98章 追い込み
ドラゴネル帝国連合軍は、約束を守り一日の休戦を保った。39万のドラゴネル帝国連合軍とレジェンドの16000の兵士たちが、壁を境にして、同じ一日を過ごすという稀有な状況のまま時間は過ぎていった。
その時間は、レジェンドにとって良かったのかは、分からなかった。1万の倒したはずの兵士たちもビックボアにやられたその怪我を治療しはじめたり、落とし穴に入れられていた大勢の兵士たちも助けられてしまったからだ。土に埋もれていた兵士たちも助け出されていた。
―――夕方にさしかかると、ドラゴネル帝国連合軍が、立ち上がり、列を組んで、総指揮官の号令を待つ。
一日の時間の間に、ドラゴネル帝国連合軍の攻城兵器も建てられ、準備万端で待ち受けていた。
しかし、兵量は制限されているので、前日に比べて元気がないようにみえた。昨日の源の戦いをみて、セルフィと出会った時のことを考えて恐怖しているのもあるのだろう。
賭けに負けた総指揮官は、不機嫌な態度で、赤色に塗られた指揮棒を振りかざした。
「あの村を落とせ!!」
その号令とともに、ゆっくりと大軍が、レジェンドの壁へと向かってきた。
源は、空を飛びながら、右手を挙げて、命じた。
《放て!!》
それは伝言係に伝わり、一斉に壁を守るレジェンド戦士へと伝達されると、壁に並べられた大型ビックボウが一斉に放たれた。
ビックボウが造られてはじめて使用されることとなる。
カーボン製で出来たビックボウは、ロックが持っている中型のものではなく、巨大で、その威力は、源がリトシスで投げた鉄球と変わらないほどの威力をみせる。
飛距離もあり、一度放たれた巨大な矢は、大量のドラゴネル帝国連合兵士を道ずれにして飛びかう。
ドラゴネル帝国連合軍も矢の攻撃が来ることは、当たり前のように理解しているので、前列は、盾を持っていたが、その盾さえも貫いて、後ろへとダメージを残していった。
前衛の盾がなくなると、ビックボウの威力を封じるものはなく、一直線に、巨大弓矢は、兵士たちを貫いていった。
本体はカーボン製だが、その矢は、比重の重いグラファイトで作られているので、鉄であっても貫いてしまう。
そのビックボウの威力に、ドラゴネル帝国連合軍の兵士たちもたじろぐが、それでも、後ろから押されるように前へと進んで行く。すべての兵士を倒せるわけもないが、次々と兵士たちは、倒されていった。
その後ろからは、ドラゴネル帝国連合軍の攻城兵器による投石機が、用意されていて、次々と2mほどの巨大な丸い岩が、レジェンドの壁を超えて、投げ込まれていった。
しかし、源は、ドーム天井につながっているグラファイロープを手につかんで、リトシスを発動させていたので、大きな丸い岩は、ドーム天井ですべて止められ、それどころか、その岩は、転がっていき、レジェンドの壁の方へと流され、各穴へと落ちていった。その穴の先には、レジェンド側の投石機があり、敵の岩がそのままレジェンドの武器となって跳ね返って連合軍へと投げ変えされてしまうのだった。
レジェンドの壁から逆に投げ返されるかのように2mの丸い岩が飛んでくると、帝国兵士たちもそれに当たり、吹き飛んでいく。
そのような仕組みになっているとは、当然考えないドラゴネル帝国連合軍は、次々と投石機で岩を投げていき、損害を広げ続けた。
長いはしごなどを壁に立てかけて、登ろうとするが、レジェンドの壁は、花のようなカーブになっていて、しっかりと安定して登ることができない。はしごの1つが横に倒れると他のはしごも、ドミノ倒しのように倒れて邪魔をしていた。
登っている間にも、次々とビックボウの巨大矢や投石機の岩などが飛び交い、ドラゴネル帝国連合軍は、数を減らしていくが、人数が人数だけにいくら楽しても、一向に減らない。
