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第11話『正義の剣』



 三人の姫が帰った次の日の朝。

 城の近くの湖に、見事な竜の氷像が建っており人々が驚いていた頃。

 王子は走り回ったせいで、見事に筋肉痛になっていた。


「ペイジス」

「……まあ、いいですかね。昨日は王子も頑張っていた事ですし」


 ペイジス大臣は痛みを和らげる魔法を王子に使用した。




 快晴の青空。

 賑やかな城下町。

 平和な空気。 


 そしてフールレ王子は部屋に軟禁されていた。



「ううむ、ペイジスよ! どうせ私はいても邪魔なのだから、町を見て回り民との交流を計ってもいいのでは?」

「ナンパはダメです、今の状況が余計こじれますので。指示しますので、書類仕事を手伝ってください」

「……これ絶対、王子の仕事じゃないだろ」


 政務室で淡々と事務をしながら、王子を見張るペイジス。

 各地方から送られてきた書類を見て、その数字をメモする。

 また上訴の内容などに目を通し、時には王子にサインさせていた。


「サインなぞ、誰にでもできるだろうに」

「あなたがやる事に意味があるのですよ。字は上手ですから、その才能はきっちりと生かしてください」


 ぐちぐちと言いながら、王子は羽ペンを動かした。

「はい、今度はこちらですな」

「はあ、面倒臭い」



 人手不足のタロトス王国。

 さらにその不足分を補う方法が、未だに思いついていない。

 ペイジスとメイド達が努力する事で、なんとか国を運用する事が出来ていた。



「王子」

「なんだ。ペイジス?」


 ペイジス大臣、噂話でもするかのように淡々と話し始めた。

「昨日、三人の姫を合わせないようにした事を、兵士達が疑問に思っています」

「まあ、理由も言わずに命令したからな」

「『王子が姫達を三股していて、同時に来たからではないか?』と噂しています」

「おしいな、四股だ」

 乾いた笑いを王子はした。



 ペイジス大臣は噂話を続ける。

「王子」

「今度は何だ、ペイジス?」

「コイフィ王女のいるダイヤク王国では、大地の震動から相手の足音を探知する魔法があるとか」

「それは恐ろしいな」

「恐ろしいですか?」


 大臣は振り向き、王子を見た。

 王子は文章を書きながら、返事をした。

「恐ろしいだろ。いざという時に隠れる事ができないのだからな」

 その言葉にペイジス大臣は押し黙る。

「王子、あなたは」


「……なぜ、逃げるという判断をしないのですかね……?」



 ペイジスの呟きに、書類に集中していた王子は聞き逃した。

「何か言ったか?」

「いえ、何も」



 その後も、黙々と書類仕事を行う二人。

 そこに兵士がノックして、入って来た。

「フールレ王子、ペイジス大臣。他国からの客です!」

「ああ、事前に連絡は受けている。すぐに行こう」







 客間に二人の女性がいた。

 一人は大国グラブレシアの魔法学校校長、マジシア。

 もう一人は大国ダイヤクの第二王女、ペンティクルである。

 二人はどちらも二十代の女性に見えるが、かたや七十代、もう片方は十三歳である。

「マジシアだ。昨日ぶりだな、フールレ王子」

「昨日は姉が迷惑をおかけしました。フールレ王子」


 先にペンティクルが頭を下げた。

「先日は我が国の第一王女たる、我が姉のコイフィ王女が迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

「い、いや、気にしていない。顔を上げてくれ、あなたのようなじょせ」


 一瞬、ペンティクルを口説かんとしたフールレ王子。

 しかし後方からのペイジス、ペンティクルの隣のマジシアが睨みつけ、その行動を阻害した。

 せめて表情だけでもと、キラキラと輝く笑顔を王子は王女に向けた。


 ペンティクル王女は頭を上げて、言葉を続ける。

「お詫びの品とは言いませんが、我が国の宝石をささやかながら。そしてコイフィ王女が作り出した金の像をお送りいたします。魔力で生み出されたものですが、解呪される事はありませんので」

