96章 シンダラード森林侵攻
空襲部隊と騎馬を失ったドラゴネル帝国連合軍は、行進のスピードを落としていた。
ドラゴネル帝国上院議員サネル・カパ・デーレピュースが来てから10日経ったが、まだ40万の本体は到着していない。
だが、サネル・カパ・デーレピュースから手紙が送られてきたが、やはりドラゴネル帝国連合軍は、レジェンドへの攻撃はやめないという結果だった。サネル・カパ・デーレピュースは、皇帝を説得できなかったのだ。
源は、ユダ村の龍王の遺跡から持って来た幻の素材ミスリルを使って、3000人の農民兵と3000匹のドラゴネットにも武具を与えていった。
戦争後は、農民兵には返却してもらうが、それまでは、鉄の2倍の強度がありながらも、羽のように軽いミスリル装備を人々に配ることができた。ミスリルは、その素材で完成されているので、カーボンナノチューブとは違って時間はかからない。
ミスリルの特性を利用して、アイスドラゴンのフレーにも、武具を用意した。
レジェンドの村人全員から戦争に役立つアイディアを募っていたが、それで使えそうなものを準備した。時間さえあれば、色々なものを試したいところだが、時間は、十数日間という時間だけだった。
この時間で出来ることを実行した。
まず、戦うであろう人数は、40万だ。後続から20万とさらに20万が、レジェンドを通過地点として、やってくる。
こちらの戦力は、16000。
装備こそこちらのほうが上かもしれないが、数が圧倒的に違いすぎる。無謀すぎるとしか言えない戦いだが、こちらの希望の光りは、ドラゴネル帝国の兵量不足だ。
空襲部隊があと何千いるのか、そして、騎馬隊が何万いるのかは分からないが、これらもまだまだいると考えたほうがいい。そして、兵量不足にもかかわらず、その進む距離を遅らせることにも成功したのだ。
源は、出来ることを終えると、レジェンドの皆を集めて、最後の状況報告をする。
ウオウルフ1万匹。
レジェンドの戦士1200人。
ウオウルフ70匹。
生き残った農民兵4000人の約16000の兵力を集めた。
皆は、源の姿をみると、鼓舞するかのように、声をあげてくれた。
源は、高台の上に、ガラススペースを置いて、声を静止させ話しをする。
「明日、帝国軍は、このレジェンドにやってきます
最初に押し寄せる敵の兵力は、40万です。これに勝利することはできないでしょう
ですが、敵は、ここまで来るために数日間を使いまた兵量を減らしています
帝国軍は、レジェンドという村に時間を割いている余裕はないでしょう。ここで粘れば粘るほど、貧民地の人たちのいのちは救われます
帝国連合軍は、確かに数は多いですが、彼らの95%は、農民兵です。5%の4万は、精鋭である戦士たちですが、全体のほとんどが徴兵で駆り出された農民兵だと考えれば、撤退させることもできるはずです。勝てないまでも、こちらも負けない戦いにしましょう
引き分ければ、我々の勝利です
精鋭のうち、空襲部隊6000と騎馬隊2万は、すでに撃退しています。本当なら、帝国の農民兵を傷つけることもしたくはありませんが、そのようなことを言っている場合ではありません
明日からは、相手の生死関係なく、戦い抜かなければ生き残れないと考えてください
先に個別に攻めてきた空襲部隊と騎馬隊のものは、いのちは取りませんでしたが、明日はそうはいきません。全力でぶつかるだけです。すべての準備を整えました。作戦通り、皆で戦い抜きましょう!!」
レジェンドの戦士たちは、みな叫んだ。ウオウルフたちも雄たけびを上げる。
ギガントフルフとフレーの叫びは一段とまわりに響き渡った。
新しく作られ始めた小さな村レジェンドと35カ国の連合軍であるドラゴネル帝国軍80万の戦いが、刻一刻とちかづいていく。巨大な軍隊だけにいつ来るのかは、想定できる。
最後の日として、皆は、その日を過ごした。
―――ドラゴネル帝国連合軍本体40万が、夕方前に、シンダラード森林に入り込んできた。
その数の多さの怒気が、何もしなくてもレジェンドにまで伝わってくるほどだった。圧倒的すぎる敵の数に対して、真っ向勝負をしかけたら、さらなる時間稼ぎすらできない。
本当ならシンダラード森林に入り込む前からも攻撃をしかけて、本体の数を減らしたいところだったが、さすがにそこまですると、あからさまな攻撃をしたというレッテルが貼られると思いシンダラード森林まで、侵攻してくるのを待った。
源は、リリスと共に、アイスドラゴンのフレーに乗って、ドラゴネル帝国連合軍がを待ち構えていた。
連合軍が入り込もうとした時、源たちは、姿を現した。
