お話できるようになりました
「これは?」
「りんご!」
「なにいろ?」
「あか!」
「……すごいわね」
床の上に座った状態で、お母さんの掲げるリンゴの絵を見て答える。
どうもオレです。
オレの身体が実は女の子だったことを知ってからまた何ヶ月か経ちました。
あれからハイハイができるようになったオレは部屋中を駆け巡り、異世界の知識を蓄えることに奮闘しました。
えぇ、決して現実逃避ではありません。
ただ、ついでに息子も探してましたが、結局見つかりませんでした。どうやらオレは女の子として生きていかなくてはならないようです。人生設計返して。
ちょっとばかし落ち込んでいたオレですが、とあることを思いついてから少しずつ元気が出てきました。
逆の発想です。女の子だから女の子を囲ってはいけないなんてこと、ないと思うんだ!
当初の計画から性別が変わっただけで、やることは変わりません。
オレはオレのことを好きになってくれる人を囲み、侍らすんじゃい!
そんなわけで、ハーレム作り……もはやハーレムというのか分かりませんがハーレム作りのために、はやくこの世界に順応しなくては!
ということで部屋中のモノを手当り次第に触り、その都度お母さんやお父さんに意味を尋ねてきました。
そんなものだから、おのずと言葉も覚えてきた。
前世知識があるおかげか、はたまたこの身体が優秀なのかは分からないが、覚え初めて数ヶ月。
複雑な意味までは分からないが、日本語的に何を言ってるのか若干分かるまで成長しました。やったね!
「あかちゃんってこんなにはやくことばおぼえたかしら……それともめるちゃんがゆうしゅうなのかしら」
むむっ、母上がいぶかしく思ってるぞ。
ちょっと早熟過ぎたかな……まぁ、これぐらいなら聡明な子ってことで通るだろ。
ああそういえば、この世界でのオレは『メル』って名前みたい。
はい、どう聞いても立派な女の子ネームですね。つらい。
いわゆるキラキラネームじゃなかっただけでも感謝しなくちゃな!
『メル』……良い響きじゃないか……頭良さそうな名前だよ、うん。
「まーまー」
「あらあるど、あなたもおねえちゃんとおべんきょうしたいの?」
そしてハイハイしながら近付いて来たのは、オレの弟であるアルドだ。
まだ赤ちゃんだというのに、目鼻が整ってて絶対将来イケメンになるだろうなぁと密かに思ってる。
異世界の美醜感覚がどうなのか未知ではあるけど、地球と感性が変わらなければ絶対大きくなったら女の子に事欠かさないと思う。
羨ましい。どうせだったらこっちの方に生まれ変わりたかった。
そんなアルドだが、オレより数ヶ月遅れてハイハイし始めていた。
舌っ足らずだが簡単な言葉ぐらいなら喋れるようになっている。これぐらいが普通みたいだがな。
アルドがハイハイする頃には、オレはハイハイはもとよりお座りも捕まり立ちもできるようになっている。
もちろん言葉も覚えているから、簡単な意思疎通ぐらいならすでに可能だ。
これも前世知識のおかげかな。
知ってるか知らないか、分かっているか分かっていないかだけで、ここまで成長に差が出るんだなぁ。
それと、オレは最近1歳半ぐらいになったところだ。
パーティを雪が降る中やったとき、家庭内だけで慎ましく行ったんで、たぶんそれが誕生日祝いだと思うけど……。
そのときから考えて今はだいぶ暖かく……というかシャツ一枚だけで過ごせるぐらい暖かくなってるから、だいたい半年経ったんじゃないかと推測している。地球だったら冬の反対は夏だし。
ってかこの世界、カレンダーすらないのはちょっといただけない。
一応お母さんとお父さんが話していた内容を盗み聞きした感じだと、この世界も地球と同じような暦らしい。
1月から始まり、12月で一周年みたい。
一週間の概念も全く同じなので、覚えやすいことこの上ない。
「アルド、これは?」
「?」
オレはよちよちと寄ってきたアルドにリンゴの絵を見せてみる。
だが、アルドは意味を理解していないみたいだ。
オレはクソ女神にこの世界へ生まれ変わらせられたが、アルドは前世の記憶もない普通の男の子なんだろう。
「あるど、これだれ?」
お母さんがオレのことを指差してアルドに聞いてみる。
「ねーね!」
「わたしは?」
「まーま!」
お姉ちゃんと呼ばれて、不本意な気持ちでいっぱいになるが、ここはグッとこらえて大人の対応。
二分語っていうんだっけか? それぐらいは喋れるようになったアルドは笑いながらオレに抱きついて、ねーね、ねーねと言ってくる。
お母さんも微笑みながらオレたちのことを見ているので、無下にできないのがなんとも歯がゆい。
オレは女の子扱いされたくないんだ……将来は絶対、アルドに寄ってきた女の子を逆に食ってやるんだ………。
そんなことを妄想しつつ、アルドとお母さんによる波状攻撃に耐えるオレであった。




