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第8話『力に縋る』



 エファント教皇一行、四大国の最後の国グラブレシアへ。

 巨大戦車へと乗ったエファント教皇、ソディレア皇女、騎士のナイツ、詩人のジョーカルに変装したフールレ王子。

 地響きを移動させながら、馬車を待たせた場所まで戻った。


「じゃあね、皆! 今度は私から遊びに行くね!」

 ダイヤク国の王女、コイフィが太陽の様な元気な笑顔で一同を見る。

 小さな少女は、大きく腕を振って四人を見送る。

 それに手を振りながら、教皇達は馬車へと乗り換え、グラブレシアを目指す。


 遠ざかって行く少女の姿を眺めながら、ナイツは安堵した。

(王子の正体をバレず、コイフィ王女の王子への好意をソディレア皇女にもバレなかった!)

 馬車の中で、騎士はやり遂げた達成感に包まれていた。


 この時のナイツは気付いていなかった。

 コイフィ王女が、どこに遊びに行くと言ったのかを。 




「しかしだ」

 戦車の圧倒感と比べ、道をのんびりと進む馬車。

 それに揺られながら、ジョーカルは相談するように言う。

「コイフィ王女はどうやら親との関係が、うまくいってないようだな」


 以前、女中から話を聞いていたフールレとナイツ。

 今回、一緒に城に行こうとしなかった所からも、コイフィ王女と国の関係が良くない物である事を分からせるものだった。

「う~む、そういう王女の込み入った話は知らなかったな。てがみに」

「ウォッホン!」

 手紙の事を話しそうになるジョーカルに、大きく咳をして妨げるナイツ。詩人が何かを話す前に、騎士は次の目的地について言葉をつづけた。

「コイフィ王女の事も大切ですが、今は我らの目的を果たす事を第一としましょう。幸い、三つの国を回り全てに色よい返事を頂けております。次は魔法大国グラブレシア! 水の魔法はハートノア、鉱石の魔法はダイヤクが有名ですが、それ以外の魔法はグラブレシアが先じています」


「何か急にしゃべりだしたね? グラブレシアに何かあるの?」

「いえ、別にありませんが……」

 ソディレアに笑われて、バツが悪くなるナイツ。

「急にしゃべりだして気落ち悪いぞ」

(お前が悪いんだろうが!)

 鳥仮面の言葉に、ナイツは奥歯をかみしめた。



 とにかく、とナイツは気を引き締める。

(何とか王子の事は、姫達にバレずに進めている。あと一国も気を抜かずに行こう!)

 馬車から窓の外を見れば、グラブレシアへの国境が騎士の目に見えた。




 そうしてグラブレシア城。

「良し、わかった。アルカナス教団からの親書は確かに、この国の王の私が受け取ったぞ」

「ありがとうございます」

 王の間で、お辞儀をするエファント。

 跪く、ジョーカル、ソディレア、ナイツの三人。


 特に問題なく、王の間に置いて手紙の受け渡しを完了させた。

 会食を進められるが、エファントは急ぐ旅であるとこれを拒否。

 教皇の言葉にはグラブレシアの国王も強く出ず、粛々と終了した。



 アルカナス教皇の四大国巡りはこれにて終わり、あとはスペディロスへと戻るだけだった。

 少しだけ話をすると教皇が城に残り、ソディレアが護衛としてついて行った。


 城の出入り口。ナイツとジョーカルは馬車の近くで待つ。

「四大国巡りと言われた時は長旅になるかと思ったが、十日間もかからなかったな」

 呑気にハープを引くジョーカル。

(気を抜くな俺)

 ナイツはその言葉に引き込まれないように、気を張り続ける。

(この国にはワドリス王女がいるんだ。王女が王子に気づく、あるいはソディレア王女に王子に好意がある事がバレる可能性を考えて、行動しないと)

 ハープの音にイライラしながらも、ナイツは王子の騎士としての役目を果たさんと考えていた。



 馬車の横に立つ、気楽な詩人と頑なな騎士。そこに一人の女性が現れた。

「おお、これはこれはお久しぶりです。美しき気高き魔女よ!」

「こんにちは、マジシアさん」

「ふん。久しぶりだなお前たち」

 この国の魔法学校の校長である女性。そしてワドリスの家庭教師。70年を生きる見た目は20代の魔女。マジシアである。

「時間はあるか?」



 馬車の御者に一言告げ、ナイツとジョーカルは、側の庭にまでマジシアについて行った。

 昼の庭はあいにくの曇り空。周りに人の気配が無い事を察するとマジシアは話始めた。

「言っておくがナイツ。ワドリスを警戒する必要性は無いぞ」

「え?」

 ナイツの心配を推察して、マジシアは答えた。

「ワドリスは熱で倒れた、現在は自室で看病している」


「風邪か何かですか?」

「違う」

 マジシアは鳥仮面に視線を送り、面倒くさそうに告げた。

「……恋煩いだ」

「はい?」



 しばらく前、ナイツとジョーカルがこの国に訪れたその日。マジシアが王子からの手紙をワドリスに渡した後の話。

「ワドリスが手紙を読んだ後、興奮しすぎて倒れた」

「……ジョーカル。何を書いた?」

 二人の視線に慌てるジョーカル。

「いやいやいや、いつも通りの内容だった! いつもの口説き文句だったって!?」


 腕を組みため息をつくマジシア。

「その前に王子の誕生日に直接会ったのも、問題だったのかもしれん。恋の病がここまで深刻だったとは。今は随分よくなったが、ここ数日前までは時折、興奮で高熱を出していた」

