お風呂にいこう!
「おはようメルちゃん。単刀直入に言うわ。あなた、臭い」
おはようございます。メルです。
遭難していたところを助けて貰い、なんやかんやあって変態と行動を共にすることになった怒濤の展開から一夜明けた今。
久しぶりに熟睡していたのか、変態と一緒に同じ布団で寝ていたにも関わらずスッキリとした目覚めを迎えたオレは、手を出してこなかった変態に一抹の安堵感を感じながら布団から抜け出して柔軟体操をしていました。
木製の板で蓋されただけの窓も開けて太陽の光を一身に浴びていたからか、オレが伸びをし初めてすぐに錦が起き出したようで。
さて突然ですが質問です。
皆さんは起きて早々に臭いなんて言われたことあるでしょうか。
少なくともオレにはありません。
「……いきなり何言ってんだ」
ググーッと背伸びをしながらオレは答える。
ん~隣に危険生物が居た割には熟睡できたんだなぁ。伸びをすればするほど身体が喜んでくれるのが分かる。
思い返せば、故郷の村を出ておっさんに連れ回されてここに来るまで、まともなところで眠ったことが無かったわ。
……おっさんの部屋で寝たのは『まともなところ』にカウントされないのでセーフ。
錦の言葉に対して特に気にせずあっけらかんとしているオレに苛立ったのか、布団に横たわりつつじっとりした目つきで睨む錦が寝起きとは思えない速度で立ち上がった。
この部屋は狭いから、布団から出た錦がオレの横に立つだけで距離感がとても近くなる。
手を出してこないよな? って錦の顔をいぶかしげに見上げていたが、錦はオレに少し近づいて鼻を鳴らすと途端に顔をしかめたむせ始めた。
「メルちゃん、あなた海に漂ってたのよ。だからなのかもうね、すごいの。魚介類の臭いがすごいの」
「……マジ?」
あまりの鬼気迫る表情に、思わずだじろぐ。
ちょっと自分の身体を嗅いでみる。
………臭いとは思わないけどなぁ……。
ちょっと着ている服がぼろくて、そこからなら潮の香りがするけど。
そういえば自分が臭いのには気付きにくい、って聞いたことがあるな……。
オレがくんくんしてるのを見て錦が呆れたようにため息をつく。
「と、に、か、く! 早急にお風呂に行くわよ!!」
「お、お風呂?」
漫画だったらバーン! と集中線が出てるだろう勢いで錦が吠える。
お風呂って………あの暖かいお湯に浸かるお風呂か?
……この世界にお風呂ってあるの? ウチじゃいつも温めた水と濡れタオルで身体拭いてたからお風呂なんて文化は無いんだろうなぁって早々に思い込んでたんだけど。
アレか?
もしかしてウチがお風呂もないほど田舎過ぎた、ってだけか?
「あ~お風呂ね、知ってる知ってる!! そんなお風呂ぐらい知らないわけないじゃんオレだって入ったことあるぜ! 最近入ってなかったけどたまにはゆっくりつかりたいもんな! それにお湯に入るとさっぱりするし! 昔はよくお母さんに頭洗ってもらってたけど今じゃ1人で入って良いよって言われてたんだぜ?」
こんなお風呂程度で、また田舎者って馬鹿にされるのだけはイヤだぞ!
オレはもちうる知識を総動員させて錦にまくし立てる。
だが、話せば話すほど錦の表情がどんどん暗くなっていく。
な、なんだ。なんか変なこと言ってるかオレ?
ひとしきりお風呂トークをし終わったところで、小さな子供をあやすように聞き入っていた錦が口を開いた。
「……メルちゃん。もしかしてお風呂入ったこと、ない?」
ぎくっ。
「そ、そんなわけないだろ……いくらウチが田舎だったからってお風呂がないほど寂れてないぞ……」
「この世界のポピュラーなお風呂って、湯船に入らないんだけど」
錦の衝撃の一言に、オレは言葉も出せずゆっくりと膝から崩れ落ちた。
そんなん分かるわけないじゃん……。
四つん這いになるオレに追撃するように錦がたたみかける。
「湯船に入るなんてお金持ちぐらいよ。もしかしたらメルちゃんのおうちがすんごく裕福なご家庭なのかもしれないから黙って聞いてたけど………その様子じゃ違ったみたいね」
「見栄張ってすみませんでした………」
「メルちゃんはこの世界のことあんまり知らないんだしさ、素直になったら良いのよ」
錦に諭されてしまい、余計に落ち込むオレ。
あぁくそ。普通に悔しい!
「それじゃあメルちゃんの初お風呂デビューも兼ねて、身体洗いに行きましょ!」
「はい……わかりました……」
とぼとぼと立ち上がり、部屋のドアに手をかけようとしたところで錦が「ちょっと待って!」と声をかけてきた。
なんでしょうか……この世界の常識でも教えてくださるんでしょうか。
「行くのは良いんだけど――これ、外してくれないかな?」
そう言って錦がオレに背中を向けた。
そこには錦の両手が紐で結ばれていて。
「あっ」
そうだった。
一緒の布団に寝るなんて言い始めた錦が、どんな変態行為をしてくるか分かったもんじゃ無かったから、寝る前に条件として両手を縛っていたのを思い出した。
「わりぃわりぃ忘れてたわ」
「んもうひどいなぁ!」
ぷりぷりお尻を突き出して腰を振る錦のケツをひっぱたいてやり、オレは結んでいた紐をほどいてやった。
……そういえば錦、特に変なことしてこなかったな。オレ、寝始めてから一度も目覚まさなかったし。
女の子好きだから絶対なんかしてくると思ってたんだけど……考えすぎだったか?
「さてさて、メルちゃんと一緒にお風呂~♪」
紐が解けた瞬間、嬉々とした表情をしながら身支度を始めた錦に違和感を感じたオレは思考を巡らせる。
一緒にお風呂……『お風呂』……『一緒』……あ゛っ!?
感想ブクマに評価Thx!
新章突入ですが、だからといっていきなりシーンは飛ばしません。
ふひひ……入浴イベントなんておいしいもの、飛ばしてやるもんか……。




