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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第1章 故郷での話 ~ オレが売られるまで ~
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2人だけの秘密の場所


「じゃあ行ってきます」


「ほんとにあなた達だけで大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。アルドにはオレがついてるから」


「でも………」


「そんなに遠くには行かないし、この間だってお母さんと一緒に行ったところだもん。危なくないから平気平気」


 けど……と渋るお母さんをなんとか言い包め、オレとアルドはカゴを背負って家を出発した。


 おはようございます。

 本日も快晴なり。夏が近付いてきているのか、外気温は想像していたよりも少し高い。


 今日はお家のお手伝い、ということで、村の外れにそびえ立つ山まで山菜を取りに行くことになりました。

 お母さんは村の主婦たちとどうしても外せない会合があるらしく、それでも今日のおかずのために山菜がほしい。ならオレ達で取りに行こう、となったんだ。


 まだ6歳になったとこだけど、オレがいるし、前にもお母さんと一緒に入った場所に行くつもりだから危ないこともないでしょ。


「メルねぇ、ぼくたちだけでホントに大丈夫かな……」


 ちょっとばかし不安そうになりながら、アルドがボヤく。

 アルドは順調にお姉ちゃん子に育ってきている。

 昔オレのことをトイレに連れて行ってくれた勇ましい姿はどこにいったか、最近は逆にトイレについてきて、なんて夜中にオレを起こしてくるほど大人しくなってしまった。

 まぁそれを抜きにしてもあまり遠出に慣れてないからな。不安になっちゃうのも仕方ないか。


「なにかあったらオレがアルドのこと助けてあげるから大丈夫大丈夫」


 オレの後ろを歩くアルドの頭をポンと撫でてやる。

 お風呂もない我が家ではあるが、サラサラな髪の毛の感触が妙に気持ちよく、くしくしと触ってやる。


 つるつるお肌にちびっ子特有のほんのり赤いほっぺ。クリクリと大きい瞳に、スラッと伸びた鼻。

 それでもって、オレの守ってあげる発言を聞いて「じゃあメルねぇのことはぼくが守る!」と返してくれる。可愛らしい。


 ……たぶんこの可愛らしいって思うのは、身内贔屓が多大に含まれてるだろう。決してブラコンってわけじゃねぇ。

 けど、アルドくんはオレがいないと不安になっちゃうほどの立派なシスコンに育ちつつある。やったぜ。


「んじゃ、出発ー」


「おー!」


 アルドの初陣だ。張り切って行くぞー。


- + - + - + - + - + -


「メルねぇ! これは?!」


「それは食べられるやつだな」


「じゃあこれは!?」


「なんだその毒々しいキノコは。捨てちゃいなさい」


 しょんぼりうなだれるアルドに指示を仰ぎつつ、山の斜面に生えている山菜を拾うオレ。


 現在お昼前。

 お昼すぎには帰る予定だけど、それにしてはまだ目標の量に達していないので、徐々に上がってきた暑さに負けないよう注意しながら草拾いを続ける。


 アルドはとりあえず食べられそうなものを拾ってきては、オレに見せてくる。

 さすがに全部は分からないので、知ってる食べられるものを持ってきたらそれをカゴの中に入れさせ、また別の草を探しに行くとせっせこ働いている。


 働き者なのは良いことだけど、明らかにヤバそうなキノコとかは持ってこないでほしい。


 しかしなぁ………と、溢れる汗を拭いながら考える。


 以前、お母さんと来たときと比べると、目に見えて山菜の生えている数が少ないと感じる。


 原因は分かっている。それは長雨だ。

 この地方は一応四季がある。だが去年の秋から今年の春に掛けて、雪ではなく雨ばかりが続いていた。


 山の斜面は崩れ、土砂崩れとまではいかないが表面が流れてしまったことで山菜類の種まで流出してしまったんだろう。

 最近になって快晴が続いたおかげで地面はしっかりしているが、それでも草類の発育には十分すぎる水量だから根も弱い。


 こりゃ、ここらへんじゃ山菜いっぱい取れないな………。

 どこか、もう少し奥に行ったほうが良いかもしれない。


 ………うん、そうだな。これからの食卓を充実させるため、もっと奥まで散策したほうが良さげだ。この世界に天気予報なんてものはないから、またいつ雨降るか分からないし。


「アルド、オレもう少し奥まで探しに行くから、アルドはここらへんにいてね」


「えっ………」


 ずっとしゃがんでいたから固まった腰を伸ばしつつ、オレは立ち上がった。


「おかあさんが、奥の方は危ないから行っちゃダメって言ってたよ?」


「大丈夫大丈夫。そんな深くまでは行かないからさ」


「メルねぇがそういうなら………でも、それならぼくも一緒に行く!」


 両手に持った不気味な色をしたキノコを振りながらアルドは元気よく立ち上がった。


 アルドのことは心配だから連れて行きたくなかったけど……まぁオレが一緒にいれば大丈夫か。


「それじゃ、ちょっと移動するぞ」


 持ってたキノコを捨てさせながら、オレ達は山の奥の方まで進んだ行った。


 …………………


 ……………


 ………


 やっべ。ここさっきも通った道じゃね?


