決闘をしたことを後悔した。出来るだけ被害を抑えて時間稼ぎをする必要があるが、俺たちの消耗はかなり早かった。
ここは比較的世界ギルド本部から近い街。少し待てば応援が来るはずだ。それまでは戦い切る。
そう思っていたが、今回ばかりは数が多すぎた。気づいたら街の半分程度まで攻められていたのだ。
「はぁはぁ……ティア……。もう限界だ」
ジールの限界が先に来た。かなり強力な魔法を連発しまくったツケだ。そう言う俺も限界が近い。剣が刃毀れしないように魔力を加えて戦っていたからだ。
疲れで集中力が持たなくなった頃、俺は背後にいる魔物に気づかず攻撃されてしまった。かろうじて剣でガードし致命傷は避けたものの、打撃の勢いでかなり吹っ飛ばされた。
「ティア!」
俺を心配するジールの声が聞こえる。だが体に力が入らない。
「ぐっ……」
必死に立とうとするが叶わない。魔物はそんな俺に容赦なく近づいてきた。
「くそ……ここまでか……」
気づけば頭から流血していた。
「ティアー!!!!」
ジールがこちらに向かって走ってきている。……が到底間に合わない。
魔物は俺の背後にまできていた。
やがて巨大な棍棒が振り下ろされる。
俺は全てを悟って目を瞑った。
………“雷神槍”!!!
バシュン!!
気づけば俺の背後に立つ気配は消えていた。
一瞬ジールがやったのかと思ったが、唖然としたジールの様子を見ると違うのがわかった。
じゃあ誰が?
「遅れてしまってすみません。ティア、ジール。あとは任せてください!」
聞き覚えのある声。それがラミラスさんであると俺にはすぐわかった。どうやら俺を助けてくれたみたいだ。
見るとラミラスさんは団服を着て立っていた。その後ろには同じく団服を着た団員が数多くいた。
「怪我人の救護を最優先に、治癒魔法が使えないものは魔物の討伐を行ってください!」
ラミラスさんが指示をすると一斉に「はっ!」と言う返事が聞こえた。
団員の1人が俺の駆け寄ってきた。
「なかなかの怪我だな。今治してやるから待ってろ」
「は、はい。ありがとうございます」
その人は俺に治癒魔法をかけてくれた。
「なぁ、これお前らがやったのか?」
魔物の屍を見て俺に聞いてきた。
「まぁ大体は……」
唖然とした様子で「マジかよ……」と言ってきた。
当然だろ。俺は元勇者だぞ。などと他愛の無いツッコミを俺は心の中でした。
「よしこれで大丈夫だ。怪我は治ったけど魔力は回復してないから安全な場所に行ってろ」
「わかりました」
俺は一時的な避難所的な場所へ行った。そこには手ぶらのジールがいた。どうやら杖をラミラスさんに渡したらしい。
「もうダメかと思ったよ!」
半泣きのジールが寄ってきた。
「あぁ俺もだよ」
………
……
「残った魔物は見当たりませんでした!あらかた討伐したようです!」
そんな感じの声が聞こえた。どうやら終わったみたいだ。
外に出ると撤退の指示を出すラミラスさんがいた。
こちらに気づきやがて近づいてきた。
「ティア、黙って宿を空けてしまってすいません」
「別に構いませんよ!それより、ギルドへ戻ったんですね」
「はい。先日あなたの言葉を聞いてから実はかなり悩みまして、今日いてもたってもいられなくなって戻りました。お陰で助けに来るのが遅れちゃいましたけど……」
ラミラスさんは申し訳なさそうな顔をしていた。確かに、ラミラスさんが残っていれば俺があんなピンチになることは無かったかもしれない。だけど、結果的にラミラスさんが戻っていなければ応援はすぐ来なかった。俺が彼女を責める術はどこにもない。
「あ、ティア。私はこの後団員として後始末があるので多分今日宿には帰れません」
「わかりました。俺とティアでなんとかやっときます」
「すみません。じゃああとは頼みます」
「はい」
ラミラスさん団員を引き連れてギルドへ帰っていった。
そして俺たちも宿に帰り、倒れるように眠った。
(੭ ᐕ))?