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第17話『星が落ちる夜』



 空が夜へと移り変わる時間。

 人気のないタロトス王国の城下町を、四人の人間が空中に浮いた一つの黒雲に乗って移動していた。

 この国の王子であるフールレ、その騎士長ナイツ。そして隣国の二人の皇女、ソディレアとカプノアである。

 四人は王子の頼みから、タロトスの城へと向かって飛んでいた。



 途中の町は、大移動を行ったために人気は無い。

 しかし人はいないが、モンスターは多種多様に存在していた。

 今まで襲い掛かっていた鳥の他、大型の犬や熊、あるいは大型の蜘蛛やサソリといった昆虫のものまで。

 動物のような動きは行うものの、生存本能が抜け落ちた動物たちは、まさに人を襲う為だけのモンスターであった。

 それらは魔力で作り上げられた存在であり、倒されると死骸が消えて、霧散していく。


 次々とモンスター達が四人の乗った雲に襲い掛かってくるが、触れられる者はいない。

 カプノアが放った水の弾丸が貫き、あるいはソディレアが斬撃を飛ばして、粉砕していた。

(自国の危機を他国の姫君だけに任すわけにはいかないが、これ、俺と王子が来た理由があまりないな?)

 雲に乗って周りを見ながら、ナイツは自分達の力の無さを辟易していた。



「……王子、大丈夫ですか?」

「あ、ああ」

 割と速いスピードで飛ぶ、カプノアが生み出した雲。四人の人間が乗っても崩れない頑丈さがあった。

 カプノアは王子が船酔いになっていないか心配し、側によって小声で話しかける。

「こんな状況では、さすがに酔うにも酔えないさ」

 ニコリと笑顔で返事をする王子に、カプノアは顔を少し赤らめて、俯いた。

 その様子に少しだけ面白くないソディレア。だが、彼女が王子に報われない片思いしている事を思い出し、少し同情する。

(……?)

 そんな風に思いあう、カプノアとソディレア。二人の皇女は少しだけ、それぞれの想いに疑いを持ち始めていた。


 そんな思いを抱く女子二人だが、それでも攻撃の手は緩めず、建物の上や下から怪物が飛んでくるたびに確実に処理していた。




 王子の言葉で、塔に向かう前に城へと寄る。

「その辺りまで近づいてくれ」

「……ここですか?」

「ああ、ありがとうカプノア皇女」

 王子の私室の窓際まで、空中を浮かんでいた雲が近づく。

 お礼を言った後に、王子は窓に向かって叫んだ。

「黄金よ!」


 資質に飾られていた、黄金の鳥の像が窓を突き破り、生物の鳥の様に空を飛び回る。

 

 黄金の鳥は挨拶とばかりに、金色の爪で猫の様なモンスター二匹を切り裂いた。

 そうして黄金の鳥は、四人の乗った雲へと近づく。

 鳥が変形して小さくなり、金色の首飾りとなって王子の手元へと落ちた。王子はそれを受け止める。

 これもまた、カプノアから貰った杯や、ワドリスから貰ったブローチの様に、魔力を込めて解き放つことが出来る物質だった。

 その首飾りを首に巻くフールレ王子。こうして王子の首に巻かれた物は三つとなり、それぞれが姫の贈り物で魔力を放つ道具だった。

「……王子、それは?」

 カプノアが問いかける、王子は下手に言い訳しても意味が無いと答えた。

「ああ、これはダイヤク王国の姫、コイフィから贈り物だ」

「……随分、慕われているのですね」

「そう、だな」

 少し棘のある口調のカプノア。歯切れの悪い返事をするフールレ王子。


 二日前、ダイヤク王国から帰る際に、コイフィの妹であるペンティクル王女から、あれがフールレ王子の問いかけによって動き変形する物である事を教えてくれた。

 送ってきてくれた時に教えてほしかった王子だったが、あの時はペンティクルは王子の調査で頭がいっぱいだったらしい。


 自分が丹精込めて贈った物と、どういつのアイテムを二つ所有した王子。

 カプノアは、王子を疑っていたわけではないが、それでも引っかかるものを感じていた。

 もちろん、共に雲に乗っていたソディレアもである。


 そんな空気を感じて、ナイツの胃が少し痛む。

(大丈夫なのか、これは?)

