91章 戦争か、撤退か
源たち調査団は、貧民地に大量の帝国の兵量を配り終えて、船を捨てて、レジェンドへと戻った。ボルフ王国にも報告などしない。
そして、夜中だったが、レジェンドの民を教会に集めて、会議を開くことになった。
皆で、帝国と貧民地のために戦うのか、それとも見捨てるのか、どうするのかを最終決定をする予定だ。
3700人の村人が、教会に集まった。戦争で生き残った4000人の農民兵は、外で夜営させている。負傷していることもあるが、あくまでレジェンドの大会議だからだ。
源は、ガラススペースに入って、状況を説明しはじめる。
「今日、140匹のウオウルフと100人の戦士と共に、調査団を結成し、40万の帝国連合軍と2万のボルフ王国農民兵の戦いを確認しました
ボルフ王国には、3万人分の鎧と6万人分の武器をレジェンドから渡していましたが、ボルフ王国は、農民兵には、鎧どころか、必ず、あるはずの武器さえも与えずに、農具で帝国連合軍と戦わせました。虐殺です
以前このシンダラード森林で1000人のみなさんの家族、農民兵にしたことと同じことをまたボルフ王国は行ったのです」
その内容に、レジェンドの人たちは騒めく。
「ボルフ王国は、貧民地の農民兵を帝国連合軍に殺させる気です。このままでは、残りの4万人の農民兵もわざと殺されてしまうでしょう」
大きな声で、叫ぶ声が聴こえた。
「なぜボルフ王国は、わざと農民兵を殺すようなことをするのでしょう?」
「ボルフ王国は、力のあるレジェンドに帝国連合軍と戦ってほしいと考えているかもしれません
ボルフ王国の農民たちを人質にして、わたしたちレジェンドに戦争をするように仕向けていると思われます
もし、わたしたちが戦わなければ、貧民地は、悲劇的な壊滅を味あわされるでしょう
ここで皆さんに決めてもらいたいことがあります。それは、レジェンドは、貧民地を守るために、帝国連合軍と戦うのか、それとも、貧民地を見捨てて、わたしたちレジェンドの村人の命を優先し、戦争には参加しないのかです」
源は、あの惨劇を思い出すと気分が悪くなるほどだったが、我慢して、話しを続ける。
「状況から伝えますが、帝国連合軍は、わたしが思っていた以上の戦力を持っています
ですが、今日、調査団によって、帝国軍の兵量の大半を奪いました
彼らはこれから2カ月間は、食料不足のまま戦わなければいけないでしょう」
「おおー」という声が上がった。
「ここでわたしたちが、戦争に参加しなくても、ボルフ王国の壊滅とまではもしかしたら行かないかもしれません。兵量が少ないので、引き返す可能性もあるからです
逆に言えば、わたしたちレジェンドが、ここで帝国連合を長く足止め出来れば、ボルフ王国の貧民地は、被害を抑えて、助かる確率をあげていくでしょう
ですが、良い事だけではなく、先ほども言いましたが、帝国連合軍は、思った以上に精鋭揃いです
装備をしていたウオウルフ2匹が、倒され、わたしとロック、そして、リリスでも、てこずるような5人組と戦いました
その5人組は、特別強かったのかもしれませんが、そのような力のある兵士が、かなりの数いると考えられるでしょう
それでも、戦うのかということです。何かご質問はありますか?」
ひとりの男性が手を挙げた。
「兵量を失った帝国連合なら、レジェンドが時間を稼ぐことで、そのまま撤退させられる可能性もあるということでしょうか?」
「兵量を奪う前に比べたら、その可能性は出てきたとは思いますが、それでも、20%の確率ほどだと言っておきます。兵量を奪う前は1%ほどでしたが、それぐらいの確率にまでは、引き上げることができたとは思います」
他の人が手を挙げて質問する。
「レジェンドは、ボルフ王国との関りがあることは、ドラゴネル帝国は知っているとは思いますが、もし、レジェンドが戦争をしないと宣言したとしても、帝国は、レジェンドを攻撃して来るのではないでしょうか?」
「確かにその可能性はあります。ですが、戦争を回避する方法はあります
それは、巨大飛行物体トーラスにレジェンドの皆さんを乗せて、ユダ村などに戦争が終わるまで、退避するというものです
いくら私たちと戦おうとしても、わたしたちが、その場にいなければ、帝国は攻撃できないからです
