92章 チャンス
ドラゴネル帝国連合軍の兵量を奪ってから三日で、早くも、ドラゴネル帝国連合軍空襲部隊が、レジェンドに辿り着いた。
しかし、辿り着いていたのは、空襲部隊の6000体だけだった。陸からの敵は、視覚で確認しただけなら見当たらない。
この状況をみて、チャンスだと思った。
なぜ、ドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊だけが、攻め込んできたのかは、分からないが、源の想定では、空と陸からの同時攻撃をされることを考えていた。
陸からの数十万の攻撃と空からの6000の攻撃が同時に行われたとしたら、さすがに守り切るのは、難しかったからだ。
空の物を攻撃できる手段が、レジェンドには少ないからだ。ロックもウオウルフも、空の敵には攻撃できない。
それが、陸軍を遥か遠くに置いてきて、空襲部隊6000だけで、攻め込んできてくれたのは、好機としかいいようがない。
なぜ連合軍は、空襲部隊だけで攻め込んできたのかは分からないが、これはチャンスだろう。
その理由を予想するとすれば、源たち調査団が奪った大量の兵量は、連合軍の食料の本体で、それが一斉に奪われてしまったので、急いで攻撃を開始しようとしたのだろうと思える。
焦って、空襲部隊だけで、レジェンドを制圧しようと考えたのだろう。たかが村1つだと思ったのかもしれない。
それとも大規模なボルフ王国の調査隊として、送られてきた可能性もある。その途中に偶然みつけた村に立ち寄っただけかもしれない。すぐに、攻撃してこないのは、レジェンドは、まだ疑惑しか持たれていないからかもしれないのだ。
源は、下に降りて、レジェンドに戻り装備を準備する。
そして、50人のリーダーたちに調査団のマナである通信を使って、報告をする。
《ドラゴネル帝国連合軍は、空襲部隊6000だけで、来ている。陸からの敵は確認できない
なので、これはチャンスだと俺は思う。レジェンド兵は空、主体の配置について、ボウガンなどの準備をするように。俺はこれから、敵空襲部隊と接触してみる》
その指示を受けて、50人は、伝言係に、それを伝え、レジェンド全体が、動き始める。
レジェンドの入り口は、3カ所ある。真北ではないが、北口と西口と南口だ。
それぞれ、小さい扉と大きな扉があり、計6つの頑丈な扉が、レジェンドを守っている。
源は、中央の西口の小さい扉を開けて、6000いる敵にひとりで、歩いて近づく。
指揮官らしき狼の顔をした獣人の者とそれを護衛する二人の兵士が、空飛ぶ小型のドラゴン系モンスターに乗って前に出てきた。
小型といっても2mはある大きさのドラゴン系モンスターだ。
リリスが、その小竜の名前を教えてくれた。
《あの空飛ぶドラゴンは、ドラゴネットよ》
ドラゴネットは、馬のように落ち着いて止まることが出来ないようで、動き続ける小竜の上に指揮官たちが、乗って、源に話しかける。
「ここが、噂のレジェンドという村か?」
「どのような噂かは、分かりませんが、ここは確かにレジェンドです」
「そうか。我らがドラゴネル帝国連合軍の調査によって、お前たちに容疑がかけられている」
「どのような容疑でしょうか?」
