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93章 レッドアビリティ

ドラゴネル帝国連合軍の兵量を大量に奪うことで帝国連合の退却を狙ったレジェンド調査団の作戦が功を奏したのか、ドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊6000だけが、先にレジェンドに侵攻してきた。


レジェンドは、返り討ちにし、それら空襲部隊の飛行能力をすべて無効化させた。600の羽を持つ鳥人系モンスターたちは、羽を削いだのだが、また回復されると再度攻撃されてしまうので、地下で幽閉させた。

そして、レジェンドは空を飛ぶモンスタードラゴネット3000匹を手に入れることができた。

レジェンドにはリリス・パームがいるので、帝国兵士よりもドラゴネットを友好的に操ることができるかもしれない。


戦争が終われば、無事に自由にするつもりなので、捕虜にも食事を与える。


源はしなければいけないこと、1万のウオウルフと4000の逃げ延びたボルフ王国農民兵の鎧作成を続ける。時間をかけられないので、グラファイトで作るしかない。


なるべく効率よく作れるように、10匹のウオウルフに手伝ってもらう。10匹のウオウルフを台の上に立たせておいて、両側からまるでプレスするかのように、グラファイトを乗せた、板で挟み込む。もちろん、リトシスを発動しながらだ。ナノレベル単位で制御できる源は、発動させる場所と発動させない場所に分けて作業を行うことができる。


そして、すでにウオウルフで作られている鎧を使って、板の型を作っているので、その板をまた両側から10匹のウオウルフにプレスすると、一気に10個の雑な鎧の形のグラファイトを作ることができる。もちろん、それはウオウルフの体のサイズだけの部分で、パーツ事に分かれている部分は別の型で一気に作り上げる。そして、源が調整して、鎧に変えていくので、かなりの時間短縮を可能にした。


粘土をこねるだけでも大変だからだ。


ただ、これは平均的なウオウルフのサイズなので、一匹ずつ微調整を後でしていかなければいけない。微調整を済ませたウオウルフは、そのまま地区長の指示で相棒を決められていく。装備をすぐに着させてくれる人間の相棒だ。


今回は、2000人のレジェンドの村人はユダ村へと避難するので、担当となるのは、戦士になるが、戦士は2匹以上の相棒のウオウルフをまかせられてしまう人も出てくる。


もちろん、助けた4000人のボルフ王国農民兵もそれぞれ1万のウオウルフたちと相方として組んでもらう。


だが、それらは、平均的なウオウルフのサイズの場合だが、今回援軍として、来てくれたウオウルフの中に、とびきり大きなウオウルフが10匹いた。


その中でも大きかったガウブというウオウルフは、普通のウオウルフの大きさの2倍もあったのだ。普通の狼の6倍もの大きさなので、3m以上になるほどの大きさだった。ロックよりも巨大なのだ。


これだけ大きいと、問題が出てくる。あまりにも大きいので、ウィングソードを取り付けるとスペースを使ってしまうということだ。横幅だけでもウィングソードの先を含めれば3mにもなってしまう。チューソードはそのまま特注サイズで作ったが、ウィングソードは、折り畳み式にしてみた。戦う時だけ伸ばせるようにしたのだ。


また、普通のウオウルフには出来ない攻撃。巨大なしっぽにも、武器を取り付けてみた。鉄球のような武器だ。刃物にすると自分を傷つけてしまうかもしれないからだ。


そして、背中には、前面方向に向けた2つのビックボウを取り付けた。

壁に設置してある巨大ビックボウではなく、ロックと同じ中型のビックボウだ。

前に進むほど、自動的にゆっくりと矢が装填されていく。じわじわゆっくりと装填されていくので、さほど抵抗なく、気づいたら矢が装填しているという仕組みだ。自転車の一番ギアが小さいものよりも、さらに小さい力で装填できる。


これら巨大なウオウルフ10匹は、ウオウルフの特殊戦力として、帝国連合軍の強い相手と戦ってもらうことにした。


彼ら10匹は、ギガントウルフと命名した。


この前の兵量奪取作戦の時にいたウオウルフ2匹を倒した黒姿のような強い敵には、源・ロック・リリス・ギガントウルフ・アイスドラゴンのフレーなどが相手をすることになる。


