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第13話『死の復讐』



 国境沿いの宿に泊まった後、フールレ王子とペイジス大臣のタロトス王国への帰還、そして丸一日でたまった仕事を処理していた。

 ちなみにペイジスの回復魔法もあって、宿にいた頃には意識を取り戻したマジシアだったが、寄る年波には勝てないとそのまま馬車に揺られて、自国へと戻って行った。


 次の日の朝、今日も政務室で仕事を行わんとしていた所に、馬の郵便屋から一通の手紙が届けられた。

 アルカナス教団からの呼び出しの手紙だった。




 王子は仕事を抜け出し、騎士長であるナイツと共にスペディロス帝国を目指したのだ。



 二頭の馬、それぞれに乗って青空の下を進む二人。

「なあ、ナイツ」

「なんですか?」

「すでに私が王子である事がバレているのだから、鳥仮面は不要なのでは?」

 フールレ王子は、今回も派手な詩人の服を着て、ジョーカルを名乗らさせられていた。

「いや、バレている相手にはともかく。バレていない相手には王子である事を伏せておいた方が良いでしょう」

「別に、堂々と馬車に乗って向かえばいいのではないか? クインを走らせるのは楽しいが」


 馬の背を撫でるジョーカル。クインはヒヒンと鳴いた。

「王子」

 軽鎧の騎士は真面目な顔で、横に並ぶ詩人に告げた。

「正直、王子の評判はあまりよくないですよ? 他国からは軽んじられていて、自国においては女性はともかく、男性からの評判は悪いです」

「ほう」

 あまり気にした様子も無い表情で、王子は返事をする。

「やれやれ、モテない男のひがみなど、哀れなものだな」

 騎士もそれは理解していたが、話を続ける。

「嫉妬も確かにあるでしょう。しかし、それと同時に不安があるんですよ」

「不安?」

「フールレ王子は女を口説く話しか聞きませんからね。腕も政治も立つわけではない。この国を任せて大丈夫かという不安です」


 実際の所、タロトスは小国。周囲の四大国に攻められれば、戦いもせずに国を明け渡す事になる。

 しかし四大国同士が十六年前の戦争ですぐに終戦を選んだのは、共倒れを恐れた為である。

 タロトスを火種にまた大戦を起こす愚行を、無意味に勝てないかもしれない戦争を行うほど、愚かではなかった。

 そんな微妙なバランスに、タロトス王国は存在していた。


 そんなタロトスを生かせるほどの力が、フールレ王子にあるようには思えなかった。

 女性達は王子の華麗な立ち振る舞いに、頼もしさを覚えていた。

 だが男性達は、目に見える実力が無い王子に頼りなさを感じていた。

 その上にナンパ者の王子。タロトスでの男性からの評価は低い。

(嫉妬というか恐怖だよな。頼る相手がこんなに弱いとは)

 そこまでは口にしないナイツ。

 ちなみにナイツからのフールレ王子への評価も低い。しかし他の兵士から評価の低いと自覚しているナイツは、そんな王子に対して同情はしていた。


 空気が重くなったような気がして、ナイツは締めくくる。

「虎を退治しろとは言いませんが、やはり国を背負うものとして何かするべきでしょうね」

「こうして、四大国の外交を努力しているのだが」

「姫君を口説き落とした事を、公表するつもりですか? もっと王族らしい事をなすべきです」



「王族ねえ」

 詩人は悩むように言った。

「私ほど、王子としての役割を果たそうとしている者はいないと思うのだがなあ」


(ん?)

 その言葉に、ナイツはかすかに引っかかるものを感じた。

(なんだ? 別に変な台詞ではなかったが?)


 悩むナイツ。しかしスペディロスの城が見えたために、考えを止めた。





「やあ、また会えたね」

 見渡す限り、人だらけの城下町。

 そんな家々の間を、馬から降りて騎士と詩人を、フードを被った女騎士が迎えに来た。

 跪くのはさすがに目立つので、頭を下げるだけの礼をナイツは行う。王子もまた挨拶をした。


 この出迎えはさすがに予想外で驚く二人。

「ソディレア皇女」

「皇女はいらないよ。お忍びだからね」

 微笑む女性に、ナイツは胸が高鳴り、目をそらす。

「ではソディとでも呼ぼう」

 鳥仮面は空気を読まずに言った。

「ふふ、二人とも来るのを待ってたよ。実は私も教皇様に呼ばれていてね」

「ソディレア様も」

「様はいいって、うん」

 

