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86章 帝国の支配

貧民地発展計画は、源の今思いつく、できることは、終えてレジェンドへと戻ってきた。

レジェンドのように、人々があらゆる仕事ができるように出来れば、もっと発展するのだが、今回は、ほとんど農業だけの発展だけだ。

農業改革にしても、リリスなどの協力があれば、いくらでも改良はできる。馬や牛などを利用していけばいいからだ。だが、貧民地の農民に、牛や馬を持つ余力はない。農具などの開発をする農民も育てていくなど国がサポートしていけば、豊になるのだが、悪が支配者の恐怖を生みそれを規制してしまう。


それでも、去年の9倍の収穫になったので、ボルフ王国は、収益が上がったはずだ。


ボルフ王国はどのような策略で騙そうとするのかと思っていたが、予想に反して、ボルフ王国とレジェンドの貿易は、友好的に進んでいった。特に何か問題を作り上げて揚げ足を取ろうとするということもない。


レジェンドに鉄の鎧の生産の注文もさらに増えた。


ボルフ王国は、農業から得た収益のお金を鉄の鎧で使おうとしているのだろう。


そのおかげで、リタ商店は、とても潤った。そのお金を貧民地に流すことができたので、貧民地は、農業とあわせて2重の豊かさを獲ることに今年は成功した。源は、リタたちの反対を押し切って、リタたちに渡す報酬を4割から6割にした。


畑の収穫とリタたちの支援で、数年は、食糧不足で餓死するといったことはなくなるだろう。



気持ちが悪いくらいにいい流れが続いていた。


しかし、世界情勢に問題が起こり始めた。


ボルフ王国から使者が来て、今のボルフ王国の立場を理解してもらうようにと国王から言われたというので、使者の話を聞くことになった。しかし、内密にということだったので、源だけに告げられた。


「レジェンドのセルフィ殿のご尽力で、ボルフ王国の収益はあがりました。それで農民も安心できると思っていたのですが、問題が起こりました」


「問題とは何でしょうか?」


「収益が増したことをなぜか帝国が察知したのです。これも、帝国側のレジスタンスから情報が漏れたと思われます」


源はその使者に対して指摘をする。

「それ以外にも、情報を流す人もいるのではないでしょうか?」


「そうですね・・・」


帝国は、広い世界をその権力を持って支配し、統合させている。多くの国々を帝国に加盟させているので、その維持費が必要になる。また、帝国への反乱を企てる国や集団が出てくると帝国は軍を派遣しなければいけなくなる。


帝国は、国々に反乱を起こさせないように、各国から多額の税を要求する。国に財源がなければ、人を雇うことも武具をそろえることも出来ないからだ。


そして、帝国は、各国にスパイのような存在を裏で派遣する。それが使者が言っている帝国側のレジスタンスになるというわけだ。


ただ、帝国がそれだけをスパイとして派遣しているとは考えにくい、帝国側の貴族などと手を組んで、政治に入り込もうとするのは歴史ではよく行われることだった。

織田信長の明智光秀。豊臣秀吉の石田三成。武田信玄の山本勘助。上杉家の直江兼続。日本でも、支配者の息のかかった軍師たちが、大名たちの動向を目をひからせて、監視しては、政治に関与されてきたのだ。本当の軍師は、黒田官兵衛などのように、淘汰され石田三成などから圧力をかけられた。


帝国はあらゆる手段を使って、帝国側の政治家や貴族をサポートして、各国の影響力を持てるまでに育て上げるわけだ。

レジスタンスは、その駒の1つにしかすぎないだろう。


帝国が、ボルフ王国を信用せず、規制をして多額の税を強いるように、ボルフ王国は、レジスタンスや信用ならない貴族や政治家、兵士や農民たちに、圧力をかけていくという悪循環が広がるのだ。


だが、今回は、ボルフ王国国王は、セルフィにその悪循環を打ち砕くような権利を与えたことによって、思わぬ利益が舞い込んだが、またその利益も帝国は、吸い取ろうというわけだ。


「ボルフ王国は、帝国のこのような横暴に苦役を飲まされ続けてきました。そのしわ寄せが、貧民地に向かうのです」


源は答える。

「わたしも、その力関係については、理解できなくもありません」


それを聞いて、使者もほっとしたようだった。


「セルフィ殿。ボルフ王国は、本当は、貧民地も豊かにして利益を分かち合いたいのですが、それは絶対の力を持つ帝国から監視され、抑制されて、できないのです。ですから、現国王は、決断されました」