レジェンドの兵士たちには、そのような強者を発見したらすぐに場所と特長を連絡するように指示をしている。


―――調査団が兵量を奪った日から10日が過ぎた。そして、レジェンドの3700名の村人の中の戦わない2000名は、巨石飛行物トーラスに、食料を乗せて、約3500km離れたユダ村へと避難することになる。


すでにリリスの鷲を使ってユダ村には、手紙と了解をもらっている。


2000名のレジェンドの村人たちは、戦士として戦う家族たちと別れを惜しみながら、トーラスへと乗り込んだ。


その10日の内に、彼女たちは、あらゆる保存食を作ってくれていた。なるべく炊事などに時間を割かなくてもいいような工夫をしてくれていたのだ。


レジェンドからユダ村まで、リトシスで行って帰って来るまで約2日かかるが、その間に、敵が来ないことを祈るばかりだ。


源は、1日かけて、巨石飛行物トーラスでユダ村に2000人を連れていくが、その道中で、人間の大勢の兵隊がボルフ王国へと向かって進行していたのを見かける。


ほとんどが人間で、ドラゴネル帝国連合軍とは別行動で動いているところからみて、ワグワナ法国の軍勢だろうと思われた。

巨石飛行物トーラスが空を飛んでいるのをみて、とても驚いている様子だった。

時間があれば、ワグワナ法国の偵察や情報を得るところだが、今は一刻の時間もおしい。そのまま進み、無事に2000人をユダ村に連れて来ることができた。

本当ならこの巨石飛行物トーラスを置いて、戦争が終わるまでは、これを避難場所の建物のように2000人に使わせるべきなのだが、今回は、何が起こるのか分からなく、戦争に負けて逃げる時に必要になるかもしれないので、アイスドラゴンがいた広い空間を待機所として、使ってもらおうと考えた。龍王の遺跡なら雨風も防ぐことができるし、地下なので、持って来た食料も長持ちする。


源は、ユダ村シャルロイ・ジャジャ司祭に少しだけ挨拶をした。そして、龍王の遺跡をみせてもらうことにした。2000人のレジェンドの村人は、龍王の遺跡で戦争が終わるまで、過ごしてもらう。


龍王の遺跡には、多くの種類別に分けられた大量の資源が大広場に置かれていたので、何か使えるものがあるのかを再度確認しようと思った。せっかくユダ村に来れたのだから、何か役立つ素材を見つけたい。


前回、龍王の遺跡に来た時に、一通り資源をみてまわったが、戦争にすぐに使えるようなものといえば、火薬だった。その他は、愛の情報と照らし合わせて、とくに戦争で、使えそうなものは無かったが、視認しただけで、その素材を想定していただけの情報だったので、改めて、使える素材を龍王の遺跡の大広場に行って、飛びながら探す。


『源。右隅あたりにある七色に光る物質は、何なのかは分かりません』


愛が気にかかったようだったので、源は、その素材の場所に行き、手に取ってみた。

その素材は物凄く軽かった。石のように固形化していたが、その素材自体が、まるで綿わたのように軽いのだ。全体的には、黒色だが、光りの屈折、当たり具合で、7色に光って見える。


リトシスを発動しながら、確認する。


『源。この物質は、現実の世界では存在しない未知の素材です』


『未知の素材?』


『はい。源。この物質は、あまりにも軽すぎます』


源は、その七色に光った物質の鉱石をそっと手に集めて、さらに大きな固まりにしてみた。

固まりにして、両手に収まるほどの固形物にしたのに、それでもかなりの軽さだ。まるで鳥の羽のように軽い。軽いので、その素材を落とすと、空気の抵抗で少し軌道からずれて落ちるほどだった。


『源。現実にはない素材ですが、この素材に近い架空の素材が現世でも空想小説などには存在しています』


『その架空の素材の名前は何て言うんだ?』


『ミスリルです。源』


『ミスリルか。どこかで聞いたことがあるような素材名だ。その架空の素材の特長はどのようなものだと言われているんだ?』


『羽のように軽いですが、鋼よりも強度があり、銀の特性を持っていて、熱伝導力も高く、七色に光る素材です。源』


『あれだけ軽いのに、鋼よりも強度があるのか?』


『それは架空で言われていることですが、今、源が固まりとして作ったものは、鋼の2倍の強度がありました。源』


2倍か。カーボンナノチューブと比べれば、やはりカーボンの装備のほうが使えるかもしれない。でも、時間がない今は、カーボン製の装備を4000人の農民兵に渡すことができないので悩んでいた。


