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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第3章 雅との出会い ~ 冒険者として第一歩 ~
40/55

遭難

こっからシリアスパート


「帆をしまえ! 早くしろォ!!」


「船長! もう駄目です! 浸水が止まりません!」


「馬鹿野郎! 諦めんじゃねぇ!」


 ……まるで出来の悪いB級映画を見ているようだ。


 唸る轟音。轟く雷鳴。船員の絶叫。

 これらが奏でる狂騒曲を最前席で聴きながら、オレは手首の鎖と繋がれた鉄棒に必死にしがみつく。

 ぐわんぐわんと揺れる悪夢が早く終わるよう心の中で悲鳴をあげていた。


 これが悪夢だったらどんだけ良かったか。

 ときおり飛び散る海の水に、吹き込んでくる雨の水があまりにリアル過ぎて、これが現実なんだと嫌でも思い知る。


 オレは今、船の上。海のど真ん中にいる。


 船乗りの人に連れてこられた船では、オレは他の荷物と一緒に船の後方、屋根付きの荷物置き場に置かれた。

 荷物置き場はサイコロの5の目のように鉄棒が支柱として立てられていて、そのど真ん中に鎖が繋がれている。

 手首に繋がる鎖の先は手錠のようになっていて、それが屋根と結ぶ鉄棒にハメられているので、オレは荷物置き場から移動することはできないんだ。


 そんなオレを乗せた船は、河から海に出て、何日も航海をして中央と呼ばれる国まで行くことになっていたようだ。

 最初のうちは待遇に内心文句を垂れつつも、大人しくしていた。

 ってかいくら話し掛けても船員たちはオレなんか荷物の一部だと言わんばかりに無視してきたからな。


 こんな可愛い子に話し掛けられて無視するなんてこいつら全員ホモなんじゃねぇの? とか思ってたさ。

 だからパンや水を差し出されても何も言わず受け取り、それらを無心に食べるのにはそう時間が掛からなかった。


 問題は出発してすぐに発生した。


 航海を始めて2日目。

 今日は海がやたらと騒がしいな、なんて誰かが話していたのを皮切りに、どんどんと空が真っ暗になっていき、雨が降り始め、風が吹き始めてきたんだ。


 そこからいよいよ船員たちが慌て始めた。

 でも、船が対応するのが遅かったようで、一時間もしないうちに舵取りがうまくできなくなってしまったようだ。


 ……どうやらこの船は、突発的で予想ができない、台風かハリケーンのようなものに突入してしまったようで。

 最初は雨が降ってきただけだったがすぐに高波になり、暴風が吹き荒れる最悪の天気になった。時折雷の落ちる爆音もする。


 雷っていうのは高いところに落ちやすい。じゃあ海の上にいたら、どうなるだろう? ………想像しなくても結果は分かるだろう。

 いつ船に雷が落ちてもおかしくない。

 しかもこの船は帆を張ってる。

 何メートルもある木の棒が海の上にぽつねんとあったら、よほど運が悪くない限り雷が直撃するだろう。


 船が沈没するか、雷が落ちるか。

 どちらかがこの船の将来の姿だ。


 ふと、アルドと秘密の場所で穴に落ちかけた瞬間と、おっさんと似馬車から脱出したときのことが脳裏に過る。

 どちらも命の危機を感じた瞬間で、オレの頭に染み付いている出来事だ。


 だけど今回はこれらの出来事なんか比じゃないほどの命の危機を感じている。


 何より………落ちかけた時はアルドもおっさんもいた。

 頼りになる人が近くにいた。

 だからどうにかこうにか助かったんだ。


 でも、今は頼りになる人は誰もいない。


 「鎖を外して!」と船員に話し掛けても誰も答えてくれない。

 って言っても外してもらったところで脱出する場所もないんだけどね。周り海だし。


 どうにか船が沈まないように舵取りをしているみたいだが、無意味だと言わんばかりに船は左右に揺らされている。

 あまりの揺れに荷物が右往左往しているので、オレは荷物の木箱の上によじ登って鉄棒にしがみつくしかなかった。


 質の悪いアトラクションに酔うヒマもなく。

 とにかく早くこんなところから抜け出したい!


