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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第2章 おっさんとの出会い ~ 初めての珍道中 ~
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おっさんとの別れ

 おはこんばんちわ皆様。いつでも明るく前向きポジティブなメルちゃんだよ。

 頭の中にキノコが湧いてしまった可哀想なおじさんに引きずり込まれ、菌糸類の山に捕らわれてから早数時間。

 どこに目を向けても毒々しく独特なビジュアルがオレを見つめてくるこの化物ハウスは、菌糸類さえなければそこそこ普通の野郎の一人暮らし部屋だったろうに。その面影も今や菌に覆い尽くされ見るも無残な状態である。


 かといって荒れ果ててるわけではない。一人暮らしにしては中々に整理整頓されてるし、特にキッチン回りなんかは唯一キノコが生えていない聖域となっていた。

 それとランプの街灯でうっすら照らされたキノコハウスの横には、荷馬車を入れておくスペースもあった。厩舎なんかもあったから、あの馬や荷台はおっさんの持ち物だったんだな。

 ……新しい馬とか買うまではさみしくなるだろうけど、オレたちがここにいられるのは荷馬車が犠牲になってくれたおかげだ。おっさんには悪いけど我慢してもらうほかない。


 この胞子に囲まれた家は他の家と比べて煌々としている。

 それはおっさんの炎魔法で部屋の中が照らされているからだが、まるで地球に帰った来たような明るさだ。

 この世界には電気がないから暗くなると人々は寝に入るんだけど、ここは違うぞオールナイト。最悪だな。


 確かにおっさんの料理の腕は一流だし、キノコの知識も一流だ。

 でもそれを差し引いても余りあるこのキノコ狂いは、もう一種の病気といっても過言じゃないでしょう。


 そんなわけで夕食はおっさんにご馳走になり、ついでにおっさんのウンチクをたらふく頂いてるうちにお腹も頭もいっぱいになったところで、オレは寝落ちした。ってか基本この世界じゃ日が落ちてから起きてることはなかったから、頑張ったほうだと自負してる。


 そして本日快晴日。

 ついにオレが売られる日と相成ったわけだ。


- + - + - + - + - + -


 ………街の装いは昨日の夕方と同じか、それ以上の賑わいを見せていた。オレの村なんて朝になったら近所の人とちょっと顔をあわせる程度だったのに、ここじゃどこを見ても人しかいない。


 やっぱり人がいるところには人が集まってくるんだろうな。


 しかしなぁ………と、オレは右手首に取り付けられた鎖を撫でる。

 朝起きてから、もはやいつも通りと化したキノコ料理をかっ込んだところで、おっさんからコレを着けろ、と鎖を渡されたんだ。


「今までこういうの着けてなかったから今更必要なくないか?」


 というオレに、鼻で笑いながらおっさんは田舎者にも分かりやすく教えてやる、と説明してくれた。


 この世界には奴隷制度がある。

 オレは『奴隷』と聞いて、真っ先に性奴隷を思い浮かべていたけど、この世界は別に奴隷イコールそういうことに使われるわけではないらしい。

 簡単に言えば『お手伝いさん』の状態になる。

 通常の奴隷であれば奉公として仕えるだけだから、そんな18禁みたいなことはないそうだ。心底良かったと思う。


 奴隷制度自体はこの世界ではどこでもまかり通っている制度で、給料だってちゃんと出さなくちゃいけない。

 奴隷になった子はみな、この給料を貯めて最終的には自分を買った主人に支払うことで開放されるようだ。


 地球の知識……というかラノベに毒されていたから、こっちの世界の奴隷制度がヤバいものじゃなくてほんと良かった……。

 まぁ、思い出してみれば昨日焼き鳥売ってたお兄さんも、オレが奴隷だってわかったところで変な目で見てきてなかったしな。こっちの世界の奴隷はポピュラーなものになっているようだ。


 ただ、自分が奴隷であることを証明する書類とか、そういうものは存在しないようで。だから奴隷になったやつは奴隷の証として、さまざまなものを身に着け自分の身分と奉公先を証明するらしい。

 奴隷が外出するときなんかは、首輪とか洋服とかでどこの奴隷なのかを周囲にアピールすると、おっさんは言っていた。


 じゃあなんで今までオレにはそういうものがなかったのか? という話に戻ると、答えは単純。

 おっさんがそういうのを好かないからだ。

 特に今回みたいに村から子供を買うのは初めてだったみたいで、縛るのもめんどくさいし何より人手として有効活用したかったから拘束していなかったそうだ。


 しかしこれからオレのことを売りに行くにあたって、せっかくの商品であるオレを逃しては元も子もないし、人の通りも多いから手首に鎖を取り付け、自分の所有物であることプラス簡単に逃げ出せないようにしたみたい。


