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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第1章 故郷での話 ~ オレが売られるまで ~
21/55

選別

まだまだシリアス。


 あれから数日経って、朝。

 数週間ぶりの鳥のさえずりを聞いて、オレは苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら目を覚ました。


 ここ数日、どうにも寝不足が続いている。

 原因はもちろん、この間の夜に聞いた話のせいだ。

 オレは窓から差し込む久々の太陽の光を浴びながら、水を吸ったように重い身体を起こして、考える。


 村長が言っていた人身売買についてだ。

 結局大人たちにバレるのが嫌で、あのあとすぐ家に戻ったから詳しいことはわからない。


 でも、あれから夜中にみんなが集まることはなくなった。

 きっとあのときの話を村の大人たちが承諾した、ってことで間違いないだろうと推測する。


 けど、あの話が本当なら、こうして天気が良くなったってことで行商人がうちの村にやってくることになるだろう。

 となると、選別のためのくじ引きが行われる。

 そのくじ引きでもしも当たりを引き当てたら………行商人に売られる、つまり奴隷になるってことかな。


 っていうか、もう7年も暮らしていたけど、初めて人身売買……奴隷の話を聞いた。

 いつもなら奴隷制度あるなんて異世界だなー! とか能天気に考えるだろうけど、それがまさか自分も対象となると話が変わってくる。


 ヤバい。どう考えてもヤバい。


 この世界の人たちの性の営み等々はなんとなく地球と一緒ってことは分かっている。

 つまり奴隷になったら、そんなことやあんなこともヤラされる可能性がある、ってことだ。


 そしてオレはクソまな板ペチャパイ女神様のおかげで女の子である。


 どう考えても性奴隷堕ちする未来しか見えません本当にありがとうございました。


 ………まぁとにかく、くじ引きで当たりさえ引かなければ良いんだ。

 どういう形で当たりとなるのかは分からないが、それさえ引かなければ裕福とは言えないが、この暖かい家庭でこれからも暮らしていける。


 隣ですやすや寝ているアルドを見る。

 その寝顔にたまらず頭を撫でてやると、こっちに転がってきてオレの身体に顔を擦り寄せてくる。


 ……どうにかして、アルドには引かせないようにしてやらないと。


 どうすればいいか。オレが考え始めようとしたそのとき。

 部屋のドアが開いた。


「メル、アルド。起きなさい。村長が呼んでる」


 オレたちのことを一切見ようとせず、お父さんが開口一番言ってきた。


 ………朝からやるのか。


- + - + - + - + -


「みんな集まったかね?」


 今にも崩れそうなほど震えながら、村長がそう尋ねる。


 村中にいるオレとアルドぐらいの年齢から中学生ぐらいの子たちだけが村長宅に集められている。

 総勢10人ぐらいだろうか? やっぱ子供だからかワチャワチャと騒いでいるが、構わず村長は続ける。


 近くにいた大人が集まってる、と言ったところで村長がカサカサの口を開けて話し始めた。


「朝早くからいきなり集まってもらってすまん。諸君達から、ある重大な任務のため一人だけ選別しなくてはならなくなったのだ」


 そう言うと隣にいた大人が、麻袋を取り出す。


「この袋の中にはクズ石が入っておる。それを、一人一つだけ取りなさい」


 なるほど……これが選別方法か。

 クズ石ならそこら中に落ちているからな。紙なんてもの使わなくても、これが一番手っ取り早いくじ引きになる。


「取ったら絶対にここで開けてはいかん。おうちに帰ってご両親に見せなさい」


 さぁ、君から引きなさい。

 村長がそう言うと、麻袋を持った大人が近くにいた子供にクズ石を引かせ始めた。


 最初の子が石を引くと、村長が震える手で石を握り込んだ拳に布を巻き始める。

 どうやらその場で見てしまわないようにしているみたいだ。


 一人が引き終わるとその次の子が、その子が終わればまた次の子が……とくじ引きによる選別は思っていた以上に素っ気なく進んでいく。


 オレは自分の順番が来るのが遅くなるように、できるだけ部屋の後ろにアルドの手を引きながら移動する。

 できるだけ時間を稼ぎ、どうにかしてこのくじ引きから逃れる方法を考えるんだ!


 だが部屋の出入り口は他の大人で邪魔されてて抜け出せない。

 当たりの石がどんな形状なのかも分からない。

 オレたちの順番が近づいてくる。

 良い考えは思いつかない。

 次がオレたちの番だ。

 もうあとがない。


 どうする。どうすりゃ良いんだ……。


「メルねぇ、手、痛いよ……」


 アルドのその声に我に返る。


 握っていたアルドの手を、ゆっくりと離す。

 知らず知らずのうちに力がこもっていたようだ。


 ここ数日の寝不足が祟ったか、はたまたオレにそれだけの力がなかっただけか。

 心配そうにこちらを見るアルドの顔を見て、心中で謝る。


 ……ごめん、何も良い作戦、思いつかなかった…………。


「さぁ、残りはブロアさんとこの子たちだけだ。はやく引きなさい」


 麻袋を差し出す大人の顔を見上げる。

 その目には、オレたちが映っていない。


「じゃあぼくが引く!」


 アルドがそう言って袋に手を入れようとした。


「ダメ!」


 完全に無意識だった。

 オレはアルドの腕を掴んでいた。


「…………何をしているんだ。手間を掛けさせるな」


 雨に濡れて震えるよりも底冷えする声が、頭上から降りかかってくる。

 それに急かされるように、オレはとっさに袋の中に手を入れた。


 ………袋の中には石が二つ。

 オレとアルドの分だ。


 その二つをよく触って、感触を確かめる。


 ………握ったり、爪で触った感じ、その二つに差はみられない。

 もしかしたら、すでに当たりの石は引かれているのかもしれない。


 ………オレは観念して、二つのうち一番大きい石を選び、それを握って腕を袋から出した。


「メルねぇ………」


 さっき急に腕を掴んだからだろうか。アルドが不安をいっぱいにしながらオレの服をシワができるほど強く握っている。


「ごめんな……何でもない」


 石を握っていないほうの手でアルドの頭を撫でてやる。


 そしてオレは握った拳を村長がいるところまで進んで突き出した。

 その手に村長が布を巻いていく。


 オレの手に巻かれた白い布の感触を確かめながら、残りの石を掴んだアルドが拳に同じような白い布を巻かれるのを、オレはただただ見ていた。



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