朝飯の時間!
[2019/04/08 7:45]
ノクターンで書き始めた作品の濡れ場が書き終わったらこっち更新するっす。悪い癖出て導入だけで1話終わっちゃって……。
「そ、それじゃあとでまたギルドで会いましょ?」
「痛っててて……えぇ、それでお願いします」
「だ、だいじょうぶ……?」
「まぁこれぐらいなら日常茶飯事ですからね」
「……仲良いのねぇ」
リゼさんの腫れ物を見るような目線が遠ざかっていくのを尻目に、オレは得も言われぬモヤモヤした気持ちのままお風呂屋さんの目の前で顔をしかめていた。
ムスッとしているオレの髪の毛から、時折滴り落ちるお湯が地面に影を作る。
お風呂上がりなので髪の毛もほどよく濡れているが、今日は天気が良いからそのうち乾くだろう。
ドライヤーなんて代物は存在しないのだ。
そういや、オレが着ていたボロの洋服だけど、あれは錦に捨ててもらった。
……ヤバいわあれ。臭すぎる。あんな臭い洋服着てたなんて自分でも信じられない。
例えるなら、魚をそのままこすりつけて潮風のもと天日干しにしたあと海水で洗ったような………要約すれば凝縮された海の塊だった。
お風呂に入って臭さがリセットされた今なら分かる。アレの横で一晩寝た錦マジですごいわ。
んで、代わりに錦が持ってた質素な――それでもオレが来ていた洋服より肌触りの良い――シャツと、錦が森の中を探索するとき用に持っていたズボンを借りた。
ただあまりにサイズがデカすぎるので、ズボンは裾を何回も折ってるし、ベルトの代わりの紐は思い切り引っ張ってるし、シャツに関しては腕をまくってどうにかしている。
なお、洋服を着てるとき隣からは「胸チラやべぇ!」とか「幼女があたしの洋服着てるってこれもう彼シャツよね?」とか聞こえたので、遠慮無くグーパンさせてもらった。
「……さて、午後からやることも出来たし、あたしたちも準備しましょ?」
太ももをさすりながら錦が歩きだす。
「………そーだな」
「もうメルちゃんったら~。ちょっとからかっただけじゃん、気でも障ったかな?」
「そんなんじゃねーし」
ぶすっと言い返す。
踵を返した錦がカラカラ笑いながらオレのことを抱きしめようとしてくるので、押し返して阻止してやる。
いやね、サキュバスだと勘違いされてたのはまだ良いさ。何だかサキュバスはそんなに悪いものでもなさそうだし。
でもそのあと笑われたのが気に入らねぇ。
何度でも言うが胸は小さいほうが過ごしやすいだろうから、それは全然気にしていないんだけど、錦に馬鹿笑いされたのが引っかかってしょうがないのだ。
行き場のない感情をどうしてやろうか考えていたとき、ぐぐ~っとお腹が鳴った。
そうだ、そういや朝飯もまだ食べてなかったな。
……もしかしたらこのイライラもお腹空いてるからかもしれない。
うん、いやきっとそうだ。それしか考えられないわ。
「………朝ご飯、お腹いっぱい食べさせてくれたらゆるす」
「それぐらい朝飯前よ!」
ゆるして~とか言ってる錦の方へ振り向いて、オレは重い口を開いた。
オレが怒ってるんだぞオーラを出してても気付いてないのか気にしてないのか、錦はオレの要求を瞬時に飲み込んだ。
「………でも食べ過ぎだけには気をつけてね……?」
よし。腹一杯食べてやるぞー。
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「そういや錦さ」
「外では雅って呼んで欲しいなぁ~」
「うぐぐ。……みやび」
「なぁに? メイルちゃん?」
「リゼさんがオレのことサキュバスだって思ってたけど、サキュバスってあのサキュバスだろ?」
ついでに店員のお姉さんにサンドイッチのおかわりをお願いする。錦は呆れながらチビチビとジュースを口にした。
朝食に訪れたのは、お風呂屋さんからそんなに離れていない古民家みたいなところだ。
錦曰く、ここの朝ご飯は量も多いのに安く、それでいて味も悪くないんだと。
確かに見渡してみれば、店内はカウンター席が7,8席ぐらいで、テーブル席は4カ所しかないが、ほぼ満席だ。
座っているお客さんはみんな冒険者みたいで装備を着込んだ人ばかりだから、風呂屋帰りのオレたちは結構浮いてるかも。
さっきから他のお客さんがオレたちをチラチラ見てくるのに、オレも錦も気付いている。
ただジロジロ見られるのは慣れてるからな、これぐらいじゃめげないぜ。
オレはおかわりで頼んだ料理を置けるスペースを確保しつつ、オレの両手より大きい器に入った魚のだし汁をズズズっと飲み込んだ。
「サキュバスは、たぶんメイルちゃんが想像している通りのサキュバスよ。あのエッチなヤツね」
「うへぇマジかよ……でもオレ生まれてこの方そんなことしたことねえぞ」
この身体は幼女……つまり女性だけど、中身は残念だが男だ。漫画とかによく出てたサキュバスみたいなこと、絶対に出来ない自信がある。
「それについてはメイルちゃんを全面的に信用するしかないんだけど、サキュバスって生まれたときからマジかよってぐらい発育が良いのよねぇ。いわゆるロリ巨乳よ。メイルちゃんぐらいの歳なら既にあたしと同じぐらいあっても過言じゃないわ」
飲み込んだ汁が胃に滑り込んでいく感触を味わいながら、オレは自分の胸に視線を落とした。
錦のシャツはぶかぶかだから、胸まではっきり見えちゃうけど、凹凸なんてどこみても無いぐらいに幼女している。
唯一、今ご飯食べてるからお腹が膨れてきてるぐらいかな?
