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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第2章 おっさんとの出会い ~ 初めての珍道中 ~
36/55

街に着いたけど地獄は続く


 あたりに溢れ返るヒト、ヒト、ヒト……!


 村では見たことないほどの人間で溢れかえったそこは、オレが願いに願っていた場所、そう! 街である!


 やっと……やっと着いたぞぉぉぉ!


 馬車移動から徒歩に変わって五日間。

 おっさんによる拷問を耐えきったオレの目の前には、活気溢れる街並みが広がっていた。


 ちょうど夕方だからだろうか、赤く色照っている太陽に照らされた様々な人が行き来をしている。

 道行く人々はほとんど全員が外国人っぽい人ばかりで、ほとんどの人がハンターライフ楽しめそうな装備で身を固めている。

 他には魔法使いっぽいマントとか杖を持った人もいて、まるでゲームの中に入り込んだみたいだ。


 ただ地球でいうアジア系の顔立ちをした人はほぼほぼ見ない。みんな白人や黒人といった感じかな。


 服装なんかは金属製の装備を着ている男性や、薄着過ぎてヤバイんじゃない? って思わずおっぱいガン見しちゃいそうな女性などなど。まさに選り取り見取りだ。あっ、おっぱいおっきいお姉さんと目があった。

 お姉さんが手振ってくれたから振りかえしてやると、彼女はニコニコしながら近場のお店に入っていった。


 あぁ、良いなぁ………。

 人との交流がこんなにも素晴らしいものだったなんて……!


 ここがメイン通りなんだろうか。

 いろんな人が行きかう街道で、左右には食べ物を売っているお店や武器とかを売っているお店が連なっている。


 そういえばオレ、この世界のお店って初めて見たわ……。

 うちの村は商店とかそういうものは無くって。

 食べ物とかは畑や山から取ってきたものばかりだったし、基本的に物々交換だったからなぁ。生活雑貨なんかは必要になったら村長のところに行って貰ってきてたし。


 お店で買い物をしている人を見てみる。

 その人は冒険者なのだろうか、おっきな剣を背中に担ぎながら店先に売っている袋に入った道具? を手に取ると店主のところまで持っていき、腰につけていた袋から何かを取り出してそれを店主に渡すと掴んでいた袋を腰にくくりつけながらどこかへ歩いて行ってしまった。


 そうだよ……やっぱり異世界っていったら、まさにこういう光景が大事だったんだ。

 村での生活が悪いというわけじゃないけど、目に、耳に、そして肌で感じる刺激にオレは興奮を隠しきれていなかった。


 と、今度は店先で何かを焼いているお店が目についた。

 串に何かの肉を突き刺して、バーベキューをしているみたいにコンロから木の焦げる匂いを昇らせる火に当てている。

 嗅いだこともないおいしそうな匂いにつられて、オレはふらふらっとその店に近づく。


 うーん……よく見えない……!