わたしたちには、倉庫に大量の食料を確保しているので、ユダ村の負担となることもありません」
「わたしたちが、戦わず、ここを逃げたとして、貧民地はどうなるのでしょうか」
「今回の2万の農民兵と同じように、まずは、残りの4万人の農民兵が殺されてしまうでしょう
命を拾っても、その後に生き残れるかも解りません
なぜなら、ドラゴネル帝国連合軍は、食料を求めて、略奪すると考えられるからです
ドラゴネル帝国は敵なので、それは解りますが、問題は、ボルフ王国の王族です
彼らは、民を人間だは思っていないことでしょう。4万人が死んでもいいと考えているかもしれないのです。武具を与えるかどうかもわかりません
その後、貧民地は、食料を奪われ、餓死で死ぬ人たちも出てくるでしょう
10歳からのこどもも農民兵として、徴兵されていることも忘れないようにしてください。
では、皆さんに質問です。レジェンドは、戦争をしないほうがいいと思った人は、手を上げてください」
大勢の人数が、手をあげた。
『源。戦争反対の手をあげたのは、1820人です』
「では、次に、貧民地のために、共に戦おうと思われる方は、挙手をお願いします」
また、大勢の人たちが手を挙げた。
『源。戦うのに賛成した挙手は、1892人です』
源は悩んだ・・・ほとんど同票数だったからだ。3700人ほどのレジェンドの民の半分が反対、半分が賛成に手を挙げられてしまった。
源は、村長の司祭様に相談した。
「戦争、反対と賛成が、同票数でした。若干、戦争賛成が、多かったですが、その人数票で決めることは、出来ません」
司祭は、頷く。
「では、くじで決めてはどうでしょうか。聖書には、人間が決め兼ねる場合は、くじを引いて、神様の決定に委ねるという方法が書かれていますのじゃ」
確かにそうだと源は思った。ヨナ書でも、くじが使われていた。
源は、村人全員に話し始める。
「今、挙手をしてもらいましたが、若干、戦争賛成が多くありました
しかし、その差は、ほとんど同じです。ですから、こういう場合は、くじで決めようと思います
聖書には、人間が決定できない事は、神様に委ねるように、くじを引くのです
では、くじで決めることを賛成の方は、手を挙げてください」
ほぼ全員が、手を挙げた。くじで決めることには、賛成してくれたようだ。
源は、くじを引けない。愛を使えば、どちらに何が入っているのか分かってしまう可能性があるからだ。こどもに引いてもらいたいとは、思うが、そのこどもに責任を押し付けてしまうようで、それもできない。司祭様や地区長などの主要メンバーが引いても、どうかとも思う。
源は決めた。
「では、以前、家と畑のナンバーを引いた、箱10個に、それぞれ、白色の紙を1枚。黒色の紙を1枚入れておきます。
そして、10人の方に、その箱の紙を1枚だけ引いてもらい。その色の数で決定させましょう。白は、戦争賛成。黒は、戦争反対とします
では、わたしが適当にいうナンバーの家族から一人だけ前に出てきてください。その家族のだれでもいいので、一人選んで前に来てください
1、A-82
2、A-20
3、B-101
4、B-33
5、C-1
6、C-150
7、D-21
8、D-5
9、E-99
10、E-43
これらの家族は、ひとり代表者を選んでステージの上まで来てください」
源は、同じナンバーをまた、再確認させるために、繰り返す。
10人の人たち、全員が、家族の父親・祖父だと思われる男性たちが、ステージに上がって来た。
「では、10個の箱をそれぞれの前に持っていきます」
と言うと、レジェンドの女性10人がそれぞれ10個の箱を持って、それぞれの前に立つ。
「さきほども言いましたが、この箱の中には、2枚の紙が入っています。白と黒の紙2枚です。白が、戦争賛成。黒が、戦争反対です。10人の方たちの引いた色の数が多いほうで、決定とします。引いてくださる方たちは、どちらを引くのかは分からないはずです」
源は少し深呼吸をした後、号令を出した。
「では、一斉に、くじを引いてください!」
選ばれた男性10人は、ゆっくりと引く者もいれば、すぐに引く者もいたが、全員が、くじを引いた。
「レジェンドのみなさんが見えるように、引いたくじを片手で、上にあげてみせてください」