以前からいたレジェンドの戦士たちは、男女1200人は、カーボンとグラファイトを併合させた装備を与えているが、農民兵には、鉄主体の鎧しか与えられないだろうと考えていた。だが、このミスリルは、すでに素材として存在しているから、これを使えば、彼らにも軽くて、強度がある装備を与えられると思った。ドラゴネットにも装備を付けることができるだろう。


源は、この素材の名前は不明だが、ミスリルということにして、大きな固形状にしてから大量のミスリルを飛行物トーラスに火薬と一緒に乗せた。


そして、シャルロイ・ジャジャ司祭様にお礼を言って、レジェンドへとまた1日かけて戻った。



―――レジェンドの壁の外には、大量の赤い血痕が広がっていた。


源は、急いで司祭様のところいって確認をしようと向かうが、ウオウルフの中には、治療班の治療を受けていたものたちがいた。


「司祭様!敵が攻めてきたのですか!?」


「セルフィ様お帰りなされたか。そうですじゃ。今日の昼、敵が攻めてきたのですじゃ。そして、リリス殿が・・・」



―――源がレジェンドに向かっていた日の昼。レジェンドの警戒音が南側から鳴り響いた。


レジェンドの兵士たちは、一斉に、装備をしはじめる。


リリスも、リリスの動物たちも、装備を装着して、総指揮官のローグ・プレスの元へと向かった。ボルア・ニールセンとロックもローグ・プレスのところに来ていた。遅れてウオガウも集まった。


「セルフィがいないけど、大丈夫なの?」


ローグ・プレスは、答える。


「セルフィ様がいないのは、しょうがない。自分たちで乗り切るしかない。むしろ、この敵が来る前に2000人がユダ村に避難できたことはよかったことだと思う。それにセルフィ様は、今日にでも帰ってこられるのだから、持ちこたえれば、なんとかなるだろう」


ロックは、質問する。

「あくまで籠城で、守り切るということか?」


「そうだな・・・セルフィ様が10日間でウオウルフ10000匹に武具を用意されている。ウオウルフ隊は10000匹。そして、レジェンド戦士が、1200人だ。農民兵4000人は、武器はあっても防具がないから籠城で無理をすることなく、戦ってもらうことになるだろう」


リリスは、作戦を立てて居る間にも、鳥たちを飛ばして、索敵をかけていた。

敵は、ドラゴネル帝国連合軍の騎馬隊だった。数はおよそ2万ほどだろうということだ。同じように、ウオウルフの監視役が戻り、ウオガウに報告をいれた。


「空から動物たちに調べさせたけれど、約2万のドラゴネル帝国連合軍の騎馬がこちらに向かって来ているわ。歩兵はまったくいないようよ。空襲部隊もいないわ」


ローグ・プレスは、言った。


「騎馬隊か・・・どうりで速いわけだ・・・。前回の空襲部隊のように速度がある騎馬隊だけを送り込んで、レジェンドを倒せると踏んだのかもしれないな。ワーム・トスを呼んでくれ!」


調査団に参加したワーム・トスは、通信マインドシグナルローを使える戦士だった。

通信マインドシグナルを使って、ローグ・プレスは、指示を出す。


《ドラゴネル帝国の騎馬隊2万がここに迫ってきている

ウオウルフ1万は、規定どおり3つの入り口前でそれぞれ待機。


1200人の戦士は、壁の上から籠城して戦う。


そのサポートを4000人の農民兵がしてくれ。


今回の標的は移動力のある騎馬やモンスターだ。なるべく、兵士は殺さないように戦ってくれ。

強い敵を発見したらすぐに知らせてくれ、強い敵はロックとリリス・パーム、そして、ギガントウオウルフにまかせろ。セルフィ様が来るまで、なんとしても、レジェンドを守り抜くんだ!》