 まぁオレとしても確かに奴隷になっちゃったけど、いまだその実感は薄い。

 おっさんの性格とか今までの成り行きもあるんだけど……。


 まるでペットの犬のように鎖を引っ張られるのが癪だが、いまさらウダウダ言ったところで意味がない。

 いくら転生してきたからといって、今は非力な幼女なんだ。ここは成り行きに任せるしかないだろ。現実的ではないことはしない主義なのだ。


「メル、あまり離れすぎんなよ」


「ん、分かってる」


 おっさんがクイッと鎖を引っぱる。考え事をしていたから歩みが遅くなっていたみたいだ。


 オレはおっさんとの開いた距離を小走りに詰め寄る。

 するとそれに合わせて首に掛けている袋が胸の先でプラプラと揺れた。


 この袋は、昨日おっさんのキノコ地獄を味わったことで手に入れた大事な代物だ。

 昨晩。この街に来るまでの間に見つけたこともあるフクロダケの講義に入ったとき、おっさんに懇願して作ってもらったお守り袋である。


 中にはアルドがくれた石が入っている。


 なんでもフクロダケの中でもかなり頑丈なイシワタフクロダケっていうものを改良して作ったものらしい。

 おっさんオリジナルの小道具だけど、あまりに小さかったから放置していたのを分けてもらったってわけ。


 お母さんからもらった、産みの母の形見は、取り付けるほど髪の毛がないけど無理やり頭に取り付けているし、アルドの石もこうして常に持っていられる状態にした。これでまた危ないことが起こっても、なくすことはないだろう。


 オレは命と同じぐらいに大事なそれらの感触を確かめつつ、おっさんの歩幅に合わせて大股気味についていった。


- + - + - + - + -


「すっげぇデカいな……」


「そうか?」


「オレ、船なんて見るの初めてだから……」


 おっさんに連れられ行きついた先。そこは河に隣接して建てられた大きな家の前だった。

 海じゃないけど、この街にある唯一の港みたいだ。河にはこの世界では初めてみる船が何隻も停まっている。

 形は特に地球のものと違いはないと思うけど、帆を張ったものしかない。

 この身体はまだちっちゃいから、河を登れるほどのサイズでもオレから見れば巨大に見える。


 港の受付所がこの大きな家なのかな? おっさんがすたすたとその家の中へと進んでいくので、初めて見るものに目移りするけどオレも置いて行かれないように家の中へ入っていった。


 受付所の中は外から見たほどの広さを感じないほど、思ったよりもこじんまりとしている。

 というのもいろいろな人がいるからかな。荷物を運んでいる人もいれば、この家の中に道具屋や食べ物屋もあるみたいで、そこで買い物に走る人や店員と交渉している人であふれ返っていた。

