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TS幼女の転生秘録  作者: 自堕落天狗
第1章 故郷での話 ~ オレが売られるまで ~
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勇者になるためには


「ふん! ふん!」


「腕の振りが遅くなってるぞ。もっと柔らかく振らないと疲れちゃうよ」


「うん! わかった!」


 庭先で自分の身長ほどもある木の棒を振るアルドに、オレはアドバイスっぽいことを言ってやる。


 秋が過ぎ、冬も過ぎてやっとこ暖かくなり始めた今日この頃。

 今日も今日とてアルドの剣術指南に付き合うオレです。


 アルドが勇者ごっこにハマり始めたのも一年前。


 ずっと勇者ごっこをやっていたおかげか、アルドくんは剣術に目覚めてしまったようです。

 5歳になった今でも剣に見立てた棒を使っての鍛錬をしている。

 流石にもう勇者ごっこ遊びはしなくなったが、そのかわりに剣術ごっこというか、訓練をするようになっていた。


 まぁそうなったのもオレの物語のせいなんだが……。


 というのも、外で遊べない日はいつも勇者の物語を語っていたが、喋りすぎてネタが尽きてしまった。

 それでもアルドはオレの話をキラキラした眼で待ち望んでいたもんだから、困ったオレは勇者になるための方法をアルドに聞かせるようになったんだ。


 そしたら「ぼくも勇者になる!」と言って、オレが話した『勇者になるための訓練』を実践し始めた、というわけだ。

 しまいには将来メルねぇと冒険するー! とか言ってくれちゃったりする。かわいい。

 イヤな気はしないし、むしろ微笑ましくて嬉しいぐらいだから、そうだねーと受け答えしてやったっけか。


 ちなみに勇者になるための方法、それは………ただの素振りである。一日千回の素振りをするのだ〜と言って聞かせてから、アルドは外で遊ぶかわりに素振りをするようになった。うーん健気である。


 ふと、うちの庭の外から歩いてくる人影が目に入った。

 けどオレはそいつらのことを気にせず、アルドの素振りから目を逸らさず、眺めて続ける。


 あーっ! とわざとらしい声が聞こえる。


「またアルドが変な耳のやつと一緒にいるぞー!」


「ひゅーひゅー!」


 やっぱりいつも通りだなぁ。

 どこの世界でもガキんちょなんてのは変わらないみたいだ。

 何か言ってきているのは、近所のガキ共だ。オレとアルドが一緒にいると、何かと囃し立ててくるのだ。


 オレが暮らしているこの村にも、同世代の子供は何人かいる。

 精神年齢が違いすぎることもあって、あいにくオレはあまり家の外には出ないので近所の子供たちとの付き合いは皆無に等しい。


 この村は小さい。

 そのためあってか、かなり閉鎖的だ。


 だから普通は同世代の子供同士、いつも集まって一緒に遊んでいるみたいだけど、オレはその輪には入っていない。

 入っていない………というか、入れてもらえない、と言ったほうが正しいか。


 オレは生まれつき、なんとなく耳が大きい。


 これに気付いたのは奇しくもクソガキに突っかかれたときだった。


 我が家には鏡というものが存在していないので、自分で触った感じでしたか確かめられないが、家族の誰とも似ていない形をしている。


 ガチんちょってのはそういうのに目ざといというかなんというか。

 自分たちとちょっと違うヤツはイジメの対象にして、団結力を高めている。


 まぁ、もともと前世の記憶のおかげで子供たちの輪に混ざることも嫌だったので、ハブられようが特に気にしていない。


 ただ、アルドはいつもオレと一緒にいる。

 だからアルドも奴らのイジメの対象になっている。


 アルドだけでも子供たちの輪に入っていってほしいんだが、ぼくはメルねぇと遊んでたほうが楽しい! と言っているため、打つ手がない状態だ。


 オレたちは外野の騒音を無視して、鍛錬を続ける。


 ギャーギャー聞こえていた騒音は、無視しているうちに聞こえなくなっていった。


 またアルドと二人きりになる。

 オレはアルドの素振りから目を離さない。


「ボクさ………」


 黙々と素振りをしているアルドが、手は休めずつぶやく。


「メルねぇの耳、すきだよ」


「ん、ありがと」


 耳の周りで聞こえていた風の音は、いつの間にかアルドの素振りから出る風圧でかき消されていった。


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