 背伸びをしてぷるぷると震えながら焼き物に釘付けになる。

 背が低いからどういう風に焼いているかわからないけど、うっすら青色をした髪をスポーツ刈りにした焼き手の兄ちゃんが忙しなく手元を操り肉を焼いているのが見える。

 時折串を近くに置いてあるツボにつけて、そしてまた焼き始める。

 その途端また良い匂いがオレの鼻をくすぐるんだ。


 ぐ~っ、と腹の虫が鳴く。

 ………ここ最近、ずっとキノコ尽くしの生活を送ってたし、何より今は夕方だ。

 オレの腹の虫はこの店の焼き串の匂いで起きてしまったようで、一度鳴いてから何度も自己主張をしてくる。


 オレは兄ちゃんが焼く姿をジーッと眺める。


「おっ、こりゃ可愛らしい見物客だな」


 すると、オレに気付いたようで、兄ちゃんが白い歯を輝かせながら話しかけてきた。


「これ、何焼いてるの?」


「鳥だ」


 いつの間にかオレの傍に近寄ってきていたおっさんが兄ちゃんに代わって答えた。


「おぉキノコ馬鹿のグリゼットじゃねぇか! お前、いつの間にこんな子供こさえたんだ?」


「鳥頭の癖してバカなこと言ってんじゃねぇよ。こいつは俺の奴隷だ」


 すると兄ちゃんの動きがピタっと止まった。


「………奴隷? マジで? こんな子が?」


「まぁな」


「お前……そりゃ反則だろ。こんな綺麗な子、久々に見たぞ?」


「そうだろうな。俺だって驚いたぐらいだ」


 おっさんがそういうと俺の頭に手をぽふっと乗せる。


「こんだけ良い面してんだ。きっとこの店売り払っても買えないぐらいの価値があるんじゃねぇか?」


 そういうと兄ちゃんが焼いていた串を一本、オレに差し伸べてきた。

 おっさんが舌打ちしたが、オレは構わずそれを受け取った。


「これ……貰っていいの?」


「あぁ構わないぜ? グリゼットなんかには勿体ないほどのかわいこちゃんだ。1本ぐらいサービスしてやるよ」


「ありがと!!」


 湯気がほくほくとおいしそうに立ち上るソレに、オレはかぶりついた。


 その途端、口の中に広がる鶏肉の油。

 地球の焼き鳥と同じぐらいのサイズに切り分けられ刺さっている鶏肉の一つを、やけどしないように気を付けながら歯で押さえながら抜き取り、もぐもぐもぐもぐ。


 もも肉みたいな弾力に、皮を焼いたときのような油気が程よくて、オレは何度もそれを噛み続けた。

 1回噛むごとに、さっきツボに漬けていたタレだろうか。それは甘辛く、アツアツのジュースとなって油と混ざりあいオレの口の中を小躍りする。


「おいしい!!」


 たまらず一声。

 それからはもう一目もはばからず、串に残っている鶏肉を口に運んでは鶏肉とオレの舌が手を取り合ってダンスをするのを堪能した。


「おっさんも食べてみろよ! めちゃくちゃおいしいよ、これ!!」


「おぉおぉそうかそうか。やっぱり俺の作る焼き鳥は美味いよなぁ!」


「まぁ、もともと夕食は買って済ませようとしてたからな。持ち帰り用に5本包んでくれ」


「あいよ、毎度!」


 焼きたてのソレを筒状の……竹かな? それに無造作に突っ込み、兄ちゃんが差し出してきたのでそれを受け取る。

 おっさんは腰につけてた袋から銀色に輝くコインを5枚取り出して、それを兄ちゃんに渡した。


 ……やっぱり異世界でも硬貨はあるんだな。価値はわからないけど。


 串に刺さってた最後の一つの鶏肉をもぐもぐしながらオレはおっさんと兄ちゃんのやり取りを注意深く見ていた。

 漫画や小説だと、作品によってはお金って電子マネーっぽくなってるけど、この世界ではちゃんとしたお金で商品を購入するんだな。


「ほら嬢ちゃん。串はもらうぞ」


 竹筒と一緒に持っていたカラの串を兄ちゃんがひょいと抜き取ってくれる。


「ありがと。すごく美味しかったよ!」


「そう言ってもらえると作り手冥利に尽きるってな。もしもまた来ることがあればご贔屓に」


「おら、もう行くぞ」


 おっさんがオレの襟首を掴む。

 じゃあねーっと手を振る兄ちゃんに別れのあいさつをして、さっきよりも増えた人の海をかき分けるおっさんに連れ添って歩き始めた。


「ったく。ちょっと目を離した隙にふらふらすんじゃねーよ」


「ごめんごめん」


 焼き鳥の入った竹筒を落とさないように注意しながらオレたちは進む。