その指示を伝言係が、レジェンド全員に伝えていく。


その指示を聞いて、リリスは、ローグ・プレスに言う。


「騎馬を狙って、兵士は殺さないようにするなんてことで、本当に守り切れるの!?」


「セルフィ様は、帝国とも戦争はしたくないという考えだ。なるべく、帝国側の被害者も抑えたいと思われている。できるだけ、それに沿うように動こう」


警戒音は、レジェンドに鳴り響き続ける。その鳴る音だけで、ある程度の敵の数と速度などが予想することができる。リリスは、相手に加減しながら、戦えるとは思えず、浮かない顔をしていた。


リタ・パームが、心配そうにリリスに近づき話をする。


「リリ。これだけの動物たちがいるのなら、貴方の能力は十分発揮できるはずよ

普通、妖精族は、数匹程度の動物しかコントロールはできないけれど、あなたは特別よ

今のところあなたのコンタクトは、際限がない

だから、効率よくあなたが、動物たちをコントロールすれば、今回も乗り切れるわ

そして、妖精族の種族スキルのひとつは、レッドアビリティよ」


「レッドアビリティを使えというの?」


「そうよ。操る動物たちの隠された能力を無理やり妖精族の特性で引き起こすのよ」


「そんなことをしたら、動けなくなってしまうでしょ?」


リリスは、何度かレッドアビリティを動物たちに行ってきたことがあった。これを使うと、動物たちは、細胞が活性化するかのように、俊敏に動いたり、力を出せるようになる。

でも、その反動で体を痛めてしまったり、その後に体のだるさが、残ってしまうのだ。


「もちろん、効率よく使いなさいということよ

はじめからレッドアビリティを使ってしまえば、自滅してしまうわ。それを見極めて、使うのよ。第二の誕生をした妖精族なら、その効力はさらに凄いと伝えられているけれど、今のあなたでも、深く動物たちとコネクトできれば、レッドアビリティは、使えるはずよ」


「分かったわ。やってみる」


リリスは、すぐにローグ・プレスに通信マインドシグナルで報告した。


《ローグ・プレス。リリスだけど、ウオウルフは、わたしの指揮の元で、戦ってもらってもいいかしら?わたしは動物たちとコンタクトが取れるの。動物全体の意識を共有できれば、さらにウオウルフ軍は、強くなれるはずよ。もしよければ、ウオウルフたちには、わたしに少し意識を向けるようにしてほしいの》


ローグ・プレスは、少し考えたが、リリスにまかせることにした。


《突撃の合図は、こちらがするが、戦いの最中などの指示は、リリスにまかせる。ウオウルフ10000匹は、リリス・パームに、従うように!ウオウルフは、リリス・パームに意識を向けるように》


伝言係が、それをウオウルフ達に伝えると、理解したのか、「ウオオオン」と大勢のウオウルフたちが、吠えた。


リリスはすぐに目をつぶって、ウオウルフたちとコンタクトをはじめると、ウオウルフだけではなく、大勢の動物たちの情報が、各自ウオウルフたちにも伝わり、全体を把握できるようになった。


ローグ・プレスは、中央の扉、西口の壁の上に立って、敵を待つ。


次々と騎馬に乗ったドラゴネル帝国連合軍の騎馬隊が、レジェンドのまわりを囲み始め、整然と隊列を組み始める。種族はバラバラだ。鎧も違えば、騎馬も様々で、馬でさえないモンスターもいる。


騎馬隊の指揮官らしき人間が、西入り口前の扉まで、移動してきた。そして、断固たる意思を持っているかのように大きな声で宣言してきた。


「シンダラード森林の村レジェンドは、ドラゴネル帝国に弓を引いた。帝国連合軍の空襲部隊を襲い攻撃をしたことは、すでに確認済みだ。降伏して、扉を開けよ!。そうすれば、大勢の命の保証はしよう」


ローグ・プレスも、大きな声で返答する。


「我々レジェンドは、帝国と戦いたくはない。帝国空襲部隊にも、そう伝えたが、あなたたちが、無理やり攻撃をしかけてきたのだ。レジェンドは無視して、先に進めばいいだろう」


「ここで見逃せば、お前たちが後ろから攻撃してくるかもしれない。お前たちが、帝国に逆らわないというのなら、扉を開けよ!さもないと、こちらは、武力に訴えて、扉を開け、制裁を与えなければならない」