 コイフィ王女のマジックアイテムは、確かに強力であり、魔王の事をを考えれば必要な物だったとナイツも思う。

 だが、そんな強力な道具を姫から送られる王子を、皇女二人はどう思うかと考えてしまう。


 その疑惑が膨れ上がった時に、魔王と戦えるのかと考えるナイツ。

 そしてその不安は的中する。






 城へと寄った後に、湖へと向かう雲に乗った四人。


 湖の畔には、大きな塔がそびえたっていた。

 近づけば、窓が一つも無い事がわかり、まるで石の円柱であった。

 夕焼けに照らされてい、長い影を湖へと伸ばしていた。



 だがそれよりも気になる物がフールレ王子達、四人の視界に入る。


 それは巨大な鉄箱。

 地面を揺らし、キャタピラ音を唸らせ、何もかもをなぎ倒し、突き進む異様なる山。


「あれは、ダイヤク王国のコイフィ王女が操る巨大戦車!」

 ナイツが知らない二人の為に、説明臭い言い方をした。



 


 魔王が塔を湖から呼び出した時。四大国でもっとも最初に気づいたのは、ダイヤク王国だった。

 ここは土の魔法を主体とした魔法国家であり、特に大地の震動は常に検知している。

 そしてタロトス王国から、いままでにない異様な振動を感じたこの国の魔法使い。

 特に随一の魔法使いであるコイフィ王女は、いちはやく動いた。


 アルカナス教団から受け取った親書から、魔王の復活が近い可能性があると知らされていた国王。

 そしてコイフィ王女もまた二日前にその話を聞いており、念のために常に振動を計っていた。


 今回の震動はそれではないかと考えたコイフィ王女。

 暴走する恋する少女は、国家間の問題なども気にせず、巨大戦車を動かして、タロトス王国へと向かった。


 一度動き出せば、乗り込むのは困難を極める巨大戦車。

 だが第二王女である、ペンティクルはそれが可能だった。



「お姉様! この巨大戦車で、他国へと乗り込むつもりですか!?」

「ペンティクル、でも王子の故郷がピンチかもしれないし」


「ダメとは言っていません、やるなら全力でやりましょう!」


 ペンティクルは基本的には、姉であるコイフィの行動は尊重していた。






 こうして国境を越え、道も森もなぎ倒してきた巨大戦車。

 モンスター達が進行を止めんと攻撃を仕掛けていたが、歩みを止める事は無く、全てを踏みつぶしていった。


 その巨体でモンスターを引き付ける事で、フールレ王子達が楽にここまでこれたのであった。



 夕日をその鉄のボディで反射する巨大戦車。

 塔の近くまでよると停止し、中から少女が飛び降りてくる。


「あ、王子!?」


 近づくモンスター達を、岩を操ってなぎ倒しながら、少女は大地を流動させて高速で進む。


 そして塔の側まで来て、モンスターを倒しつづけていた王子達の下に来た。



 塔の側で戦うフールレ王子と、騎士ナイツ、そして二人の皇女。

 実際には二人の皇女が、瞬殺していたので、男二人は立っていただけである。

 そんな四人の下へと現れたコイフィ王女。


 彼女は迷わず、王子へと抱き着いた。

「え・へ・へ・へ! 大丈夫だった! おうじ!」

「あ、ああ、コイフィ王女。助けに来てくれたのか? ありがとう」

「んんん、もう! おうじ、すきぃ!!」


 小さな体でフールレ王子へと飛びつき、まとわりつくコイフィ王女。

 その姿に、眉をひそめるカプノア皇女と、ソディレア皇女。


「……ずいぶんと、愛されているのですね?」

「王子、それはちょっと、犯罪では?」

 苛立ちを抑えながら、二人の皇女は王子へと近づく。ちなみにコイフィ王女は見た目通り、幼い年齢だと思っている。



 ふと五人が気づくと、周囲のモンスターが姿を消していた。










