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89章 帝国連合軍対ボルフ王国軍

午前8時、巨石飛行物トーラスは、シンダラード森林から南900km地点で地に降りていた。さすがにあの巨大な物体で調査するわけにもいかないからだ。予定場所まで、残り100kmだ。


ここからはレジェンドの戦士100人とウオウルフ140匹、ロック、リリス・パーム、農民兵のリーダーローグ・プレスを連れて、リトシスで飛んで近づくことになる。エリーゼ・プルとバーボン・パスタポもリリスの護衛として付いてきた。


源は、巨石飛行物トーラスから外に出てきた戦士たちに言った。


「ここからは、発見されないように、なるべく上空から帝国の戦力と2万のボルフ王国の農民兵の戦う様子をみにいく

その前に、戦士100人は、各自、ウオウルフの相棒を決めてくれ

ウオウルフに乗って移動することもあるかもしれない。臨機応変に対応して、生き残り、情報をレジェンドに伝えるように」


ウオウルフたちは、自然と100人の兵士の横に移動していった。40匹は、単体で動くことになるが、各自相棒を決めて、グラファイロープを持つ。フレーにもグラファイロープを固定して、近くまでは連れて行く。


源は、グラファイロープの取っ手を持つと、一斉に空を飛んだ。

初めて、源のリトシスで飛んだ援軍として来たウオウルフたちは、動揺したようだが、グラファイロープで固定されているので、落ちる心配はない。


200km/hの速度で残り100kmを30分で近づく。


前方方向に、軍隊らしき影を発見したので、そこでフレーを放ち待機させ、源たち調査団は、さらに上空へとあがり、なるべく気づかれない空の上から様子をみることにした。


戦争はすでに始まっていた。それをみて、源たち調査団は、全員、驚愕きょうがくした。


なぜなら、2万の農民兵が、40万の大軍に囲まれていて、戦っていたのだが、その2万の農民兵が、まったく装備を付けていなかったからだ。


源は3万人分の鉄の鎧をボルフ王国に確実に渡していたはずなのに、今囲まれている2万の農民兵は、農具で戦わされようとしていたのだ。


ウオウルフと戦った時のように、貧弱な装備のまま、装備で包まれている40万の帝国連合に囲まれているのだ。

連合軍の多くも農民兵のようだが、ボルフ王国の農民兵の酷さは、見ていられないほどだった。連合軍の農民兵は最低限の武具は用意させられているからだ。


「どうして・・・農民兵は、俺の装備をつけていないんだ・・・武器は確かに6万人分は用意している。鎧はつけていなくても、武器を持っていないのは、どうしてだ・・・」


そして、今まさに、2万の農民兵は、40万の大軍に攻め立てられていた。虐殺が行われている。なすすべもなく、農民兵たちは、殺されていく。


レジェンド調査団の中には、その光景をみて、目をそらす者もいた。


帝国軍の強さは圧倒的だった。フレーほど大きくはないが、小さなドラゴンのようなモンスターに乗ったフル装備の戦士たちが、空から攻撃を加えながら、下からは、人間とモンスター、獣人から動物まで、ありとあらゆる種族連合の猛者たちが、貧弱な農民兵を殺し続けているからだ。

フル装備した騎士軍団も装備していない農民兵におかまいなく攻撃を続けている。


2万のボルフ王国農民兵は、一体も倒せていないのではないのかというほど、圧倒的に押されて、殺され続けている。

帝国は、容赦がない。肩慣らしといったように、武器を振り回しては、農民兵を倒し、キャスター軍団は、一斉に、背後から持っているマナで攻撃をしかけていた。

帝国連合の農民兵は、ほとんど手を出さず、主力兵士たちが2万の農民兵と戦っている。

帝国連合軍は、決して連携できているとはいえないが、それぞれが、個性のある精鋭部隊だと思わせられる。ほんとんど実験台として、農民兵はやられてしまっている。


ボルフ王国国王は、何か秘策があるかのようなことを言っていたが、そのような気配は微塵も感じられない。作戦もなければ、戦略もなく、装備もなく、ただ一方的に2万の農民兵は殺されているだけだ。10歳ほどのこどもも、まるでおもちゃのような武器を持って、殺されていく。


ボルフ王国国王は、一体何を考えているのかまったく分からなかった。それこそ、時間稼ぎにもなっていないのだ。源は怒りが抑えきれなくなる。ボルフ王国への怒りは、燃えたぎるばかりだ。


「国王の野郎・・・」と源はつぶやいた。


レジェンド農民兵のリーダーローグ・プレスは、言った。


「セルフィ様。もしかして、ボルフ王国は、我々にこれを見せるために、2万の農民兵を出兵させたのではないでしょうか?」


源は、ローグ・プレスに問いただす。

「どういうことだ?」


「見てください。我々の調査団は、みなあの光景をみて、激しく怒りをみせています。セルフィ様のお顔も同じです

我々、レジェンドが見捨てれば、農民兵は、虐殺されていくだけです

レジェンドが動くまで、ボルフ王国は、この惨劇を行いつづける気かもしれませんよ」


「ボルフ王国は、貧民地の農民兵たちを人質として、利用して、俺たちを動かそうとしているということか?」


「これをみて、助けないという選択枠があるでしょうか?