「決断?」


「はい。ボルフ王国の権力や圧力にも屈しなかったセルフィ殿に感化され、国王も、本気で帝国との戦いに目を向け、国民の解放を望みはじめたのです」


源はだからか・・・と思って質問した。


「最近、レジェンドの鉄の武具の依頼注文が多くなっているのは、そのためですか?」


「はい。大きな声では言えませんが、シンダラード森林に進行したのも、帝国の縛りから国民を解放するためなのです」


もし、この話が本当なら、近々、ボルフ王国と帝国は、衝突するかもしれないと源は思った。そして、それはレジェンドにも飛び火するかもしれない・・・。


「申し訳ないですが、レジェンドは、戦争には参加しません。わたしたちは、争うために武具を作ったのではなく、自分たちを守るために、武具をまとっているのです。あくまで自衛のため。レジェンドは、ボルフ王国と帝国の争いには、参加しません」


「はい。それを今日は伝えていくようにと言われてきたのです」


「どういうことですか?」


「国王はこうおっしゃいました。シンダラード森林は、ボルフ王国の領土ではなく、レジェンドもボルフ王国に属しているわけではない。今回の貧民地の手助けも、レジェンドの仁愛のような精神から行われたことは解っている。だから、レジェンドに、戦争に参加しろとは言わない。だが、鉄の資源の供給や貧民地への助け、ボルフ王国との貿易をつづけて頂きたい。それが、国王の言葉です」


源はボルフ王国が戦争にも参加するように要求してくると思っていた。だが、ボルフ王国国王が伝えてきた内容は、とてもまともだと思えるものだった。源は絶対にレジェンドを戦争に参加させたくないと考えているので、その国王の主張に反論するわけもない。


だが、使者は、突然、床に手をついて、源に頼み事をしてきた。


「セルフィ殿。どうか・・・どうか・・・戦争に参加してください!」


何を言ってるんだ・・・とセルフィは思うが、使者の真剣な想いは嘘ではないように見える。


「突然どうされたのですか?」


「これは国王の意思ではなく、このわたしテェアリア・パラディンの勝手なお願いです。今、帝国は、大軍でこちらへ向かって来ています」


テェアリアという名のボルフ王国使者は、必死の面持ちで頭をさげて願い続けるが、それよりも、帝国がすでに大軍で来ているということに驚いた。


「もう動き始めているのですか!?」


「はい・・・農民の収穫の多さだけではなく、ボルフ王国が鉄の武具を集め始めていることも帝国には筒抜けのようで、その粛清に向かっているということです!このままでは、ボルフ王国は、滅ぼされてしまうかもしれません。セルフィ殿が手掛けた貧民地にも被害が及ぶでしょう」


どうして、突然そんな話になるんだと源は思った。帝国が巨大な力を持っているのなら、武力に訴える前に、政治などの圧力で、力を削いでいけばいい。なのに、農民の豊かさが増したのは、つい最近の出来事だ。それに、それだけのことで、兵を起こすとは思えない。


「ボルフ王国は、一体何をしたのですか?帝国が大軍を起こすほどの何を」


「分かりません・・・ですが、これは噂ですが・・・」


「何でしょう?」


「ボルフ王国は、よく反乱を起こすペルマゼ獣王国と裏でつながりを持ちはじめ、帝国への反逆を合図とともに、待ち構えているというものです。わたしたちにすら、その内容は国から伝えられてはいないのですが、帝国が動くとしたら、その確固たる証拠があって動いていると思われるのです。また、この反乱には、ワグワナ法国も加わっているとも言われています」


あのペルマゼ獣王国か・・・と源は思った。ボルフ王国国王はよくわからないが、第三王子サムジとペルマゼ獣王国だけを考えれば、帝国のほうが正義ではないのかと思えてくる。


「ワグワナ法国は、どのような国なのですか?」


「ワグワナ法国は、人間だけの国で、人間至上主義を掲げているのですが、モンスターなどの出入りも禁止されるほどの国なのです。あの土地は、昔はモンスターも受け入れていたのですが、突如モンスターが暴れ出して、虐殺が行われたことで、モンスター排除思想が根強く残っているのです」


「そのワグワナ法国は、どうして、帝国に反乱を起こそうとしているかもしれないと思われているのでしょうか?」


「ボルフ王国は、表向きは、モンスターも許可されている国なのですが、実際の比率は、人間の方が多い国です。昔大共和ケーシスという動物主体、モンスター主体の反動で、そうなってしまっているので、ワグワナ法国とは、姉妹国のような関係になっているのです。帝国にも、モンスター排除を訴えていることもあって、主張しようとする風潮もあります。ですが、実際に、今回の戦いに参加するかは、まだ分かりません」


