仕方のないこと
重い空気はまだまだ続きます。
ちょっとシリアスかも。
その日も嫌な雨が降り続いていた。
まるで嫌がらせのように、オレ達の住む村の周囲一帯に振り続けているそれは、正確には数えていないが、かれこれ数ヶ月は続いているはずだ。
今の時期……梅雨の時期ならまだ理解できるんだけど、この雨は去年の冬からずっと降り続いている。
たまに天気がよくなることもあったけど、そんなの両手で数えられるぐらいしかなかったはずだ。
だいたい雨が降るか、降りそうなぐらいどんよりとした空模様だった。
あまりに降り続けるので、村の畑は水浸し。
山も土砂崩れが起こり、食材拾いすらできない状態が続いている。
生活に使う水はいつも村にある共用の井戸や川の水を使っているけども、川は汚泥で使えないし、井戸も貯蔵量は少なくないはずだけどこう何ヶ月も使い続けていれば節水しないといけないほどに量がなくなってきている。
雨ばかり降るからそれを貯めて洗濯や身体を拭くものに回してるけど……。
そのせいで、食卓に並ぶものも雑穀をおかゆにしたものや、一人数切れ程度の肉程度しか無いなど、貧相なモノばかりとなっていた。
また、この村の主要産業は採掘だ。
村の近くの山で男衆がせっせと鋼鉄? のもとを掘っているけど、長雨のせいで山は出入り禁止となっていて、仕事をしたくてもできない状態らしい。
それなので、金を得る手段もなく、かといって食料を探しに行くことも場所もなくなってしまった。
………最近、村の大人たちが夜な夜な集まっては何か話し合いをしているみたいだ。
オレとアルドが寝静まったあと、折を見て村長宅に集まりナニかをしている。
以前、眠ったフリをしてお父さんとお母さんが帰ってきたのを見たことがある。
その時二人は、思い詰めたような、歯がゆい表情を崩さないで戻ってきたから一言も話さず、朝までテーブルに座っていた。
………今日も、しとしとと雨音途切れぬ家から、夜も深いというのにお父さんとお母さんが出掛けていった。
オレは玄関の扉が閉まる音を聞いて、二人を追いかけることにした。
何を話しているかは分からない。
ただ、オレが手助けできるようなことだったら、助けてあげたい。
そんな短絡的な気持ちから、アルドを起こさないよう布団から這い出て、用意しておいた外套を纏い雨音に紛れて家の外の闇に飛び出した。
……外は当然のごとく真っ暗だ。
この世界には電気なんてないから街灯なんか存在しない。月明かりも雲に隠され届かない。
道に迷わないよう、注意しながら進む。
雨で覆われた先に、薄ぼんやりとした灯りが灯されている。
周りに大人がいないことを確認しながら、オレは灯りの元―――村長宅の窓の下に陣取った。
……耳を澄ますと、中からは話し声……というか、怒号に近い声が聞こえてきた。
「村長……! やっぱりこんなことは反対だ!」
「そうだ! いくら村がこんな状態だからって、するべきではない!」
ガヤガヤと騒ぐ。
時折、女性の啜り声も聞こえている。
「しかし、このままでは村はおしまいだ……」
村長の声だろうか。枯れ葉を手で揉んだようにクシャクシャな声がする。
「もう何ヶ月も雨が降り止まん。畑は死に、山も崩れ、金を得る手段が一切ない。今まで耐えに耐えてきたが、もう村の貯蓄も底をつきかけている。これしか……ないのだ」
「でも………!」
「それしかないのだ!!」
村長の叫び声と同時に机を叩く音が外まで響く。
この村が外部から食料や金を得る方法は、山で採掘した鉱石を売ることだ。
ただ、今年の雨は息が長すぎる。そのおかげで土砂崩れ、落盤の危険から採掘ができない状態だ。
畑だって、根が腐り、成長期の苗がすべて駄目になっている。
山に狩猟や採取に行こうにも、斜面が崩れ木が薙ぎ倒され、そんなことができる状態ではない。
そして、この村は近場の街から馬車を使っても数日掛かるほどの距離と聞いたことがある。
季節の変わり目あたりに行商人がやってきて、それに物資を補給してもらいこの村は生きながらえている。
……今まで気付いていなかったが、どおりで最近の村の大人たちが暗い顔をしているわけだ。
子供たちには気付かれないよう、裏でこんな話をしていたなんて……。
食料もない。かといって、それを買う金もない。
そもそも長雨のせいで行商人も半年前に来たのを最後にやってきたのを見ていない。
今、この村は陸の孤島、しかも資源がない枯れた土地となっていたんだ……。
「昨日街から戻ってきた若い衆が、いつもここに来てくれている行商人に直接頭を下げて渋々許可をもらったんだ。みんな、分かってくれ………」
直接聞いていないオレでも胸が締め付けられそうなほど悲痛な叫びが、村長から発せられる。
……誰も彼も喋らない。聞こえてくるのは、嗚咽だけだ。
「彼がやってくるのは、予定では次回の晴天時だ。いつになるか分からんがやるなら早くやったほうが良いだろう……選別方法は、もっとも遺恨が残らぬよう、くじ引きで決める」
村長が雨粒よりも遅くぽつりぽつりとつぶやく。
なんだ……何を決めるってんだ?
疑問符で頭がいっぱいになるが、その回答を聞いてオレは血の気が引く感覚を覚えた。
「このくじ引きで……行商人に売り渡す子を決めるのだ」
外套に当たる雨音が、一切聞こえなくなるほど、一瞬だけ、辺りが静まり返った。
ブクマ&評価ありがとうございます。
リメイクとはいえ、めっちゃ励みになりますー。
感想もどしどしご応募お待ちしております。




