よくある世界のよくある1日
大男について行くと、大男のようにそびえ立つ、海外のセレブが買うようなデカい家がそこにはあった。
「でっか……」
感嘆の声を漏らした。
僕は自分の運をここで使い果たしてしまったのではないかと思った。
僕の人生で、一番運が良かったと思える出来事は宝くじで2万円当てた程度。
このあと盗賊に襲われて死ぬのかとか想像してしまったりもした。
「さ。中に入ってくれ。」
「……失礼致します。」
急に自分をおこがましく感じてしまい、言葉遣いが少し堅くなってしまった。
「そうカタくするな。お前は息子のことを助けてくれた恩人なんだから。」
助けたことは、この屋敷の一室の見合うようなスゴい事なんだろうか…僕は分からなくなった。
すると、突然
「グゥ」「グゥ」
と高い音と低い音の見事なハーモニーが聞こえた。
俺とミルシーの腹の音だった。
「まずは飯にするか!」
と大男は豪快に笑った。
異世界の食べ物がもしグロいものだったとしても、今の僕なら美味しいと言える自信がある。何故なら、異世界転移してきた時、現実世界では午後6時。そして、異世界では太陽が登っていたことから、2時頃だと推測した。
そして、現在の時刻は午後6時。
それに加えて、現実で朝昼は抜いてしまっていたので、
1日何も口にしていないことになる。
ハラヘッタ…
そして、大男が運んでくるご馳走は現実世界にも見劣りしないものだった。少し安心した。
言語は日本語で統一されているらしかったので、
「いただきます!!」
と感謝をして、3人でテーブルを囲んでご馳走に食いついた。
「俺はイグニスってもんだ。お前の名はなんて言うんだ?」
僕が応えようとした時、
「カエデだよ」
とミルシーが答えてくれた。
親子の仲はいいらしい。
「ところでカエデ、お前さんはなんで一文無しなんだ?親にでも捨てられたか?」
「いや。実は…」
僕は自分に起きた出来事の全てを話した。
「ほぉ…奇妙な話だな。恐らくだが、カエデ、お前さんは異世界から来た【ヒューマ】という事だな?」
慣れない単語を耳にして、聞き返す。
「【ヒューマ】?」
「そうだ。俺は1度も目にしたことがなかったが、異世界からきたと話す住民権を持たない人のことだ。最近は妙に増えているらしいが。住民権を持ってないのをいい事に、奴隷に使ったり、売買されたりすることも少なくない。」
背筋がゾワッとした。
「安心しろ。お前さんは俺の娘に手を差し伸べた唯一無二の恩人だ。ちゃんと住民届を提出すれば住民権を獲得できるぞ。」
「ありがとうございます!」
住民権というのは恐らくだが、人権のようなものだろう。早く手に入れなければ。
「それは今日提出しに行けますか?」
「すまないが、そいつはできない。」
「えっ。」
再び背筋から寒気がする。
「あぁ、ただ単に今日は役所の方が午後5時には閉まってるっていうだけなんだかな」
「お、驚かさないでくださいよぉ」
「今日は祝日なんだよ。町役場の人もたまには休みたくもなるさ。」
祝日…だから人が多かったのか。
「ま、今日は誰にも襲われないように、うちでこもって過ごしてくれ。拉致されても責任を負えないからな。」
「そうさせていただきます…」
今日こっそりと家を出たりするのは、自殺するようなものだと胸に言い聞かせた。
僕は自室に案内され、広さに驚かされ、ふかふかのベッドで夜を明かした。