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第16話『塔の出現』



 魔界より侵略の為に、訪れた悪魔の王。

 しかし人間達に敗北し、その身を封じられる事となる。


 だが五百年に渡る封印も、いつしか時間と共に綻ぶ。

 魔王はその力を少しずつ動かせるようになっていた。


 しかし未だに封印の底にあった魔王。

 十六年前に、その力を噴出させ、人間達の感情を食らわんとした。

 しかし、それは魔王を倒す為の姫という存在を、人間側に生み出すきっかけとなってしまった。

(我を封印せし人間どもめ、愚かな対策を取りおって)

 いずれ魔王の封印が解かれるとわかっていたこの地の人間達。

 それゆえ、魔力を少しずつ蓄積させていき、魔王の存在を感知すると同時に王国の子孫にその力を集中させる。

 その仕組みを作り出していたのである。


 下手に動けば、成長した姫達に魔王の存在がバレて、対策を取られてしまう。

 封印も解けていないため、十分な身動きはとれない。


 だがある子供によって魔王の封印は破壊された。



 自由の身になった魔王であったが、魔力もほとんど失われており、かつての力は見る影もない。

 無駄に動けば、その存在を感知され討ち滅ぼされる可能性も高い。

 ならば悪魔の本領として、自らの戒めを解いた者の命令を受け入れた。

 伝書鳩に化けて、王子の手紙を配達する者としての仕事を率先したのである。


 そして、姫君達に王子の使い魔として紹介され、取り入る事に成功した。


 魔力とは思いの力、さらにその想いを抱いた者の潜在能力が高いほどに上質の物となる。

 とくに四姫の感情は、高い魔力を秘めていた。

 魔王はその魔力を一割か、あるいは二割だけ、手紙を送った時に喰らっていた。

 決して本人達に気取られないように。


 また魔王は、いくらか回復した魔力で魔法を使用し、魔王に関する記憶を様々な人間から薄れさせていた。

 さらに自分の姿を見た人間からも、あとで疑いを持たないように、記憶から消していたのだ。

 記憶を消す魔法は自らと同等かより高位の存在には効きづらいため、魔王に匹敵する姫達には効き目がない。

 だが四大国とタロトス王国の大半の者達は、力を弱めた魔王よりも低レベルであり、魔王の伝説程度の記憶なら希薄にさせる事が出来た。

 そして、王子が伝書鳩を放つ所を何度か見ていたはずのナイツ含めた人々は、その記憶も魔王の魔法により薄くなっていた。


 もうひとつの魔王にとっての懸念である、魔王に対処するために存在するアルカナス教団。

 その周囲の人間を操り、教皇を襲わせていた。

 双子のうち力を持っている者を殺す事が出来れば良し、それが出来なくとも、聖堂から身動きできないのであれば十分と、嫌がらせのような行為もしていた。

 結局は四大国を回られていたようだが、ここにいたるまでの間の邪魔が出来ればそれでよかった。

 下手に動いて、自らが伝書鳩となっている事がバレる方が面倒だと魔王は考えていた。



 こうして十年に渡る、王子の伝書鳩の役目を行い、魔王キングイ・カードルはついに魔力を回復させた。


 かつて自分が居城にしていた、魔王の塔を再び湖から蘇らせたのである。











 その塔の出現を見ていたペイジス大臣は、大急ぎで全住民に避難を呼びかけた。

 兵士を含めた城の者達にも、市民の避難の援助を命令する。

「子供や老人、重傷者、病人を、馬車や荷物運搬用の荷車に乗せろ。荷物は食料や水、二食ぶんまで、大荷物は拒否しろ。兵士は一定距離をおいて道横に立ち並び、市民の避難を援助。最後尾になった者から前に出るようにしろ」

「どこに逃げるのですか?」

「アルカナス教団の大聖堂だな」


 兵士達が馬に乗って各地の農村へとそれぞれ逃避を命じ、こうしてタロトス王国市民の大移動が始まった。


 準備に一時間、移動開始にさらにもう一時間、そして移動を開始してもう一時間。

 集団と共にあったペイジスから、城とその奥にある塔が、道の果てに小さく見えるようになったころ。



 異変が起こった。

「ペイジス大臣!」

「……!? なんだ、あれは」

 集団の最後尾から、小さく見えた塔。

 塔から黒い何かが溢れ出していた。



 それは鳥、異様な雰囲気をもった鳥の集団だった。

「鳥のモンスターか!!?」




 塔から燃え広がるように、何千匹という鳥の群れが空を覆いつくしていく。

 その異様な光景に、市民は悲鳴を上げて急ぐ。


 だがそれよりも多い尽くすさんと広がる黒い空の方が、ずっと早く、人の集団に迫ってくる。

「不味い、追いつかれるぞ!」

 勇敢なる兵士達は、槍を持って、それを空へと向けた。

 しかし実際には逃げ腰であり、中には着ていた鎧や兜が重いと、脱ぎ捨てて市民と共に走り出した者達もいる。



 そして、ついに五羽ほどの鳥が集団に追いつく。

 一メートルほどの体長に、赤くぎらつく目をした怪鳥。

 人間達を餌にせんと、滑空して来た。

(くっ!?)