「レジェンドの扉は、解放されることはない!」

ローグ・プレスが、そう宣言すると、帝国指揮官は、手で合図を送る。


「構えよ!」とう伝令が広がると、帝国の騎馬に乗った大勢の騎士たちが、馬にのせている弓を構え始めた。


「放て!」という号令とともに、大量の矢が、レジェンドの壁の向こうへと飛ばされていった。


しかし、レジェンドの上には、ドーム状に張っているグラファイロープで編まれた網があるため、すべての矢は、レジェンドには入り込まなかった。


何度も、帝国軍は、矢を放つが、結果は同じだった。


ローグ・プレスは、戦士たちに号令をかける。


「攻撃準備」


レジェンドの壁の上から中型のビックボウが並べられ、レジェンドの戦士たちが構える。大型のビックボウは威力がありすぎるのでまだ使わない。


ローグ・プレスは、号令を出す。

「放て!」


レジェンドの20mの高い壁から矢が放たれた。


それらの矢は、帝国連合軍の兵士ではなく、乗っている騎馬やモンスターなどに集中して、飛ばされた。


レジェンドの弓は、帝国連合軍の騎馬の鎧を貫き、突き刺さっていき、大きく前線が揺らいだ。

帝国連合軍も、その飛んでくる弓兵を狙って攻撃をしかけるが、レジェンドの防御は完璧だった。


弓を狙って射る戦士の鎧は、上半身だけ、かなりの重くて頑丈なグラファイト専用の作りだったので、弓矢などはまったく通用しなかった。


ボウガンなので、弓を引きながら放つわけでもなく、壁にボウガンを固定させて射るので、そこそこの精度でレジェンドの攻撃は、騎馬などに当たっていく。


ローグ・プレスは、このまま籠城が上手くいくと思ったが、北側入り口から物凄い音が鳴り響いた。


帝国連合軍は、中央の西入り口を囮として、実際は、北と南の入り口を巨大なモンスターに大きな柱を付けて、扉につっこませていたのだ。今回は、攻城兵器も持参してきたようだ。


ドガン!ドガン!という音が、北からだけではなく、南からも聞こえ始めた。


レジェンドの戦士たちが、たじろぎはじめる。


ローグ・プレスのところに、ボルア・ニールセンやリリス・パームが来た。リリスを護衛しているエリーゼ・プルとバーボン・パスタポも着いてきた。


ボルア・ニールセンがローグ・プレスに話しかける。


「どうする?このままでは、あいつらは、扉を破壊して、入城してくるぞ」


弓だけではひるまず、扉を攻撃し続けてきている帝国連合軍にレジェンドの戦士たちも同様を隠し切れないでいる。


扉に何度も体当たりしてくる巨大モンスターは、6足歩行で、ワニに毛が生えたような化け物が4匹いて、そのモンスターたちの上には、分厚い鉄の板が被せてあった。さすがのボウガンも、その鉄には、弾かれてしまっていた。


ローグ・プレスなども慌てるが、次第に冷静さを取り戻し始めた。なぜなら、まったくレジェンドの扉は、ビクともしていなかったからだ。


ローグ・プレスは、言う。

「さすが、セルフィ様の造られた壁だ・・・。あれだけの攻撃を喰らって、まったく壊されていない。それどころか、敵の扉破壊兵器のほうが壊れ始めているぞ!」


ボルア・ニールセンも同様に、頷く。


「ローグ・プレス。扉はほっといてもいいのなら、この時間帯を利用して、今のうちに、騎馬隊の足である馬やモンスターを狙おう」


ローグ・プレスは、動揺しているレジェンドの戦士を落ち着かせるために、通信マインドシグナルでまずは50人に語る。


《みな落ち着け。いまのところセルフィ様の造られた壁は、帝国連合軍は、何も出来ていない。敵は、矢を放っても、レジェンドには矢は入らないし、扉も壊すことができないでいる。なら、こちらは、最初の指示通り、ボウガンで敵の機動力を削ぎ続けるだけだ!》