 あっ、そういえば………。


「おっさんって、グリゼットって名前だったんだな」


「あん? そういや言ってなかったか」


「まぁおっさんはおっさんだからおっさんって呼んでも良いよな」


「……ご主人さまに向かっていい度胸してんじゃねぇか。今すぐ売り払っても良いんだぞ?」


 襟首を掴む力を緩めることなくおっさんが言う。


「ってことは今すぐ売るわけじゃないんだな」


「……ハッ、言ってろ」


 どこか嬉しそうな顔をしながらおっさんはオレの持ってる竹筒から焼き鳥を一本抜き取ると、それを口に運んだのだった。



- + - + - + - + - + -



「おし、着いたぞ」


 プレハブ小屋を少し豪華にしたような、見た目ただの小さな平屋の木造一戸建ての前でおっさんが歩みを止めた。


「おぉ、ここがおっさんの家か」


 焼き鳥を買ってから、いろいろなお店を転々と練り歩いていたからか。太陽もとっくに沈んで、あたりは街灯のランプや家から漏れる光で薄暗く照らされていた。

 地球と違って電気なんてものは無いみたいで、周囲を照らしているのはもっぱらランプの火だ。ただその大きさはオレが両手で抱えこめないほどの大きさで、ぽつんぽつんと電柱のように建てられた木製の柱にぶら下がっている。


 荷物は全部荷馬車に入れていたけど、ソレが無くなっちゃったので、オレやおっさんの着替え、それにあのあと買った焼きそばみたいな炒め物とかの料理を両手に抱えながら、おっさんが玄関の鍵を開けるのを待っていた。


 今日は時間も遅いし、何よりオレたちは荷馬車脱出の際に泥だらけになっている。

 だから今日に限ってはおっさんと同じ屋根の下で過ごすことになったのだ。


 どうせならおっさんなんかじゃなくて街に入ったときにいたおっぱい大きいお姉さんと一緒に寝たかった。


 ……そういえばおっさんには焼き鳥屋さんを出てから色々なことを聞いておいた。


 まず、お金について。

 これはオレの予想通り、コイン状の金属を使っているみたいだ。

 ただ単位は『円』とか『ゴールド』じゃなくて『rie』と書く。読み方は『ライエ』。

 ってかこの世界の文字だけど、地球にはなかった書き方してるのにこれだけ英語使われてたんだよなぁ。なんでだろ。胸に凹凸がないあいつが作った世界だから案外地球を参考にして作ったのかな? よくわからん。

 ただ貨幣価値は地球の、しかも日本とほぼ変わらないみたいだ。

 オレが持ってる焼き鳥なんかは1本100ライエだそう。

 つまり、日本円換算だと100円=100ライエ。うん、これは分かりやすい。


 それとこちらも驚くことなかれ。おっさんが硬貨をちょうど全種類持っていたから見せてもらったんだが、これも日本と基本的に変わらなかった。

 5円玉と50円玉に相当するものは存在しないで、1ライエ、10ライエ、100ライエ、500ライエが丸い硬貨で4種類しかない。

 あとコインのほかにはお札があるみたいで、そちらは1000ライエ札、5000ライエ札、10000ライエ札の3種類と、10万ライエ札の合わせてこちらも4種類らしい。


 ……なんとこの貨幣通貨は全世界共通らしい。

 なんか日本と似ているところが鼻につくけど、分かりやすいからあまり気にしてないでおく。


 あとおっさんが暮らしているこの街は、大きな河の側で栄えている街らしい。

 実は荷馬車が落っこちた崖は下を大きな川が流れていて、その川の中間地点にある河口を利用した港町だと言っていた。

 その川はまだ見れていないけど、ここら辺はあたりを森で囲まれているから資源には困っていないし、その森では豊かな動植物があるからそれを特産品として船を使った輸送なども行っているそうだ。


 あと以前おっさんが言っていた魔物だけど、強いやつから弱いやつまで色々いるらしい。見た目は動物だけどモノによっては魔法を使うそうだ。弱い魔物しかいないところは駆け出しの冒険者のちょうどいい練習場になっていると言っていた。


 ちなみに魔物と普通の生き物の違いはあまり明確じゃないようだ。よく食料とかになる種類を動物と呼んで、その中でも魔法を使ったり食べられなかったり凶暴性の高い動物を魔物と呼んでいるっぽい。これはよくわからん。