源は、壁に大量の兵士たちが、押し詰めあっているのを確認すると、右手を挙げて、グラファイロープで、仕掛けを発動させた。
壁から50m付近の地面が突然、壁づたいに扇状の穴が開き、大量の兵士たちが、一斉に穴にはしごごと、落ちていった。
そして、すぐに、地面の穴は閉じられ、その50mの幅には、兵士はいなくなった。
しかし、後ろからはドラゴネル帝国連合軍の兵士が押してくるので、また50mのその位置に兵士たちが一杯になって集まっていく。
巨大な穴に落ちていった5000人ほどの兵士たちは、穴の中に消えて、またその場所に兵士たちが殺到しはじめると、次は、源は左手をあげて、合図をすると、源のマナの能力の1つである氷守を発動させた。
レジェンドの村よりもさらに100mも広い巨大な氷の壁が、一瞬で作られ、まるで、レジェンドを守るかのように、氷のドームが形成された。そして、その氷の壁と後ろの兵士たちが隔離されてしまったようになった。
源の氷守の壁は、5mもの分厚い壁なので、外から攻撃して開けるのも、少し時間がかかってしまうのだ。
レジェンドの壁と氷守の壁の間には、ドラゴネル帝国連合軍の兵士が1万人、閉じ込められるような形になった。
氷守は、空にも広がった球のようなものなので、空からもレジェンドには入り込むことは簡単にはできない。
レジェンドには、3つの大きな扉がある。西口が中央で、その他に南口と北口だ。東側は、ウオウルフの岩山に阻まれて、さらにレジェンドの壁があって誰も入り込めない。
ウオウルフの1万匹のうち、2500匹は、北口。そして、南口にも2500匹が待機していた。
そして、中央の西中央には、源だけが、大きい扉の前で待機していた。
通信で源は号令を出す。
《ウオウルフ2500匹隊の2チームは、外にいる1万のドラゴネル帝国連合軍に作戦通り飛び出す
合図とともに、出て、合図とともに素早く戻ってこなければ、レジェンドの扉は閉じられる。だから戦いながらも、空に打ち上げられる合図を確認しながら、敵をたおせ!》
その指示が、伝わると、レジェンド内にウオウルフたちによって、大きな吠える雄たけびが、こだまする。
ウオオオオオーーーン!
《突撃ィ!!》
源の号令と共に、グラファイト装備を着たウオウルフたち2500匹の2チームの前の扉が開いた。この大きな扉も源のリトシスで、開閉可能になっている。
レジェンドの壁のまわり100mの範囲に壁と氷に閉じ込められるかのように集まっているドラゴネル帝国連合軍の1万に次々とウオウルフの2チームが、北口と南口から飛び込んでいった。
ウオウルフたちの鎧には、ウィングソードという飛行機のような刃物がついているので、走り抜けるだけで、ドラゴネル帝国連合軍の兵士たちを斬り捨てていくことができる。
低い位置から次々と走り続ける5000匹のウオウルフたちを止められるドラゴネル帝国連合軍の農民兵はいない。
その2カ所には、ギガントウルフたちも含まれていて、3mもの大きなウオウルフは、閉じ込められた1万の兵士たちを次々となぎ倒していった。
そして、中央の西口の扉には、源だけが立っていた。
レジェンドの作戦4:セルフィの武器
源が手にしていたその剣は、あまりにも長かった。
黒くて長く、グラファイトで作られたものは、ダイヤモンド級の強度を持った特別サイズのロングソードだった。ロックでさえも扱えないその重すぎる異様なロングーソードを使えるのは、源しかない。
このアイディアを考えたのも、レジェンドのみんなだった。巨大な岩をも使えるセルフィならそのような武器も使えるのではないのかというアイディアが募集した紙に書かれていたのだ。
