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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第4章 魔法と触手とアレックス ~ 相棒との出会い ~
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頭を洗おう!

「ほら行くよ!」


「いーやーだー!」


 港街の朝は早い。

 日が昇ってから2時間も経っていないのに、街道にはたくさんの人が行き来していて活気がある。

 そんな街中の一角で、オレと錦の押し問答が繰り広げられていた。


 錦の勢いのまま連れてこられたけど、いざお風呂屋さんを前にして怖じ気づいてしまうオレを誰が責められようか。


 だって自分で女の子大好き♪ って言ってるやつとお風呂に入るんだぜ?

 お風呂って裸になるじゃん。

 これすなわち、貞操の危機だよね。


 そんなわけでオレはめっちゃ抵抗してるのだ。


「文句ばっかし言ってたら朝ご飯抜きだよ!!」


「それもやーだー!!」


 錦が膨れっ面になりながらお母さんみたいなこと言ってくる。


 それズルいぞ! オレがお腹空かせてるの分かっててそういうこと言うの卑怯だ!

 でも錦と一緒にお風呂ってのもすごくイヤ!


「わがまま言わない!」


「こちとら貞操の危機なんじゃい!」


「あたしだって四六時中頭の中ピンク色してないわよ!」


「オレの目を見て言えるか?」


「……………」


「ほらやっぱ嘘じゃん! 露骨に顔そらしやがって!」


 ……そんなこんなで、かれこれ十分ほど舌戦を繰り広げていたときである。


「なんか騒がしいと思ったら、貴女たちって確か……」


 今まで近くを通る人たちはオレたちのことを怪しんで近寄ってこなかったんだが、1人の女性が歩み寄ってきた。

 誰だ? と思って目線をそちらに向けると。


 そこには深い青色の髪をした女性が荷物袋片手に立っていた。

 どこかで見覚えがあるな、と思ってた矢先、錦がすぐに気付いたようで女性に話しかけた。


「おはようございます、昨日受付にいた方ですよね?」


 あぁ昨日、ギルドでオレのギルドカード持ってきてくれたお姉さんか。

 お姉さんもお風呂に入りに来たんだろうか。


「どうしたのよ。こんなところで騒いで」


「いやぁそれがですね、メイルがお風呂に入りたがらないんですよ」


 あっこいつ。いけしゃあしゃあと言いやがって。


 オレが反論しようとしたとき、お姉さんがオレに近寄ってきてしゃがんだ。

 オレと同じ目線になりながら、昨日去り際に見せてくれたような微笑を浮かべながらオレに訊ねる。


「確かメイルちゃん、だったよね? どうしてお風呂に入りたくないの?」


 まるで小さい子供に言い聞かせるようにお姉さんが話しかけてくる。

 いやまぁ実際オレはまだ7歳だから間違いではないんだけど、こうまで子供扱いされるとなんだか意地張ってる自分が恥ずかしくなってくる。

 しかし『女の子が異常に好きな変態と一緒にお風呂に入りたくないから』なんて言えるわけないし……どう言い返そうか。


 ……お姉さんの屈託のない表情を見ていたら少し気持ちが落ち着いてきたので、オレは錦に背を向けながらボソッとつぶやいた。


「………裸、見られるの恥ずかしいから」


 あらあらまあまあなんてお姉さんが困惑した顔で錦を見上げる。


「実はメイル、お風呂に入ったことがないんですよ」


「なんでバラすんだよ!」


 錦が青息吐息を付きながらお姉さんにそんなことを抜かしやがった。

 途端にめっちゃ恥ずかしくなってオレは手をわちゃわちゃさせて抗議する。


 それを見たお姉さんが、じゃあこうしましょう、と立ち上がりながら手を合わせた。


「お姉さんも一緒に入ってあげるわ」


「どうしてそうなる!?」


- + - + - + - + -


 この世界のお風呂事情について説明しよう。

 基本的に、一般のご家庭には風呂場ってものは存在しない。オレは小さい頃からタオルで身体を拭くことはあっても湯船に浸かったことがなかったけど、それは田舎でも都会でも変わらないそうだ。よかったよかった。

 でも水資源が豊富ではない場所において、当然水は貴重なものであるため、風呂入ることだけに大量の水を使うとか考えられないらしい。

 しかしこの世界には地球にはない、魔法というものが存在している。

 魔法を使えば水を作り出すことはそう難しいことではないのだが、いかんせん魔力を消費するとのこと。

 よっぽど魔力を持っている人でも無い限り、瞬時に何百リットルも水を作り出すことはまず出来ない。

 しかも水を作ったところでそれを温めるとなると、今度は火の扱いに長けた人が時間をかけて水を温めないとお湯にすることは難しいそうだ。たぶん菌類に冒されていたおっさんだったら出来るんじゃないかな?