 ペイジスは立ち止まり、鳥達を睨んだ。


 ペイジスは魔法使いとしてはタロトス王国で一番ではあるが、どちらかといえば回復などの魔法が得意であり、攻撃的な魔法は不得意だった。

 呪文を詠唱して、火の玉を手に生み出すが、それは本当に手の中にあるほどの小さな火で、そして見た目通りの威力しかない。

 だが、無いよりはましと、ペイジスは投げる。


 先頭を飛んでいた鳥は、飛んできた火の玉に驚いて避けて距離を取った

 しかし四羽は怯まず、そのまま突っ込んでくる。

(やはりダメか!)

 四羽のうちの一羽が、ペイジスへとその鋭い爪を向けて突撃してきた。




「杯よ!」

 男の声と共に、水の巨大な塊が空を飛び、ペイジスを襲わんとしていた鳥のモンスターを含めた四羽を撃ち落とした。


「大丈夫か、ペイジス大臣!」

「ナイツ!!」

 杯を手にした騎士が馬に乗って現れた。


 もう一羽が、時間差で二人の下へとクチバシを前に急降下する。


 それを横から、光弾が追撃して倒した。

「ふん!」

「マジシア殿も!」


 倒された鳥は羽をまき散らして落ちていくが、その途中でまるで幻の様に消え去った。

「こやつら、魔力で作られているのか?」

「マジシア殿! ナイツ! 帰ったか、……王子はどうした?」


 馬に乗った二人に駆け寄るペイジス。その問いに、ナイツが答える。

「王子は助っ人を呼びに他国へと走った。クインの走りとやらを信じるしかないな」

 地震の後、タロトス王国からマジシアが感じた異様な気配に、王子は単独でスペディロスへと馬を走らせたのである。

「そうか、なら生き伸びられる可能性が増えたましたな」

「お喋りは後にしろ男ども! 来るぞ!!」


 今度は十羽の鳥が、人々の群れへと飛んでくる。

「破壊よ!」

 ブローチを掲げると、光弾が飛び爆発、十羽の鳥を打ち倒す。

 しかし時間が経つと、今度は三十羽の鳥のモンスターが飛んできた。


「チャージに時間がしばらくかかる、ペイジス持ってろ!」


 ペイジスはマジシアと二人乗りになり、市民の最後尾を追いかける。

 ナイツは馬から飛びあがり、追って来た鳥のモンスターを二羽、切り落とす。すぐに馬乗り直して、追いかけた。



 最後尾での戦いは、次々と鳥のモンスターを落としていく。落とされた鳥は消滅する。

 ペイジスは姫からの贈り物の二つを武器に、鳥達を一度に何羽も倒していた。


 しかし、時間が経つにつれて、モンスターの数は増していき、対処ができなくなっていた。


 そして遂に、左右からかぎ爪で攻撃されたマジシアの馬が倒れ、二人の魔法使いが地に落ちた。

「ペイジス! マジシア!」

 ナイツはすぐに駆け寄り、鳥のモンスターを三羽、一瞬にして斬り殺した。

 だが、終わらない滑空攻撃にナイツも対処しきれず、ついに一体の体当たりを受けて、地を転がってしまう。


「やば」

 剣を取り落としてしまったナイツ。

 鳥は武器を失った相手に容赦するはずもなく、さらに落ちてくる。


(くそったれが!)

 悪態をつきつつ、せめて二人だけでもなんとかしようと、ナイツは走った。







「おまたせ」



 百羽を超える鳥のモンスターが同時に、真っ二つになった。

 雨の如く舞い散る羽毛。しかし、すぐに空中に霧散して消える。


 周囲のモンスターが消滅し、その現象に理解できずに困惑するペイジスとマジシア。

 

 だがその声を知っていたナイツは、むしろその現象に納得した。




 最後尾で戦っていた三人の中央に、一人の右手に剣を携えた女騎士が立っていた。

 スペディロスの若き皇女。ソディレア・スペディロスである。



「大丈夫?」

 優し気な女の声に、立ち上がる三人。

 見れば遠くで、詩人が地面に転がっていた。


「ごめん、フールレ王子! 急に地面に落として!」

 謝罪する皇女に、詩人は立ち上がり返事をする。ちなみに仮面はつけていない。

「気にするな、愛しい皇女よ! その判断は正しいゆえ、この痛みは愛情として受け取ろう! またここにくるまで君の体を感じていたのだから、この程度は対価にもならないな!」