 そんなことを思った瞬間、オレの目の前は真っ白に塗りつぶされた。

 同時に思い切り頭を殴られたかのような爆音と衝撃に吹き飛ばされ、オレは意識を失った。



△ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 …………ハッ!


 じゃぷじゃぷと下半身が水中を漂っている浮遊感を感じながら、オレは目を覚ました。


 い、一体何が………?


 考えを巡らせる前に、轟く雷鳴。

 痛いほど身体に突き刺さる雨粒。

 そして船の上にいたはずなのに、いつの間にか海の中に下半身が浸かっている状態だった。


 地に足が着かない感触に軽くパニックになりながら、どうにか体制を整えようともがく。

 すると、右手首に激痛が走った。

 顔をしかめながら繋がっていた鎖を見てみると………どうやらオレは鎖にぶら下がるようにして上半身は船の上に、下半身は水中に浸かっていたみたいだ。

 痛む手首に活をいれながら、鎖を引っ張って船の上に登る。


 未だにグラグラと揺れる足場にどうにか下半身を乗せ、鉄棒を握り締めながら一呼吸置いて周囲を見渡すと。


 ……………周りには、何も無かった。


 いや、荷物が置いてあった部分だけがくり抜かれたように、海の上に浮かんでいるんだろうか。

 しかもオレが乗っていた荷物の箱もすべて無くなっている。


 豪雨で遠くが霞んでいるが、オレのいるニ畳程度のスペースだけが海の上に取り残されているみたいだった。


「おーーーい!! 誰かいないかーーー!!」


 大声で呼びかけてみるが、雷鳴にかき消される。当然と言わんばかりに、答えるのは雷の音だけだ。


「ま、まさか………船に雷が落ちて…………オレ以外、みんな………!」


 振り落とされないように鉄棒にしがみつきながら、先程の視界を真っ白に覆い尽くした光景を思い出す。

 そのとき、まるでその瞬間だけをリプレイしたかのように、またもや視界がホワイトアウトした。



 ――――――

 ――――

 ――



 耳の奥底でゴロゴロ………と鳴る雷鳴に、反射的に身体が飛び起きた。


 ……また気絶してたみたいだ。

 オレが乗っている船の残骸は気絶する前から変わっていない、オレは生きている。

 どうやら今度はオレのいる残骸近くに雷が落ちたようだった。


 さっきよりは雨脚が弱くなったみたいだけど……だけど、オレの前方の空。

 そこには空を染める灰色の雲よりもドス黒い雲が、オレのことを今や今やと待ちわびている。


 黒い雲は、弱くなっていた雨脚を加速させるように、雨音とともに雷鳴を反響させながらオレのしがみついている船の残骸に近付いてきた。


 それらの足音に、たまらずオレは耳を塞いで目をキツく閉じた。

 身体の震えが止まらない。きっと雨風で寒いから震えてるだけじゃないだろう。


 昨日まで嫌だ嫌だと思っていたおっさんのキノコ講習会がやけに恋しい。

 こんな、たった一人でいつ死ぬか分からないところに飛ばされるくらいなら、あそこにいたほうが百倍マシだっ!!


