第01話 ティアとジール
前世の記憶が戻ったのは6年前、俺が4歳の頃である。既に物心がつく頃だったが、俺は意識を取り戻すことが出来た。
もちろん、生まれてからの4年間の記憶もある。
両親に心配をかけるといけないので、記憶が戻ったことは伝えていない。
そんな俺は、幼馴染で親友のジールと裏山のボロ小屋に来ていた。
ここは俺たちが幼少期から「秘密基地」として使っているところだ。
「なぁジール」
「ん?何?」
「お前は将来何になりたいんだ?」
「んー、わかんない」
まぁそうだよな。10歳の頃に将来が決まっている人なんて数少ない。
「ティアは?」
「俺の夢はのんびり暮らすことだ!」
「なにそれ、へんなの」
ジール笑いながら答えた。
前世は戦いに明け暮れる日々だったから、こうしてのんびり暮らすのは俺の夢でもあった。
ここは国の外れなので世界の情報がなかなか回ってこない。俺が敗れたあと、この世界はどうなったのだろう・・・。
魔王ミルは強かった。あいつは魔王の中でもトップクラスに強い。俺は英雄と称えられたが、こんなあっさりと死んじゃって皆んな失望しただろうなぁ。
他の勇者たちがなんとかやってくれていると良いが。
正直ミルとの戦いに勝機がないのはわかっていた。まだ俺の力じゃ敵わないことぐらいわかっていた。なのにあのクソ王子め。
そう、あの決戦はそのクソ王子によって企てられた。
クソ王子は世界ギルドの本部があるベルム国の第一王子であり、領土の欲しさゆえに俺たちに攻め入りをさせたのだ。
「行かないのならば世界ギルドへの投資は行わない」
とか言われた時は流石に狂っていると思った。
何しろギルドの資金源はその国にあったからだ。魔物から世界を守っているギルドへの投資をやめるとなると、世界が崩れるのもあっという間だ。
ところで俺の愛剣の封印は解かれたのだろうか。
負け戦だとわかった俺は、愛用する『聖剣フラルウィンド』を封印した。
あの剣が魔王の手に渡れば、それこそミルの手に渡ったとするならば、世界の完全支配が起こる日となるだろう。
ま、封印を解くにはそれ相応の実力と魔力、強い意志が必要だけどな。
俺は鼻で笑った。
「ジールそろそろ帰ろうぜ」
「うん!」
もうすぐ日がくれようとしていた。
カンカンカン………
俺たちが帰路についた頃、村の鐘が何度も鳴り響いた。村の鐘が鳴るのは定時と、、、
「緊急事態だ!急いで戻ろう!」
「え?ちょっと、待って......」
俺はジールを置いて走り出した。
一体なにが?緊急事態の警鐘は初めてだ。
やがて村に着き俺は現状を目にした。
「ハァ...ハァ......これは!?」
俺は目を疑った。
「村が、燃えてる?!」
やがてジールが追いついてきた。
「ハァハァ...ティア!どうしたんだ。いきなり」
後から来たジールもこの光景を見たようだ。
「なに、これ。何で、燃えてるの?」
村は炎に包まれていた。
「わからない!」
クソ、どうなってるんだ......。
「「「逃げろぉ!退避!退避ぃ!」」」
衛兵の声がする。
何かと戦ってるのか?
やがて衛兵と戦ってる物の姿が見える。
「な?!まさか、魔物?!」
見間違えではない。前世で何度も戦い、何度も殺してきた魔物だ。
「何でこんなところに、、」
その時、俺はジールの方に意図せず振り向いた。
ジールは怯えていた。喋ることもままならない程に。
「ジール!よく聞け!俺は後から追いつく。だからお前は村人と一緒に隣の街へ逃げるんだ!」
「で、でも。ティアは?母さんは?!」
「俺なら大丈夫だ!俺が強いの知ってるだろ?お前の母さんもきっと村人たちと一緒に逃げたはずだ!」
俺とジールはよく剣術ごっこで遊んだ、だから俺の強さは身に染みて知っている筈だ。
「行け!早く!!」
「わ、わかった!」
ジールは涙目になりながら走っていった。
俺は衛兵が落としたであろう剣を拾って魔物に向かっていった。
剣の戦い方は頭が覚えている。魔法はこっそり鍛えて使えるようになった『業火球』だけ。
「うあぁぁぁ!」
魔物に斬りかかる。そしてすぐさま魔法を放つ。
『業火球!!』
グァァ!!
魔物が燃えている。倒したみたいだ。
魔物は数十匹攻めてきていた。全て倒すことはとても困難だ。
前世の俺なら余裕で倒せたかもしれない。だが、魔力量の少ないこの体では、5体倒すのが限界だろう。
避難が最優先か。
俺の両親は。
なんだか嫌な予感がした。俺は急いで自分の家に向かう。
「頼む!逃げててくれ!」
俺を産んで育ててくれた恩人だ。それに、自分「ティア」の実親でもある。こんなところでみすみす死なすわけには行かない。
走っている途中、ジールの家が目に入った。人がいる様子はない。ジールの家族は避難したみたいだ。
やがて俺は自分の家に着いた。そして、どうやらその嫌な予感は当たってしまったようだ。
「母さん!」
家が崩れて母親がその下敷きになっていたのだ。
「ティ......ア?」
もう虫の息だ。
「今どけるからから待ってて!」
早くどけなきゃ間に合わなくなってしまう。
「......て。に...げ......て」
「そんなこと出来るかよ!母さんを見殺しに出来るか!」
全く持ち上がらない。
「クソ!父さんはこんな時に何やってるんだ!
どこにいるんだよぉ!」
そうしてるうちに魔物が何体かやってきた。
「邪魔をするんじゃねぇ!」
『業火球』と剣で返り討ちにする。
今ので今ある魔力をほとんど使い切った。倒せるのはあと一体が限界。倒せたとしても、その後動けなくなる可能性が高い。
クソォ!!
「ティア......」
前世のことなんか知られても良い!何としてでも救わなきゃ......。
「ティア!」
突然の大声に、俺はビクッとした。
「母さん...?」
「ティア、あなたは強い。だから他の人を守らなきゃいけない。」
か細い声で言った。
「な、何言ってんだよ。母さん」
母は瓦礫の中から手を差し伸べた。
「あなたは、誰よりも強い。だからこの世界の平和のために戦いなさい。これが私の最後の遺言......よ......。」
俺は母の手を握った。
「母さん.……」
俺の瞳は既に潤いを保ちきれなくなっていた。
「見ててくれ!必ず...俺が世界を......救ってやる!」
母は静かに微笑んだ。
「さぁ、行きなさい。あなたは1人じゃ無い」
「うぐっ......母さん.....ごめん......」
俺は母を置いて走り出した。
無能な自分を呪った。非力な自分を呪った。
そして、情けない自分を呪った。
あの子なら大丈夫......きっとやり遂げるられるわ。だって私の子だもの。
そう言いながら、ティアの母親マリィは息を引き取った。
まだまだ序盤