【外伝】錦雅は如何にしてメルと共にしたのか
※【外伝】について
外伝では、メル(主人公)以外の人物がそのとき何をしていたか、何を考えていたかを書いています。
メルが本編終了後も含めて知らない情報も載ってるかも……?
幼女を拾った。
海のど真ん中で漂っていた幼女を拾った。
何を言ってるか分からねえだろうが、あたしも自分の目を疑ったわ。
地球で言えば漫画やゲームのような異世界と呼んでも良いこんな世界であっても、まさかこんなふうに幼女と出会うだなんて思ってもみなかった。
――ご存じの通り、あたしは女の子が好きだ。
女の子同士がイチャイチャラブラブする『百合』というものを知ってから、それはもう百合を愛し、愛でてきた。
地球で過ごしていたときは周囲にバレないようにしていたけど、この異世界で生まれ変わったとき、自分の性別が男ではなく女であることに気付いた瞬間から、あたしは周りがドン引きするぐらい自分をオープンにしようと決めた。
生まれ変わったところが地球から転生してきた人でも過ごしやすい土地であったことも幸いだった。
お父さんもお母さんもあたしが元男で地球出身だってことを知っている。
くわえて女なのに女の子が好き、ってことについてもだ。
話によれば転生者ってのは前世の知識があるおかげで、幼いころからハタから見ればおかしい子が多いらしい。
だからあたしも早々に転生者だってことを打ち明け、くわえて元男だから女の子が好き、と公言していた。
……そのせいで小さい頃から身の回りの世話は男の人ばかりだったけど。
まぁソレは置いといて。
この世界は地球とは違って、10歳も過ぎれば成人と認められる。
たぶん、地球に比べて医療も発展していないし、一歩外に出れば人を襲う魔物がウヨウヨしているからかなぁ。
早くに打ち明けたせいで大好きな女の子とも触れあわせてもらえず悶々としていたあたしは、幼いころから『成人したら外の世界で女の子とイチャラブするんだ!』ということを目標に、前世の知識をフル活用して日々鍛錬を重ねた。
そんなあたしを見ても変な目で見ず、むしろ成長を促すように色々と指南してくれた両親には頭が上がらないわ。
そして13歳のころジパングから出てもやっていける自信が付いて、あたしは外の世界へと飛び出した。
それから4年間。
小さい頃から練習していた剣術、魔法、知識を思う存分発揮させ、あたしはギルドの中で中堅より上位のAランクまで上り詰めていた。
ただパーティは一度も組んだことがなかった。
いや、臨時というか短期的なパーティは何度も組んだことがあるけど、自分からパーティに正式に加入したり立ち上げたりしたことは一度もなかった。
なぜかというと、答えは簡単。
冒険者に女性だけのパーティというものがなかったからだ。
あたしは冒険者になったらパーティ内は女性だけって決めていた。
そりゃそうだ。誰が好き好んで野郎なんかと組むか。
しかし冒険者家業ってのは、力が強い男性が主戦力になることが必然である。
女性のほうが魔法の扱いに長けているところが多いけど、それでも主力となるのはやっぱり男手だ。
だから、世の女性冒険者は、ほとんどが男性のいるパーティに加入していたんだ。
男性パーティに女性が加入するとさ。
十中八九色恋沙汰に発展することなんてままあることで。
そうするとあたしが出る幕ないじゃん?
寝取りはジャンルとしては嫌いじゃないけど自分でするのは嫌いなのよねぇ。
だから、あたしは今までパーティを組んだことがなかった。
そんなとき、あたしがメルちゃんを拾ったのは本当にたまたまだった。
最初は何かワケありなどこぞの貴族のお嬢様かと思ったよ。
だって見た目、めっちゃくちゃ綺麗なのよ?
透き通るような肌っていうのはまさにこういうものを言うんだなって一瞬で理解したし、手入れがされてない薄い金色の髪だって磨けば絶対綺麗になるって分かったし、耳が地球でいうエルフ耳みたいだったから一瞬サキュバスの子供かな? って思ったけど胸が小さいから残念ながらその線は消えた。けど、もしもこの世界にエルフがいるんだったら、きっとこの娘みたいなのを言うんだろうなぁって思いながら助けたぐらい。
ワンチャン感謝されて、この娘がイイトコの娘なら返礼か願わくば従者にさせてもらえないかなーっていう下心があった。
だからメルちゃんのことをあたしお得意の料理で餌付けしていたんだけど、掃除機のようにご飯を食べるメルちゃんが話すほど出るわ出るわボロがたくさん。
隠すつもりないのか天然なのか分からないけど、メルちゃんがひとしきり身の上を話してくれたとき、すでにあたしは確信していた。
この娘があたしと同じ転生者で元男だっていうことに。
ついでに貴族でもなければサキュバスでもなさそうで、とんでもない田舎者だってことにもね。
そんな世間知らずな女の子がよ?