「ボルフ王国に組し、ドラゴネル帝国連合軍と戦おうとしている村が存在しているというものだ
正直に言え!お前たちは、ボルフ王国に付き、我らドラゴネル帝国連合軍の敵として、戦おうというのか?」
何と答えようかと考える。源が狙っているのは、空を飛ぶモンスターだ。ドラゴネットには申し訳ないが、この6000匹の空を飛ぶモンスターや動物たちを黙って帰すわけにはいかない。兵士たちは、必要以上に殺す必要はない。
空を飛ぶ能力さえ奪えればそれでいいからだ。ただ、独自で空を飛びそうな敵、背中に羽が生えているものは、攻撃対象になってしまう。極力背中の羽を狙うが、大きな怪我を負わせてしまうかもしれない。
「ドラゴネル帝国は、なぜボルフ王国に攻め入ろうとしているのでしょうか」
指揮官は、叫んだ。
「そんなことは、どうでもいい。お前たちが、帝国に歯向かおうとしておるのかを聞いておるのだ。答えよ!」
「わたしたちは、ボルフ王国の民を見殺しにはできない。あなたたちが、ボルフ王国の民に手を出すというのなら、こちらも戦う用意はある」
「それは、宣戦布告ということだな?」
と指揮官はニヤリと笑った。
「わたしたちは、ドラゴネル帝国とは戦いたくありません。ですが、ドラゴネル帝国が、攻撃してくるのなら、自衛するのは、当然のことでしょう」
指揮官は、手を挙げ、そして、叫んだ。
「こいつを村人がみている目の前で、八つ裂きにしろー!」
そう指示が出ると、6000体の前の列の集団が、源に襲い掛かる。
源に攻撃してきた武器は、槍だった。顔をめがけて投げ込まれた槍を源は、右手で受け止め、クルっと回転させて、指揮官のドラゴネットに投げて貫く。指揮官はドラゴネットと一緒にそのまま倒れた。指揮官は傷つけてもいない。
そして、兵士たちは、源を囲み始めたので、源は1mほど宙に飛んで、グラファイソードを抜き、一回転して、小竜たちの首を4つ跳ね飛ばすと、バタバタバタとドラゴンは倒れていった。
それをみて、指揮官は、驚いていたが、すぐに源は、その指揮官を護衛しているものたちのところに、飛んで、蹴りを打ち込み、跳ね飛ばすと、また、護衛ふたりのドラゴネット2匹の首を斬り落とす。
そして、他の兵士に攻撃される前に、倒れていた指揮官の腕を取り、リトシスで、空高く飛びあがった。
「うわーーー!」と指揮官は、叫ぶが、もうすでに空の上だ。
「指揮官。お前に聞くが、ドラゴネル帝国は、何のために、ボルフ王国を攻め込もうとしているんだ?」
「誰が教えるかぁ!」と叫ぶので、一度、源は、手をパッと放して、もう片方の手で持ち替えて、支える。
「次は、落とすぞ。どうして、ドラゴネル帝国は、攻め込む必要があるんだ?」
指揮官は、険しい顔をしながら、話す。
「ボ・・・ボルフ王国は、以前から反乱の兆しがあった
そして、セルフィという新しく加わったという戦力を頼りに、三国同盟をつくりあげ、反乱を本格化するだろうという情報が、半年前に流されたので、この遠征をはじめたのだ」
半年前だと?半年前から、すでにそのような情報が入り込んで、帝国は動いたというのか・・・。半年前は、ボルフ王国が、シンダラード森林に攻め込んで、コボルトを倒したすぐ後ぐらいのことだぞ・・・なぜ、そんな時から、そんな話が持ち上がっているんだ?