 近くの宿の、厩舎へと馬を預けに行く。

「ソディ……さん、あの」

「わかってる」


 人混みに紛れて、ついてくる気配。それに気づいたナイツが口にし、ソディレアは頷いた。



 ソディレアと共に、アルカナスの大聖堂へと赴いた王子と騎士。


 奥へと行くと、神へと祈っていた双子が待っていた。三人に気づくと祈りを止め、振り向く。

 女教皇ハイ・プリエテスと、男装した教皇ハイ・エファントの姉妹である。


「お久しぶりですね。ジョーカル、ナイツ」「お久しぶりです。お元気でしたか?」

 白と黒の教皇のローブを着た、十三歳の双子の少女は厳かに礼をする。

 詩人と騎士もまた跪き、挨拶を返した。

「今日は招きにお答えいただき、ありがとうございます」

「いえいえ、以前に申したように、いつでもお呼びいただいて結構ですよ!」

「……今日は皆様にお話したい事があります」

 キザな詩人を目の前にし、二人の教皇は真面目に静かに語った。


「はい、復活しようとしている魔王についてです」

  





 応接間にテーブルを囲んで教皇の双子、対面に詩人と騎士二人が座る。

 五人の前には、信者の用意した温かなお茶が置かれている。

 現在は五人以外、アルカナスの信者も立ち退いていた。

「魔王、ですか」

 ナイツは促すように聞く。椅子に座った教皇の姉が頷いた。

「説明いたします」

 女教皇の役である、双子の姉の方が口を開き、淡々と説明しだした。


「今から五百年前、魔界よりこの地に現れた魔王は、その力でこの大地を支配しようとしました」


「しかし、この地の人々は激しい戦いの末にそれを打ち倒した。しかし殺しきれずに封印した」


「封印はそれから五百年近く問題なく魔王を封じていました。だが問題が起きました」


「この地に、男女の双子が生まれなかったのです」


「アルカナス教団は信者達の混乱を防ぐために、私たち双子の姉妹を、妹を男子の振りをさせて、教皇の男女とした」


「これがいけなかった。男女の表裏があってこそ封印はうまくいっていた」


「姉妹では教祖としての力は働かずに半減し、妹のエファントだけがその力を持っていたのです」




 ナイツが子供の時に聞いた伝承では、倒されて死んでいたはずの魔王。しかし実際には生きていたと教皇プリエテスは告げる。

 突然に話し出されるシークレットに驚くナイツ。

 男子の振りをしていた理由にフールレは納得し、ソディレアは目を閉じて聞いていた。


「エファントは魔王の復活が近いと、三か月ほど前に感じ取りました。しかし、その場所がわからない」


「私はどこにいるのかを探索させるために、エファントを四大国巡りをさせました」


「しかし、わかりませんでした」



 語り終えて、机の上に置かれたお茶を、プリエテスは一口飲んだ。

 その後、沈黙が続いた。


 ソディレア皇女が口を開く。

「私は事前に、母上と共にこの話を聞いていた。魔王に対する対策の為だ」

「なるほど、以前の四大国巡りの旅は、最初からソディレア皇女が付いてくる予定だったというわけか」

「ああ、母上に頼まれてね」

 王子の問いに、皇女は頷く。

「私の剣士としての勘もだけど、戦いになった場合の地形の把握と確認も私の仕事だった」

 少し恥ずかしそうに皇女は答えた。

「騙した事、いつかは謝るさ」


(あなたの目の前に、それ以上に謝らないとならない人がいます)

 ナイツは内心思いながら、隣の王子を見た。ソディレアも隣の王子を見ていた。



 プリエテスが話を続ける。

「アルカナス教は元々は魔王を封じる為の教団。未来を感じ取り、魔王の襲来に備える者達」


「表裏の合間に、魔の王を封じるのが役目です。しかしその力が五百年の時を経て弱まってしまった」


「今、四大国には最強の姫がいます。これはおそらく魔王の力を感じ取り、人間側が準備した力だと私達は考えております」


 まるでソディレアの力が、本人の努力ではなく準備された運命の様に言われ、少しムッとするナイツ。

 だが言われた本人のソディレアは、特に気にした様子も無い。


「悪魔は感情を食らうと言われております。魔王もまた、その身を隠し人々の感情を食べて、それを魔力に変えて力を蓄えているやもしれません」


 姉は立ち上がり、大きな声で告げる。

「魔王の名はキングイ・カードル! 我ら人間が倒すべき敵です!」



(え?)

