ヨウセイの群生地帯
おっさんのキノコ談話は止まることがなかった。
野営をしている途中で見つけたキノコの話から始まり、寝床を作るため葉っぱをかき集めていたときに見つけた綿みたいなキノコの生態。夕食でおっさんの魔法で巧みに炙られたキノコのうんちく。寝るときにはヒカリダケの発光原理の考察を子守唄にして、朝起きたときには珍しいと言われる早朝噴出するキノコの胞子を観察させられる。もちろん食事はキノコ尽くしであり、移動途中で拾ったキノコやそれに纏わる逸話などを聞かされ………。
オレの精神は急激に摩耗していた。
お母さんたちと離れ離れになっちゃうことに悲しみを募らせてたのに、今ではそんな雰囲気どこ吹く風。
荷馬車に乗っていたときはこんなやつじゃないと思ってたのに………。
あっ、そうか。荷馬車に乗ってるとキノコがあっても余程のことが無いと停まらなかったけど、歩きだと常にキノコを採取できるからこんなに話が尽きないんだな。
確かに色々教えてくれとはいったさ。
でも、よもやこんなことになるなんて………。
「よし、今日はここいらで野営だな。思った以上に時間が掛かっちまってるが………」
そりゃあんだけ足止めてりゃそうなるわ。
「なんだメル、顔色が優れないな。道に迷ってないか不安なのか? 安心しろ、道は間違えていないから大丈夫だ。」
違う、そこじゃない。
「とりあえず今晩の飯はツユダクダケをオオバンキノコの傘で挟んだ贅沢なキノコサンドだ。こいつらは高級食材だから、これだけで1000か1200は取られる値段のする品だ。心して食え」
もう……はやく街に着かないかな…………。
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「おいメル! 来てみろ!」
やぁみんな。今日も今日とてキノコについての造詣が深まるメルだよ。
おっさんと珍道中を繰り広げること三日目。
あれから大雨になることはなかったけど、それでも愚図ついていた天気は久々の太陽を拝ませてくれている。
ひさしぶりのお日様が天高く昇って煌々と辺りを照らしていて気分が良い。
が、無精ひげに磨きがかかったおっさんの急かす声で一気に気分が悪くなった。
行きたくねぇなぁ……どうせキノコだろ?
顔をうつむかせながら重い足取りでおっさんの声がした方へ歩みを進める。
なんていうかもう歩くというより引きずっているみたいだ。
これが並の奴隷とご主人サマなら、ご主人サマの鬼畜な所業で奴隷が衰弱してるんだろうなってなるけど、あいにくおっさんは虐めてくることはない。
自覚無しに、キノコ地獄に落とし込んでいるだけだ。
おっさんの講義は無意識な鬼畜の所業と言っても過言ではない。断じて無い。
「なに暗い顔してんだ?」
「おっさんのせいだ……」
「なんか心外だが、それより見てみろ。すごいぞ」
いったい何がスゴイんだか………。
「っておぉっ、すげぇ!」
辺り一面、広がるのは白い塊ただ一色だ。
「これって………ヨウセイノコシカケの群生か?」
「おう。さすがの俺でもここまで凄いのは初めて見たぞ」
顔を上げたオレの目の前には、ヨウセイノコシカケがまるで誰かが植え付けたかのように、辺り一面の木の幹にびっしり生えている光景が入ってきた。
ちょうど一番高いところに太陽があるからか、木漏れ日に照らされたヨウセイノコシカケがキラキラ光ってキレイだ。
ヨウセイノコシカケのひらひらが、まるで木々が白いドレスをまとっているみたいに見える程度には幻想的だ。
ここまでくれば、いくら見飽きたキノコと言っても少しは楽しむ要素があるんだがなぁ。
「ヨウセイノコシカケもここまで群生するんだな……何か特別な理由でもあるのか?」
おっさんがブツブツと自問自答している。
おっさんでさえ初めて見る光景とはなぁ。もしかしたら凄い発見だったりして?
「……まぁ考えても仕方ないか。とりあえず、今まで食べてたヨウセイノコシカケと食べ比べしてみよう。メル、今日の昼飯はヨウセイノコシカケだ、こんなこと滅多にないぞ」
……ヨウセイノコシカケって調味料とかに使われるんじゃなかったっけ。
あっ、直接もぎ取る感じ? それ生でイケるの? おっさん、めっちゃボリボリ音してるけど……。
とりあえずオレはテイスティングしてるおっさんを尻目に、少し離れたところに生えてたニクアツマイを昼飯にもっちゃもっちゃと食べ始めたのだった。
短めですがとても大事な回でした。
ブクマ重ね重ね感謝です〜。