 だからお湯を作るってなると、単純に水を敷いた大鍋を火に掛けて作り出すのがポピュラーである。


 そのため、この世界でいうお風呂屋さんとは、地球にあった銭湯みたいなものではなく、身体を洗い流せるほどの場所と、お湯を提供してくれる場所なのだそうだ。

 だが、このお風呂屋さんってのも普通の街にはあまり置いていないけど、港街にはほぼ必ず存在しているようだ。

 というのも、海と隣同士である港街では、どうしても潮のせいで身体がベタつくし、特に漁師は海水や魚に触れる機会が多いから、それを洗い流すため自然と出来たらしい。


 オレ達がやってきたこのお風呂屋さんも、中身の作りは地球の銭湯とあまり変わらない。

 貴重品なんかは受け付けが預かってくれるが、脱衣所があり、ドア一枚隔てた先に洗い場がある。

 銭湯と決定的に違うのは洗い場に湯船がないことだ。

 構造自体は水捌けを良くするための構造になってて――ここは床一面にスノコを敷き詰めて、水が流れる構造になっているらしい――持ち込んだモノをおける台が置いてあるぐらいで、銭湯とあまり違いは見受けられない。


 あと身体を洗うためのお湯だが、これは受付で使いたい量を申請すれば、桶に入れられたお湯を風呂場に持ち込んでくれるというシステムだった。

 だから受付を済ませてしまえば、あとは脱衣所で裸になって洗い場に行くだけで良い。

 良いんだけど………。


「ほらメイル~! 恥ずかしがってないで早く入っておいで!」


「そうよー。お湯も冷めちゃうんだし」


 そんな黄色い声が洗い場から聞こえてくる。

 もちろん錦とリゼさん――なぜか一緒にお風呂に入ることになったお姉さんのこと。さっき名前を教えてもらった――の声だ。


 はい。今までずっと講釈垂れてきましたが、実はただお風呂に入りたくないからでした。

 ちなみにお風呂事情については、さっき錦に説明されたことを反芻していただけです。なんかすみません。


 オレは二人が洗い場に行ってから数分間、この脱衣所で悶々としていた。


 ……二人に引きずられるように連れてこられたお風呂屋さん。

 男湯と女湯で分かれていたが、当然のように女湯に入っちゃったわけでありまして。


 まぁ合ってるさ? オレは今幼女ですし。女の子ですし。股間に息子がいませんし。

 でも何というか……男としての矜持というか……幼女生活7年目で今更何言ってんだ、って思われるかもしれないけど、オレって村にいたときから村の子供と遊ばず、アルドとばかり遊んでたわけ。村の女の子と遊んだこと一度もないんだよ。

 だからここに来て女性だけしか入れない花園に足を踏み入れるのが躊躇われるというか。

 ってか正直、ペチャパイの策略でこんな身体にされちゃったけど、未だに割り切れていないんだよね。

 錦のヤツは平然と女湯入ってたけど……あいつこそ入っちゃマズい人種なんではないか?

 オレ達の他にお客さんがいないのがせめてもの救いだ。


 お姉さんが来てくれたおかげで変態に対してはそこまで危惧することなくなったけど、今度は別の意味でお風呂入りたくねぇ……。

 けど今朝、錦が言ってた臭いっていうの、さっき服脱いだ時に自覚しちゃったんだよなぁ。

 ずっと頭に付けっぱなしにしてた産みのお母さんの形見にも少し臭い移ってたし……。


 ここは覚悟を決めるしかない、か…………。

 異世界のお風呂屋さんに慣れるための第一歩ってことで…………。

 オレは一息だけ付いて、股間を片手で隠しながら洗い場へのドアを開けた。


「うぅ~………」


「ほら、早くこっちに来なさいって。とにかくそのくっさい頭から洗っちゃわないと」


 身体をタオルで隠している錦に誘われて、ヤツのところまでよちよち歩いて行く。

 そんなオレを見て、リゼさんは苦笑いしている。


 ってかそうか。錦やリゼさんみたいに、恥ずかしければタオルで隠せば良かったのか……そこまで考えが至らなかった……!


