サキュバスじゃないんだが!
[2019/03/28 00:10]
【お詫び】
メルの容姿について。
現在投稿されている話において、メルの容姿が実際と異なる描写がされている箇所が3カ所見つかりました。
正しくは『赤い瞳』『白い髪→プラチナブロンドの髪』となります。
混乱させてしまい、大変申し訳ございません。
また、感想欄にてご指摘いただきありがとうございました。
該当箇所については後日、修正しておきます。
気をつけて執筆していますが、もし今後も描写や表記について、変だと気付いた点がございましたら感想欄やメッセージにて教えて頂くと大変助かります。
以上、失礼しました。
ごしごしごしごし
オレは自分の身体を石けんが泡立つタオルで丁寧に洗っていく。
「あっその石けん最近出た新作じゃないですか。サンタフラワーの良い香りがするやつですよね」
「よく知ってるわね! 私の生まれ故郷によく咲いてて懐かしくなって買っちゃったのよねー」
「あれ? っていうとマリナの出身ですか?」
「そうそう! もしかして行ったことある?」
「ちょうど去年の夏ごろに新聞でサンタフラワーのこと知って、思い立って今年の冬はそこで過ごしてきました」
「そうだったのね。ここ数年帰ってないけど、今年の咲きっぷりはどうでした?」
「そりゃもう、夏の時点で咲き乱れるって予測だったんですけど、もう予想通りの咲きっぷりでした! 冬に咲くっていうだけでも珍しいのにあそこまで綺麗な赤色が雪と混じるとすっごく映えてて見とれちゃいましたよ!」
「なるほど、だから新作でサンタフラワーの香りの石けんが出回ったのかしらねぇ」
「この街からなら歩いて3ヶ月ぐらいですもんね、十分あり得ます」
もこもこのあわあわになったところで、お湯をざばっと浴びる。
「そういえば雅さんはこれからどうするんです?」
「というと?」
「メイルちゃんとパーティになったけど、何か目的があってのことなんでしょ? あんな小さい子を冒険者にするなんてあまりないことだもの」
「それを説明するとなると、語るも涙、メイルの人生模様から話させてもらうことに……」
「長くなるなら手短に」
「まぁあれです。ジパングまで連れて帰ろうと思ってるんですよねぇ。あたしの妹がいたって分かったので」
「なんか色々複雑なご家庭のようね……」
「まぁそうですねぇアハハハハ。そうだ、良ければ初心者向けのクエストって何かありませんか? メイルの初舞台にふさわしいものがあれば良いんですけど」
「そうねぇ………」
身体の匂いを嗅いでみる。
うん、臭くない。石けんの良い匂いがする。
もうこれで臭いだなんて言われないぜ!
「それだったらちょっと行った山奥で、最近テンタクルが湧いてるみたいなのよね」
「ほうほうテンタクルですか」
「ここらへんってあまりテンタクルが湧かないんだけども、どこからか群体がやってきたみたいで領主様から空いているパーティには退治をお願いするよう言われているんですよね」
「それだったらあまり危なくないでしょうし、あたし達その依頼受けても良いですか?」
「もちろん助かるわ! テンタクル退治なんて高ランカーの冒険者にやってもらえないし」
「ザ・初心者向けですからねぇ。あたしもメイルちゃんいなかったら受けないわぁ」
「私は今日午後当番なので、お昼過ぎでも大丈夫です?」
「願ったり叶ったりです」
「それじゃあ登録手続きは済ませておきますので、ギルドに来てもらったらすぐ受注できるようにしておきます」
「ありがとうございます!」
女の人ってどうして話が途切れないんだろうなぁ……。片方は女の皮を被った野郎だけど。
オレの頭を洗ってくれてから、きっかけを忘れてしまうほどにずっと2人は話しっぱなしだ。
いや、身体洗うのに集中できたからさぁ、都合良いんだけど……なんかちょっと疎外感。
身体洗い終わっちゃったし、手持ち無沙汰だ。……タオルでも洗うか。
「おっ、メイルちゃん身体洗い終わった?」
オレが黙々と使っていたタオルを洗い始めたのを見た錦が声を掛けてくれる。
よく見てるなぁ。
「ちゃんと身体洗い終わった?」
「おうよ、これで文句は無いだろ」
「どれどれ~?」
錦がニヤニヤしながら近寄ってきたので、すかさず手を払いのける。
それを見越していたのか、すかさず顔も近づけて来たから反対の手で押しのける。
出会ってたったの1日しか経っていないのに、反射的に身体が動くようになってしまった。
……と、錦と格闘している横で、リゼさんがオレのことをジッと見ているのに気付いた。
「そういえばメイルちゃんってジパング人で良いんだっけ?」
「えぇまぁ、腹違いですし」
「な、何か気になることでもありました?」
リゼさんの視線に羞恥心が働いて、錦から遠ざかりながらササッと身体をよじる。
な、なんだろう……オレが錦と姉妹だってことに疑問を感じてるのかな……。
確かにどこをとっても似てるところは無いけど……唯一の共通点といえば日本語が分かるってところだし。
「いえ、ね? メイルちゃんって顔を可愛らしいし耳も少し普通の形と違うじゃない。だからサキュバスじゃないのかなぁって思ってたのよ」
「ほわぇっ!?」
思わずオレの口からすっとんきょうな声が飛び出した。
さ、ささささサキュバス!?
サキュバスってファンタジー作品によく出てくる話題にするだけで18禁になっちゃうようなアレだよな?!
確かに今は女だけどさ!? い、一度も男を襲ったことないぞ!?
いやまぁ産みのお母さんのことは一回も見たことないから、そんなこと無いとは言い切れないけど……もしかしてオレってマジでサキュバス……?
なんて感じでオレの脳内ではめまぐるしいほどパニック状態になっているオレの横で、錦がそりゃありえないですよーなんて気の抜けた返事をした。
「確かに見た目はサキュバスっぽいですけど、頭洗っても角がどこにも無かったですし、見て分かったと思いますが尻尾も生えてないですからありえないですねー」
「サキュバスがたくさん暮らしてるところってジパングの近くでしたっけ? ジパング人のあなたがそういうならそうよねぇ。いえ、ごめんなさいね? サキュバスってあまり見たことないもので」
「大丈夫ですよーあたしも初めて見たときはもしや? と思いましたから」
オレが弁明するまでもなく、なんだか話が完結してしまった。
ってか2人のこの軽いノリは何なんだ……サキュバスっていったら魔物とかって言われていないのか? 案外どこにでもいる普通の人種なのか?
………分からないことだらけだ。今ここで訊くと何だかボロが出そうだし、あとで錦に訊こう。
「それに100%サキュバスじゃない、って言える自信はもう1つありますね」
そういうと……錦はオレに指を指しながら、こう言った。
「サキュバスなら、おっぱいがあんなに小さいワケありませんし!!」
……目線を下に向ける。
身体から滴るお湯が足下にぴたぴた落ちているのがよく見える。
………いや、良いんだ。オレは身体は女の子だけど、心は男だ。おっぱいが小さくたって構いやしない、っていうかそのほうが絶対邪魔じゃないし、このほうが動きやすいし。
だけど……なんだろ。この侮辱されているような敗北感は……。
とりあえずワケの分からない気持ちにさいなまれたオレは、オレに指さしてリゼさんの方を向いてるおかげでこっちに気付いていない錦の太ももめがけて、思い切りグーパンチしてやったのだった。
ブクマ評価ありがとうごじゃいます!
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