それを伝言係が伝えていく。状況を聞いて、レジェンドの戦士たちは、扉を攻撃するモンスターを無視して、また矢を放ち続ける。


帝国連合軍から鉄の箱のようなものが、ゆっくりと各扉に近づき始めた。その中には、10人ほどが入っているようだ。


その箱も、ボウガンを受け付けないほど、分厚く作られているようだった。


そして、扉に近づくと、そこから手をだして、炎のマナを扉へと向け始めた。壁の金属を熱で破壊しやすくしようというアイディアのようだった。


だが、それでもレジェンドの壁は、びくともしなかった。


炎だけではなく、氷のマナで攻撃したりもしているが、壊すことはできない。


帝国連合軍は、ボウガンの矢で傷つけられない位置まで下がりながら、扉が開くのを待つが、一向に開かず、しびれをきらしはじめる。

攻城兵器の柱のほうが壊れてしまったのをみて、指揮官は、手をあげる。


「はしごで壁を超えろ!」


何百もの長いはしらを持った兵たちを先頭にして、一斉に、騎馬から降りた兵士たちが近づいてきた。騎馬を降りて近づいてきたので、騎馬を狙いやすくなり、攻撃を続ける。


ボルア・ニールセンは、聞く。


「どうする?数に押し切られて、中に入ってこられたら、レジェンド内で、乱戦になるぞ」


ローグ・プレスは、通信マインドシグナルで指示を出す。


《兵士たちの腕や足を狙え。負傷させれば、壁を上るのはできなくなる。そして、長棒で、はしらや兵士を押して、登るのを阻止しろ》


レジェンド戦士たちは、兵士たちの腕や足を狙いはじめ、4000人の農民兵は、壁の穴から長棒を使って、帝国兵の邪魔をする。


帝国連合軍は、騎馬やモンスターを後方に固めて待機させて、騎士たちに、攻城攻撃を続けさせる。


突然、森から2000匹ほどのウオウルフが、その兵士がいなくなって待機させられていた騎馬を攻撃しはじめた。


ローグ・プレスたちは、驚いた。


「どうして、ウオウルフが後ろから現れたんだ!?リリス」


リリスは、答える。


「森全体の状況を動物たちの情報から把握して、帝国連合軍は、壁に兵士を殺到させていたの。だから、地下からウオウルフ2000匹を森に放して、敵の後ろから騎馬を狙うようにしむけたの」


ウオウルフ2000匹は、鎧についてあるウィングソードを使って、次々とかたまって待機していた騎馬やモンスターを倒し続けた。騎馬などしかないので、一方的に倒していく。

人間がいない状態の馬たちは大混乱だ。


帝国軍もそのままではなく、5000人もの騎士たちが、壁から戻ってきて、ウオウルフたちに立ち向かっていった。


ウオウルフたちは、仲間のウオウルフとの距離を測りながら、自由自在に走り回る。まわりは、森の木が沢山あるので、ウオウルフのほうが、有利だった。


敵の盾さえも切裂く武器で、帝国連合軍の足を狙って攻撃を続ける。


辺り一面、騎馬やモンスター、騎士たちの血が飛び散り、土地を赤く染めていった。


武器と土地の有利があったので、5000の帝国連合兵に2000匹のウオウルフ隊は、負けていなかった。


しかし、帝国軍もやはり強かった。ウオウルフをも殴りつける者もいれば、正確な弓矢で顔を狙ってくる者もいた。歩兵は、農民兵が多いが、騎馬は、連合軍の精鋭部隊だからだ。


強い兵士は、ギガントウオウルフたちが倒していく。


レジェンドの装備をつけたギガントウルフたちを相手にできる兵士たちはいなかった。

ギガントウルフは、その巨体を振り回すだけで兵士たちがはじきとばされていく。

走れば、その重みで踏みつける。


そして、さらに帝国連合軍は、5000人を追加させて、外に出てきたウオウルフ2000匹を倒しにかかった。


リリスは、ローグ・プレスに言う。


「もう乱戦に持ち込むしかないわ」


「分かった。でも、壁の扉は開けることはできないぞ」


「それは大丈夫みたいよ」


とリリスが言うと、レジェンド内にいた残り8000匹のウオウルフたちが、次々と壁の上から飛び出していった。


20mの高さも、ものともせず、敵を足場として、降りては攻撃をはじめた。


攻城攻撃をしていた1万の兵たちは、上から鎧をきたモンスターが大量に飛んでくるのに驚きながら、戦いを始める。


とは言え、先に攻撃をしかけた2000匹のウオウルフたちは、1万の兵との戦いで、じわじわと数を減らされていっていた。すでに200匹が倒されていた。少し粘れば、8000匹のウオウルフが到着するが、帝国軍は、決して弱くないので、時間がかかる。