 モンスターがいなくなった事に困惑し、周囲を見る王子達。


 そこに一羽の鳩が、塔より飛んできた。


 それは王子と、姫達にとって、見慣れた存在だった。


「ようこそ、我が魔王の塔へ」

「使い魔さん?」


 コイフィ王女は、自分の部屋の前に手紙を置き続け、持って行ってくれたその鳩に驚く。

 姫達と王子を繋げていた伝書鳩。

 飛んできて、ホバリングするその姿に困惑する三人の姫。


「貴様!」

 ナイツが剣を抜く、しかし斬撃を飛ばせるわけではない男には、空を飛ぶ鳩を斬る事は出来ない。

 王子もまた、三つの首飾りを手にしていた。


「少し話を聞くが良い」

 攻撃をしようとする二人を、鳩は制する。

「ここまで来たならば、もう一人の来客を待とうではないか」



 夕暮れの空を飛ぶ、流星。

 それは杖を跨いで飛ぶ、一人の少女だった。


「ああ、王子!」


 杖の先から、爆炎を上げながら飛んできたのは、グラブレシアの王女であるワドリスだった。

 王子に贈ったブローチが使用されたため、王子に何かがあったのだろうと考えたワドリス。彼女はドレス姿のまま、杖にまたがり魔法を使って飛んできたのである。



 王子の姿に安心し、進行方向とは逆方向に爆発の魔法を使ってブレーキをかけ、ゆっくりと王子達の側に降り立った。


「王子、無事だったのですね!?」

「ああ、ワドリス。助けに来てくれたのだな、ありがとう、嬉しいぞ」



 タロトス王国の王子と騎士も、今の状況が不味い事に、ようやく気付いた。



「では役者が揃った所で、話を始めよう」



 鳩がその姿を変えていく。

 巨大化した姿が、地面に降り立つ。

 黒い鎧の様な衣服、とげとげしい虫を思わせる顔、禍々しい杖を手に、そして三メートルほどの人型の巨体。

 それこそ伝承にある、悪魔を思わせる存在だった。


「我の名は魔王キングイ・カードル! この姿では初めましてだな」






 その瞬間、ソディレアが斬りかかる。

 カプノアが、水の塊を解き放った。

 コイフィが巨岩を飛ばす。

 ワドリスが爆炎を放つ。


「まあ、待て」


 魔王の側に、四体のモンスターが現れた。

 四体ともが人型、しかし厳つい虫のような顔をしている。



 巨剣をもった鎧の大男を思わせるモンスターが、ソディレアの剣を受け止めた。

 司祭の服を着たモンスターが、魔法の塊を飛ばしてカプノアの水を受け止めた。

 商人の恰好をしたモンスターが、金色の盾を呼び出し岩を防ぎ壊した。

 蛮族のような動物の毛皮を着て鎌を持った大男が、爆炎を叩き斬った。


 四人の大きな人型モンスターが、魔王の側で守りを固める。

 ソディレアは弾かれた勢いのまま、王子達の下に戻った。


「我が魔力で作り上げた親衛隊。スート四天王である」


 湖の側で対峙する四人組同士。互いに隙を見せない。


「先に話をさせてもらおう」

 膠着状態となった所で、魔王は語る。

 本来なら止めるべきだと思うナイツだったが、実力的に割り込む事はできなかった。



「我は魔王キングイ・カードル。伝書鳩としての姿は仮の者である」


「五百年前、人間と戦い破れ、この地に封印された者だ」


「……かつて封印を解かれた時、我は魔力の大半を失っていた。ゆえに魔力の回復の為に、貴様ら強者の感情を少しずつ食していた」


「その点に関しては礼を言っておこう」


「十六年前、我が眠りから目覚めようとした時、それに反応して貴様ら人類は、対抗手段として貴様ら姫を生み出した」


「いずれ復活する我を倒す為に、この地に魔力をため込み、我が目覚めると共に貴様らにその力を注ぎ込んだのだ」


「力無き我では勝てぬゆえに、その身を偽らざるを得なかった」


