ゆーしゃごっこ
「アルド! 遊びに行くよー」
「うん、わかった! メルねぇちゃん!」
「姉ちゃん言わない!」
「うーん……メルちゃん」
「ちゃんも付けない!」
「メルねぇ………」
「まぁ………それなら良いか。お外行くぞー」
「わーい!」
お久しぶりです皆さん。
いつでも明朗快活、メルだよ。
本日は久々の快晴。
昨日までずっと降っていた雨も鳴りを潜め、みずみずしい空気で満ち溢れた中、オレとアルドは庭に遊びに出かけた。
アルドにオレの放尿シーンをまじまじと見られてから、1年ぐらいが経った。
オレもアルドも4歳半になったかな。
これぐらいの歳になると両親もそんなに心配することもないようで、目の届く範囲までなら外に出て遊ぶことができるようになった。
それにオレはもとより、アルドも言葉を覚え、歩いたり走ったりできるようになった。
ただ、オレはアルドより先に生まれていたのに加え、走ったりするのが先だったので、今じゃ立派なアルドの保護者になってます。
どこに行くにも着いてきて、何かあるたびにオレに色々聞いてくる。
最初のうちは鬱陶しい――というより異世界の勉強がしたかったから、なあなあに構ってあげてたが、最近ではこの子守りも悪くないんじゃないかな、と思えてきた。
ふふふ……こうやって幼い頃からオレに従順にさせておけば、将来の百合ハーレム立ち上げ時に必ず役に立つだろう。
オレはまだハーレムを作ることを諦めちゃいない。
必ずや、作り上げます百合の園。
………ほんとオレが女の子じゃなけりゃ完璧なんだろうけどなぁ。あのクソ女神、絶対根に持ってやりやがったんだろうな。
まぁ性別が思ってたのと違うのは気にしない。あのクソ女神の思い通りになってなんかたまるか。
それにオレには秘策があるんだ。
赤ちゃんの頃から「こいつ絶対イケメンになるだろうなぁ」と思ってたアルドだが、ホントにイケメンに成長してくれた。
5歳前にして、洋画で活躍出来そうなほど可愛く、それでいてカッコいい顔立ちになった。
髪質なんてサラサラの茶髪で、目鼻もくっきり、ほっぺたもぷにぷにしてて悪いところゼロ。
これじゃ世の女性どもはイチコロだろ!
んでもって、その近付いてきた女の子をちょーっといただいちゃって、うまいことやってやれば、オレのハーレム要因にできるはずだ。
だからこそ、今のうちに兄弟愛を深めておかなくちゃな!
ただ、姉ちゃんとか、ちゃん付けするのは勘弁な!
見た目は女の子でも中身は野郎です。これだけは譲れないのです。
てなわけで昨日までにずっとお家の中で遊んでいたけど、久々にお日様のもとでアルドと戯れる。
「きょーは何するの?」
ニコニコしながらアルドが訊いてくる。
「今日は勇者ごっこしよっか」
「やるやるー!」
オレはそこらへんに落ちていた木の棒を拾ってアルドに渡す。
説明しよう!
勇者ごっことは、オレが前世に読んでいた異世界ものをベースに考えたお話から編み出した遊びである!
長雨続いたここ最近、外で遊べずグズっていたアルドに、オレは自分で考えた勇者の物語を話してあげた。
そうしたら予想以上にハマってしまったアルドくんは、自分がその勇者になって敵をバッタバッタと切り倒すことを夢見るようになったのだ。
……ちなみにこの世界にもちゃんとそういうおとぎ話はある。
だが、本―――というか紙自体があまり一般家庭に出回っていないようで、読み聞かせが主だ。
そういうことで、お母さんがアルドにおとぎ話を話してあげていたから、それにならってオレも話してあげていた、っていう寸法である。
アルドはオレが渡した木の棒を持つと、いっちょ前に構えたりしている。やっぱこういうところは男の子だよなぁ。
「ぼくゆーしゃやる! メルねぇは?」
「オレは魔法使いかなー」
「まほーつかいのメルねぇ! まものはどこ?」
「あの木だなー」
「わかった! ゆーしゃのぼくがやっつけるぞー!」
トテトテと庭に生えてる木に向かって特攻するアルド。
アルドの微笑ましい後ろ姿に続いて、オレも木に向かう。
魔法使い、と言ったが、オレは未だに魔法が使えていない。
異世界といったら魔法! 魔法といえば異世界! とずっと思っているが、何で未だに魔法のマの字も使えないんだろうか。
一応お母さんやお父さんから『魔法』という言葉は聞いたことがあるから、必ず存在はしているはずだ。
だが、家族内では誰一人魔法を使わないし、近所の人たちが使っているところも見たことがない。
かまどに火を点けるのも火打ち石だし、水だって井戸から汲んできている。
もしかしたら魔法が使える、っていうのは一種のエリートだけなのかもしれない、と最近思い始めているほどだ。
案外的外れではなさそうな気がしている。
だから、オレはそのエリートになるべく、生まれたときから練習していた何となく気を集める訓練は未だに続けている。
………効果があるかは定かじゃないがな。
「メルねえちゃん! はやくまものたおそうよー!」
「ごめんごめん! ……って、ちゃんは付けるなって言ってるでしょ!」
魔物に見立てた木をパシパシ叩くアルドを叱りながら、オレは勇者ごっこに興じるためアルドのもとへと歩いていった。




