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9章 光

巨大サソリは、源の目の前で力尽きて、動かなくなった。


すると、源の体から力がみなぎるような感覚がじわじわと伝わり、体が熱くなるような感覚を覚えた。この効果が何なのか分からないが、巨大サソリを倒したことの高揚だろうと、源は思った。まさか、あんな巨大な生き物をただの石を投げつけるだけで、倒しおおせたということが、高揚感を加速させた。


絶対絶命の状況だったからこそ、嬉しさが込み上げてきた。


巨大サソリを倒したからか、先ほど、突然閉まったドアが勝手に空いた音がした。

あいつらが何処かで観ているとしか思えないタイミングでドアが開いたことで、源はあいつらが関わっていると考えた。


でも、本当に危機一髪だった。ほとんど奇跡といってもいい。あんな巨大な生き物をたかが石1つだけで倒してのけたんだ。


もし、ミニが無かったら、それだけで何も出来ずにあの世にいっていただろう。

まったくの暗闇の中で、ありえないほどの巨大化け物サソリに襲われるってどういうことだよ・・・。


「ふぅー」と深く息を吐いて心を落ち着かせた。


そういえば、ロックは?


「ロック。大丈夫か!?」


「大丈夫だ。腕はひきちぎられたがな・・・」


「血とかそういったものは、出てるのか?」


「嫌、岩が崩れたように、俺の腕も崩れて、腕を奪われただけだ」


「命に係わることではないということだな」


「そうだな。多分大丈夫だ。それより、狐は大丈夫か?」


源は、子狐のところに行き、被せた死骸をどかして、手探りで様子をうかがう。変わらず、弱ってはいるが、さきほどの怯えは、無くなっているようだ。


「さっきのやつを倒したようだが、どうやったんだ?」


「ああ。持っていた石を思いっきりぶつけてやったんだよ。俺の力を利用して、ぶつけてやったから、貫通して巨大サソリは、即死さ」


「サソリだったのか・・・信じられないな。お前一体何者なんだ」


「それは俺も同意見だよ。何が起こってるのか、まったく解らない。解らないだらけで、頭が変になりそうだ」


「そうか・・・。こんな悪条件で、あれを倒すなんてな・・・。源にはこれで2回も命を助けられたようなものだな」


「2回?」


「ああ。閉じ込められていた空間から出してもらって、次は巨大サソリからも救ってもらった。俺のために、囮になって、音をたてたんだろ?」


「音からロックが床にひざをついたのが分かったからな。あのままじゃーさらにどうなるのか分からないと思って、必死でそうするしかないと思って行動してしまったことだ。確かに無茶だったけど、結果的には良かったということだな」


「俺は2度、源に救われたんだ。だから、俺も2度、源を助けると誓うよ」


「お互い出来ることをやったまでだろ。ロックが、子狐が泣いた時に、自分を犠牲にして、あのサソリに突っ込んでいったからこそ、俺が離れた場所まで、移動できたんだ。結局お互い様さ。だから、借りは1回だけってことにしとこう。」