 なんてオレが心の中で自分のことを叩いてるとはつゆ知らず、錦がオレの手を取って椅子に座らせてくれた。

 木製の腰掛けがちょっと冷たくてお尻がひゃんとする。


「目、閉じてなさいね」


 口に出す前に、錦がお湯をオレの頭に少しずつかけ始めた。突然だったので慌てて目を閉じる。


 しかし隣にリゼさんがいるからだろうか、想像していたよりも普通に錦がオレを世話してくれてちょっと拍子抜けだ。

 案外二人きりじゃない、第三者と一緒にいるときのほうが他人の目があって錦も悪さが出来ないのかな? これは怪我の功名、良いことに気付けたぞ。


「このまま頭洗ったげるからおとなしくしてるのよー」


 錦が泡立てた石けんをオレの頭に付けて、わっしゃわっしゃと洗ってくれる。

 この石けん……固形のものだが、これは錦の手持ちのものだ。部屋を出るときに手提げに入れていた。

 ちなみに、冒険者の必需品の1つらしい。


「ついでに身体のほうも洗っておきなさい」


 そう言って錦が石けんをオレの手元に置いてくれた。

 ……錦のことだから「幼女の身体はあたしが洗うのよ!」とか言ってくると思ったけど、ここまで想像より普通のことされちゃうとやっぱり拍子抜けしてしまう。

 下手なこといって刺激するのもマズいし、ここはお言葉に甘えて……とオレは目を閉じながら錦の石けんを手に取って自分の身体に塗りたくっていった。石けんからは牛乳のような優しい香りがして、心がとても穏やかになる。


「はい、頭流すからびっくりしないでね」


「あいよー」


 ざぱーっと勢いよくお湯が頭から流れてくる。

 なすがままにされていたけど、やっぱり身体を綺麗にするのは気持ちが良いもんだ。


 何度かお湯を掛けてもらったところで、錦がオレの頭に鼻を近づけた。


「……んー臭くない! これで大丈夫でしょ!」


 そう錦が太鼓判を押す。


「これでくすんでた髪も()()()()()が見えてきたわね!」


「ん? 金髪?」


 声高々に太鼓判を押していた錦のその一言に、妙な引っ掛かりを覚えた。

 オレは顔の水気を拭ってやり遂げたオーラ満々な錦に疑問を投げかけた。


「オレの髪の毛って白色だったはずだぞ?」


 そう、オレの髪の毛は金ではなく、白だったはずだ。

 数日前おっさんに売られる前、初めて鏡を見せてもらったから忘れるはずもない。


「白色? ……あー確かに光に当てなければそうも見えなくないねぇ。でも白ってよりはどっちかというと金色に近い色してるけど?」


 隣で髪を洗い終えたリゼさんにもオレの髪の毛を見てもらったけど、リゼさんも金髪に見えるわね、と言ってくる。


 金に近い白……?

 いやいや、あのとき見た鏡には、白い髪に赤い瞳のかわいらしい女の子が映っていたはずなんだけど……。


「あっそうだ。私、鏡持ってるわ」


 納得していないオレを見かねたのか、リゼさんが手持ちの袋から手のひらぐらいの小さな手鏡を貸してくれた。

 それを覗いてみると―――そこには、確かにどちらかというと金色に見える髪の毛を生やした、赤目の女の子が覗き込んできていた。


 あれぇ? オレの思い違い、見間違いだったのかな……んーでもあの時初めて自分の顔ちゃんと見たから、印象深かったんだけどなぁ……。


 オレがむむむっと自分の顔とにらめっこをしていたら、錦がそれとなく近寄ってきてオレに耳打ちしてきた。


「………メイルちゃん、流石に鏡使うのも初めてだなんて言わないでよね」


「それぐらいあるわ!」


 錦に茶化されて思わず叫んだおかげで、疑問に思っていた気持ちが吹き飛んじまった。

 まぁたぶん見間違いかなんかだったんだろ。

 しかし、こういう髪色ってプラチナブロンドっていうんだっけ? オレのちょっと尖がった耳と合わせると、エルフに思えて仕方ないなぁ。そういう知識が前世からの刷り込みであるんだろうけど。


 そういや錦にエルフのこと、訊いたことなかったな。こいつならオレの耳見て真っ先にエルフだーとか言いそうなんだけどなぁ……あとで訊いてみるか。


祝☆700pt超え! リメイク前のポイント数を確実に超えました。

拙作をブクマ・評価していただきとても感謝しております。

まだまだ先は長いですが、どうぞ気長にお付き合いいただければと思います。


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