二人のバカと妖精さん? 〜夢に突き進む男達を妖精さんは今日も白い目で見る〜
休日の朝の事だ。
母さんから妹が僕のベッドの下に眠りしエロ本を発掘しようとしているというタレコミがあり、僕は聖典(エロ本)隠し通すために物置小屋に居た。
これが白日の下に晒されたら父さんからは乾いた笑いを向けられ、妹からは笑い者になる事は確定路線だ。それだけは阻止しなきゃいけない。
てか母さんにバレてる時点でわりと致命傷レベルのキズを心に負ってしまった。許さないマイシスター。
しかしなんで僕のエロ本を発掘する気なんだろう。昨日、妹が隠していたBL本を晒し上げた事を根に持っているのだろうか?
「やっぱり男ってエロい事しか頭にないわね」とかドヤ顔で言ってたから、兄として自分を棚に上げてはいけないという事を教えるべく父さんと母さんに晒し上げただけでここまで怒るとはあのムッツリスケベめ。オメガバースとか業が深すぎる。
ま、そんな事はどうでもいい。この保健体育の参考書をなんとしても隠し通さねば。流石に妹相手に妹系のモノを見られたくない。数少ない兄としての尊厳が地に落ちるどころかマイナスになる。
母さんの情報では妹は現在僕の部屋に向かっている最中だろう。時間はもうない。速やかに迅速に隠さねば。
だがこの物置小屋。父さんが三日で飽きた日曜大工の道具やら母さんが二日で使わなくなったルームランナー、等といった邪魔なもので溢れかえっている為なかなかいい感じに隠せるスペースがない。
いい場所はないかな……目を皿の様にして全体を見渡すと、ルームランナーの下に扉の様な物があるのを見つける。
「こんなんあったっけ?」
両手に抱えたダンボールを床に置き、ルームランナーを退かす。
その下にはやはり扉があった。地下へと続くと思われる古びた扉。長年使っていないのか、かなり錆び付いている。というか僕が知らないだから十数年は使われていないと思う。
「そうだ! この下に隠せば!」
僕が知らないというか事はおそらく妹も知らない。それにまた扉を隠せば……バレない!。
けど、この下になにがあるんだ? そもそもこの下に隠すスペースは――――
「どこ!? どこに隠したのお兄ちゃん!! 私の新約聖書(BL本)を白日の下にさらけ出しておいて、自分は潔癖気取ろうとしてもそうはいかないわよ!!」
家の方から、そんな妹の叫び声が木霊してくる。
迷っている時間はない。僕は扉に手をかけ、引っ張る。
キィィィ……と、錆びた扉独特の音をたてながら、あっさりと開く。
暗くてよく見えないけど、地下に続く階段がある事はうっすらとわかる。
再度ダンボールを手に持ち、ライトをつけたスマートフォンを口にくわえて足元を照らし、地下へと降りていく。降りる際に扉を閉めるのは忘れない。
かなりホコリ臭いし、階段がわりと長い。
まさか家の下にこんな物があったなんて……そんな事を考えながら足を進めていると、拓けた場所に出た。
ここが地下室か――――なんて普通の感想は、一瞬で吹き飛んだ。
「……えっ?」
漏らした声と共に、スマートフォンがダンボールの上に落ち、ライトの意味をなさなくなった……が、そんな事は関係なかった。
地下室のど真ん中。そこには人一人が通れるぐらいの、鳥居に似た石門らしきもの鎮座しており――――石門の中には、青い光の渦。そうとしか言いようがない非現実的なファンタジーチックの物が存在した。
「……なに、これ?」
生まれて初めて目撃するそんな光景。気がつけば僕は無警戒に、それに近づいた。
「ライト……じゃない。光源なんてないし……じゃあ、これは?」
興味本位で伸ばした指先が光に触れると――――体が、光に思い切り引っ張られる。
「うおっ!?」
咄嗟に手を引き抜こうとするも、既に手は二の腕まで飲み込まれ、いくら引っ張っても手は抜けない。
な、なにこれ!? そんな声を出す間もなく、僕は光に吸い込まれた――――
「なぜだ! なぜ天才である俺が、このぐらいの事を成すことが出来ない!!」
怒りに任せ拳を叩きつけるほどにその少年は憤っていた。
見目麗しいといった表現が似合う白銀の髪の少年ではあるが、何日も寝ていないのか目の下には深いクマがあり、不気味な様子だ。
少年は手に持っていた一冊の本を乱雑に投げ捨て、そのまま床に倒れるように寝転がる。
「クソッ……何が神童だ! 過去の技術も再現出来ない者が神童であるものか……っ!!」
少年――ライ・ユースティアは世間では数百年に一人の天才魔法使いと言われていた。
あらゆる魔法を扱える神童とも呼ばれた少年は今、憤っていた。
「諦めてたまるものか!! この技術を復活させる事こそが俺の夢! 俺の悲願! 俺のバラ色生活の為にも! ハァーッハッゥエホッ! ゲホッ!! む、むせっゲホッ!」