「分かったよ。ありがとう。源」


「とりあえず、この部屋から出て、少し休憩するか」と源が提案すると、ロックも承諾した。


源は、子狐を抱きかかえ、サソリを倒した石を拾って、ロックと一緒に、部屋から出て、通路に座り込んで、話しかける。

「ちょっと愚痴を言うようだけど、この暗闇の中、あんな化け物に襲われて、体力よりも気力的に疲れたよ」


「俺は、源に教えられるまで、あいつがサソリだということも解らなかったからな。岩の俺の腕をひきちぎるほどの化け物だから、想像すらできなかった」


服もなければ、何もないから、燃やすこともできない。視覚が使えず、どこまで続いているのか分からない場所で動くのは、相当疲労が貯まる。


「ロック。10分ぐらい寝てもいいか?」


「分かった寝てくれ」


「少しでいいんだ。少し脳を休めてスッキリしたい」


そういうと、源は通路で横になり、脳を休めるように眠りはじめた。


―――『源。10分経ちました』


『ありがとう』


「ロック。ありがとう。かなりスッキリしたよ」


「もういいのか?」


「ああ。大丈夫だ。ロックがいてくれたことで、こんな状況でも休めたよ。助かった。ロックも休むか?」


「俺は大丈夫だ。暗闇にも嫌というほど味わって慣れてるからな」


「なるほどな・・・よし!でも、これからは、スムーズに動くことが出来るかもしれない」


「そうなのか?」


「ああ。さっきも話したが、音を立てることで、周囲がどうなっているのか、ある程度把握できるようになった。だから、ロックは、俺の肩に手を置いて、ついてきてくれ」


「でもな。源・・・。またさっきみたいな化け物が出てくる可能性が高い。音をたてて進むことで、逆に危険になることも予想して、進んでくれよ」


「確かにそうだな。さっきはサソリにそれで襲われたからな。スマン。」


「謝ることはないが、注意するに越したことはないからな」


「そうだな。そういえば、さっきの部屋のドアの閉まり方、たぶんだが、俺が動かしたこの硬い石に反応したような感じだった。まるでトラップのようにね」


「もし、そうなら、これからも、ああいったトラップがあるかもしれないということだな」


「そうだな。だから、むやみやたらに、何かを触ったり動かしたりするのは、危険かもしれない。さっきの変な動きをしていたドアも、あの部屋に入らせるための罠だった可能性もある。お互い気を付けよう」


「了解だ」


「サソリを倒したら、閉まったドアがタイミングよく開いた。それも怪しい。たぶん、俺たちを拉致したあいつらが、どこかから赤外線カメラとかで、観ているんだろう」


「そうか。源には記憶があるから、そういったことも分かるのか」


「ただの可能性の1つだよ。でも、普通に考えて、あんな化け物や俺たちみたいなものを改造するような技術力なんて、考えられないんだけどな」


「確かにそうだな」


「何度も言ってるが、考えれば考えるほど、頭が混乱してくるから、まずはここから出ることを優先に行動しよう」


「あまりにも突拍子もないことが起こりすぎるから、お互い混乱するのは、当たり前さ」


「だな」


源は、手を鳴らすことで、7m先ほどの周囲の状況を仮想空間で把握して進む。

ロックは、その源に頼って、肩を触って付いていくしかない。

何かが起これば、源の盾になろうと決心しながら、前進していく。


「この先、十字路で、真っすぐは、階段になっているようだ」


「そうか。どこに進むかは、暗闇を把握できる源の選択に任せる」


十字路に着くと、大きめの音をたてて、さらにそれぞれの道の先を把握しようとするが、どの通路も何かがいるわけでもなく、続いているだけのようだった。ここが、地下200mの場所なら、上に進んで行くしかないと考え、前進して、階段を登っていくことにした。


階段の先には、円柱のような空間が上に伸びるようにあり、その円柱の壁をぐるぐると回るように、螺旋階段が音で把握できる先まで、続いていた


「螺旋階段だ。これを登っていければ、地上にかなり近づけるかもしれない」


「分かった。行こう。俺たちは、どこに行っても、危険なんだ。少しでも希望があるのなら、登ろう」


ロックは、力強く源の選択を後押ししてくれた。


上へと続く、円柱の空間になったからか、音がかなり響く。その音がこだますることで、かなり不鮮明だが、奥まで、仮想空間に表示される。上の奥の方は、まるで蜃気楼の中にいるような歪んだ映像になっているが、無いよりはましだ。


階段の中間地点らしきところの壁に、さきほど拾った石と似たものが、挟まっていた。

これを取れば、またトラップが発生するのは、目に見えて分かる。


しかし、階段の先には、鉄格子が敷かれていて、先に進むことができない。その状況をロックに説明した。


「そうか・・・もしかすると、その石を取らない限り、その鉄格子は、開けられないのかもしれないな・・・」


「試してみるか」


源は、ひとりで、鉄格子の前に行き、鉄格子を両手で持って、両サイドに広げるように力をいれてみた。その鉄格子は、グググググッと開き始める。


「フッ。なんか、俺の力で鉄格子開けれそうなんだけど・・・」


「本当か!」


ふたりは、拍子抜けして、笑ってしまった。


石を取ったらもしかしたら、この鉄格子さえ、触れなくされて、またモンスターのようなものに襲われ、それを倒さなければ先に進めなかったかもしれないが、石を取る前なら、鉄格子を触って破壊できるということに、笑いが込み上げる。この場所を作った人間も、源の力までは想定していなかったということだろう。


