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第19話『太陽が照らす昼間』



 タロトス王国の王子フールレ、その騎士長ナイツ、大臣ペイジス。

 馬に乗った三人の男が、快晴の空の下を進む。

 干し肉を齧り喰いながら、特に何の問題もなく、草原の中の道を歩む。


 そして誰もいない町を通り過ぎ、ガラガラの城を横目にし、王子達は湖を目指した。


 城を出てからここに来るまで、ナイツが周りを常に警戒していた。

 ペイジスも可能な限りは魔法で探知していたが、何の気配もしない。

 王子は自分の無力さを知っているので、呑気に風景を眺めていた。

「まさかここに来るまでモンスターの一匹も襲ってこないとはな」

「完全に誘われていますな?」

「ふむ」

 湖の横を馬で進んでいく。穏やかな風に吹かれた水の音がする。

 周りには、かつて巨大戦車だった鉄くずが、飛び散っていた。

 塔が徐々に大きく目に映る。



 塔までもう少しという距離。

 近づけば、その巨大な塔に、王子達は圧倒される。

 何階建てなのかわからないが、見上げる程の高さのある塔だった。




 塔の前で、突然に魔王が姿を現した。



 刺々しい虫の様な顔の巨人が、王国の三人を見下す。



 突然の異形の存在に、馬達が驚き反り上がる。

 興奮が治まらず、ナイツとペイジスは飛び降り、フールレ王子は落とされた。


「いたたた!? ……クイン!? クイーン!!」


 馬三匹が逆方向へと走り去っていた。

 その後姿を見て、叫ぶ王子。


 それには気にせず男二人は魔王を見上げた。




 愛馬の逃亡を嘆く王子。

 剣を抜く騎士。杖を握る大臣。

 それを困惑の表情で見下す、魔王キングイ・カードル。


「貴様ら、なぜここに来た?」



 魔王は王子達が、自分の塔に向かっているのには気づいていた。

 だがなぜ王子達が、ここに向かっているのか、その理由がわからなかったのである。


 それが今まで王子への攻撃をためらわさせ、ここに来るまで放置していたのである。


 だからこそ、それに気づいた時には、すでに手遅れだった。



「四天王よ、殺せぇ!!」


 魔王の命令と共に、出現し王子達に襲い掛かる魔王の配下、スート四天王。



 剣士の大男アーミーが繰り出した大剣を、少女騎士の剣が弾き飛ばした。

 僧侶の様な大男モークが叩きつけた、魔力のこもった杖を、精霊の様な少女が水のバリアで吹き飛ばした。

 商人の様な大男マーチャトがかざした大きな壺が開かれるが、小さな少女の岩がその口を塞ぎ、もう一つの岩が殴り飛ばした。

 農民の様な大男ファーマが鎌で斬りかかるが、薔薇の様な少女の放った爆発がふっ飛ばした。




 王子の横に、四人の姫が並び立つ。



「な、なぜ、お前達が」

 四天王を撃退する、四人のエース。

 魔王が驚愕の声を出して、後ろへと下がる。



 そして姫達は、お互いの顔を見て首を傾げた。

 その顔は困惑。(どうして、貴女たちがここに?)と顔が言っていた。


 そんな様子の姫達に、魔王は叫ぶ。

「貴様らは、そこの王子に騙されていたと言うのに! 偽りの愛に踊らされていたと言うのに! まだその愛にすがり戦うと言うのか!?」



 そんな魔王の言葉に、姫達は納得した。

 そして姫達は互いの顔を憐れみの顔で見ていた。(この人達はまだ、王子の事を愛しているのね)と悲しんだ。




「おお、姫よ」

「「「「王子!?」」」」

 立ちあがった王子は、四人の姫を見て、声をかける。


「私の魔王退治に駆け付けてくれたのか!」

「「「「さすがに無茶が過ぎます!?」」」」

 責めるような四人の姫。

 だが真面目な顔で、王子は見返した。


「ここは私の国だ、私が戦わなくて、誰が戦うと言うのだ?」

「「「「……ですが!?」」」」


「……私が心配だと言うならば、助けてくれるか?」

 王子の済まなさそうな顔。姫は頷く。

「「「「はい!」」」」



 魔王配下の四天王が立ちあがり、さらに攻撃をしてきた。


「貴様はこっちだ!」

 ソディレアは剣士のモンスターの大剣を鍔競り合い、そのまま湖とは離れた方向へと押し込んでいく。

「……あなたはこっち」

 カプノアが僧侶のモンスターを、湖の水を操り巨大な手を作りだし、掴んで水の中へと引きずり込む。

 そしてカプノア自身も湖へと飛び込び、人魚のようなスピードで湖底へと潜って行った。

「君はこっち!」