自分の生まれ故郷に帰りたい、けどどこなのかも分からない。どうすれば良いか分からない。どうしようどうしようって困っているときの顔をみんなは見たことがある?
ウルウルとピュアな青色の瞳を潤ませながら、わなわなと震えて悲壮感漂わせ、どんどん落ち込んでいく様、雰囲気、表情。
それがもう庇護欲をそそるのなんのって!!
今まで色々な女性に出会ってきたけど、まさかTSっ娘に惹かれるだなんて思わなかったわ。
っていうかTSっ娘に会ったことなんて今までなかったから、ってのもあるからそのギャップ萌えの破壊力に負けたのかもしれないけど。
でもでも、例えそうだとしても、このときのメルちゃんの風体はまさにパーフェクトだった。
まるで迷子になって母親を探す幼女のよう。
または家で一人ぼっちになったときさみしく不安になっている幼女のよう。
もしくは頼れる人が全くいない場所でオロオロする幼女のよう。
それらがギュッと濃縮されたメルちゃんに、あたしは一瞬で虜になった。
出会って一日も経ってないけど話してみて悪い子でもなさそうだったし、何より同郷のよしみだってのもポリグロットを外して日本語を話したことで分かったからね。
もともと可愛い女の子とイチャラブしたいなぁーって気持ちだけで冒険者になった身である。
メルちゃんが冒険者としてやっていけるかなんてことはかなぐり捨てて、あたしはメルちゃんの行く末を見守りたい気持ちでいっぱいになったんだ。
だから、あたしはメルちゃんと生まれて初めてパーティを組んだ。
それにTSっ娘同士は純粋たる百合ではない派なあたしだけど、もしかしたらワンチャンあるかもしれないしね!!
メルちゃんは勝ち気な男の子で、自分が女の子になってるってのにそれを未だに認めたがらない風潮が見受けられる。
これをじっくりことこと百合色に染められたらさ、それってすっごく素敵やん?
………そんなこんなで、今あたしはメルちゃんの横で寝ている。
メルちゃんはあたしのこと警戒して両手まで縛ってきたけど、こんなこと些細なもんだ。
だってあたしの横で! 幼女が! とびきり可愛い幼女が! 添い寝させてくれているんだぞ!?
この縛りだって一種のスパイスみたいなもんよ。なんでも簡単に手に入っちゃったらおいしくないでしょ?
メルちゃんに手を出すのは、まだまだ先だ。
まだ出会って1日。いきなり親密な関係になるだなんて、そんなことはあり得ないのだ。
ただ、きっとこの世で今一番女神のような美少女であるメルちゃんに頼られているのはあたしだけだ。
この事実だけで、あたしは何でも出来る。何でもしてあげられる。
…………まぁ、ちょっと……いや、だいぶエンゲル係数跳ね上がっちゃってるけど、きっとこのときのためにあたしはお金を貯めてきたんだと思えば痛くもかゆくもない。
そうだ。あたしはメルちゃんに今日も、きっとこれからもご飯を食べさせてあげなくちゃいけない。
だからこれぐらいなら許してもらえるよね……?
そう思い、背中合わせに寝ていた身体をメルちゃんが起きないよう、細心の注意を払いながら、あたしは身体を反対方向へ向けた。
部屋の中は窓も閉じているし灯りも消しているので、何も見えない。だけど、目の前では、すぅすぅと寝息をたてるメルちゃんの音が聞こえている。
とりあえずあたしは思い切り深呼吸をした。
あたしの見立て通り、そこにはあたしの匂いとは違う、まだ未発達な香しい女の子の匂いが――ではなく、海を煮詰めたような香ばしい薫りがしてきて、あたしは思わず咳き込んだ。
…………そういえばメルちゃん。ずっと海で漂ってたって言ってたけど今の今までお風呂に入れてあげるの、すっかり忘れてたわ……。
これは明日早急にお風呂に入れてあげなきゃ。うん、そうだ。その通りだ。
この世界にはお風呂って文化自体あまり浸透していないけど、港街は漁師が多い関係から大衆浴場が置いてあるところが多い。
そしてこの街には確か大衆浴場があったはずだ。
よし、そうと決まれば今日のところはひとまずこれで勘弁してあげよう。
あたしはそそくさと身体の向きを元に戻して、明日浴場でメルちゃんに何してやろうか思いを馳せるのであった。
ブクマ評価感謝です!
次回はメル視点に戻ります。