 ナイツはその名に、困惑する。

 なぜかわからないが頭の中がもやもやとした。

(魔王、キングイ・カードル? あれ? どこかで、どこかで、その名前、聞いたような……?)


 この一ヵ月以内に、ナイツはその名前を聞いた覚えがあった。

 しかし思い出せない。

 まるで魔法をかけられたかのように、その記憶がすっぽ抜けていた。

(んんん? なんだ? この変な気分は?)





 しばし、沈黙が訪れた客間。

 ソディレアが鞘の入った剣を手に、立ちあがる。



 突然、扉が壊されて吹き飛び、ローブを着た信者達が流れ込んできた。


 思考を捨て、ナイツも飛び上がり、テーブルを投げ飛ばした。

 飛ぶテーブルに、幾人もの信者が巻き込まれ倒れる。しかしすぐに立ち上がった。


(見るからに正気じゃない!)

 燭台や包丁を武器に攻撃してきた信者達、それらを殴り飛ばし蹴り飛ばし、ナイツとソディレアは倒していく。

 双子の教皇は王子と共に部屋の奥の隅へと移動。王子は応援していた。


 三人を守りつつ、二人の騎士は男達を鞘の剣で殴り飛ばしていく。

 二十人ほど殴り倒し、動きを止めさせる。

 正気の無い信者達は、二人の敵ではなかった。


(?)

 途中、ソディレアは集団の奥に変な気配を感じた。

(人としての、意識がある?)



 ローブの集団の陰に隠れていた者。

 そこにいたのは子供だった。

 

 子供は全身に爆弾を巻き付けていた。


「!?」

 この時、ソディレアの実力では、その爆薬の導火線だけを切り落とす事が出来た。

 しかし、大きく戸惑い、それを実行に移す事が出来なかった。


 その相手が子供だった事。

 子供が自らの意思で、自爆特攻を仕掛けてきた事。

 そして、ソディレアはその子供を知っていた事。

 それらが、ソディレアの足を立ち止まらせてしまった。


 火のついた爆弾を体に付けた子供が、部屋の中に飛び込んできた。



「杯よ!」


 詩人が持っていた、かつてカプノア皇女から貰った杯が向けられる。

 その杯から大量の水が流れ出し、出入り口にいた信者達を外へと押流した。

 





 水で全身を濡らして倒れた信者達、その中にソディレアは足を進めた。

「ソディレア皇女」

 気絶した子供を前に俯く皇女に、ナイツは声をかけた。

 ソディレアは答える。

「しばらく前に、別の地からこの国の近くの山に盗賊団が現れてな。私の腕を試す為だと、母上が兵士と共に私を派遣したんだ。殺人すら簡単に冒す凶悪な盗賊団だった。私は容赦なく切り殺したよ」

 一度、ソディレアは口を紡ぎ。躊躇った後に言葉を続ける。

「……その中に子供がいたんだ、その盗賊の親玉の子が。施設で保護していたんだが、逃げ出したとは聞いていた」


 落ち込む皇女。何も言えない騎士。

 王子がつかつかと歩み寄った。

「ソディ」

「え?」

 鳥仮面はソディレアの肩をつかんで振り向かせた。



「君はソディレア皇女じゃない、ソディだ」

「フールレ王子?」

「君がこの子供を迷わず気絶させれば、誰も死ななかった。だが君は迷った、ここにいる全員が爆死する所だった」

 責めるような言い方の王子に、ソディレアは息をのむ。

「皇女である君は迷ってはいけない。常に天秤で測り、多数を助ける道を選ばないとならない。なぜなら君は上に立つ者だからだ、命を預かる立場だからだ」


 仮面の奥の目が、悲しい表情を称えていた。

 それと見つめあい、ソディレアは憂いを帯びた微笑を浮かべた。

「……ああ、そうだ。私は今、皇女失格だ。いつもいつも甘えて迷ってばかりだ。まったくこれでは騎士ですらない、一般人のソディだな」



「いつになったら、私は母上の様に強くなれるんだろうな」

 ただ悲し気に呟く皇女に、ナイツは語る言葉もなかった。











「……王子が杯を使った? 王子の身に何かあったのかしら……行ってみましょう。場所は、剣の国?」



想定より話数が少なかったために、ストーリーを詰込み中。

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