「半年前には、この村は存在していない。そんな時から情報を帝国に流してきたのは、誰なんだ?」
帝国を動かせるほどの有力者の情報だということは、間違いない。
「誰からの情報かは、分からん」
ただの指揮官が、政治の裏を知っているわけもない。知らないのは、本当だろう。ただ、唯一思い浮かぶのは、ボルフ王国第三王子キグダム・ハラ・コンソニョール・サムジだ。
シンダラード森林の戦いの時からあいつは、俺の強さを知っていたし、策略家でもある。コボルトとの戦いが終わったあとも、なにやら気持ち悪くニヤニヤした顔で、喜んでいた。
あいつが、帝国との戦いをして得をするとしたら、本気で、帝国を倒すようなチャンスを利用できた時だろう。そのチャンスとは、俺という存在の発見かもしれない。
あの時の俺は、自分の強さが解らなかったが、ボルフ王国の王子なら、世界情勢を知っているので比較して、俺を利用できると考えてもおかしくはない。
あの時から、あいつは俺を利用しようと近づいてきていたのかもしれない。
わざとドラゴネル帝国に情報を流して、戦争を起こさせた可能性がある。
そして、まんまと、俺はドラゴネル帝国の小型ドラゴンのドラゴネットを兵士の前で倒してしまった。後戻りはもうできない。
そして、兵量を略奪したという情報も、サムジから流れている可能性がある。レジェンドという驚異的な村はボルフ王国側だということをわざと流しているかもしれないのだ。
俺たちレジェンドは、あいつの情報操作によって、どうしても戦わざる負えなくされている可能性を感じた。だからといって、ここでレジェンドが戦いをやめても、サムジは、貧民地の農民兵を人質にして、虐殺させるかのように戦わせるだろう。
結局、レジェンドは、帝国を撤退させるための作戦を行わなければいけないのだ。
そして、それらはあくまで、状況証拠であって、確証を与える証拠など、あいつらが残すわけがない。
そんな不確定要素で弾劾して、力づくで、ボルフ王国の王族を殺すわけにもいかない。
そのほうが楽で安全なのも分かるが、ただの隣の村人がしていいことではない。
だから、ドラゴネル帝国の撤退作戦をこのまま進めるしかないのだ。
「指揮官。あなたに同じことを言いますが、わたしたちレジェンドは、ボルフ王国側に降ったわけじゃない。だから、あなたたちと戦いたいわけじゃない。ボルフ王国は、自分たちの民である農民を人質に取って、俺たちを帝国と戦わせようとしてるんだ」
指揮官は、笑った。
「ふ。どんな理由があろうと、今この場で、ドラゴネル帝国の兵士に手を出したことは、ゆるされるわけがない。もうそんなことは関係ないんだよ」
そういうことになるだろうと源も思った。
源は、指揮官を下に降ろして、上からレジェンドに入るために飛ぼうとすると、矢や槍が放たれた。
源は、愛の情報認識能力を使って、ひとつひとつの矢の位置情報を正確に得て、グラファイソードで、弾き飛ばしながら、空に飛ぶ。
指揮官は、別の兵士のドラゴネットに乗って、叫ぶ。
「空から攻撃をしかけろ!」
一斉に、6000体の帝国軍が、空を飛び、レジェンドの上空を飛び回る。
源は、ドーム天井の出入り口から入って、通信で50人に指示を出す。
《リリスは、アイスドラゴンと待機
天井出入り口から、兵士たちは、ボウガン攻撃を頼む
火計を仕掛けてきた時は、みなで、消化作業を頼む
家が燃えても、また建て直せばいいから、荒っぽい消火作業でもかまわない
装備をしているウオウルフ400匹は、すぐに入り口外に出られるように待機。
敵の兵士は極力、狙わないように、狙うのは空を飛ぶ能力のあるモンスターだ
背中に羽を持っている敵は、背中の羽だけを狙うように、自分の命が危険なら相手を倒してもいい。自分の命を優先にしろ》
その指示は、伝言係から、皆へと伝えられた。
帝国連合軍指揮官が、叫んだ。
「放て!」
弓矢で、空数部隊は矢を射かけはじめた。
その矢は、ドーム天井の網へと向かうが、矢は弾かれていく。