フレーは、「グォオオオアオオ」という物凄い雄たけびをあげて、注目を集めた。
連合軍の兵士たちは、騒ぎ始める。
「ドラゴンだ!」
「本当に巨大ドラゴンがいるぞ!!」
源は、フレーから離れて、たったひとりで、大軍40万の前に現れ、大声で叫ぶ。リトシスでその声の振動と同じ振動を起こさせることで、それなりの大きな音を出した。
「ここからは、シンダラード森林の領域内になる。何人たりとも、無断でシンダラード森林に入り込むものは、攻撃対象とする。攻撃されたくなければ、この森を迂回して移動せよ」
何度も同じことを繰り返し、叫んでいると、騎馬に乗った騎士がやってきた。
「我はドラゴネル帝国連合軍の第一部隊の指揮官ルルミー・シュナウザーだ。お主は、レジェンドのセルフィなるものだとお見受けしたが、相違ないか?」
「あぁ。仰る通り、俺はレジェンドの総責任者のセルフィだ。レジェンドの主として、従事している。そのレジェンドは、何人たりとも、この森に入ったものは、ゆるさないと報告しておく。無断で入るなかれ!」
「レジェンドのセルフィ。お主は、すでに帝国連合の標的目標のひとりとして名が挙げられている。大人しく捕まれば、裁判にかけて、レジェンドにも温情を与えよう」
「先にレジェンドに攻め込んできたのは、そちらだ
こちらは、戦いたくはないと説明したが、帝国軍の空襲部隊と騎馬隊は、レジェンドに攻撃してきた
その帝国にこの森を入る権利はない。忠告しておく、森に入ったら侵攻したとして、こちらも攻撃をしかける」
指揮官は、源のいうことを聞くわけもなく、指示を出す。
「進めー!!」
すると、軍全体がまた前へと移動していき、森に入ろうとした。
35か国からの連合軍のためか統率というものがなく、隊列さえ無視して、各自バラバラな状態で、森へとはっていこうとする。
まるでピクニックにでもこれからいくかのようだ。
リリス・パームは、フレーに意思を伝えると、フレーは、大きく口をあけて、森の淵を氷の壁を作るかのように、ブレスを吐いた。
突然氷の壁がドラゴンによって造られたので、帝国兵士たちは、たじろいだ。兵士たちの笑顔が一瞬で消えた。
それでも、帝国軍は、レジェンドに向かって侵攻しはじめた。
帝国軍の大半は、農民兵だ。きちんと武装している農民兵もいれば、ボルフ王国のように武具とも言えないものを手に持っている兵士もいる。フレーのその存在におびえる者もいたが、みんなで渡れば怖くないという雰囲気で、森へと入って来た。
本当は、このような兵士たちを手にかけたくはないが、もう後戻りはできない。自分の家族であるレジェンドの村人とその親戚であるボルフ王国貧民地のために、戦うしかない。
源は、リリスに語りかける。
「リリス。行こう。もうやるしかない」
「分かったわ。セルフィ。これはもう戦争よ。戦争が開始されたのなら、実行するしかないわ」
「うん。そうだね」
ドラゴネル帝国連合軍40万は、シンダラード森林を覆い込み呑み込むかのように、行進をしてきた。このまま、何もせずにレジェンドまで、移動させるわけにはいかない。
レジェンドの作戦1:落とし穴
シンダラード森林の森の至るところに、大きな地下空洞を作った。
普段は、乗っても作動しない落とし穴だが、源がグラファイロープを持って、リトシスの効果で引くことによって、穴の入り口が開き、何人もの兵士たちが、次々と落ちていく。
10mほどの深い穴の底には砂や土があり、なるべく怪我をしないように作られているが、一回落ちてしまえば、そこから出ることは、中からは難しい。中には食料まで用意しておいた。
落ちるところをみていた人たちはいるが、後続は、人が死角となって、また、その穴に落ちていくのを繰り返す。
10m級の穴もあるが、巨大な20m級の穴もあり、その場合は、百人単位で、穴に落とすことができた。
それは落とし穴で下へと落とされるものだが、その落とし穴から掘られた土をつかって逆に、源が、リトシスで上から大量の土を落として兵士たちを埋めていった。まるで土石流のように、その場所だけ土の山となる。
ドラゴネル帝国連合軍が、大量にシンダラード森林を前進していくと、地下から怒鳴りのような振動が伝わって来た。
「なんだ?この振動は?」と兵士たちは、周りをみるが、その振動の発生源は見当たらない。
まわりに注意しながら進んで行くが、突然巨大なものが、大量に横から現れて、次々と兵士たちを弾き飛ばしていく。