調査団の中の親戚は、あの2万の兵の中にもいるかもしれないのですよ。

あんなことをされ、さらにボルフ王国に残っている4万のことを考えたら、自分たちだけ助かろうという気持ちにはならないかもしれません・・・セルフィ様に貧民地への全面的な開発許可を与えたのも、セルフィ様と貧民地の人々の絆をわざと作らせて、セルフィ様が、助けずにはおれない状態にするためだったのではないでしょうか?」


源は後悔した・・・そうだ。ローグ・プレスの言う通りだ。あいつら、ボルフ王国は、俺が助けずにおれないように、貧民地の人々と関わりあわせたのだ・・・


「やはり、一カ月前、ボルフ王国国王と会った時に、あいつらを殺しておくべきだったのか・・・」


悔しそうに言葉が漏れる。


ローグ・プレスは言った。


「セルフィ様。今わたしが言ったことは、ただの推測にしかすぎません

わたしたちが、これから糾弾きゅうだんしても、ボルフ王国は、何とでも言いつくろって、誤魔化すでしょう

ハッキリと、わざと虐殺させているなどと言うわけがなく、その証拠もあるわけがありません。ただの憶測や状況証拠だけで、一国の国王や王族を殺すことなどできませんよ」


そうなのだ・・・源はボルフ王国を一カ月前に壊滅させて、帝国との戦いを止めることが出来たが、それは犯罪的な行為で、力で相手を屈服させているだけで、何の正義も大義も無くなってしまう行為なのだ。


アメリカなら適当な証拠を捏造して、大義名分を作り出し、新聞やマスメディアで情報操作して正義だと言い張るのだろうが、源はクリスチャンでそのようなことは出来ない。アメリカ政府のご都合主義の偽キリスト教とは違うのだ。


そんなことをしても、世の中は変わらないことを現世の歴史で認識している。


むしろ、真実を隠して、悪化していく要因になるだけだ。


調査団から声が上がり始めた。


「助けよう!」「助けましょう!セルフィ様」


源は、悩む。

40万の軍勢に囲まれているあの状態からどうやって助けるというのか・・・レジェンドの調査団の兵力は、100人と140匹だ。アイスドラゴンのフレーはいるが、それでどうこうできる規模ではない。


帝国軍の兵力は、源が思っていたよりも多才で、強いものだった。コボルトなどと比べたら10倍も20倍も個々の能力が高いと思われる。農民兵だって装備をそれなりに与えられている。たぶんだが、9割は農民兵で1割が騎士や各国の兵士たちだろう。今回戦ったのはその主力部隊だった。


帝国の精鋭をみた具合では、装備したウオウルフでも、戦えるとはいえない。ウオウルフは、近接でならその威力を発揮するが、空からの攻撃や離れたマナの攻撃には対応できないのだ。


もちろん、レジェンドの戦士たちも同じで、近接型だ。


自分が、火弾ファイアボールなどで活路を開いて、助けることはもしかしたら出来るかもしれないが、それはあからさまな、帝国への攻撃になる。


レジェンドが帝国との交戦を意を表したことになるのだ。


調査団だけの判断で、戦争を開始させるわけにはいかなかった。


「今いるレジェンドの調査団だけの兵力では、助けられない。俺が無理やり力を使って助けることができても、それは帝国への攻撃だとみなされてしまう。俺たちは、今は調査して、レジェンドに報告するしかできない」


源がそういうと、調査団たちは、頭では理解できても、心では理解できないと言った具合に、悔しがる。それは、源も同じだ。


自分で言っていながら納得できない。


しかし、戦場に、変化が起こった。2万を40万の連合軍が取り囲んでいたのだが、一カ所だけ、道が開き始めたのだ。


『源。帝国の指揮官は、賢い者のようです』


『逃げ道をわざと作ったからか?』


『はい。そうの通りです。賢くない軍の指揮官は、包囲し続けて、敵味方の兵力を減らしていきますが、賢い指揮官は、わざと逃げ道を用意して、自分たちの兵力を守るのです』


帝国は、ボルフ王国ほど、バカではないということかと源は思った。


源からみても、完全に勝利できる相手なので、殲滅させることは出来る。

戦争で興奮した脳ならなおさら、衝動にかられて、虐殺をして、大勝利を収めようとするだろう。

だが、そのような欲に目を眩ませるのではない戦い方をする帝国の指揮官は、敵にも味方にも温情を与えようとしているようだった。


帝国の直轄の兵がどれだけいるのかは分からないが、この40万の軍勢は、35カ国の連合軍だ。

今は帝国側として戦ってはいるが、いつ逆側の立場で帝国と戦うかも分からない。

そこで帝国が無慈悲な命令を続けたとしたら、内心不平不満を抱く各国の代表者たちが出てくるだろう。しかし、徹底的な攻撃をしながらも、温情の芽をみせる作戦は、今回の戦争後にも影響していくることだろう。