まだ、リトシスを使っていないが、ドーム天井は、矢をレジェンドには届かせないように働いてくれていた。
源も通信で攻撃指示を出す。
《こちらも、攻撃開始!》
すると、ローグ・プレスが、源の手信号をみて叫んだ。
「攻撃開始!」
源は、ドーム天井から垂れ下がているグラファイロープの1つを持って、出入り口を開放すると、そこから、上半身鉄壁の防御鎧を着たレジェンドの兵士たちが、ボウガンで攻撃をはじめる。
帝国連合軍も、その兵士たちに矢を放つが、当たっても鎧でその矢は、弾かれる。
だが、空を飛ぶドラゴネットなどの装備は、軽量化されているので、レジェンドからの矢は、当たれば相手にダメージを残せる。
レジェンドの矢は、先が、グラファイトなので、鉄の鎧ぐらいなら突き破ることができた。
レジェンドからの弓矢が当たると、そのたびに、ドラゴネットはバランスを崩す。
その間に、源も空中に出て戦う。
相手は、空を飛ぶ6000の空襲部隊だ。
レジェンドの空一面を覆うかのように、大量に空を飛んでいる。
だが、源のリトシスは、機動力が抜群だ。
急激に100km/hを越す速さで近づくこともできる。200km/hでもやろうと思えばできる。
ドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊の弱点は、空を飛ぶと、その乗っているドラゴンや動物たちの体が、死角となって、敵を視認できなくなることだ。
源は簡単に、それら小型ドラゴンに下から近づいては、視覚を利用してドラゴネットの首をはねていく。グラファイソードを固定して前に出したまま、リトシスで自由自在に空を飛びながら、愛の計算力で、相手の動きや軌道を先読みして、そのルートに飛び続ければ、ドラゴネットを倒していける。
そして、次々とドーム天井に敵は落ちていった。落ちていった兵士たちは、網に落ちていくので怪我をすることはない。
だが、自分の背中の羽で飛ぶ獣人系の敵などは、源を攻撃しはじめる。
源は、その攻撃も把握して、無駄な動きなく、躱し、その相手の背中の羽をグラファイソードで切裂くとそのまま敵は落ちていく。
10人の鳥人系モンスターが、源を囲むように、じわじわとスペースを削っていく。
そして、ハヤブサのようにさらに上空から鳥人が、槍のように源へと突進して、攻撃をしてきたが、源は、その攻撃もわざと紙一重で躱し、剣を固定させると、鳥人は勝手に自分で羽を剣で斬られ、落ちていった。源は、囲んで近づいてきた鳥人たちの裏に素早く回転して、まわり込み、外側を飛んで羽を斬りつけていく。
陸で戦うよりも素早い動きで、空で戦うことができるほどだった。
次々と、源のグラファイソードの餌食となっていく。
鳥人たちの空の動きを超える戦いをみせた。空の上では、あの少年に太刀打ちできないと判断した指揮官は、次の指令を出す。
「油を用意しろ!」
するとドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊は、後方から油が大量に入った大き目の壺をいくつも持って来て、レジェンドに降り注ぎはじめた。それと同時に、火矢を打ち始めると、油は燃えながら下に落ちていった。
火で燃えた油は、下に落ちると、燃えながら飛散した。
《リリス。出番だ。頼む》
そういうと、リリスは、アイスドラゴンを連れて、レジェンド内を飛び、油が落とされた場所に、フレーのブレスを吹きかける。
油が落とされた場所が、一斉に氷ついて、火も消えた。いくら油で火をつけているからといっても、厚い氷で覆ってしまえば、空気がなくなり、燃えることはない。
源は次の指示を出す。
《柱西側を動かしてくれ》
レジェンドの兵士が、水車から一本のグラファイロープを西側のえんとつのような柱に、フックで結びつけると、水力を使って、柱の内部が動き始める。
ドーム天井の支柱となっている柱の内部には、いくつもの箱が段差で設置されており、上にその箱をゆっくりと運んでいく。