リリスは、目をつぶり、上に手を広げて、先に攻撃をしかけた1800匹のウオウルフとコンタクトをはじめる。


【レッドアビリティ】


リリスのコンタクトをはじめた1800匹のウオウルフは、自分たちと同程度の敵2・3人に囲まれていたが、体からみなぎる力を感じはじめる。ウオウルフたちの体が赤く光りはじめた。


大きな雄たけびをあげる。


「「「ウォォォーーーン!!」」」


ウオウルフはとびかかると、いつも以上のジャンプ力とパワーで、敵を攻撃し、相手の攻撃をかわしては、足を斬りつける。反応速度や認識力も高くなっていた。


ギガントウルフのレッドアビリティは、手が付けられない。


帝国軍の網などに掴まっていたウオウルフも、その網を切り刻んで、外にでて、攻撃を開始させた。


騎馬隊は、広い場所で大勢の敵と対峙し、高い位置から低い位置の敵を狙えるから強いのだが、今は騎馬を降りて、攻城攻撃をしていたので、ただの兵士ほどの戦力になっていた。


リリスのレッドアビリティの効果は大きく、それら兵士たちの力を凌駕した。しかし、長くは続けられない。


リリスは、援護で出した8000匹のウオウルフたちの中の2000匹もレッドアビリティを使い、押し込んだ。早く1800匹のウオウルフたちを助けなければいけないからだ。


リリスは、シンダラード森林に放牧させていたドラゴネット3000匹を呼んだ。

そして、ドラゴネットは、レジェンドの天井の入り口から入って来て、レジェンドの戦士1200人を背中に乗せて、次々と飛び立ち、1800匹の援軍に向かってもらった。レジェンド空襲部隊は、ボウガンで攻撃を空からしかける。


そして、リリス本人は、アイスドラゴンのフレーに乗って、ロックハウスの上から天井入り口を出て、帝国連合が集まっている場所にめがけて、アイスブレスを吐きかけると、多くの帝国兵士たちが、氷付いた。

200匹のウオウルフの被害が出ているので、相手の無事まで考えてはいられない。


帝国連合軍の兵士たちは、「ドラゴンだ!」と叫びながら、混乱する。


そして、リリスは、1800匹の追い込まれていたウオウルフたちを森へと逃げるように指示を出した。


そして、残った6000の兵士に、リリスがフレーと一緒に攻撃を仕掛ける。


フレーは、アイスブレスで大量に氷つかせながら、戦う。ドラゴンの口から吐き出される巨大なブレスは、大勢のドラゴネル帝国連合軍を凍りつかせていった。


レジェンドの壁の周りは、8000匹のウオウルフに突如、上から攻撃された兵士たちが倒れ伏していた。壁のまわりにいた帝国兵士たちは、ほとんどが負傷していた。壊滅する寸前だ。命こそはなんとかとりとめていたが、大怪我を負っている帝国兵士も少なくはない。


ローグ・プレスは、指揮官に向かって叫んだ。


「帝国兵士は、降伏するのなら、武器を捨てて逃げろ。逃げるものは攻撃しない!」


帝国指揮官は、撤退の合図を送った。


フレーと戦っていた6000人の兵士たちが、壁のまわりの帝国兵に肩を貸して、撤退をはじめた。

2万の帝国兵は、武器を下に置いて、使える騎馬などに負傷兵を乗せて、レジェンドから遠ざかっていった。


騎馬は1万まで減っていたが、そのうちの5000匹は、負傷者たちのために、返し、残りの5000匹の騎馬は、レジェンドのものとなった。

騎馬は、ただの馬ではない。臆病な馬を時間をかけて育てなければ戦う騎馬にはならないのだ。その貴重な装備をつけた騎馬を5000匹手に入れた。


レジェンドの兵士たちは、帝国連合軍の騎馬やモンスターを10000匹以上も倒し、さらに戦力として手に入れた。

空襲部隊に続いて、羽の次に帝国の足を削ることに成功した。


ウオウルフは、100匹が亡くなった。そして、100匹が深手を負い、先に突撃したウオウルフ2000匹のうち1800匹は、能力向上の反動で、地面に寝そべり、体力の回復をはかり始める。