源は、そのまま力をいれて、鉄格子を壊した。


「もう、危険なことをしなくても、外に出られるかもしれないな」

ロックは、少し良い事が起こったような気分になり、楽観的に考えた。


「だと、いいんだけどね。あーロック少し待ってて」

そういうと、源は、鉄格子をさらに分解して、鉄の棒を手に入れた。この鉄格子の棒を武器にしようと考えたのだ。


鉄の棒を杖のように持ち、床に付けると鉄の音が響き渡る。閉鎖された中の鉄の音はよくこだました。これで手を叩く必要もなく、かなりの範囲を把握できる。


20mほど上まで把握できるようだが、それでもまだ、その先に階段は続いているようだ。本当に200mも深い地下にいたのかと少し恐ろしさを感じた。この場所がみつからなければ、ずっと迷宮のような通路を彷徨い歩かなければいけなかったもしれないからだ。


源とロックは、地上に出るために、階段を登り続けるが、源は、突然歩みを止めた。


「いる」


「何がいるんだ?」


「今度はたぶん、蜘蛛だ」


「蜘蛛だって?」


「ああ。もちろん、大きい蜘蛛だ・・・俺は、虫が苦手なんだよな・・・あれはさすがに相手はしたくない」


「どんな蜘蛛なんだ?」


「気持ち悪くて見たくもないけど・・・目がいくつもあって、足も8つある。壁に張り付いていて、動こうとはしていない」


「そうか・・・」


『源。あの蜘蛛は網を張らないタイプのようです』


『網を張らない蜘蛛なんているのか?』


『はい。多くの蜘蛛は網を張りません。網を張る種類の蜘蛛は半分程度しかいないのです。源』


『そうだったのか・・・ということは、糸を出して攻撃してくるということもないということか?』


『そうではありません。蜘蛛は全般的に糸を出すのですが、網を張らないというだけで、常に糸を口から出しては、安全を確保しているので、壁から離そうとしても無駄でしょう。源』


『そういうことか・・・蜘蛛は視覚を頼りにしているのか?』


『蜘蛛の目は単眼でよくは見えていないという研究が発表がされています。

蜘蛛は耳などもなく鼓膜もないので聴覚に頼らないと考えられていたのですが、実は体毛で振動を感知して、体の300倍もの距離の把握ができる蜘蛛も存在すると言われています』


『ということは、今の俺たちのように聴覚でものを見ている可能性があるってことだな』


『はい。それもわたしたちよりも明確に把握している可能性があります。蜘蛛によって生態が違いますし、ハエトリ蜘蛛に似てはいますが、違うようなので、どのような能力を持っているのかは、想定できません』


ダメだ・・・本当に怖い・・・気持ち悪い・・・あんなものに殺されるぐらいなら、ここから飛び降りて死んだほうがマシだとさえ思えてくる。


源は小さい頃から虫が苦手で、カブトムシなどの限られた虫ぐらいしか触ったことがなかった。

蜘蛛やムカデなどをみたら、飛び跳ねて逃げてしまうぐらいだ。


ここの螺旋階段を登ったら外に出られるという保証も確証もない。登ったが何も無くて、また戻るというオチすらありえる・・・。


「俺本当に、蜘蛛無理なんだ・・・」とボソっと消沈した言葉を源がもらすと、ロックが前に出始めた。


「そうか。今回は俺の番かもしれないな。さっきは硬いサソリだったが、今回は蜘蛛なら、岩の俺の方が相性がいいかもしれない。捕まっても何とか殴りつけて、倒せるかもしれないしな。それに俺は見えないし、蜘蛛だと思わずに殴りつけたら、意外といけるかもしれない」


