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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第2章 おっさんとの出会い ~ 初めての珍道中 ~
29/55

初めての『魔法』


 ガタゴトガタゴト


 ゆらり揺られて数時間。

 代わり映えのしない景色に飽きてきたらアルドから貰ったクズ石を眺めて、また外を眺めることを繰り返す。

 それを何度か重ねたところでうつらうつらとしてくるほどにオレは暇だった。

 そんな、あれから一言も会話してくれないおっさんの姿が薄ぼんやりとしか見れなくなってきた頃。


「今日はこれぐらいまでだな」


 久しぶりにおっさんが口を開くと、それと同時に馬が一声吐き荷馬車の動きが止まった。


「おい! えぇっと………メル! さっさと降りろ!」


 おっさんの怒声が発破となり、オレは意識をシャンとさせる。

 荷台の扉を開け、オレが椅子代わりに座っていた箱を引っ張り出すおっさんの横で、オレは荷馬車から飛び降りた。


 今日は久々に晴れたけど、地面がなんとなく湿っぽい。

 ぐにゅり、とぬるっとした土の感触を感じながら滑らないように立ち上がる。


「おい、メル。これから野営の準備をするから手伝え。間違っても逃げようなんて考えるなよ? ここらは魔物が出ないからといってこの暗闇の中走り回ったら死ぬからな」


「あぁ、分かってるって」


 って言っても、何すれば良いか分かんないんだけどな。


 キビキビ動くおっさんの横でただ突っ立ってるのもアレなんで、近場の安全そうなところに落ちてる木の枝を拾い集める。

 野営なんてやったことないけど、ご飯を作るならまず火を点けなきゃいけないからな。

 なるべく湿っていない枝を探して、腕いっぱいになったところでおっさんのところへ戻る。


「……お前、やっぱ普通のガキじゃねぇな」


「ありがと。褒め言葉として受け取っとくよ」


「いやまぁ褒めたつもりはねぇんだがなぁ……」


 おっさんは頭をボリボリ掻きながら、オレの拾ってきた木の枝を何本か掴む。

 枝を細かく折り、それを下地に長めの枝を組み立て山のようにする。

 その周囲にいつの間にか拾っていたゴツゴツとした石を積んで枝の山を囲う。

 即席かまどの出来上がりだ。


「……よし、こんなもんだろ。危ないからちょっと離れてろ」


 おっさんはそう言うと手をすりすりとこすり合わせながら、即席かまどの近くにしゃがんだ。


 火を着けるんだろうか?

 オレはそう察して、ちょっとだけ距離を取る。

 でもおっさん、火打ち石も何も持ってないのにどうやって火を着けるんだろ。


 オレは頭にハテナマークが浮かべつつも、おっさんを眺める。

 ……おっさんが一息、息を吸い込む。


 すると―――


「おらっ」


 ―――おっさんの手が燃えた。


 いや、燃えたように見えただけだ。実際は燃えていない。

 何かをすくうように手のひらを空に向け広げている。

 その中心で、辺りを満遍なく照らすのは、おっさんの手から広がる炎だ。


 おっさんはその炎に熱がる様子もなく、かまどに向け、ふっと一息する。

 炎が揺れ、即席かまどの中に落ちた。


 枝に燃え移った炎がパチパチと拍手をするように音を奏でる。

 それにつられるように、炎がどんどんと燃え広がった。


 オレは、さも当然のようにやってのけたおっさんの妙技に目を丸くして固まる。

 脳内で思考がフル回転。


 ………えっ? おっさん、今何した?

 おっさんが唸ったら炎が出てかまどに火が着いた。

 なにオラッって。ポンって着いたぞ。マジック? おっさんマジシャンだったの? 放浪の手品師なの?


 オレがかまどでゆらゆら燃える炎をジーッと見続けるのをいぶかしく思ったのか、おっさんが話しかけてくる。


「……なにボーッとしてんだよ気持ちわりぃ。飯にするからはやくこっち来い」


「お、お、おっさん……」


「んだよ」


「い、いいいいまのって……………なに?」


「は? 今のってなんだよ」


「ほら! 手から火が出たじゃん! ポンって! それなに?!」


「魔法だろ魔法」


 まほう………魔法! 魔法!!


「うぉおおおお! マジかおっさん!!」


 どたどたどたっ! っと、オレはいても立ってもいられず、まるで犬のようにおっさんに駆け寄る。

 おっさんが、掘りの深い顔に携えた無精ヒゲを掻きながら、眉をハチの字にしてちょっと引いてるけど気にしない。


「んだよお前。魔法なんてそんな珍しいもんじゃあねぇだろ」


「め、珍しいもなにも、オレ! 魔法見るの生まれて初めてなんだ!!」


「…………………マジかよ」


 さらにおっさんがドン引きしてるけど、気にせずおっさんの手の平をぺちぺち触る。


 全然熱くない! なのにかまどの火は熱い! すげぇすげぇ!!


 オレが7年間、ずっと恋い焦がれていた魔法が、まさかこんなところで見れるだなんて!

 やっぱり魔法はあったんだ! しかもあんな簡単にやれるぐらい、お手軽なほど!


「うほほほほ!」


「うわっ気持ち悪っ」


 あまりの興奮に言葉が勝手に漏れ出しちゃう。


 何度おっさんの手のひらを触っても、突いても、叩いても熱さはまったく感じないし、魔法が飛び出ることもない。

 すげぇ……すげぇよ、おっさん!!


 ……オレはこの異世界で、生まれて初めて待ち望んでいた『魔法』を目の当たりにした。

 かまどの音とセッションしつつ、痺れを切らしたおっさんに叩かれるまで、ずっとおっさんの手のひらを触り続けた。


[2019/01/31 23:35]後書きメッセージ削除。おっさんの台詞ちょっとだけ修正。

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