「メルねぇ………ほんとにこっちで大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫! オレに任せておけ!!」


 ドン! と胸を叩くも、胸中は虚勢でいっぱいだ。


 さっきの散策ポイントから奥まで移動してだいたい二時間ぐらいたったかな。

 確かに奥の方にはまだまだ手付かずの山菜が多くあり、オレたちは嬉々としてそれらを拾っていた。


 だが、拾うのに夢中になってて、いつのまにか見覚えのない場所まで進んでいたのに気付いたのがつい体感30分ほど前のことだ。


 あーやっちまったなぁ。まさか迷子になるなんて……。


 アルドはオレの洋服の裾をギュッと握って離れないよう歩いている。その足は長距離を歩いたせいか、ちょっとおぼつかない。今度から勇者訓練に走り込みも追加するかな。


 なんて余裕な表情で構えてるが、実を言うとオレの足もそろそろ限界が近い。

 こっちの世界に来てからこんなに歩いたのは初めてだから、ちょっと調子に乗りすぎてました。


 でもアルドがいる手前、不安にさせるようなことをしちゃいけない。精神年齢高いのに迷子になるなんて、って内心ショックでいっぱいだがな!


 さて、どっちに進むべきか………。

 ………こっちかな?


 足に今一度力を込め、オレは歩き出して―――


 ―――その瞬間、踏み抜いた地面の感触がなくなった。


「うぉっ!?」


 足が地面に吸い込まれるように埋もれていく。

 突然のことに体勢が崩れ、前のめりに倒れる。

 それに続くように、身体がどんどん下に吸い込まれる。


 これは――――ヤバい!


 そう思ったところでどうしようもない。

 オレは身体ごと地面に倒れ、その勢いで地面に穴が空く。


「―――メルねぇ!!」


 思いっきり後ろから引っ張られる感覚が全身に伝わると同時に、オレの身体は倒れることなく止まった。

 ただ、身体中を流れる冷や汗が止まらない。


 ……どうやら、ずっとオレの後ろで洋服のすそを掴んでいたアルドが、とっさに引っ張ってくれたみたいだ。

 オレは体勢が崩れないよう、空いた穴のふちを踏んでる、もう片方の足と身体中に精一杯力を込めて引っ張ってるアルドに覆いかぶさるように後ろへ倒れ込んだ。


 息が荒げて、なかなか整えることができない。

 それはアルドも同じようで、オレが乗っかっているのに未だ洋服を引っ張り続けている。


 危なかった………危なかったー!


 オレは穴の中に広がっていた光景を思い出しながら、天を仰いだ。


 木々の隙間から射し込む太陽光に照らされた、水晶の群れ。

 そいつらはギラギラと光りながら、先を尖らせオレのほうを向いている。


 そう、オレが踏み抜いた穴の中には、水晶でいっぱいだったのだ。しかもご丁寧に全部先を尖らせている。


 この水晶は、うちの村では『クズ石』と呼ばれているほど見慣れたものだ。

 地球だったらそりゃもう幻想的なもので高値が付くだろうが、どうやらこの世界ではいくら見た目がきれいでも使う用途が無いためか、そこら中に捨てられているのだ。


 採掘所とかに行くと、この水晶の破片や塊がごろごろ転がっている。

 それぐらいありふれたものなんだが、ここまでの塊は初めて見た。


「メルねぇ……重い……」


「あっ、わりぃわりぃ」


 突然の出来事にある種の現実逃避をしていたが、アルドの声でオレは現実に戻ってきた。

 そそくさと穴に気をつけながらアルドから退く。


 しかし、アルドのおかげで助かったぜ………勇者訓練のために腕力付けてたのが功を奏したわ。しかしなんだ、よく見たら穴の深さ5メートルぐらいあんじゃねーか? マジでヤバかったな……。


「アルド」


 オレはアルドを真正面に捉える。

 まだオレが落ちる瞬間の光景が忘れられないのか、瞳の奥に不安や恐怖が見て取れる。

 その眼を見ていたらいてもたってもいられず、オレはアルドの頭を突発的に胸の中に抱えた。


 ………なんでこんなことしてんだろ。まぁ、とりあえず頭なでとこ。


「アルドのおかげで助かった。ありがとうな」


「そそそそんなことないよ! メルねぇはぼくが守るって言ったじゃんか!!」


 触り心地抜群の髪を存分に撫でてやったあと、オレは改めて口を開けた水晶のたまり場を覗いた。


 洞窟……というほどではないが、まるで落とし穴のようにぽっかりと空いていて、その地面や側面には無数の水晶が生えている。


 こりゃこんだけあって、使う価値ないなら、邪魔なだけだな……。


 でも綺麗だなー。みんなキラキラ光って幻想的な風景だぁ。


「メルねぇ、どうしたの? その石、すきなの?」


「いや、そういうわけじゃ。ただキラキラしてて綺麗だなーって」


「そうだね! これだけあるのはぼくも初めてみた………」


 さっきまでの緊張感はどこ吹く風。


 オレはアルドとその水晶群に見惚れつつ、十分に癒されたあと落ち着いて帰り道を探して、無事お家まで帰ってくることができました。


 ちなみに、あの水晶群はオレとアルドの秘密の場所に登録されました。

 まぁあんな奥まで行ってたら確実に怒られるからな。二人だけの秘密ってことにしておこう。


 なお、お母さんは特に心配していなかった模様。それだけオレの信頼度が高いってことなんだろうけど、遅くなった原因オレなんだよな………。


 まぁたくさん取ってきたかごの中身を褒められて、アルドが嬉しそうだったからなんでもいっか!


 でもアルドくん。いつのまに謎のキノコをカゴに入れたんだ? お姉ちゃん全然気付かなかったゾ。




 その日の晩ごはん。

 オレの目の前には毒々しい色をしたキノコがソテーされて置いてあった。


 これって食べられたのかよ!!



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