 コイフィが、大地を操り流砂へと変化させる。流れる砂に商人のモンスターは流されて遠くへと運ばれた。

「なら貴方はここでいいでしょう!」

 ワドリスが、鎌を振りかざさんとしたモンスターを、爆発で足止めする。

 さらに立ちあがらんとした所を、追加の爆撃で押し込んだ。


 四人の姫はバラバラに戦う。

 なぜなら一緒に戦うのが姫同士、気不味かったからである。





 姿を消す魔王。開いた門の様子から、どうやら塔の中へと逃げ込んだらしい。

「ならば追いかけざるを得ないな」

 王子は塔へと向かって、歩いていく。


「こいつを倒したら、すぐ追いかけるから!」

「……無理はしないで!」

「怪我とかしちゃ、ダ・メ・だ・よ!」

「私が行くまで、ご無事で!」


「ああ、任せたぞ。こっちは中にいるモンスターの駆逐を行っておく!」


 王子と騎士と大臣の、男三人は塔の門をくぐって行った。



「きさまら如き人間が、魔王様に勝てるわけがない」

「そうかな?」

 ソディレアの剣が、アーミーの首を斬り落とした。


「無駄だ、王子も貴様らも死ぬ」

「うるさいクズが黙れ」

 湖から飛び出たモークを、カプノアが魔法を使い、雲が巨大な氷の矢と化して、貫き湖に撃ち落とした。


「ほっほっほっ、無意味なあがきです」

「バーカ、死んじゃえ」

 マーチャトの持つ、この世でもっとも硬い壺を、コイフィの生み出した槍が、その体ごと貫く。


「魔王様には誰にも勝てない」

「知りませんわ、そんなこと」

 ファーマが投げつけた鎌を爆発させる。さらにその両腕を爆破し、最後に上半身を吹き飛ばした。



 だがスート四天王は、すぐに傷の部分が埋まり、体を再生させる。

「だから無駄だと言ったのだ」

「我らは魔王様の魔力によって作り出された存在」

「魔王様がいる限り、復活し続け死ぬ事は無い」

「我らは無敵、不死身の存在なのだ!」


「「「「なら飽きるまで殺してあげる!」」」」




 塔の外では、姫達の一方的な殺戮が開始された。








 そんな外の光景を知らない王子率いる、男衆。

 魔法のランプで照らされた、塔の中の通路をゆっくりと歩いていた。


「いやあ、姫四人が同時に現れた時は、バレるかと冷や冷やしたよ」

「バレればいいのに」

「運がいいですな」


 いまだに気分が高揚している王子に、呆れた様子のナイツとペイジス。


「あとは姫達が駆け付けるまで、ゆっくりと進めばいいのだ」

「果たしてそう、上手くいきますかな?」

「行くさ、ここまで上手く行ってるのだから!」

「どんな理屈だよ」


 きらめく笑顔を見せる王子、ため息をつくナイツ。


 ゆっくりと時間をかけて進む三人は、通路先の広間に出る。




 上の階へと続く、大きな階段が広間の中央に存在した。

 大きな広間は、壁にいくつもの魔法のランプが飾られて、全体に明るい。



 魔王が階段に立っていた。


「来たか、フールレ王子」





 王子はすぐに通路へと引き返そうとした。

 だが通路へと戻る扉が自動的に閉じ、引っ張っても開かない。


「な、な、なんで!? なんでこんなデカイ塔の一階に、王がいるのだ!?」

「おお、天罰が落ちたな」

「上手く行く時は、こういう落とし穴があるものですな」

「嘘だろ!? こういう場合は塔の一番高い所で待つもんだろうがっ!? ふざけるな!?」


 さきほどまで余裕たっぷりに輝いていた王子の顔が崩れて、女に見せられない顔になっていた。

 扉をガチャガチャと前後に振り、なんとか開こうと無駄な足掻きをする王子。

 部下二人は諦めて、それぞれの武器を手にした。


 魔王は一歩、階段を下りて三人に近づく。

 その虫の様な顔の口を開き、声を発した。

「王子よ、貴様に聞きたい事がある」

「……な、なんだ?」


 なんとか姫が来る時間を稼ごうと、王子は振り向き、魔王との話を長引かせる方向へと考え方をシフトした。


「なぜ貴様が来た?」

 魔王は異形なる目で睨みつける。それは無駄話は即、攻撃に移ると物語っていた。

 一瞬だけ悩んだ王子だったが、無駄話を思いつかず、正直に話す事にした。


「ええっと、もともとはマジシアという別国の魔法使いが、昨日の夜にナイツに説明した事なのだが……」




 グラブレシアの魔法学校校長、長命なマジシアは魔王のある事が疑問だった。

「なぜ魔王は塔を生み出して四人の姫を呼び出し、魔王の姿を見せつけたのか?」

 伝書鳩になっていたのは、魔力の回復の為である。

 だが回復しきったのであれば、魔王としての力を使い、姫を殺せばいいだけの話だった。


