001 よくある街のよくある迷子
目の前にはいかにも異世界っぽい噴水。後ろにはゲートなんてものはなく元の世界に戻れそうではなかった。
異世界転移してから最初にやることとはなんだろうか。
ヒロイン探しだろうか。それとも、武器探しだろうか。マップ探しだろうか。
否。
現在の時刻は午後6時である。現実世界であれば。そんな人間が転移して必要だと思うものは1つ…
「食料」である!!!ドヤ
…グゥ
早く食料探さなきゃ。でも金無いや。うわぁー異世界転移させたやつ出てこいよ。飢え死にとかごめんだぞ?
そんなことを思いつつ、歩きながら、食料を売っている店を血眼で探した。
歩いているのは体力温存のためだ。
どこだどこだどこだ!
食べ物が大事だとうちの母がよく言っていたがようやくその意味を心から理解した。
「…今度から野菜残すのやめよ」
こっそりとそんな誓いをたてた。
そこから2分くらい歩いていると、その途中に迷子になったらしい6歳くらいの女の子が端っこで泣いているのを見かけた。
見過ごせないっ!!
異世界転移して迷子見つけたらその親が果物屋経営してて食いもん分けてくれるに違いない!
僕はそのフラグを疑わなかった。
「君、大丈夫?迷子?」
テンプレみたいな台詞で僕は女児に近づいた。ロリコンと言われれば言い逃れはできない状況ではあったが、牢屋にぶち込まれれば、まだ食事出来るだけマシだとかそんな事を思った。
「ヒグッ…ウエッ…」
そんな嗚咽を繰り返す少女にもう一度声をかける。
「君、迷子になっちゃったの?」
「…ヴン…」
鼻声でそう答えた。
「じゃあ、お兄ちゃんと一緒にお母さん探そうか!」
幼児番組のお兄さん的存在になりきって、そう答えた。
「ママは…いない…」
「あっ…」
思わず声が漏れた。
あー。コレ家庭事情があれな奴かー。たまーにあるやつかー。俺一番やっちゃいけないことしたやつかー。
リアルでは経験したことがない応対に何と声をかけばいいのか分からずにいた俺に女の子は答えた。
「…パパとはげれた」
「はぐれた」というセリフを可愛く言う世界選手権があればこの子が優勝に違いない。
「…じゃあパパを探そうか!」
元気なお兄さんキャラで通していく。
頼む!パパ!食いもん分けてくれ!
それしか思えないほどに、俺は猛烈に腹が減っていた。乞食と言われても返す言葉は何も無い。
同情するなら金をくれ。
という言葉を思い出した。