ワグワナ法国の過去は、モンスターが暴れたことによるものだと言っていたが、突然暴れ出すなんてこともあるのかと思った。そして、人間主体ということは、予想では、ボルフ王国と戦力は同じ程度だろうということだ。


源は、帝国のことをほとんど何も知らない。ただ多神教で、龍王の意思が消えて腐敗しているとは聞いているが、すべて悪だと見るのは早計すぎる。


「帝国はどこまで来ているのですか?勢力の規模や関わる国の数を教えてください」


「帝国は、このシンダラード森林の南1000km地点にまで進軍は進められ、80万の軍勢が終結し押し寄せています。参加国は、50国のうち35カ国です。巨河のルミール河から船を使い水路を使って移動してきています。シンダラード森林には、2カ月ほどで到着するでしょう」


何て規模だ・・・と源は思った・・・35カ国もの国々が帝国の旗の下に集まり、こっちに向かって来ている・・・!しかも、その途中に、シンダラード森林はあるのだ。船を使っているのなら、歩兵もかなりの速さで到達できるだろう。


直線距離で、シンダラード森林の北200kmにボルフ王国は存在している。そして、シンダラード森林の南9000kmにドラゴネル帝国があると聞いた。すでに、80万の軍勢は、8000kmを進み、1000kmまで来ている。


「ボルフ王国の規模は?」


「ボルフ王国は兵1万。農民兵6万の計7万です。ペルマゼ獣王国は、約5万。ワグワナ法国が多くて5万だとすると総勢で、17万になるでしょう」


「貧民地から人出を6万も出すのか!?」


「若者はもちろん、老人であっても、参加は必須となります。レジェンドからの武具を農兵たちに渡していますが、数がありません」


源は、帝国の80万と戦って、農民兵が生き残れるとは到底、思えなかった。これから急ピッチで鉄の武具を用意したとしても、せいぜい3万人ほどの武具しか準備できないだろう。


せっかくあれだけ苦労して貧民地の人たちを救ったのに、6万人が死んでしまうかもしれない。


「若者といったが、何歳から出兵するようにいわれてるんだ?」


「10歳です」


10歳・・・こどもじゃないか・・・


源は、頭を抱え込んだ。どう考えても、ボルフ王国側が勝てる戦ではない。前回の戦いでは、農民兵は、コボルトとほとんど変わらない強さだった。細い体で装備もなく、兵として連れて行かされていたからだ。今は食料があって少しは肥えているかもしれないが、それでもコボルト並みだろう。それを35カ国の国々の兵と戦うなど、どうなるかは明白だ。帝国は、こどもにも手を下すのだろうか・・・と考える。

源は聞いた。


「なぜ、ボルフ王国国王は、降伏しない?」


使者は、言っている質問が理解できないといった顔で聞く。


「どういうことですか?」


「農民兵6万を出したところで、これらはほとんど戦力にはならない。戦力として数えられるのは1万だろう?それは、ペルマゼ獣王国やワグワナ法国も同じなんじゃないのか?帝国の半分が農民兵だったとしても、3万対40万の10倍以上の差がある戦いになるはずだ。これに勝とうと思うのなら、帝国が数を集める前に攻めるべきで、攻められている場合じゃない。帝国が準備を起こす前に、帝国に強襲をかけて攻め上るしか反乱などでの勝利などできるわけがないんだ。それがすでに無理なのだから、降伏するしかないはずだ。なぜ、そんな無謀な戦いを続ける?」


「分かりません。ただ、ボルフ王国国王は、やる気です。帝国の支配から国を解放すると宣言されています」


何を根拠に、あの国王は、無謀な戦いをしようとしてるんだ・・・。


「俺は参加は、絶対にしないぞ!帝国のことを俺は知らないから悪だとも思えない。そんな相手を殺すことなど俺にはできないからな。申し訳ないが君がどれだけ頼んでも、君の頼みのために、レジェンドの村人の命を危なくなど選択はできない!」


「ですが、このままでは、大勢のボルフ国民が死んでしまいます!セルフィ様の力をわたしは拝見しました。あの巨大な物体を乗りこなすあなたの力があれば、帝国を倒せるのではないのですか?」


もしかして・・・ボルフ王国国王も、それを見越して、戦おうとしているのか?と思った。俺を戦力にいれて・・・伝言の内容は、参加しなくてもいいとは言っていたが、違う方法があるとでもいうのか・・・


『愛。この使者は本当のことを告げているのか?』


『はい。源。この者は、最初から嘘をつかずに、話しています』


使者に真実をボルフ王国が語るとは思えない。この使者からすれば、教えられている内容が、真実なのだろう。この使者は、心から俺に頼んできたのだ。


「ボルフ王国、国王に謁見したい。取り次いでくれ」


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