宙に浮かびながら、10mもある長さのグラファイトソードを手に持って、源は、西口の壁を開けることもなく、飛んで壁を超え、一番兵士たちが集まっている中央の中にたったひとりで、入り込んだ。
そして、源が、横一線に、ロングソードを振り回すと、リトシスの効果で一斉に20mの兵士が斬り倒されていった。扇状に、不自然に、兵士がいなくなる。
この中央には、ウオウルフたちは近づいてはいけないという指示をしているので、味方は誰も源とは出陣せず、たったひとりだけで一番兵士の数が多い中央西口に、源は突入した。
まわりが敵の兵士ならロングソードはその威力を発揮する。
源はぐるぐると回転しながら、剣を振るだけで、大量の兵士たちが倒されていった。
北口と南口から突入したウオウルフたち5000匹も、ほとんど被害なく、ドラゴネル帝国連合軍の兵士を倒していく。1万の兵士を5000匹とひとりが、倒すのもそれほど時間がかからなかった。
レジェンドの壁で様子をみていた合図する係りの女性戦士は、セルフィが作った氷守が、外側から破壊されはじめたのを確認すると、グラファイロープを引っ張った。
筒の中から花火が飛んで、バンっという合図の音が鳴ると、一斉に、5000匹のウオウルフも、源もレジェンドへと戻っていき、源は、北口と南口の扉をリトシスで閉めた。
《被害報告!》
と源が指示をだす。
《ウオウルフB班は、被害0です》
《ウオウルフA班は、被害0です》
時間が空いて、他の報告が入った。
《ウオウルフC班は、被害が5匹ありました。仲間のウィングソードによる怪我だということです》
外で戦ったA班とB班は、被害が0で、源と一緒に1万のドラゴネル帝国連合軍の兵士を倒しきったのだ。
ウオウルフC班は、どこにいたのか。それは、氷守に閉じ込められた後続の1万のドラゴネル帝国連合軍の兵士ではなく、先に落とし穴に落とされ、地下の大広間に落とされた5000人の兵士と戦った。5000匹のウオウルフだった。
地下には光りは、ほとんどなく、暗闇だった。
ドラゴネル帝国連合軍の兵士の5000人の兵士たちは、突然地面に穴があいて、地下広場へと落とされていった。落とされただけで大けがをしたものもいた。
そして、すぐにその穴も閉じられると、光りはほとんどない空間に取り残された。
しかし、落ちた後、光りがあるところで見ていた兵士たちがいた。それは、5000匹も超えるウオウルフが装備をつけて待ち構えていたものだった。
すぐに光が消えてしまい見失うが、その暗闇の中、ウオウルフは、5000人の兵士へと突入したのだ。
レジェンドの作戦5:地下空間にドラゴネル帝国連合軍の兵士を落として、暗闇の中をウオウルフ軍が倒す
暗闇の中でも視覚を発揮して物をみることができるウオウルフが、落ちてきた兵士たちを地下室で倒すというものだった。ドラゴネル帝国連合軍の兵士の中で、火が使えるマナを持っているものが火をつけるが、それはまた、恰好の標的となって、倒された。
突然の暗闇でこのウオウルフ軍に勝てる兵士は、それほどいない。
―――ドラゴネル帝国連合軍の兵士の氷守の外側に取り残されたものたちは、5mの厚さの氷を壊したり、マナで溶かしたりしながら、なんとか氷の壁をぬけてきたが、壁を抜けたあと、驚愕した。
なぜなら、中にいたはずの1万人もの兵士たちが、倒されていたからだ。
氷の壁を壊すまでに15分ほどしかかかっていなかったのに、その間に1万もの兵士たちが、倒されていた。しかも、その目撃者もいないので、何が起こったのかまったく分からなく奇妙すぎて、恐怖におののいた。
総指揮官はその想いを口にした。
「一体・・・何が起こったんだ・・・・?」