「あ、ああ、有難く受け取っておく」

 純金で出来た鳥の像。少し悪趣味だが、断る理由もないと王子は受け取った。


「しかし」

 王子は一つ咳払いする。

「なぜ、謝罪の場に第二王女であるあなたが? 謝罪だけならば先日、受け取っていたので、少しの品だけ送れば十分では?」

 王子と大臣は疑問だった。

 なぜ今回ペンティクル第二王女が直接、会いに来たその理由がわからなかったのである。


 王女はまっすぐに告げた。

「姉様が愛するあなたという人物に、きちんと挨拶しておきたかったのです」

「そ、そうか」


「はい。それではフールレ王子、今日はこのあたりで下がらさせていただきます。またいずれ」



 挨拶を終えたとペンティクル第二王女は、もう一度頭を下げて、笑顔を見せた後に、扉を開けて部屋を出て行った。

 それを見届けてから、部屋の隅に移動していたマジシアが王子に近づく。



「会話するのは久しぶりだな。と言っても昨日も声を少しは交わしたが」

 ふんっと、嫌そうにマジシアが口を曲げた。

「全く、また女を口説こうとして、少しは反省したらどうだ?」

「目の前に麗しい女性がいて、声をかけないほうが罪だと思いますよ。マジシア」

「私にまで色目を使うな、腹が立つ!」


 ため息をついたマジシアは頭を下げた。

「……今回は我が国の王女が迷惑をかけた。まさかお忍びで貴様に会いに行くとは思わなかった。しかも他の国の姫も訪ねていたとメイドから聞いた」

 頭を上げて、マジシアはため息をつく。

「だが、今回の事で分かった。もうこれ以上は嘘をつき続けるのは無理だ。早い所、何かしらの手を打たなければならない」

「アルカナス教には伝手が出来たようですから。そちらから仲裁に入ってもらえばよろしいのでは?」

「うむ……」

 ペイジスの言葉に、マジシアは沈黙する。



「なんだろうな」

「どうしたマジシア?」

 王子が輝く微笑みを送る。気にした風でもなく、マジシアは答えた。

「どうにも胸騒ぎがするのだ。水面下で私が知らない所で、大きな事が起きようとしている気がする。特にアルカナス教団、そして何より、何か見落としている気がする」

 自問するように王子に告げるマジシア。






 そんな話合いをしていた頃。

 閉じていた部屋の扉が、ノックも無しに開く。


 そこにはペンティクル王女が、立っていた。


「ん? どうしたペンティクル王女?」

 フールレ王子が声をかけるが、ペンティクルは返事をしない。

 その王女の顔は無表情だった。


 客間にスタスタとペンティクルが入って来た。

 そしてフールレ王子の目の前まで進む。



 手に鉄の剣を生み出し、王子の鼻先に突き付けた。


「なっ!?」

 驚き立ち尽くすフールレ王子。

 慌てて止めようとするペイジス。

 だが、その前にペンティクルが大声で言い切った。


「……あなた! 色んな女性に声をかけて浮気しているとは本当ですか!?」


 ペンティクル王女は謝罪の他に、実はこの城に来る前にある事をしていた。

 王子に関する聞き込みである。


 一般市民の服に着替え、街中を歩き、人々に王子の話を聞いていく。

 分かったのは、たくさんの女性を口説いていたという事だった。


 そして先ほどフールレ王子との会話を終えた後、探知魔法を使って、この城にスパイとして入り込んでいたメイドに会って事情を聴きだす。

 渋るメイドに町で聴いた話について、ペンティクルが真相を迫るように聞くと、話し出した。




「姉様の他に、三人の姫を惚れさせているとは、本当ですかっ!?」



 ペンティクルの殺気のこもった視線。剣が徐々に王子の顔に近づく。

「ぺ、ペンティクル?」

「あなたは!」


「私の愛する姉様を、裏切っていたのですかっっ!!?」



 下手に動いて刺激してはいけないと、ペイジスは唾を飲み込む。

 剣が徐々に近づいていき、王子の端正な顔に刺さらんとした。



 だがそれより先に動く者がいた。

「待て」


 マジシアの放った魔法が、光の糸となりペンティクルを包んだ。

 糸が王女に絡みつく。

「な……?」


 縛り付けられ体が動かなくなったペンティクルは、剣を床に取り落とした。その場に倒れるように座り込んだ。



 身を竦ませていたフールレ王子は、深くため息をつく。

「た、助かった、マジシア」

「ふん」

 力が抜けて後ろに下がり、壁に背をつける王子。


 そんな王子をペンティクル王女は、ただ睨みつけていた。

「ね、ねえさまに、謝りなさい!!」

「ペンティクル様」

 ペイジスが心配しながら近づくが、しかしペンティクルはフールレ王子しか見ていない。

 動けぬ体で床に付したまま、王子を見上げて、睨んでいた。



「私の、姉様を、弄んだ事、姉様に……謝ってください!!」



 部屋に響く少女の悲痛な声。


 この部屋の四人の中で、一番の年長者が呟くように言う。

「もう、それしかないかもしれんな」

「マジシア」


 マジシアは、諦めたかのように告げる。

「昨日のような事があったのだ。すでに限界は来ている。これ以上、嘘を積み重ねて行っても、そこの妹のようになるだけだ」



「私も共に行くから、フールレ王子。頭を下げに行こう」



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