「まぁ………確かにオレは胸無いもんな」
「そそそ。だからよほどのことが無い限りサキュバスじゃないことは確かなのよねー」
錦がそう言いながら黒髪をくるくるいじる。
と、おかわりで頼んだサンドイッチがテーブルに届けられた。
少し固めのパンで魚と野菜を挟んだモノなんだけど、これがまた美味いこと。
魚自身に旨味が強いのか、しっかり焼かれた身から丁寧に骨を取り外してレタスのような肉厚の葉で巻いてパンに挟んだだけなのに、噛めば魚の脂がちょうど具合に葉のみずみずしさと絡み合い、それがパンに染み込んで一つ残らず美味しくいただけるのだ。
五枚ほど積み上げた皿の上に置かれた、出来立てのソレを手に取り、もむもむ味わいながら錦との話を続ける。
「結構詳しいんだな?」
「そりゃあたしの生まれ故郷ジパングは島国なんだけど、サキュバスが一番多く暮らしている街と貿易が盛んですもの。海を挟んでお隣さんなのよねー」
あぁなるほどなぁ。そりゃ詳しいわけだ。
じゃあやっぱりサキュバスは魔物、ってくくりじゃ無くてちゃんとした人間として暮らしているんだな。
というか魔物だったら錦と出会った時点で退治されてるか。
………こいつの場合、魔物が女の子だったら気にせずお持ち帰りしそうだけど。
「でも4年冒険してみて色んな人を見てきたけど、メイルちゃんみたいな耳した人はサキュバスでしか見たこと無いからなぁ」
そのとがった耳ね、とオレの耳を指差す。
だし汁に入っていたほろほろになった魚の身をスプーンで掬いながら、左手で自分の耳を触ってみる。
錦やリゼさんとか、なんならこのお店にいる人たちと見比べても、やっぱ珍しい形してるよなぁこの耳。
みんな耳の先端が丸くなってるけど、オレのはどうみても丸くなくって、ちゃんと先端までとがっている。
触った感触は伝わってくるから、耳としての機能は普通の耳と比べて遜色ないと思うけど。
あっ、そういえばこの耳について錦に聞きたいことがあったんだ。
口に入れた魚の身は舌の力でも崩れるほど柔らかかったので、オレは急いで咀嚼して錦に訊ねた。
「そういえばこの世界ってさ……『エルフ』って居ないの?」
「そう! いないのよエルフ!!」
予想以上の勢いにオレだけじゃなく、店の中の人たち全員の視線が錦に集中する。
びっくりさせてゴメンなさ〜い♪ なんて猫なで声で謝る錦を、今度はオレが呆れた目で見る。
「やっぱりメイルちゃんもトラベラーだからエルフのことぐらいは知ってたみたいね。異世界って言ったらエルフぐらい居てもおかしくない、って思ってたんだけど、どうやらこの世界にはエルフがいないみたいなのよね」
「エルフがいない?」
「そう。あたしもジパングで資料を漁ったり、サキュバスの人たちに聞いてみたことあるけど、誰もどこにもエルフって言葉は出てこなかったのよ。だからエルフはいないと思ってたけど……」
「そこにオレが現れた」
「そう。あたしが思い描いていたエルフの容姿に、メイルちゃんはピッタリなのよね」
そういえば、オレも幼い頃にエルフがいるか、ってお父さんに訊いてみたけど聞いたこと無いって言われたな。
でも、オレの耳って産みのお母さん似だった、ってお母さんが言ってたような………。
「オレのこの耳ってさ、産みのお母さんとそっくりらしいんだよな」
「その産みのお母さん、ってどこ出身だとか覚えてる?」
「……いや、ある日森を彷徨っていたところを保護して、そのまま村でオレの産みのお父さんと結ばれた、ってことしか聞いてないや」
「うーんキナ臭いわね……」
再度自分の髪の毛を弄くる錦。
もしかしてオレってエルフの末裔だったり……? でもウチの村って田舎だしなぁ。サキュバスの存在も知らない可能性だって大いにある。
だから産みのお母さんがサキュバスだった可能性も十分考えられる。
そうだ。エルフって地球の作品だと長耳族とか呼ばれてることもあったよな。
「エルフって言葉を聞いたこと無いんだったら、長耳族って呼ばれてたりもしないんだな?」
思案顔の錦に疑問を投げかけてみる。
「そういえばそうねぇ。サキュバスは吸性族って呼ばれてるし……あぁ長耳族じゃないけど耳長族って呼ばれている人種は居るわ」
「それってエルフとかサキュバスと何か違いがあるのか?」
「違うも違う、大違いよ。……そういえば耳長族発祥の地もジパングから近いから、冒険に出て最初に行ったんだっけなぁ……懐かしいなぁ」
悩んでいた表情から一転して昔を思い出すように腕組みをする錦。
あそこで飲んだ生絞りは忘れられないわぁとか、お祭り楽しかったなぁなんてコロコロ表情を変える。
……ひとしきり昔を懐かしんでもらってから、思い出したかのようにオレは訊いた。
「んで、何が違うんだ?」
「まず最初に耳長族には女の子しかいないん――」
「OK分かった了解だ。お姉さーん! おかわりお願いしますー!」
ブクマ&評価感謝です!
進みが遅いの許してクレメンス。