 ……さっき食べたこの焼き鳥は、いわゆる普通の動物らしい。なおさら動物と魔物の境界線がいまいちピンとこない。


「……おし、開いたぞ。」


 おっさんが玄関の扉を開けて、採取してきたキノコを大事に抱えながら入っていった。

 オレもそれに追従しておっさん宅にお邪魔する。


 ……真っ暗で何も見えない。


「おら、ちょっとどけ。荷物が運べねぇだろ」


 おっさんはとりあえずキノコを玄関の入り口に置いてから、外に置いておいたほかの荷物を取りに戻る。


 玄関は一軒家にふさわしいサイズだけど、オレは脇に退いてからおっさんが置いたキノコの隣に持たされていた荷物を下ろした。


「勝手にいろいろ触るんじゃねぇぞ」


「分かってるって」


 何より外から差し込む光の映るところまでしか見えないしな。

 ……と、その光がどんどん無くなってきた。


 なんだ? と振り返ると、おっさんが玄関の扉を閉めている姿を見たのが最後、ガチャリと扉の鍵を閉めた音とともに本格的に何も見えなくなった。


「……荷物はこれで全部だな」


 真っ暗な中、どさっと荷物を下ろす音とおっさんの声だけが聞こえてくる。


「おっさん」


「ん」


「まさかこんな真っ暗な中で生活してるわけじゃ……」


「してるわけねぇだろアホか」


 そういうとボッっという音とともにおっさんの顔が暗闇の中に浮かび上がった。

 ……なんてことはない。おっさんが魔法を使って火をつけただけである。


 その闇に浮かぶ不気味なおっさんが、かまどに火を点けたときのようにふーっと息を吹きかける。

 すると炎の魔法はタンポポの綿毛を飛ばすように細かい粒子になって部屋中に散らばった。


「おぉー……」


 思わぬところで幻想的な光景を目にして、思わず声を上げる。


「お?」


 その綿毛のような火は部屋の壁にまとわりつくと、明るさをどんどんと増して家じゅうを照らし始めた。

 おっさんの家は一軒家と言ったけど、その実そんなに広くないようで、わかりやすく言えばアパート暮らしにふさわしいちょっと広めの間取りっぽい。

 玄関から延びる廊下の先には部屋が一つと、その廊下に扉が1個だけついてるものしか見えない。


 そこだけを見れば確かに変哲もないただの家だ。


 でも、オレは思わずおっさんを後目に玄関の扉まで踵を返す。

 何故かって? そりゃこの家から脱出するためだよ。


「……何やってんだお前。今更逃げようたってそうはいかねぇぞ?」


 おっさんはオレの首根っこを掴むと、そのままオレのことを抱えて靴を脱いで家の中へと進み始めた。

 暴れるオレのなんと非力なことか。幼女だから仕方ないことなんだろうけど、でも無駄だと分かっていながらもオレはおっさんから逃げるため、この家から抜け出すために全力で離れようとした。

 でも腐っても元冒険者で成人男性なおっさんには勝てず、どんどんと地獄の中へとオレは運ばれて行く。


 身体中に鳥肌が立ってやまない中、オレは抗議した。


「やめてくれおっさん! オレはもう……もう………とーぶん! キノコはこりごりなんだよぉ!!」


 ………おっさんの器用な炎の魔法で照らされた家の中には、至る所にキノコが生えてました。

 玄関の靴箱の上にはもちろんのこと、廊下の壁にも、天井にも。色とりどりの。キノコが。


 おっさんがキノコ好きなことはイヤってほどわかってました。けど、まさかここまで狂気染みてたとは思いませんでした。

 オタクが壁や天井に萌えポスターを貼ったりグッズを陳列しているように、おっさんは家中にキノコを生やしていたのでした。


 やめてぇぇぇ! というオレの悲鳴は、何故か笑い始めたおっさんの声とキノコにかき消されて、消えていきました。



ブクマと評価と感想。ありがとうございますー!


今回も説明回です。一人称なので、どうしてもメルちゃんが道中で知ったものからしか説明ができないです。情報が小出しになってますが許し亭許して。


[2019/02/10 00:30]

あとがきで書いていた次話投稿遅延についての米を削除。

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