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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第2章 おっさんとの出会い ~ 初めての珍道中 ~
31/55

死亡フラグ


「なぁおっさん!」


「あぁっ?! なんだ!」


「街まであとどれぐらいなんだ?!」


「この調子ならあと一日程度だな!!」


 辺り一面、バケツをひっくり返したように雨が降り注いでいる。

 バチバチと弾ける雨音に負けないよう、オレは外套を着込んで馬に鞭打つおっさんの背中に向けて話し掛けた。


 現在、豪雨といっても過言では無いほどの雨が荷馬車を襲っている。

 今朝なんか、屋根を叩き続ける雨の乱打で目が覚めたほどだ。


 あれから………オレがおっさんに売られてから、三日が経った。


 どうやらオレの生まれた村ってのは、おっさんの言うとおりめちゃんこ田舎だったようだ。

 村を出発してから一度も誰とも出くわさず、オレたちは山の中をただ悠然と移動していた。


 この三日間で、おっさんについて分かったことがある。


 一つ。昔ギルドで冒険者として働いていたこと。

 おっさんの手料理を食べた日の夜は、おっさんが話を遮ってしまったから詳しく訊きだせなかった。

 だけど、それから暇つぶしにおっさんと話してるうちに、ぽつぽつと昔パーティを組んでいたことがわかってきた。

 ただ、今はもう組んでもいないようで、冒険者もやめてしまっているみたいだ。

 オレの村に来ていたのはギルドの依頼書を見て来た、と言っていたが、冒険者じゃなくてもギルドの仕事を請け負えるらしい。

 もしかしたらギルドに登録している人のことを冒険者と呼んでいるのかもしれないな。


 二つ。おっさんは料理が上手い。

 『上手い』というかもう『美味い』だな。

 本来、長期間依頼をこなす場合は保存に向いた乾燥肉やカチカチになったパンを食料として持ち歩くらしい。

 本当だったらそれらの持ち込んだ食料に現地調達したものを合わせて、ただ胃に納めるだけで終わってしまうのが冒険者の食事だそうだが、おっさんはそれが許せないらしい。

 幼いころから手先は器用だったから料理をするようになったが、それが性に合って気付けばちゃんとした食事をとるようになったそうで。

 おっさんが作る料理は毎回味が違うし、見た目も違うから食べてて飽きることはない。

 しかも、それのどれもが美味い。ギルドにコックで登録していたという肩書がダテではないな。


 三つ。おっさん、ツンデレだった。

 いつもはぶっきらぼうで粗暴だけど、雨が降り始めて肌寒くなってくると何も言わず毛布放り込んできてくれたり、何だかんだでオレが話しかけたり問いかけてやると律儀に答えてくれる。

 普段はツンツンしてるのに、オレが何か行動したり、ちょっと困ってると、しっかり対応してくれるデレを見せてくる。

 昨日ちょっと茶化すつもりで「女の子の奴隷に優しいとかロリコンかよ」って言ったら「商品に対して丁寧に扱うのは基本だろ」って返ってきた。ってかロリコンって言葉が通じたところが驚きだよ。


 そして四つ目。おっさんキノコ好きすぎ。

 一日目の夜に出て来たキノコ料理のオンパレードで何となく察してたが………。

 翌朝の朝食ではキノコのスライスを挟んだ柔らかく戻されたパンサンド、昼食ではサイコロ状にされたキノコの茎部分がふんだんに炒められたソテーが出てきたところで確信した。

 しかも道中、ことあるごとに馬車を止めてトイレ休憩をしていたんだが、そのたびにいろんなキノコを拾ってきてはそれを荷台の箱に仕舞っていたし……。

 極めつけはおっさんと一番盛り上がった話ってのがキノコ談議だったことだ。


 だいぶ前にアルドと山菜取りに行った時、アルドがいつの間にか取ってきていた毒々しいキノコが実は食べられるものだった、ってことがあった。

 たまたま野営をするために停まった場所に生えていたから、懐かしいなぁとそれをおっさんに見せたところ、おっさんが想像以上に食いついてきたんだ。

 食えるぞって言うといきなり生で食べた時は若干引いたが………。


 ……とまぁ以上がこの三日間、おっさんと過ごして分かったことだ。ろくなことが無いな。


 そんなことを悠長に考えてながら荷台からおっさんの居る運転席? から見える外の景色を眺める。


 空から滝が降ってきているように途切れない水の線で真っ白になっている。

 しかも今荷馬車が通っている道は、右側が森。左側が崖のようだ。

 森の中を通るにしては荷台が大きすぎて通れないようなので、仕方なく崖そばを通っているみたいだが……。

 いくらおっさんが注意深く馬を歩かせていてもこの大雨だ。道は際限なく悪い。


 こういう天気のときに崖の傍を移動するとか、死亡フラグだよなぁ………。


「おっさん!」


「んだよ!」


「実は街に着いたら結婚しようとか考えてねぇよな!」


「こんなときに馬鹿なこと言ってんじゃあねぇよ!」


 大雨の音にも負けないほどの大声でおっさんが叫ぶ。

 うーん、叱られてしまった。

 まぁ、良かった良かった。分かりやすい死亡フラグとかなくって。


「……まぁ、お前を売ったらその資金で長年の夢だった料理屋でも拓こうかと思ってるけどな!」


 ……どこか弾むような声でおっさんが言う。

 ………マジか。


 ガクっ、と。


 おっさんがフラグを立てた瞬間、荷台が明らかに平面じゃなくなる。

 体育座りしていたオレは転がるように荷台の扉にぶつかり、鈍痛に顔をゆがめた。


 何が起こったか一瞬理解が遅れたが、荷台にはある調理器具や拾ったキノコが入った箱も、オレと同様に荷台の扉にぶつかっているところで、荷台の車輪が崖から滑り落ちていることに気付いた。


 ………ちくしょう! おっさんの死亡フラグ、回収はやすぎんだろ!!

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