 現在はワドリスの調子もいくらか回復しているが、大事をとって部屋に引きこもらせて、常に見張りのメイドをつけている。

 マジシアも毎日のように、様子を見ていると話す。


「それで? 今日、来ている女騎士はソディレア皇女だろ?」

「知っているのですか?」

 ナイツの言葉につまらなさそうにマジシアは言う。

「フードで隠しているが、私は別国の姫の顔ぐらいは見ている。国王も気付いているだろうが、教皇の護衛とならば必要だろう……それで、あの女も王子に下手惚れか?」

 ナイツは頷いた。

「女中が言うには、自室の隠し部屋には王子の肖像画が壁一面らしいです。またカプノア皇女は部屋に王子の氷像を飾り、コイフィ王女は昔から王子だけの人生を送っていたとか」

「勘弁してほしい物だな。こんな男一人の為に、戦争が起きるかもしれないとは」

 不満げな顔でジョーカルを見るマジシアに、鳥仮面は誤魔化す様に笑った。


「それで? マジシア殿は何かいい手が思いついたか?」

 ジョーカルは自身を濁して、訪ねた。

 マジシアは首を振る。

「全く思いつかんな」

 マジシアはここに来る前に、ソディレアの側を通って来た。完全に見抜いたわけではないが、長年の勘で、自分より圧倒的に強いとだけは確信した。

「思いつかないか」

 鳥仮面の詩人はがっかりした様子を見せる。

 マジシアはこの事態を招いた者を睨んで言った。

「こんな状況をなんとか出来るとしたら、神か魔王か、あるいは伝説の千年魔女ぐらいだな」



 その言葉を聞いたジョーカルが、軽々しく高名な魔女に聞く。

「なんだ? 神か魔王か、その伝説の魔女とやらなら、なんとか出来るのか?」

 口を挟まれるとは思わなかったマジシア。馬鹿にしたように答える。

「例えばの話だ。それぐらいの力ならばなんとかできるかもしれないが、眉唾のような存在に頼らなければならないと言う意味で」

「だが、行けるかもしれないのだろう?」

 あくまでマイペースな王子。またナイツも何か解決の糸口になるかもと話を聞きたがる。

 仕方ないとマジシアは説明した。


「まず千年魔女。なんでも千年以上を生きて、不老不死の魔法すら知っていると言われているが、海の向こうの遠くの島にいると言われ、その存在自体が漠然としている。さらに最近では死んだという話もある」

「死んでいるならどうしようもないな、次は?」

 さらに催促する王子。少し苛立ちながら、マジシアは話を続ける。

「神など大昔に神話に消えた存在だ。神卸しの儀式を行っている島が遠くの果てにあるらしいが、千年かかると言われている」

「千年もかかるならいらないな、次は」

「あとは魔王か」


「伝説だが、五百年前。悪魔の王と呼ばれる存在がこの地で倒されたらしい。伝説でだがな」

「それが魔王ですか」

 実はナイツやフールレ王子も、その話は知っている。

 この地を荒らす魔王が、人々の力により撃ち倒されたという伝承。そんなお話をここの地に住む人々は子供の頃から聞いていた。


「悪魔とは呼び出した者の命令を忠実に聞く。代わりにそれに関わった人々の感情をエネルギーとして食べると言われている。もっとも私も見た事は無いが」

「マジシアさんが見た事ないなら、存在しないでしょうね」

 長命であり、ワドリスに劣るとはいえ、一級の魔法使い。それが知らないなら知っている者はいないだろうとナイツは考える。

 教皇達が戻って来たので、ナイツ達はマジシアに挨拶をして、馬車へと帰った。


「マジシアさん。今日はありがとうございました」

「ああ、私も色々と手を考えておくからな。そっちも頑張れよ」

「はい。ほらジョーカル」

「……ん? あ、ああ、マジシア。色々とありがとう、また一緒にお茶でも」

 何かを悩んでいるジョーカルを促し、ナイツは歩いていく。その二人組をマジシアは見送った。



 馬車に乗り込んだ四人。目的を終え、教皇を帰させるためにスペディロス帝国へと一同は戻って行く。

 その間、しばらくジョーカルは悩んでいた。

(魔王? なんだか十年ぐらい前に、どこかで聞いた気がするんだが?)

 悩む鳥仮面だったが、しかし答えは出なかった。













 

 グラブレシアの城の一室で、その女はベッドから起き上がった。

「いい加減、私も立ち直らないと!」

 この国の王女、薔薇のような女性、ワドリスである。


「しかし、私はどうしたのかしら? 以前なら手紙を受け取ったらすぐに落ち着くのに、今回は全く落ち着かない、寝ても覚めてもフールレ王子様の顔ばかり思い描いてしまう……」

 ワドリスは顔を赤くする。そして気を抜くとフールレ王子の顔が浮かび上がり、熱が上がってくる。何とか頭を振って、姫は平常であろうとする。

「このままではいけませんわ! 魔法の勉強も全然、手につきませんし!」


「そうですわ! 王子の手紙にも書いてあったじゃない、妄想を現実で塗り替えたいと! だったら私も妄想の王子を現実の王子に会う事で、打ち消せるかもしれない!」

 本当は王子に会いたいだけの口実を、ワドリスは無理矢理に作り出す。

「でも今の私が、他の国に行くのを皆が許してくれるかどうか……いえ、怯んではいけませんわ! だったらお忍びで行くしかありませんわね! そう、それしか手が無いに決まっていますわ!! では数日後を目途に、さっそく作戦を決めて行きましょう!」


 恋の熱でおかしくなっている王女は、そう自分自身で決めて、単独で王子に会いに行く事にした。



 他の国の姫も、その日。お忍びで王子に会いに行こうと決めた者がいるとは、ワドリス王女は知るはずもない。



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