帝国軍は、やはりコボルトとは違って強かった。騎馬に乗っているほどの兵士たちなので、強かったということもあるかもしれないが、2万対1万6千の戦いで、これだけの痛手を負ってしまった。

帝国連合の数は、80万の大軍だ。


レジェンドは確かに勝利して、帝国軍をまた追い返したが、負傷者などの損害をみると、素直に喜べる心境ではなかった。


そして、夕方になり、源がレジェンドに帰って来て、ローグ・プレスなどから報告を受けた。


源は言葉をもらす。

「そうか・・・騎馬隊だけで、まさかやってくるとはな・・・もしかすると、帝国側は、かなり焦っているのかもしれないな」


「どういうことでしょうか?」


「騎馬隊は、平野などで威力を発揮するのであって、騎馬隊だけで攻城戦をしかけるのは、得策じゃない。前回の空襲部隊もそうだったけど、それで失敗したのにかかわらず、また騎馬隊で攻め込んできたからだね。前回もチャンスだと思ったけれど、今回も報告が正しいのなら、多くの足を狙えた。また帝国連合軍は、焦り出すはずだよ」


「今回も、大勝利ということなのですね?」


「うん。大勝利の中の大勝利だよ。歩兵のほとんどは農民兵のはずだ。今回は、精鋭だっただろう。その精鋭の騎馬などがいなくなれば、また軍の本体は速度を落とす。速度を落とせば、兵量がかさむ。帝国を完全に撤退させるために、今回の戦いは、大きな意味を持っているはずだ。100匹のウオウルフは、残念だったけれど、それだけの大きな仕事をやりとげてくれたんだ」


ローグ・プレスは言う。


「今回の功労者は、リリス殿です。リリス殿が、裏からウオウルフ隊を指揮して、攻撃をしかけてくれたので、成功しました」


源は、リリスにお礼をいった。


「ありがとう。リリス。騎馬隊は、本当は強いはずなんだ。帝国連合のほとんどは、ボルフ王国と変わらない農民兵などに武具をつけさせて、参加させているはずだ。でも、騎馬を持っているほどの兵士たちは、農民ではなく戦士だったと思う。それをこれだけの被害だけで、見事に撤退させたのは、素晴らしいことだよ」


「帝国連合軍は、80万いるけれど、その大半は、今日よりも強くないかもしれないってこと?」


「たぶんそうだよ。ボルフ王国は、6万の農民兵を集めたけれど、本当の兵士は1万なんだ。ワグワナ法国も本当の戦士や騎士は1万程度だということをボルフ王国の使者が言っていた

ましてや帝国連合に参加しようとするのは、多くの国は建前で、本当に強い騎士たちは、本国の防衛のために残していると思ったほうがいいかもしれないよね。今日攻め込んできた騎馬軍を撤退させたことは、大きなことだよ」


兵士のひとりがやって来て、源たちに報告をする。


「帝国の上院議員という者がセルフィ様に会いたいと壁の外に待機していますが、どうされますか?」


「上院議員・・・?上院議員って政治家のことだよね?」


司祭様が答える。


「帝国には、上院議員と中院議員、そして、下院議員の3つがありますのじゃ

その中でも、上院議員は、帝国をどのように変えるのかを提案できる立場にある者たちですじゃ

中院議員は、それを具体的にどのように組織管理するのかを判別し、上院議員と計画を建てて、それらの案を許可するのが、下院議員ですじゃ

中院議員も、下院議員も、政治を変える力はありませぬが、上院議員は、政治を変える力を持っていますのじゃ」


源は、日本でいうと衆議院と参議院、そして、官僚といったものに分かれているが、それに近いのだろうと思った。そして、政治の発言力が高いのが、上院議員なのだから、大切な客だということだ。


壁の上に飛んでいき、視界をズームさせて、その上院議員という人を観察する。

豪華でゆったりした服装の人がその人だろうと思わせる。

そのまわりには、10人ほどの人が警護するように守っていた。その他数人騎士ではない人間もいるようだ。

馬車は1つで、9匹の騎馬がその馬車のまわりにいる。


今は、馬車や騎馬におりて、壁の入り口で、静かに俺を待っているようだ。


なぜ帝国の政治家がレジェンドに来たのかは分からないが、会って損はないだろうと出迎えることにした。

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