 耳を塞いだ手をすり抜けるように聞こえるのは紙を引き裂いたような音。

 それに耳を傾けないように、より強く手を耳に当て、オレはそんなことを考えていた。


 ………そして数時間後。

 脳みそがシェイクされるような激しいうねりに翻弄され、身体を貫くような轟音を聞いて、オレはまた気を失った。



 ――――――

 ――――

 ――



 ………時刻は……夜。

 未だにオレは海の上に浮かぶ船の残骸の上で、鉄棒にしがみつきながらぶるぶると震えている。


 降り止まない雨のせいで、月明かりも届かないほどの雲が空いっぱいにあるんだろうか。

 あたりは自分の手も見えないほどの暗闇で包まれている。


 ……時折煌めく雷の明かりだけが、周囲を怪しく照らしている。


 心臓が締め付けられるほどの恐怖がオレの身体を支配している。

 海に落ちないように鉄棒にしがみついたままの姿勢から動くことができない。


 空を瞬く雷が、いつ何時この船の残骸に落ちてくるか分からない。

 今まで味わったことのない永遠に続くと錯覚しそうなこの生き地獄に、オレはもう憔悴しきっていた。


 何度脳裏に走馬灯が走ったから分からない。


 赤ん坊のころお母さんたちと追いかけっこをしたときのこと。

 アルドと遊んだときのこと。

 おっさんとバカ話をしたときのこと。


 たった数日前のことですら、もう何年も前のように思ってしまうほどだ。


 カメラのフラッシュのように、ピカッ、と光る。

 間髪入れずに、轟音。

 そして身体が潰れるんじゃないかってほど自然と縮こまる。

 もう何度繰り返されたか分からないサイクルに、だんだんとオレは怒りを覚え始めてきた。


 なんで……なんでオレがこんな目にあわなくちゃなんねぇんだ畜生!


「オレが何したっていうんだよぉ! オレをいじめて楽しいか!」


 思わず口から飛び出すのは、オレに対する理不尽な仕打ちに遂に怒りが振り切れたからだ。


「誰か! 誰でもいいから………たすけて……」


 絞り出すように出たオレの声をあざ笑うかのように、一閃。

 辺りよりも真っ暗な意識の底に、オレは沈んでいった。



 ――――――

 ――――

 ――



 ………雨風の冷たさと雷の音を目覚まし代わりに、跳ね起きる。

 もう何度も何度も気絶を繰り返したことで、精神の疲労はピークに達していた。

 ずっと強張って身体がミシミシと音を立てるのも気にせず、オレは立ち上がり、空の黒煙に向かって叫んでいた。


「殺すならさっさと殺せぇ!」


 高波に揺られながら、鉄棒にしがみついて声が枯れるまで叫び続ける。

 願っても願っても、助けも来なければ一思いにやってもくれない。


 逃げ出そうにも鎖が邪魔して動けないし。

 スキあらば閃光と爆音によって気絶するし。

 いくら目を閉じてても、耳をふさいでても、雷の音と光からは逃れられないし。


 もしかしたら一生ここから抜け出せないかもしれない。

 船の残骸が高波にひっくり返されれば溺死するかもしれない。

 それより先に雷に撃たれることだってありえる。


 押しつぶされる気持ちを抱えながら、叫び疲れたオレは船の残骸に仰向けで寝そべる。

 ……おもむろに胸に下げたアルドのくれたお守りを取り出す。

 中に入れていた石は、おっさんがくれた袋のおかげか、傷1つなくアルドがくれたときの姿を保っている。


 目を閉じると、アルドの姿が思い浮かんでくる。

 オレの後ろをいつも付いてきていた、可愛らしいオレの弟。

 血が繋がっていないけど、アルドもお父さんもお母さんも、本当の家族だと思っているし、みんなもそう思ってくれていると信じている。


 …………もう一度、一回だけでもいいから、またみんなに会いたいな。


 ……………そうだ。そうだよ。船がなくなったってことは、オレが奴隷だって知っている人は皆沈んでいったはず。


 身体に焼印入れてるワケでもないし、見た目はただの幼女にしかみえないんだから奴隷だなんて誰も思わないだろ。


 ってことは、オレは今、自由の身だ。


 もしも、この地獄から生きて抜け出すことができたら、オレは絶対にアルドたちの……家族の元へ帰る。

 何があっても、どれだけ苦しくても、死ぬまでに必ずもう一度みんなに会いに行くんだ。


 そう心に決め、オレは自分を奮い立たせる。

 こんなところで、くたばってたまるか………!

 それにせっかく異世界にやってきたのに、まだほんの少しもこの世界を楽しんでいない!


 絶対に生きて帰る!

 そして家族にあって、可愛い女の子侍らせてハーレム作るんだ!!


 半ば現実逃避をしているのは自分ながらよく分かっている。

 けど、目標がないとこのまま腐っていきそうな気がして、なけなしの元気を絞り出して誓う。


 空を睨むようにして目を開けたその時。

 今までで一番の閃光がほとばしり、オレは意識を手放した。


ここまでシリアスパート。

ブクマ評価ありがとうです〜。がんばる糧になってますです。


[2019/02/11 20:00]

誤字修正しました。

人思いに→一思いに

豪風→暴風

ハリケーンのよつなもの→ハリケーンのようなもの

3件も……ご報告感謝しております。努めますorz

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