「みー!?」
徹夜に次ぐ徹夜で明らかに頭のネジが弾け飛び、地面に転がりながらむせ返るライに子供の頭ぐらいの大きさを持つ何かがふよふよと空を飛び、近づく。
小さな体躯に、透き通った薄い透明の二枚の羽。例えるならば、妖精のような存在。
妖精と思わしき存在はその小さな手のひらでライの背中を擦り、咳き込むライを助けようとしていた。
「す、すまん1号ちゃん。だいぶマシにはなった……くっ、せめて1号ちゃんが……なぁ……」
「みー」
「喉にパンチしようとするんじゃない!! 謝るからやめろ!」
半目の1号ちゃんの追撃をくぐり抜けたライは体を起こし、投げ捨てた本に再度手を伸ばす。
そこには書かれているのは過去の秘術――――生命の発現。
一から一個の生命を作り出す、奇跡としか言いようがない魔術で、今では失われてしまった遥か昔の魔術。
「……本当にどうにかならないのか。やっと出来た成功例……とは言えないが、1号ちゃんは出来たんだ。希望はある」
「みー!」
「だが、それ以来進展がなく時間だけが過ぎていく……今は昼なのか夜なのか? 地下だと時間の流れがわからん」
「みー……」
そう言って、ライは首をぐるりと動かし、部屋を見渡す。
街のはずれ、そのまたはずれの山奥にある遺跡を再利用した自らの実験場所。
机や本棚といった文明を感じさせる物は置いてあるが、元は古い遺跡。
壁はひび割れ、部屋の中心には古ぼけた大きな石門のような物がある。
「こういう場所で研究すればインスピレーションがわくと思ったが……期待はずれだったか」
「みー」
もし1号ちゃんが喋れたら「何言ってんだ」と言ったかもしれないが、1号ちゃんは喋れない。
だから1号ちゃんは白い目でライを見る事しかできない。
そんな白い目にも気付かず、ライはぶつぶつと思考を紡ぐ。
「そもそもノリで使っているがここはなんの遺跡なんだ……? 石門以外なにもない……」
「みー」
「まぁそんな事はどうだっていい! 俺は自らの夢の為に突き進む! そう! 俺は―――」
その瞬間。
1号ちゃんは目を見開き、ライの後ろを指す。
「み!? みー!」
「む、どうした1号ちゃん」
1号ちゃんの尋常ではない様子に、ライは何事かと顔を後ろに向けると―――部屋の中心に佇む石門のその中心。
そこには眩い光の渦が出現していた。
「なっ!?」
これは一体―――そんな事を思考する間もなく―――
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!」
ゴツンと、光の渦から出てきた何かはそんなコミカルな音と共にライは頭にクリーンヒット。ライは頭に凄まじい痛みを感じ、目の前に星が散った。
『いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
第三者の声と重なる苦痛の声。ライは頭を抑えて地面に転がりながらも、思考を冴え渡らせる。
襲撃者――――否、それにしてはマヌケすぎる。
何処から来た? 転移魔法はありえない。それならば自分が気づかないはずがない。
だがあの渦は……?
結果、なにもわからない。
ライは痛む頭を抱えながらも機敏に立ち上がり、同じく目の前で頭を抱えて転がっている人物に鋭い視線を向ける。
奇妙な格好をした男だった。
見た事がない文字の様な物が描かれた白いシャツに、頑丈そうな素材で出来てた紺色のズボン。
顔立ちは東の大陸の人種に当てはまる顔立ちだ。
そして男の隣には茶色い箱が落ちている。
「痛っ! まじ痛っ! 頭が割れるよ!!」
情けない声を上げている男に近づき、ライは警戒しながら声をかける。
「何者だ!!」
「みー!」
1号ちゃんが手渡してきた杖を握り締め、男に杖先を向け、臨戦態勢を取る。
男はその事を知ってか知らずか、頭を押さえながら緩慢とした様子で立ち上がり、ライと視線を合わせる。
男の目には、困惑の色が浮かんでいる。
「……誰?」
「それは俺のセリフなんだが!?」
「いや、相手の名前を聞きたければ先に名前を言えって……」
「初めて聞いたぞそんな言葉!?」
「えっ、お約束みたいなセリフだよこれ!? こう、謎のカッコイイやり取りみたいな!」
「俺をおちょくってるのかお前は!? お前が何者で! 俺のラボにどうやって現れたか言え!!」
「ラボ?」
ライの言葉に男は首を動かし、部屋の中を見渡す。
二十秒近くたっぷりと部屋を観察すると、男は大きく息を吸いこみーー
「ここどこ!?」
「ふざけてるのかお前はぁ!?」
これは、後に伝説と呼ばれるかもしれない出会いだったーーーー




