女神さまの慟哭
本日3話目になります。
最新話更新からいらっしゃった方は1話目からどうぞー。
「いい、よく聞いてね? 生き物は死んだあとどうなるか分かる?」
今までにないほど真剣な面持ちで訊いてくる女神さま。
「死んだらこうやって女神さまに転生させてもらえるんでしょ?」
「間違ってないけど間違いだわ」
……それってどういう意味だ?
「生き物は死んだあと、魂だけが集まる世界に一度移動するの。そこで前世でやってきた行いや経験から、サラリーマンでいう給料みたいなものを貰うってね。そしてその世界で暮らして、また時期が来たら色々な世界の生き物に生まれ変わるのよ」
「じゃあ天国とか地獄ってのは……」
「あるにはあるけど、それだってあなたたちの倫理観で見た場合そう見えるだけであって、死んだあとに行くのは必ず魂の世界よ」
つまり、死んだあと天国とかに行くってのは、魂の世界に行くってことなのか?
「おおむね正解よ」
女神さまは仁王立ちしながらつるぺたおp……仁王立ちしながら慎ましやかなお胸を張って答えた。
……いちいち思考を読んで睨まないでほしい。オレは事実を言ってるだけなのに。
「やっぱもう一回殴っとくか」
「そんなことより、こうやって素晴らしい美貌をお持ちの女神さまと会えるってことは、オレは今言ってた魂の世界に行っていないってことですよね?」
「こいつはホントにもう………そうよ。あんたみたいに若い魂は、生まれたときに来世の転生先が何個も決まってるの。これもサラリーマンで表せば、研修期間って感じね。転生を繰り返して、すべて終わらせたら、その次でやっと魂の世界に行けるってこと」
女神さまは、どこかあきらめたようにスマートな胸元を落胆させながら説明してくれる。
「じゃあ若くして死んだ場合、オレみたいにこうやって女神さまが直々に転生させてくれるのか」
「あー若くして死んだ、ってのは関係ないの」
目の前で手をふりふり、女神さまがそんなことを言う。
は? じゃあ何が若くして、なんだ。
「生き物に入ってる魂には、何度転生したか、っていうのがいわゆる年齢として記憶されてるの。この世界では何年暮らしていた、ってのは正直魂には関係ない。そこで何を経験したのか、何を知ったのか、何を成したのか。それらが魂に年輪みたいに刻まれていって、それを何度も繰り返すことで魂は歳をとっていくの」
「はぇ~なるほど」
あれ? でもオレ、名前とか家族とか、そういう人間関係の部分まるっと思い出せないんだけど。
「そう! それよそれ!!」
ビシッと指を指してくる女神さま。その表情は怒りというか困惑の色に染まっている。
「人間だった魂が経験を積むのに一番有効で、かつ簡単お手軽に成長できる人間関係をゴソっと忘れてるのが問題なのよ!」
「はぁ」
じたんだ踏みながらなんか悔しがってる女神さま。
なんでそんなに悔しがってるのか分からない。というかじたんだ踏む人初めて見たわ。
せっかく上下に動いてるのに揺れるものがないなんて、見てるこっちのほうがよっぽど悔しいわ。
「いい!? あんたはね! 新魂っていう、前世を持っていない生まれたばかりの魂だったの!」
顔をにじり寄せながら、女神さまはツバを飛ばす勢いでまくし立てる。
「新魂はみんな最初に経験した世界で積んだものをベースにして、それから何度も転生を繰り返していくってのに……あんたはせっかく地球の、日本で、しかも人間になっていたくせにその大事なことをごっそり忘れてるのよ!!」
「つまり分かりやすく言うと?」
「夏休みの宿題をやってたくせに、最終日になって宿題どこに置いたか忘れちゃって結局先生に怒られてる状態ってことよ! これなら胸しか興味のないミニマム脳みそでも理解できるでしょ!?」
「マジかよ! それってやべぇじゃん!!」
「だからさっきからそういってるでしょー!!」
せっかく優良状態の魂ゲットできたと思ってたのにー!
女神さまの悲痛な叫び声が、何もない空間に響き渡っていった。