「記憶を薄れさせる魔法を使い、我の記憶を全体的に忘れさせて対策を遅くさせた。我を倒す為に生まれたアルカナス教団に嫌がらせ程度の魔法を使い、動きを封じた」


「全く持って、復活してから今まで面倒な十年間だった」



 十年間という言葉に、ワドリスがピクリと反応した。


「しかしこうして、十年。我は遂に完全に復活を果たした!」


「今こそ、ここに宣言しよう! この地から我は全てを破壊し、支配せんと!!」


 魔王が両腕を上げて、その不気味な口を開いて、高らかに謳い上げた。


 吐き捨てるように、ソディレア皇女は告げる。

「そんなこと、させると思うか?」

 敵意を込めた笑顔で、コイフィ王女は嗤う。

「いまここで、その悪趣味な塔ごと叩き潰してやるよ」

 無表情のカプノアが、殺意を視線に込める。

「……あなたはここで死になさい」



 強者の戦意に、しかし魔王は不気味な顔で笑った。

「所詮、どんなに強くとも十六歳のガキだな。大切な事を理解していない」

「なに?」

 剣を構えてソディレアは言う。

 魔王は気にせず、そして、告げた。



「忘れたか? 我は貴様と王子の伝書鳩だったのだぞ?」


「いや、違う」


「貴様らと王子の伝書鳩だった、拙い恋の渡し手だったのだぞ!?」


「いやいや、違う違う」



「貴様らの王子からの偽りの愛の、橋渡しをしていたのだ!!」



「ソディレア皇女! カプノア皇女! コイフィ王女! ワドリス王女!」



「お前達は、ずっと騙されていたのだ!」



「フールレ王子は貴様らを騙していた! ただただ国益の為に利用されていたのだ!」



「お前達は、フールレ王子に愛されてなど、いないっっ!!!」




 振り向く四人の姫。

 後方で待っていた王子。


「お、王子?」

 コイフィ王女が、助けてほしそうな声で、王子に声をかけた。

「うそ、だよね? あいつが言った事は?」


 コイフィ王女からの揺れる視線に、ただ王子は真顔で見つめ返した。


 そしてフールレ王子は、頭を下げた。

「……すまない」




「スート四天王よ! 姫達を殺せぇ!!」


 魔王からの命令に、四人のモンスターが襲い掛かる。



 アーミーと呼ばれる剣士のモンスターが、大剣をソディレアへと振りかざす。

 モークと呼ばれる僧侶のモンスターが、魔法の塊をカプノアへと放つ。

 マーチャトと呼ばれる商人のモンスターが、掲げた壺から金貨の雨をコイフィに振らせる。

 ファーマと呼ばれる農家のモンスターが、大きな鎌でワドリスに斬りかかった。


 それぞれが剣と魔法で、攻撃を防ごうとする。

 しかし心がかき回され、四人の姫は集中できずに、うまく動けない。


 結果、中途半端な防御となり、四人はバラバラに吹き飛んで行った。




 地面を転がる四人の姫。

 魔王はその姿に、高笑いをする。

「愚かな人間どもめ! 我の為の対策を、我の復活の為に利用されるとはな! 感謝しよう姫達よ!」


「特に王女ワドリス、貴様には特別に深い感謝を与えよう! 喜びながら死ぬが良い!」


 止めを刺さんと追撃を仕掛けるスート四天王。




『させない!』


 ナイツが、アーミーの大剣を受け止める。

 さらにフールレ王子が、水の塊の魔法と、爆破の魔法、黄金の鳥を放って、他の四天王を攻撃した。

 防がれ、動きを止める四天王。



 さらに馬に乗って駆け付けたマジシアが、魔力の光を放った。


 突然の光に、魔王は視界を奪われる。


「くっ!?」

「よいか、お前達! 自らの城に戻らず、スペディロスの大聖堂を目指して逃げよ!」

 マジシアの宣言、魔王はすぐに杖に魔力を込める。

「馬鹿め! 逃がすと思って……!?」