すると、白が9枚。黒が1枚だった。
「白が、9枚で、黒が1枚でした。白は、戦争賛成の紙ですから、レジェンドは、貧民地の方たちを助けるために、帝国連合と戦うこととします!」
源が大きな声でハッキリとそう発言すると、レジェンドの村人は、「「「おおーーー!!」」」と言う力強い声が鳴り響いた。
その後、司祭様に祈りを捧げてもらい。みなは気持ちを高めていく。
源は、戦争が決定したので、その後の動きについて話した。
「帝国連合の本体が、このレジェンドに来るのは、約一カ月後です
ですが、10日後、戦士以外の住民は、巨大飛行物体トーラスで、食料を持ってユダ村でかくまってもらいます
男性戦士1000人
女性戦士200人
医療、マナ支援50人
レジェンドウオウルフ70匹
ウオウルフ援軍1万匹は、レジェンドの戦力です
今日、助けた農民兵4000人も一緒に戦ってくれるでしょう
そして、食事などの手伝いをしてくれる方、500人を募りたいと思います。16000ほどのレジェンドの兵力のための食事などを作ってもらいます
この500人の方は、申し訳ないですが、危険な中、色々なサポートをしてもらわなければいけなくなります
もし、戦士に父親、サポートに母親が選出されてしまった場合は、その家族には、異例の報酬と今後のレジェンドの待遇も厚くさせてもらいます
もちろん、戦争が始まれば、この500人は、守る対象として、対応させてもらいます
それ以外の2000人ほどの女性、こども、老人は、10日後、ユダ村に行ってもらうことにします。ウオウルフも同様です
わたしは、本当は、帝国連合とは戦いたくありません。ですから、目指すのは、勝つ戦いではなく、帝国連合を撤退させる戦争です
相手は強敵なので、手加減はできません。撤退させるためには、多くの帝国軍人を倒さなければいけなくなるでしょう。ですが、なるべく相手の損害も大きくはしたくありません
皆さんにお願いしたいのは、帝国連合軍を撤退させるアイディアを出していただきたいことです
何か、戦争で、役に立ちそうなアイディアなどがあれば、教えてください
では、また、新しいことが決まり次第、みなさんに報告していきますので、今日はこれで解散と致します」
リリス・パームは、セルフィのところに行き、お礼を伝えた。
「セルフィ。ありがとう。貧民地のために、戦うことを決めてくれて・・・」
「頭では、戦争をするべきではないと解っていても、心では、助けずにはいられなかった・・・それは、レジェンドに来た農民兵たちも同じで、ウオウルフも、この場所を守り、ロー地区の方たちも、納得してくれている
くじで決めたのだから、もうやるしかない。リリス。君にも、手伝ってもらうことになる」
「もちろんよ。セルフィ。わたしの持てる力をすべて出させてもらうわ」
リタも、近くで、その話を聞いていたが、納得していない顔だった。
「セルフィ。わたしは今でも戦争に反対よ」
「そうですか・・・リタさんは優しいですから・・・」
「優しさだけで言っているわけではないのは、前にも言った通りよ。どうか無事に生き残って・・・」
「はい。ありがとうございます」
―――源は、ドラゴネル帝国連合軍80万と戦うという無謀な決断をして、そのための準備をしはじめた。
レジェンドの壁は分厚く、そして、強固だ。花のように丸びを帯びて、逆に反っている形は、用意に登ることもできない。なので、横からの攻撃は耐えることができるだろう。
弱点としては、空からの攻撃だ
40万対2万の戦いでも6000匹もいるような空襲部隊が存在していた。
空から6000もの敵が攻めて来られたら、空に攻撃できる手段は、ボウガンやビックボウ、そして、アイスドラゴンのフレーやフィーネルだけになってしまう。
自分は、空でもかなりの精度と速さで自由に飛び回れるが、それでも6000の敵は多すぎる。
コボルト4000匹でも手を焼いていたぐらいだからだ。
また、空襲部隊だけではなく、陸から弓矢などで大量に攻撃されれば、怪我をする者も出てくるだろう。
1万ほどの弓兵が一斉に打ってこられたら、雨のような矢が流れて来るのだ。
レジェンドの村の人々の装備は良い物なので、鉄の矢ぐらいなら弾くことができるが、まったく怪我もなしというわけにはいかないだろう。
