神様のおっぱいは小さい
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―――!
なんだ………
――――もし!
誰かの声がする………
――もしもーし!
……まぁいっか
「まぁいっかじゃねぇよ!!」
「おげぇっ!!」
ドスッ! という明らかヤバい音に、丸太で殴られたような衝撃。
ちょっとした浮遊感すら感じられたオレは、着地と同時に目を覚ました。
「やぁ~っと起きたか!」
やけに高圧的なしゃべり方痛む脇腹をさすりながら顔を上げる。
と、オレの目の前には、真っ白いワンピース? みたいな服着ためっちゃくちゃ美人な女性がぷりぷりと怒りながら立っていた。
光が輝かしく反射していると錯覚するほどの金色の髪。
いや、髪だけじゃない。肌なんか透き通っていて、まるで発光しているように真っ白だ。
それでいて瞳の色はそんな光さえも飲み込むような真っ青で、思わずオレは西洋人形を思い浮かべた。
……よく見たら、どことなく後光でてる。そりゃぴかぴかしてるわ。
今度は視線を顔から下のほうへ移す。
手足が細くて、足なんか一流モデルのようにスラっと伸びていて当然八頭身だ。
腰に当てた手なんか魅入ってしまうほどに細くて、長い。
こんな完璧ビジュアル、現実でも見たことがない。むしろテレビの世界ですら見たことがないだろう。
たぶん100人が見たら100人は美人さんだ! っていうんじゃないかな。
ただ、一つ残念なところがあるとすれば………おっぱいが貧相なところだ。
「あ゛あ゛っ?!」
「ひぃ! ごめんなさい!」
きれいな顔なのに凄んだときの表情が鬼のような形相で、思わず謝ってしまった。
ってかあれ?
考えただけなのに、なんでこの人オレがおっぱい小さいって考えたことが分かったんだろ。
……あぁなるほど。分かったんじゃない、これが貧乳の被害妄想か。
「あんた度胸あんねぇ! もう一回死んでみるかオラァ!」
顔に青筋立たせながら頬を引くつかせた女性は、傷ひとつない美しい手でオレの顔面を鷲掴みすると、指に力を込めて思いっきり握ってきた。
ノータイムでアイアンクローやられるのは初めての経験で、まったく反応できなかった。
「いだだだだだっ! ごめんなさいごめんなさい許してくださいお願いします!!」
「女はなぁ! 胸の大きさだけじゃねぇんだよ!」
「分かった分かりましたその通りです! だからどんどん力込めるのやめてお願い!!」
「ふん!!」
ぎゅうぎゅうに締め付けられてた顔から潰れそうな感覚がなくなる。
女性は手を放すと、鼻息を荒くしながら仁王立ちしつつオレを睨み付けてくる。
その風貌が明らかに場慣れしてるというかやりなれてる感出てて、オレは2、3歩後ずさった。
……美人から睨まれるって、マジで怖えんだな。
何してくるか分からない女性の異様さにビビりながら、少し離れると余裕が生まれる。
生まれた余裕から、オレの中の冷静な部分が、気付いた。
いや、気付いてしまったというか、というべきか。
…………ここ、どこだ?
異様なほどに見覚えがなく、地平線が見えるほど広いようにも感じられるし、もしかしたらすごく狭いところなのかもと考えてしまう。
そう。一言でいえば『何もない真っ白に輝く不気味な空間』。
今自分がいる立っている場所も、地面が白く輝いているせいかまるで浮かんでいるような錯覚を覚える。
空を見上げてみても、何も色付いていない。そもそもここが部屋の中か、外にいるのかすらも分からない。
そして、今さっき女性が言った言葉……もう一回、死んでみるか。
真っ白な空間。もう一回死ぬ。なんか後光出ちゃってる人。
……これから導き出されること。これってもしや………!
「あーゴホン。良いですか少年」
目の前の女性がわざとらしく咳をする。
「忙しいからちゃっちゃと済ませるけど、あなたは死んでしまいました」
ドゥーユーアンダスタン? なんて女性が言うのを尻目に、オレは………右手を高々と起立させ、ガッツポーズをした。
これってあれだろ……!
『あなたは死んでしまったんで異世界に転生させてあげます』とか、そういう類のアレだろ………!!
オレは色んなタイプのラノベやネット小説を読んでいたから詳しいんだ。
あれってホントにあったんだ! 夢だけど夢じゃなかった! やったーーー!!
「……もしもーし」
いやぁまさかオレにもこんな役回りが回ってくるとはなぁ。
是非とも地球なんかにはなかった魔法が使えるようなファンタジーな世界に行きたいなぁ!
んでもって、楽に暮らしていけるように特殊能力とか貰っちゃったりして!
「はぁ……イヤんなるわ全く……」
いやいや高望みは良くないか。とにかく無双できるような環境にしてくれればそれで良い。
夢が広がるなぁ! 宝くじの1等に当たったらきっとこんな気持ちになんだろうなぁ!
うひょー! と内心はしゃぐオレ。
その目にはうっすらと涙すら浮かんでいただろう。
滲んだ瞳を軽く拭うと、目の前にいるおそらく神様的なアレであろう女性が目に入った。
いつの間にか彼女は少し体勢を振りかぶっている。
……何してんだろ、と思ったその瞬間――グーパンチが飛んでくるのが見えた。
……グーパンチ?
「あヴぇぇぇっ!?」
不意打ちの一撃。
まるで穴を開けるドリルのようにねじったグーパンチは、見事にオレの顔面にクリーンヒット。
吹っ飛びながら、今まで聞いたこともない声を聞いて、それが自分の口から出た断末魔だったと気が付いた。
……5秒ぐらい宙に浮かぶ感覚のあと、見えないけどそこにある地面に落ちたと同時に、オレの意識も落ちた。