その箱の中には、グラァイトで造られた手のひらサイズほどの鉄球が入っている。
『愛。空を移動している空飛ぶモンスターの位置を予測して、分かりやすく的を付けてくれ。兵士には当たらない所を的にしろ』
源の視覚には、仮想映像が現れ、分かりやすくあらゆる敵の予想位置と的が現れた。
源は、空を飛んで、空襲部隊のドラゴネットの顔や胴体を狙って、的確に鉄球を投げ込む。
ドラゴネットたちがどのように動き、どの位置に顔や胴体が来るのかを愛によって計算させて、その位置にタイミングよく投げ込む。
源の鉄球は、リトシスの力が一点に集中され、乗せられているので、薄い鉄の装備をしているドラゴネットの頭や体を容易く貫いていく。
タイミングが合えば、2体同時に倒していく。源だけではなく、レジェンドの兵士たちも、ボウガンやビックボウで、次々と撃ち落としていく。
空襲部隊は、レジェンドの中に入ることもできず、矢も相手には、通らず、火計の油を落としても、凍らされるので、ただの的のようになって、倒されていくだけだった。敵は、ドーム天井に落ちて、重みとなっていく。
それをみて、指揮官は、叫んだ。
「全員、あの網の上に乗れ!」
ドーム天井の上に落ちる度に、網はたるんできていたので、兵士全員で乗って、網の天井を壊そうと考えたのだ。
もちろん、源は、そのようなことも想定していた。源は、一本のグラファイロープを持って、ドーム天井をリトシスの効果を与えて、壊されないようにした。
レジェンドの兵士たちは、標的が近づいてくれたので、当てやすくなり、また矢を放っていく。
空襲部隊は、思ったように天井が壊れないので、不思議に思い、混乱したが、なんとか網を壊そうと上で暴れるが、それでも壊れない。
ほとんど6000体が、天井に乗ったのに、変化がないのだ。混乱しているので、またそれがボウガンの餌食になる。ドラゴネットは矢に攻撃されて倒されていく。
源は、長い長いグラファイロープを持ったまま、あらぬ方向に飛んでいき、レジェンドから少し離れて、森の上に飛び、500m四方の緑色に擬装させていた網を木の上から持ってきて、ドーム天井に降りている空襲部隊の上に、その巨大な網をリトシスで被せると、ドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊の兵士たちは、その網とドーム天井に挟まれて、動きを封じられてしまう状況にされた。
源は、ドーム天井と壁を縛ってつなげていたグラファイロープを切っていき、そのドーム天井ごと、レジェンドの上空にすべての敵を浮かせ始めた。
普通は、柔らかく動く網なのに、その網に挟まれて、6000もの敵が一斉に空を飛んでいくのは、想像もできない光景となる。
網にはさまれてしまっている敵は身動きができない。そして、そのまま、レジェンドの壁の外にまで持っていき、地面にまで、移動させていった。
そして、リトシスの効果をわざと消した。
レジェンドの扉から、ウオウルフたちが一斉に飛び出して、網にかかってもがいているドラゴネットを攻撃していく。
カーボン装備とグラァイト装備をつけている400匹のウオウルフとカーボン製の鎧を付けた1000人のレジェンド戦士に、小型ドラゴンは倒されていく。6000匹いたとしても、ウオウルフ一匹が6匹ほど倒せば、6000匹の小型ドラゴンは、駆除できる。
ドラゴネル帝国連合の兵士たちも対抗して、網の中からレジェンドの戦士たちを攻撃しようとするが、動きずらい状態では、倒すことはできない。
そして、レジェンドとしては、帝国兵士を狙うのではなく、ドラゴネットなどの飛行モンスターを狙うだけなので、前回のコボルトよりも少ない労力で倒していけた。相手は網に動きを封じられているからだ。
コボルトを倒した時のウオウルフの数は40匹だったが、今回は、その10倍の400匹のウオウルフがいて、しかも、カーボンとグラファイトの組み合わせた装備をした戦士たち1000名もいる。