「ロックが捕まって危険になったら、俺が助けなければいけないけど、あいつに立ち向かう勇気が持てるのかと思うと・・・」


「ふっ。やっと人間らしい源を感じたよ」


「もともと普通の人間だから・・・」


「まずは、様子を見るために、近づいてみる」

ロックは、見えないので、壁に沿ってゆっくりと、上にいる蜘蛛に向かって階段を登り始めた。


「ロック。その蜘蛛は、網を張らないタイプみたいで、体毛で振動を捕らえて、聴覚のように把握しているようだ。体長の300倍の距離をそれで認識できているかもしれない」


「とにかく、近づいてみるよ。動いくようなら教えてくれ」


「分かった」


何度も鉄を鳴らして、蜘蛛の動きをチェックしては、ロックに状況を教える。

ロックが、上に登っていくが、蜘蛛はまったく動こうとはしなかった。


「今のところ、まったく動かない」



「そうか。突然動かれるのも、怖いから、少し音で動かしてみるか」というと、ロックは、壁を右手で大きな音が出るように、ズガーンと叩いてみた。だが、蜘蛛はそれでも動かない。何度か、ロックが壁を叩くことを繰り返すが、それでも動かない。

かなり近くまでいくが、蜘蛛はロックに興味を示さないようだった。


「その蜘蛛、まったく動かないよ。ロック」


「もしかしたら、この蜘蛛、大人しいのかもしれないな」


さっきの巨大サソリは狂暴だったけれど、今回は大人しいということもありえなるのか?と考えた。


ロックは、その蜘蛛の下を行ったり来たりして、移動するが、それでも蜘蛛は、動かなかった。


「どうする?源」


「どうするって・・・正直近寄りたくもないんだけど・・・ロックが岩だから反応しないとかそういうことはないかな・・・」


「体温で察知するようなら、源たちが近づいたら、襲いかかってくるかもしれないな」


源が迷っていると、子狐が、源の手から飛びのいて、ロックのほうに登っていった。

元気がないはずなのに、ここだけは登り始めた。子狐がロックのところに着いたが、蜘蛛は何の反応も示さなかった。


「こいつが来ても、大丈夫そうだな」


あの小さい子狐も、怯えずあそこまで行ったのだから、俺も怯えてられないと勇気を振り絞って強気でいきたいが、どうしても、巨大蜘蛛は気持ちが悪い。


源は、目をつぶって階段を登り始めるが、目をつぶっても仮想空間は見えているので意味がない。

ロックの近くにいくと、階段に張り付くように、ゆっくりと、蜘蛛の下の階段を移動していった。暗闇じゃなくてみえていたら、滑稽な姿にみえただろう・・・。生きた心地がしないというよりも、この蜘蛛に触られるほうが死ぬより嫌だとさえ今は思ってしまう。

ロックは、源を守るように、蜘蛛がいつ襲ってきてもいいように、腕をあげて、ガードをしてくれていた。ちょっとしたロックトンネルだ。


そこまでしても、蜘蛛は動きをみせずに、じっとしていてくれた。それ以降も、階段を登って蜘蛛から離れていくことが出来た。

かなり、ほっとした・・・。

「俺、蜘蛛のイメージ変わったわー」と源は、心からの声を吐くと、ロックは、笑った。


「安全に通れるのなら、それにこしたことはないしな」


「うんうん。蜘蛛は大人しいとか、褒めて歩けば、これからも襲ってこない気がするしね」


「はは。もしかすると、あの石を取った時の相手があいつだったのかもしれないな」


「そうなら、素直に石を取るという選択をしなくてよかったよ」


そして、源とロックは、螺旋階段を最後まで登りつめた。


岩のドアが一枚だけ存在した。その隙間からかすかな光がみえる。


「たぶん、外の光だ」


「本当だ・・・とうとう外に出られる・・・」


二人は、石のドアを開けようとするが、取っ手などもあるわけもなく、開けることは出来なかった。


「壊して出るしかないな」と源がいう。


「そうだな」


源がそこそこの力でドアを殴ると、石にヒビが入った。

そして、二撃目をドアの中央に再度当てると、ドアは、粉々に粉砕して、外の光が、暗闇の中に一気に入り込んだ。

光が眩しくて、目をつぶってしまった。


「光だ・・・」


ロックは、感動しているのか、すぐに外に出ようとはせず、光をジッとみていた。


「行こう。ロック」


「ああ。行こう」

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