 オレはおっさんからなるべく離れないよう、気を付けつつ人の波をかき分けていく。


 と、おっさんがあまり人のいない受付で足を止めた。


「おいジジイ。客だぞ」


 受付をコンコンと叩いて、何か書類を書いている髪の毛が真っ白になって立派な髭を蓄えたお爺さんに声をかけた。

 おっさんの声に気付いたようで、お爺さんが手を止め、こちらを見てくる。


「……ん? ……おぉグリゼットか。……おぉ、なんじゃ。今日はキノコの代わりに可愛らしいの連れてるじゃないか」


 机につくんじゃないかってほど立派な顎髭を撫でながらお爺さんがホッホッホと笑う。


「キノコはまた今度持ってくるが、今日の売り物はこいつだ」


 そう言っておっさんがオレの身体を持ち上げて、受付の上に腰掛けるように置いた。

 お爺さんと目が合う。

 こちらをのぞき込むように見つめてくるので、なんとなくニコッと笑いかけると、お爺さんも笑いかけてきてくれた。


「売り物、ということはこの子は奴隷か?」


「まぁそんなところだ」


「……お前さんにしては感心しないものよのぅ……」


「奴隷と言ったが慈善事業みたいなもんだ。こいつのいた村が首が回らなくなったみたいで、いくらかの金と食べ物とかと交換してきたってわけだ」


「ほぅ?」


 お爺さんがしわしわの手でオレの頭をゆっくりと撫でてくれる。

 オレの短い髪を整えるように、何度も何度も手を這わせる。


「爺ちゃん……ちょっとくすぐったいよ」


 少しだけ照れくさくなって、お爺さんの手を握って払う。

 そりゃ悪いことをした、とお爺さんはホッホッホと笑うと、おっさんに目を向ける。


「こんな利発そうな可愛い子が売りに出されるなんて世も末じゃな……」


「ハッ! そりゃ見た目だけで騙されてるだけよ。中身は見た目以上にクソガキだぜ?」


 おっ言ってくれるな。キノコしか友達がいないくせに。

 おっさんのことをジロリと睨むも、そんなこと気にせずにおっさんは話を進める。


「見た目だけで言えばちょっと耳が変なだけでそれ以外の容姿は申し分ねぇだろ」


「うむ、それは確かにそうじゃな。太陽を吸い込むような美しい白い髪、周りを照らすような赤い瞳、出来立てのパン生地のようなぽってりとして血色の良い肌。これほどの子はワシの人生でもそうそうお目にかかったことはないのぉ」


 お爺さんの乾いた手がオレのほっぺをきゅむっとつまむ。


 ………って、今お爺さんが言ったことはなんだ?


 可愛らしいとかはお母さんやお父さんからはよく言われてたけど、それって家族の方便だと思ってたし、おっさんが可愛らしいとかいうのはロリコンだから仕方ないと思ってたけど。

 それ以上に、瞳が赤い? マジ?


「オレの目って赤いの?」


 たまらずおっさんとお爺さんにそう訊いてみる。

 すると、二人の動きが面白いぐらいにピタリと止まった。

 おっさんが何言ってんだこいつ? って言いたげにこちらを見てくる。


「いや、オレって自分のこと見たことないし……村じゃ誰もそういうこと言ってきてこなかったからちょっと気になったんだよね」


 何となくいたたまれなくなって、はははーと笑う。


「……お前んちって、鏡すらなかったのか?」


 おっさんが恐る恐る聞いてくる。


「うん。だから髪の色だってちゃんと見たことないし、自分の顔なんてしっかり見たことないぞ」


 水に映った顔ぐらいだったら見たことあるが、いかんせんそんなに鮮明に見えなかったからな。

 転生してから少し経った後、あーまじでやっぱり女の子になってるよーって悲観しながら見て以降、意識して見たことないからなぁ。


「おいジジイ。ちょっと鏡あるか?」


「うむ、そこらの女性職員なら持っておるじゃろ」


 お爺さんはそういうと近くにいた赤い頭巾と制服? を来た女性に声をかけ、小さな手鏡を貸してもらってきた。


「ほれ、初めてのご対面じゃ」


 お爺さんがオレの手のひらより小さい手鏡を手渡してくれる。

 ひょっこりと覗き込むと、果たしてそこにいたのは―――驚いた表情でこちらを見つめてくる、白い髪をした赤い瞳のめちゃくちゃ可愛らしい女の子がいた。


 うっすら青み掛かった眉毛と、ぴっしり生えそろった長いまつ毛。ガラス玉のようにくりくりとした大きな瞳は、しっかりとした二重でより一層目を大きく見せている。

 鼻もすらっと通っており、かつ、高い。顔の形は卵のように楕円をしている。顔洗ったりしたときに触ってたからわかってたけど、客観的に見ると美しいの一言といえるほどのバランスを保っている。

 唇なんかは厚すぎない程度にあるから自己主張をしていないし、それなのに肌がうっすらと白いからその赤が瞳の色と相まって素晴らしい赤の逆三角形を作り出している。


 思わず後ろを振り返るも、そこにはおっさんしかいない。

 もう一度鏡の中の女の子を見ながらウインクしてみる。その子もウインクし返してくれる。めっちゃ可愛い。


「どうじゃ、初めて自分のことを見た感想は」


「めっちゃ可愛いな………」


「自分で言うことじゃねぇだろ……」


 おっさんが呆れるも、オレは鏡の中の自分とにらめっこをやめない。


 なんだよ……オレってこんなに可愛かったのか。マジか。やべぇ。

 あ゛ーっ、畜生! こんな子とイチャイチャしたかったなぁ……まさか自分がイチャイチャされる側になるなんて……くそぅ!

 これ、絶対大人になったら超絶美人になること確定じゃねぇか! 男に生まれてればぜひともハーレムの一員に加えたかったほどの逸材だぞ。クソ女神のこと、もっと煽ててりゃよかったなぁ………。


「おら、てめえの顔に見とれるのはそろそろおしまいにしろ」


 ひょいと手鏡をオレの手から抜き取ると、おっさんがそれをお爺さんに戻した。

 ああっ、待ってくれ! もうちょっとだけ網膜に焼き付かせてくれ!