下のドーム天井は、グラファイロープで強化させているが、上に被せた網は、それほど強化されていない網なので、レジェンド戦士たちの装備なら上から攻撃できる。
中からナイフや剣で切ろうとしても、鉄の剣ではグラファイトの網を斬るのは、時間がかかる。
源は、ドラゴネットではない。飛行できる兵士、背中に羽を持っている者たちをみつけては、「済まない」と言いながら、その羽だけを斬っていった。
帝国連合軍の空襲部隊の飛行能力を奪っていく過程をみせて、空襲部隊の戦意をうしなわせた。
そして、さらに空数部隊のまわりをレジェンドの兵力16000が、取り囲み、はじめる。帝国空襲部隊たちは、もうお終いだと思っただろう。
レジェンドの兵士たちは、一斉に叫ぶ。
「降伏する者は、武器を捨てろ!」
「降伏する者は、武器を捨てろ!」
「降伏する者は、武器を捨てろ!」
空襲部隊の兵士たちは、武器を捨てて、手をあげた。
レジェンドの兵たちは、武器と鎧を回収して、背中に羽の生えていない者は、すべて解放した。
生き残ったドラゴネット3000匹は、レジェンドで利用しようと考えた。帝国連合軍はまだまだ空襲部隊を持っているはずだからだ。
背中に羽を持っている600人の兵は、申し訳ないが幽閉することにした。ポーションやマナなどで回復されてまた空から攻撃されては意味がないからだ。
その他の5400人は、数日分の食料を与えて、皆、鎧や武器を放棄させ、半裸の状態で、逃がした。
空襲部隊の指揮官は、源に聞く。
「どうして、俺たちを生かしておくんだ?」
源は、指揮官の顔を見ながらしっかりと答える。
「最初に言っただろ。俺たちは、帝国とは本当は戦いたくないんだ。ただ人質を取られて、戦わなければいけない立場に追い込まれているだけなんだ。ドラゴネル帝国の兵士を傷つけたいわけじゃない」
それを聞いて、指揮官は、他の兵士たちと敗走していった。
源は叫ぶ。
「今回も俺たちの勝利だ!」
レジェンドの村人18000人が、大歓声を上げた。
源は安堵の気持ちを抱く。
空と地からの同時攻撃をされた場合は、これほど上手くはいかなかっただろう。ドラゴネットなどのモンスターと鳥人系モンスター以外は、矢傷一つ負わせていない。
同時攻撃をされていたのなら、レジェンド内に、ドーム天井を落とす予定だった。そうすると、かなり混乱した状態になったはずだ。
そして、陸とも戦っているので、その網で動けなくなった空襲部隊をレジェンド内で、生かして置くことはできなかっただろう。内と外から同時に攻撃されては耐えきれないからだ。でも、今回は運良く、空襲部隊を先に倒すことができた。
空襲部隊がドーム天井に乗り始めるのも作戦通りだった。まさか、そのドームが6000匹のドラゴンが乗っても壊れないとは誰も思わなかっただろう。
これも、村人の1つのアイディアだった。この網で相手を動けなくさせるのは、陸でも有効かもしれないと源は思った。
『源。帝国軍が残していった武具ですが、鉄などの素材が多いようなのですが、鉄以上の強度があるようです』
『そうなのか?』
源は、敵に放棄させた武具を手に取って調べてみたが、若干鉄以外の生物も含まれているようだが、ほとんど鉄だった。鋼でさえなかった。
『何でもない鉄のようだぞ』
『不純物がはいっているようですが、源のいうとおりほとんどが鉄ですね。ですが、強度はなぜか鉄よりも明らかに強いようです。源』
不思議だ。普通ならこれらの成分で作られれば、鋼ほどの強度も出ないはずだが、鋼以上の強度を持つ武器や武具などもあった。さすが帝国連合軍の空襲精鋭部隊。1軍の兵士ではないにしても、その持っていた武具も良いものを装備していたようだ。だが、小竜のドラゴネットなどのモンスターが付けていた防具はすべて普通の装備だった。
源は、それらを地下倉庫の中に集めて、取っておいた。
そして、またドーム天井を元に戻して、緑色の網を森の木の上に乗せた。