その巨大なものは、モンスターで、何匹もの巨大なモンスターが、突然地下から現れて、一直線に走り抜けていく。まるで電車が走り抜けるかのように一列になって突進してくるものに、帝国兵士は止めることは出来なかった。
レジェンドの作戦2:ビックボア隊
200匹のビックボアにグラファイト装備をさせて、50匹のグループにわけて、5チームを編成した。
シンダラード森林のあらゆる地下には、アリの巣のような道を作り、シンダラード森林の地下から突然、ビックボア50匹の列が走り抜けていくというわけだ。
その一列のものは、リリス・パームによって空から統制され、また地下の入り口に入っては、違う場所から突然出てくる。
巨大なビックボアの列に、農民兵である帝国連合軍が、止められるわけもなく、ビックボア隊が出れば出るほど、被害が広がっていく。
レジェンドの作戦3:空襲部隊
ドラゴネル帝国連合軍から奪ったドラゴネットの3000匹に乗って、3000人のレジェンドの兵士たちが乗って、空からボウガンで攻撃を続けた。向こうからは届かない距離から安全に攻撃をしかけていった。
しかし、帝国軍の数は40万なので、それでも進む人数は圧倒的に多い。
落とし穴やビックボア隊、空襲部隊によって、かなりの攻撃をしたが、それでも全体からいえば、微々たるものになってしまう。
しかし、レジェンドに本体が到着するまで、これを続けるしかない。
落とし穴に落ちれば、一番安全に捕らえられる。
また、リリスは、フレーと一緒に一カ所を戦場にして、帝国兵士たちを次から次へと凍らせていく。
地に降りれば、的になってしまうので、空からブレスで、攻撃を繰り返す。
この一帯は、巨大なドラゴンによって混乱が生じるが、他の場所の兵士たちは、さらに進んで行く。
リリスは、ビックボア200匹とフレー、そして、ドラゴネット3000匹を同時にコントロールしながら、少しでもレジェンドを囲む人数を減らそうと攻撃を繰り返した。
弓矢なども大量にフレーやビックボア、空襲部隊に放たれたが、鉄の矢程度であれば、ミスリル装備やグラファイト装備をしているので、弾くだけだった。
リリスもフレーの上に乗っているので、矢はそれほど降ってこない。飛んできたとしても、カーボン製の鎧は、リリスを守る。
源は、森の中に運びこまれている攻城兵器を見つける度に、攻撃をしかけて、兵器を壊していくが、すべての攻城兵器を破壊できなかった。
そして、帝国側も、巨大モンスターたちを出して来た。その巨大モンスターたちをビックボアとぶつけることで、その攻撃をやめさせようとしてきたのだ。
リリスは上手に、そのモンスター隊をかわして、一般兵への攻撃をするが、じわじわとビックボアにも、巨大モンスターの攻撃が当たるようになってきた。
その中でも、とびきり大きな亀のモンスター10匹が、巨大モンスター隊の指揮官らしきものを背に乗せて、ビックボアの進路を妨害しはじめた。
源は、その巨大タートルの上に飛び乗って、巨大モンスター隊の指揮官らしき獣人に話しかける。
「俺はレジェンドのセルフィという者だ。降伏すれば、助けてやると言っても、どうせ降伏しないよな?」
「当たり前だ。我らがビックホーガン隊にかかれば、どんな城も立ちどころに崩壊させてみせる。お前たちは、我らのモンスターに踏みつぶされるだけだ」
「分かった。じゃー猶更、お前たちを先に進ませるわけにはいかないな」
源は、巨大モンスターや巨大な亀の甲羅にグラファイロープを付けていく。源は、10匹の巨大タートルや巨大モンスターを連れて、上空へと昇っていった。
巨大モンスターに乗っていた騎士たちは、驚いて慌てるが、他の兵士たちは、シンダラード森林の木々に阻まれて、その光景を見れる人は少なかった。
源は、上空1000mにまで、巨大部隊を持っていった。
「このまま俺が手を放せば、お前たちは、下に転落していくだけだ。降伏するか?」
指揮官は、脅えながら叫んだ。
「わ・・・・分かった!降伏する!落とすな!」
源は、このまま落としたほうが、兵士への被害を与えながら、時間短縮にもなるのだが、降伏したものを下に落とすこともできないので、素早く移動させ、数十キロ先の山の上に巨大部隊を降ろして、戻った。
ドラゴネル帝国軍は、あらゆる森の中の仕掛けに翻弄されるが、それでも湖を超えて、レジェンドへと進んで行った。
数時間の間に、1万近くの損害を出させたが、ドラゴネル帝国連合軍が、レジェンドの前に、整列した。レジェンドの壁から数百mほどの距離を保って、帝国連合軍が、対峙した。
そして、巨大な咆哮をあげはじめ、その音は、レジェンドへと響いた。
源とリリス、空襲部隊も、レジェンドへと戻った。