「ところでジジィ、『中央』に行く船ってのはいつ頃ある?」


「少し待っとれ………おぉ、あとニ時間後にあるぞ」


「よし、それにこいつを乗せてやってくれ」


「送り先は?」


 おっさんがカウンターに置いてあったペンと白紙を手に取り、スラスラと筆を走らせる。


「なるほどのぉ、キノコ人間にもまだ人の心は残っておったか」


「御託は良いから処理を頼む」


 ……オレが自分の顔を反芻している間に、なんか話がめちゃくちゃ進んでるんですけど。

 あれ? まさか今すぐ売られるのかオレ?


 ここから降ろしてやれ、とお爺さんが言うと、おっさんが受付台に座っていたオレを抱えて床に降ろしてくれた。


「さて、メル」


 おっさんがしゃがんでオレと同じ目線になるまで屈むと、オレの両肩に大きな手をガシっと置いてまっすぐに見てくる。


 ……まさかこんなにトントン拍子に話が進むとは思ってなかった。

 実は、なんだかんだで今日売られるっていう実感を持っていなかった。

 売られる覚悟なんてほとんどできていなかった。

 それに船に乗せられて『中央』ってところに行くって言ってたよな? オレ、てっきり買い手がついてこの街で暮らしていくもんだと思ってた。

 おっさんから奴隷はそこまで過酷なもんじゃないって聞かされてから、ほんのちょっぴりだけど、たまーに村まで顔を出せるんじゃないかなぁとか思ってた。

 それが、まさか船を使ってまで遠くに離れるなんて、ほぼほぼ想像してなかったぞ。


 それにおっさんとの珍道中は文句しかないけど、それでも楽しくなかったかといえばウソになる。

 こういうのがもうちょっとだけ続くんだと思ってたところで、まさかここまで急転直下で話が動くとは思ってもみなかった。


 オレの不安を感じ取ったのか、おっさんはちょっとだけ笑うと、言った。


「メル、お前と過ごした何日かは、久々に楽しかったぜ。昔の……パーティーを組んでたときみたいな、そんな懐かしい数日間だった。お前にとっちゃ理不尽な気持ちでいっぱいだろうが、まぁお前ならどこいってもうまくやっていけるだろ。そんだけ神経ずぶどけりゃな」


「うん……オレも、なんだかんだ言って面白かったよ。……少しは役立つことも教えてもらったし」


「あぁ、俺の話をあそこまでちゃんと聞いてたのは昔のパーティーメンバー以外じゃお前が初めてだったよ。忘れるんじゃねぇぞ」


「忘れたくたって忘れられないっての」


「忘れたら承知しねぇからな。じゃあ、まぁ生きてりゃまたどこかで会えるだろ」


「今度会ったときは、もうちょっとキノコの話以外のことを話そうな」


「はっ! そりゃ無理だな!」


 おっさんがカラカラと笑うと、その手に握っていたオレと繋がっている鎖をいつの間にか近くに寄ってきていたおっさんより背の高い屈強な、いかにも海の男、って感じのおじさんにそれを手渡した。

 おじさんが受付から離れて、家の外へ歩いていく。


 おじさんに引かれるままに歩き始めたところで。


「じゃあなメル! 次会ったときは俺に感謝しろよな!」


 こんなことを笑いながら吐きかけてきやがった。

 せっかくしんみりとしてたところでこれだよ。まぁ、おっさんらしいといえばらしいけどな。

 思わずふふっと笑ってしまう。


「ふざけんな! 人のこと売りやがって、感動が台無しだ! 一生恨んでやるからな!」


 精一杯の強がりを見せながら、オレはニコニコしながら見やるお爺さんとおっさんにそう吐き捨てる。

 おじさんはそんなオレたちのやり取りには気にも留めず、無言で鎖を引いてくる。


 おっさんよりも手首にかかる力強さに眉をしかめながら、オレはおじさんの後を付いていく他なかったのだった。


ブクマ評価感謝ですよ〜。

とりあえずメルちゃんの書いてる第二章はこれで終わり。次はリメイク前に無い後日談を投稿ですー。


[2019/02/10 00:30]

まえがき削除。

街頭→街灯に修正。ご指摘ありがとうございます! あの機能初めていただいたから一度通知を見た後どこで修正できるかわからなかったので、直接更新しちゃった♡

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