 それをしなかった理由、それについてマジシアは結論を出した。

「おそらく一人の姫を殺して、他の三人の姫が魔王の力を感知して、団結するのを恐れての事、ゆえに魔王は……」




 王子は恐れながら、しかし魔王にはっきりと言った。

「姫を、その成長を見て来た魔王である貴方は気付いた。一騎打ちなら勝てるが、二人か三人以上に結託されると勝てないのだと」


 一度、唾を飲み込み魔王の様子を見る王子。

 反応が無かったので、話を続ける。

「貴方の狙いは、いかにして姫を分断させるか、一対一ならば勝てる自信があったからだ。無駄に力を見せれば連携される可能性が高い、どうしたら仲違いさせられるか、それが貴方の狙いだった」

「……」

「昨日の時点ではマジシアもただの予測の一つでしかなかった。しかし四人の姫にスペディロスに集まるようにマジシアが言った後、まだ気持ちが崩れていた姫に対し、貴方は追撃を行わなかった。それでマジシアは確信した、貴方は姫に比べて圧倒的に強いわけではないと」



「その通りだ!」

 魔王はその顎をゆがませ、嘲笑うように返答した。

「私は姫に対して絶対的な強さがあるわけではない。一人相手ならば確実に勝てるが、二人相手なら互角、三人以上相手なら不利」

 魔王は階段を一番下まで、ゆっくりと歩いて降りて来た。

「本来なら昨日、貴様の嘘を暴いた時点で、姫達は自身の城に閉じこもるはずだった。精神が崩れた状態ならば、他国の姫と共同で戦える余裕はないと」

 魔王は何か魔法を唱えた。すると魔王の後方の階段が崩れて行き、ただの瓦礫と化す。

「状況が不明ならば、人は自らの城で守りを固める物だとばかり思っていた。貴様らが起こした戦争の記憶も残っているゆえ、他国と協力するにも躊躇いがあると踏んでいた。そして一国ずつ滅ぼす予定だった。その為に作り上げた作戦も、我が鳩となって行っていたそれぞれの国の調査も、全てが無駄になってしまったというわけだ」


「それで? 貴様が来た理由は何だ?」



 王子ははっきりと告げる。そろそろ姫が来ていい頃ではないかと、期待しながら。

「魔王を倒したという、手柄を立てたかった」


 魔王は少し呆れたような口ぶりだった。

「……そんな下らない事か?」

「下らないとは言うが、私がここに来なければ、姫達もここには来ない。最初から一緒に来たら姫同士で言い合いになってバレる可能性もある。だから私が最初にここに来て姫が追いかける形が一番良い。話し合う隙も与えない」

 王子は得意気にうなずく。内心では早く姫来てと叫んでいた。

「ここまでやったのだから、魔王を倒しに行った最初の人間と、それぐらいの名誉を望んでも構わないだろう?」

 冷や汗をかきながら、王子は次の言葉を続けようとしていた。


 しかし魔王の言葉にそれは遮られる。

「はっきり言おう、我は逃げるつもりだ」

「え?」

 魔王の唐突な発言に、三人の男は驚いた。

「この塔はそもそも、空間転移の装置の様なものだ。最悪の事態を考えて、準備をしていた」

「え、じゃあ」

 王子は命が助かったかもしれないと期待を寄せる。

「姫はどうやら分断が不可能の様だ。……もはや我に勝利は無い」




「ゆえに、フールレ王子」




「我を追いつめる事となった、貴様だけは殺す」




 睨みつける魔王。息を飲み、思い違いにたじろぐフールレ王子。

「いや、早く逃げた方が良いと思うが? 姫もそろそろ来るだろうし?」

「スート四天王は我が魔力ある限り、死なない。だが姫もいずれ焦れて、追いかけてくるだろう。時間を稼げて十五分ほどか。それだけあれば、貴様を殺して魔界に飛ぶ暇はある」


 魔王から放たれる漆黒のオーラ。

 王子は恐怖からすくみ上り、二人の配下は体に震えがくる。


 魔王が一歩進むと、フールレ王子は壁まで逃げて背を壁に着けた。

 そして悲痛を込めて叫んだ。

「今まで上手く行ってたのに、死ぬのか私は!?」



「ああ、はっはっはっ、天罰が下っちまったな、本当に!」

「調子に乗っていると、こうなるだろうとは正直、思っていましたのですがね」


 震えを抑え、絶望的な状況に、二人の配下は開き直った。

 笑うナイツは剣を構え、神妙な顔のペイジスも魔法を唱える。


「まあ、無抵抗で死ぬつもりはないさ。せいぜい姫が来るまでの時間稼ぎに死力を尽くすとするか」

 覚悟を決めて、ナイツは魔王に戦意を向けたのだった。



 こうして魔王と男三人の戦いが始まった。




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