「そ、そういうセクハラはやめてくれないかな?」


 フールレ王子がスペディロスへと戻り助けを求めた所。

 ソディレアは馬に乗らず、フールレ王子を抱きかかえ、その足で走った。

 そのスピードはけた違いであり、王子はソディレア皇女に必死にしがみつくのに精一杯で、その体を感じる余裕は全くなかった。

「私を抱えてあの早さとは、ソディレア皇女、さすがだな」

「君を抱きかかえたのは、そういえば前日ぶりだね。あれ? そういえばなんで、あの時ナイツに投げ飛ばされていたんだ?」

「はっはっはっ、そんな事は今はどうでもいいじゃないか」



 こうして馬の百倍の速度で救助に来たソディレア皇女。


 ナイツは剣を拾い直し、立ち上がる。

 側に来た騎士に、皇女は真面目な顔で告げた。

「ナイツ、もう私に任せてくれて構わないけれど?」

「まさか、これは我が国の有事。助力は有難いですが、騎士長が寝ているわけにはいきませんよ」


「……迷いは晴れたかい?」

 突然の問いかけに、黙ってしまうナイツ。しかし少し照れながら返事をした。

「いえ、ですが、今は迷うわけにはいきません」

「そうか」

 微笑む皇女に、ナイツは少し胸が高鳴った。



 ペイジスから姫の贈り物の二つを返してもらった王子が、周囲に命令した。


「ペイジスとマジシアは、このまま市民たちと共にアルカナス大聖堂を目指してくれ」

 驚いた顔をする魔女に、フールレ王子は近寄る。

「市民の避難援助を頼めるか、マジシア?」

「それは構わんが、お前達は?」

「私とナイツ、そしてソディレア皇女でタロトス王国を目指す」


「一度、離れて作戦を立てるべきでは?」

 ペイジス大臣が訪ねるが、王子は首を振る。

「魔王が復活したと見ていい状況、今の様子からモンスターが増えるばかりだ。増え続けて備えられる前に、塔を見ておきたい」

「無謀では?」

「ああ、だが回収したい物がある」

「はい?」

 王子はちらりと皇女を見て、小声になる。

「ペンティクルから聞いたのだが、あの像な……」

「どうしたんだい?」

「あ、いや、なんでもない」

 ソディレア皇女が話に介入してきた所、王子は咳払いをして話を切り上げた。


「ともかく、そういう事だ。ソディレア皇女、頼めるか?」

「任せてくれ」

 空を見上げると、またタロトス王国の方角から、大量の鳥のモンスターが押し寄せてきていた。

「全て、斬り払って……あれ?」



 鳥のモンスター達が迫ってきた時。

 別の方角から、大きな黒い雲が飛んできた。

 黒い雲は鳥の群れの前まで来ると、鳥達に向かって雨を放つ。


 だがその雨は、鉄の弾丸。鳥のモンスターを銃殺し、全て撃ち落とす。



 モンスター達が消滅した後。小さな黒い雲が、フールレ王子達の下へと飛んできた。


「……大丈夫ですか、フールレ王子?」

「カプノア皇女!?」

 杯を使用した感覚がしたために、昨日に引き続き、水の皇女が助けに来たのだった。

「……はい、ご無事で何よりです」

 カプノアは王子の姿を見て、クスリと微笑みを浮かべた。









 フールレ王子、騎士長ナイツ、ソディレア皇女、カプノア皇女。

 四人はカプノアの作った黒い雲に乗り込み、低空飛行でタロトス王国へと飛んで行った。






 市民の集団の最後尾へと、馬に乗って追いついたペイジスとマジシア。

「王子達は大丈夫ですかね?」

 心配そうな大臣の問いに、マジシアは答える。

「二人の姫が付いておるのだ、あれでどうしようもないならばどうしようもない」

「そうですなあ」


 鳥のモンスターが消えたために、疲労から走る事を止めて、ゆっくりと歩いていた市民集団。

 ペイジスが市民の集団に追いついた時に、ペイジスの一人娘と妻が出迎えてくれた。

 それを見つめながら、マジシアは考えていた。

(そうだ、姫の力ならば、どんな苦難も倒せる。魔王を倒せなくとも、逃げ切るだけならば簡単なはずだ)


(なのに、どうして胸騒ぎが止まらない?)

 七十歳を超える魔女、その長い経験が警鐘をならしていた。


(なんだ? 何かを見落としている?)


(実力的には問題が無いはずだが)


(それにこのままいけば、他の二人の姫もタロトス王国へと向かっているはず)


(四人の姫が力を合わせれば、例え魔王とて…………!?)




「しまったぁ!!?」

 突然に大声を出したマジシア。ペイジスや他の市民達が驚き視線を送った。



「四人の姫と王子が一ヵ所に集まる! 魔王め、それが狙いか!?」

 マジシアがタロトス王国への道を振り返るが、王子達の姿は見えるはずもない。




 太陽が沈みかけて夕暮れとなり、空を赤く照らす。

 星と月が少しずつ、姿を見せ始めていた。



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