そこで、考えたのが、グラファイロープによるドーム状の屋根の形成だ。
リリスの鎧の背中には、カーボン製のパラシュートがつけられているが、そのパラシュートにも、強度の高いロープが糸として使われている。それを矢で射抜こうとしても、簡単には射抜けないようにしてあるのだ。
まずは、そのドームの屋根を支える支柱になる3つの柱を50mほどの高さで作り上げ、それらを起点に屋根を作っていった。その柱は、えんとつのように穴が開いている。
今回は、時間がないので、カーボン製ではなく、グラファイロープで、屋根を網状にして、設置することにした。網戸よりは大きめの目の網をグラファイロープで作る。これだけで、弓矢の攻撃は、防ぐことができる。そして、そのグラファイロープを下にいくつか垂らして置く。俺が、その垂らされたロープの1つでも、手に持ってリトシスをかければ、すべての攻撃をレジェンド全体で、無効化できるというわけだ。
なので、かなりの数のグラファイロープを垂れさせ、地面からも伸ばして、レジェンドの敷地内に配備した。グラファイロープはそれなりに強度があるので、入り込んだ敵がそれを引っ張ったとしても、問題はない。
飛び道具としては、これでいいし、空襲部隊も空からレジェンドに簡単には入って来れないで、時間を稼げるのなら、俺が倒していける。
ドーム状の網の天井にも、いくつか出入り口を用意して、そこからビックボウなどで、下から空襲部隊を攻撃してもらえるだろう。
アイスドラゴンのフレーも、出入りできる巨大な20m四方の出入り口もロー地区の中央の上に作った。
フレーがそこから降りれば、四角い岩で造られたセカンドロックハウスの上に降りることができる。ロックハウスのまわりは、広場になっているので、フレーも休むことができる。
これらのドームの天井は、リトシスで2日で作ることができた。カーボン製ではないので、簡単に作れるのもあるが、源のリトシスの熟練度も上がっているからだ。
そして、源は、グラファイトの鎧を大量に作り始めた。前は一カ月で鉄の鎧を3万個作って、ボルフ王国に渡したが、今回は、一カ月以内に、援軍ウオウルフ1万の鎧と助けた農民兵4000人の鎧を作ることになる。
ウオウルフは、グラファイト装備でも問題なく強さを発揮できる。
だが、人はグラファイト装備は強度はあっても、重すぎて、使えるものではないので、鋼とグラファイトをを合わせた鎧で、少し軽量化した。鎖帷子も、グラファイトになってしまうが、しょうがない。それらの人たちには、鋼の剣を渡すことを予定しているが、その重量では、早く動けないと思うので、鎧には、いくつもフィーネルと同じ小型のボウガンを付けた。守備を固めて、弓矢で遠隔攻撃主体にしたのだ。
鉄の鎧を作るのと変わらない時間なので、15日あれば、準備が整うだろう。
村人から多くのアイディアが書かれた紙が送られてきた。その中には、使えるものが、多くあり、それを採用することにした。3人揃えば、文殊の知恵、孔明の知恵というが、まだ避難していない2000人も含めた18000で考えれば、これだけのアイディアが出るのかと感心させられた。
そのアイディアの中には、簡単ですぐに食べられる料理方法などもあり、自分たちが避難した後のことを必死で考えてくれているのだと感じた。
二日で、屋根は作り終えることができたので、ここから15日使って、鎧を準備していき、それが出来たら、残りの10日で、これらのアイディアを実際に可能にしていこうと考えた。
そんなレジェンドの上空に突如、ドラゴネル帝国連合軍の空襲部隊6000が、空を飛んでいた。
兵量を奪ってから、まだ、三日しか経っていないのに・・・
『源。空襲部隊は、次々とレジェンドの壁のまわりに降り立ちはじめました。攻撃をするのを思案中なのかもしれません』
突然、村を襲うというわけにもいかないのだろうと源は思った。
レジェンドの村人は、一斉に戦いの準備を始めている。
源は、ドーム天井の出入り口から出て、空高く飛ぶと、体をぐるぐるまわして、周囲を確認した。
『愛。ドラゴネル帝国連合軍は、空襲部隊だけで、ここに来ているのか?』
『はい。源。今の視覚からの確認では、他の陸からの敵は、見当たりません』
源は、これはチャンスだと思った。