 巨大戦車が、キャタピラを回転させる。


 そのまま塔へと突撃を開始した。


「おのれ!」


 魔王は空中へと飛びあがり、異形な杖から、黒い塊を放った。

 魔力の塊は、ペンティクルが操る巨大戦車に直撃し、その鉄の箱を貫く。


 動きを止める巨大戦車。


 だが慣性で勢いよく動く戦車は、塔まで近づく。

 ペンティクルによってエンジンをオーバーヒートさせられて、大爆発を起こした。


「!? ええい!」


 突然の爆発に、すぐさま魔王はバリアを張る。


 白光と爆音、続いて爆炎が湖を覆った。








 巨大な爆発は、しかし魔王のバリアによって塔を傷つける事は無かった。


 鉄の破片が、辺り一帯を埋め尽くしている。湖が衝撃で、さざ波を起こし続ける。



「くそ、逃げられたか!」


 塔を守るために、身動きをとれなかった魔王。


 ソディレアが誰かを抱えて走り去ったのが見えた。

 ワドリスが杖から爆炎を放って、誰かを掴んだまま飛んでいくのが見えた。

 コイフィが地面を潜って行ったのが見えた。巨大戦車に乗っていたペンティクルも同じく、土の下に逃げて行ったのであろう。

 フールレが黄金の鳥に捕まって、飛んでいくのが見えた。


 

 結局、誰一人として殺せなかった魔王。

「……まあ、良い。これでやつらも共同で攻撃はしてこないだろう。例えそうであろうとも……」

 国同士に生まれた亀裂。もはや魔王を倒せる可能性は無いと、そう考えていた。

 夕日も落ち、すでに空は夜となっていた。

















 夜空には月と星が輝く。



 ボロボロの詩人の服を着たフールレが、夜の森を進んでいた。

「ようやく、スペディロスの近くまで戻ってこれたが、いてて」

 爆発に少し巻き込まれたフールレ王子、しかし、それでもここまで何とか戻ってくる事が出来た。


 遠くにスペディロスの城が見える、歩いて一時間もかからない距離である。

 だがそれでも、王子は進む事が出来なかった。

「姫達も、いるだろうな。今、会ったら殺されかねんな」

 王子はため息をついた。



 夜空を眺め、これからどうするかと悩むフールレ王子。

 とにかく城の近くまで行き、町に紛れようと考えて、木々の間を歩いた。

 町へと向かう為、平野を王子は歩こうとした。


 その時、ふと木に隠れていた人影が、フールレ王子の目に入った。


 よく見れば、ボロボロのドレスを着た、ワドリス王女だった。




 星の夜に、互いに沈黙するフールレ王子とワドリス王女。


(こ、殺される)


 ダラダラと汗をかきながら、王女を見つめるフールレ。

 ワドリス王女もまた、最初は王子を見て驚き、その後は無表情でフールレ王子を見つめていた。



 互いに何も言わず、ただ時間だけが過ぎていく。

 星の瞬く夜に、鳥の鳴き声がした。


(なにか、言い訳を、言わないと)

 王子は先制して、口を開こうとした。




 ワドリス王女が、涙を流した。

「王子……」

「ど、どうした? どこか痛むのか?」

 慌てた王子の質問、しかし王女は聞こえてないかのように、答えた。



「フールレ王子、わたくしは、間違いを冒してしまいました。誰にも負けない、立派な人間であろうと、ずっとそうであろうと、生きておりましたのに……」


「ワド、リス王女? それは、どういう意味ですか?」


 言葉の意味が分からず、フールレ王子は尋ねる。



「わたくしが、魔王の封印を、破壊したのです」




 星々がきらめく夜。

 互いにぼろぼろの王子と王女が、月の下の草原で二人、並んだのであった。



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