案の定、生き残った農民兵は、空いた穴から、次々と逃走をはじめた。そして、帝国軍は、その穴を塞ごうとはせず、逃げるものは追っていかない。


何千人もの農民兵が、命からがら、戦場から抜け出すことが出来た。


調査団たちもほっとした様子をみせた。


とにかく帝国は強い。そして、賢いと思った。こんなものに戦いを挑むのは、自殺行為だ。

でも、ローグ・プレスの言うように、ボルフ王国国王は、農民兵を人質にして、わざと虐殺させ続けるかもしれない。なのに、ボルフ王国国王に自分は手出しできないのだ。国民でもなければ、ただの近隣の村人でしかないものが、どうして、その国の王族を殺せるのだろう。


『源。危険を伴いますが、調査団の兵力で、ボルフ王国の虐殺を軽減し、帝国側にも攻撃したことにならない方法があります』


『そんな方法があるのか?』


『はい。源。帝国は巨大な兵力と人員を擁していますが、それは弱点でもあります。80万の軍勢は、兵糧ひょうろう無しでは、存続できません』


『そうか!バレないように帝国の兵量を狙うということか』


『はい。源。もしやるのでしたら、早ければ早いほど効果的です。兵量は時間とともに、兵士たちの戦意を消失させていくと言われています』


レジェンドの鎧は、黒で統一されていた。ボルフ王国に送った鎧は、シルバーで、帝国側は、あらゆる色の鎧の連合だったが、闇に乗じるウオウルフと統一させる意味でも、黒にしていた。


自分のリトシスを使えば、空から闇夜を使って、兵量を狙えるかもしれないと思った。

そして、何よりも、源は帝国軍人たちもなるべく殺したくなかった。

帝国側が正義だとは思わないが、ボルフ王国はあきらかに悪側で、帝国のほうがよほどまともではないかという印象があったからだ。

帝国側の戦争をする理由も何も知らないので、帝国軍人を殺めるのは、極力したくなかった。自衛のために殺めるのなら、大義もあるが、自分たちから攻めて攻撃することはしたくなく、兵量はその源の想いにも一致したものだった。


源は、調査団に大きな声で話しかける。


「みんな聞いてくれ。帝国にあからさまな攻撃はできない

もし、レジェンドの俺たちが攻撃したと分れば、帝国は、ボルフ王国との中間地点にあるレジェンドに先に攻めたててくるだろう

だからと言って、何もしないで帝国を通過させれば、帝国は、そのままボルフ王国の農民兵を殺すしかなくなる

そこで、大軍の帝国の兵量をこの調査団で狙ってはどうかと考えている。みなの意見を聞きたい」


戦士たちは、みな賛成した。


リリス・パームが、源に助言した。

「気づかれないように、兵量を狙うのなら、わたしは森のフクロウを使って夜の目の役目を補えるわ」


「それはいいな。敵の状況を夜でも把握できるのは、ありがたい。俺も視覚以外で夜でも把握できるけれど、リリスの能力も助かる」


調査兵団のひとりが手をあげた。


「わたしは、ワーム・トスと言います。セルフィ様の装備のおかげで、遺跡のマナを手に入れることができました。通信マインドシグナルです」


「それはどういうマナなんだ?」


通信マインドシグナルは、相手に信号を送ることが出来るマナで、使える距離は限定されますが、わたしのは、シグナルローですから、50人程度の人との会話が同時に行えます」


「それは凄いな・・・じゃーワーム・トス。君は、リリス・パームと一緒に行動して、各自の班のリーダーに指示を送ってくれ」


「はい。解りました!」


もの凄く便利なマナだと思った。レジェンドの戦士たちの装備はモンスターにも当然有効だ。だから、遺跡に入ってマナを手に入れた人も多かった。他にも使えるマナを持っている人もいるだろうと思った。


「まずは、夜を待つ、それまで、みんなは、休んでてくれ」


源は、みんなを帝国の見つからない場所に降ろして、夜の作戦のために、休息を与えた。そして、空を飛んで、戦争で逃げた農民兵たちのところに行った。


農民兵たちは、セルフィの姿をみて喜んだ。源は生き残って出会うことができた農民兵にグラファイロープを渡して、時間をかけてレジェンドまで無事に連れて行くことができた。

約4000人が助かっていた。怪我をしてはいても、生き残ることが出来たのだ。


そして、司祭様とボルア・ニールセン、地区長たちに、その状況だけを伝え、夜に帝国の兵量を狙う作戦を話して、許可を得た。


まだ、帝国と戦う決定はしないが、出来ることがあるということで、報告し、また、倉庫に作って保存してあった火薬箱を大量に持って調査団たちの基へと向かう。


地区長たちは、源から聞いた農民兵たちに襲い掛かった虐殺とボルフ王国の卑劣さを知って、落胆した顔になった。


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