85章 貧民地発展計画2
この世界は、雨は降らない。地球とは違って地下世界のようになっているからだ。ただ、世界が密封されているような状態なので、もの凄く水は潤っていて、すべての場所が、温暖気候のようになっている。それが植物が育ちやすい理由でもあったが、ボルフ王国はそれでも土地を荒地にしてしまっていたのだ。なので、水はあまり問題ではなかったが、モンスターや動物によって、荒らされるほうが問題だった。
それをどうにかしなければいけない。
レジェンドの民なら、農民に武器を与えることもできるが、ボルフ王国の農民に技術を渡せば、それがレジェンドにはねかえってくる可能性があるので、渡せない。
そこで源は、人間の腰ほどの岩の壁を作ることにした。
岩を大量に持って来て、その岩で、小さな壁を作ったのだ。小さな壁でも、広大な土地に作っていかなければいけないので、かなりの時間を使って、作っていった。源なら、空を飛んで、まるで麺の生地を伸ばしていくように、作っていけるのだが、それでも時間がかかった。
その壁は、内側は、スベスベだが、外側は、外敵を近づかせないために、トゲのように作っていった。トゲの型を作って、内側からハンコウを押すようにして、壁にトゲを作っていった。
このトゲに動物がやられて、その動物をまた食料にできた。
日を追うごとに、レジェンドから芽が贈られてきて、その芽を植えていく。
この世界の特長のおかげで、水には苦労は無かったが、運任せもできないので、水を持ってくる計画の設計図を作った。
上流の川の高さよりも、源が作った腰ほどの低い壁は、低い位置にあったので、壁の上に樋のようなくぼみを作り、水が流れるようにしたのだ。栓を抜けば、水を手に入れて、その水を撒けるようにした。その水は、衛生的とは言えなかったが、農業だけではなく、生活水としても使われ始めた。お金目的なら、水道会社のようなものを作るのだが、まったくそんなつもりはない。
源は、レジェンドに戻って、岩の桶を作り、それをまた、型のようにして、木の桶を大量に作り、それぞれの家族に配った。
この水と桶の効果は、まだ手につけていない北側の農地でも便利に利用できて、好評だった。
穴をあけた桶と穴の開いていない桶の2種類を配った。穴を開けてある桶は如雨露のように使える。
壁を飛び越える動物もいるが、無かった時に比べれば、格段に、畑への侵入してくる生き物は激減したので、安全面でも貧民地を助けることになった。
南側は概ねやり終えたので、源は、北側のまだ使われていない土地を同じように、開発していき、肥料を混ぜ込ませていった。その土地は、まだ区分けせず、問題をおこさなければ、北側の人間は、1aだけ自由に使えることにした。南が成功したあと、北側の開発がはじまれば、全部土地は、一旦返してもらうことになり、区分けしたあと、それぞれに与えていくが、今は、自由に使わせた。問題を起こした者は、使えなくした。
土地だけなら、貧民地の農民の土地は、2倍になったということだ。
南側の人間は、育つまでは、森の落ち葉をひろって、それを自分たちで粉々にして、蒔くようにもさせた。栄養を盛っていくのだ。
その間に、貯まっていく肥溜めからは、また肥料を作り、貯めておく。
レジェンドでは、すぐに育った作物だったが、その2倍の時間が経っても、貧民地の作物は育っていかなかった。レジェンドの土地は、虫が大量にいて、ミミズなども沢山はじめからいたのだが、栄養のない土地には生き物は少ないので、作物も育たないのだ。
源は、失敗したかと思ったが、農民から言えば、それが当たり前だということだった。レジェンドの土地が異常すぎるという話だ。
なので、待つしかない。
肥料で造られた土地の作物が、やっと育ち始めた。農民の人たちは、育ちが早いと驚いていたが、源にはとても遅く感じた時間だった。
なんとか育てられていたのだ。
特にイモ類が育ち始め、その他の作物も育ち始めた。
しかし、その土地で育つ量は、レジェンドと比べると少なすぎた。だが、死んでいた土地で育てていた人たちからすると、3倍の実を結んでいると驚きの声が上がっていた。
源は、何とか成功させたことに、心を撫でおろした。まだ食べられるほど育ってはいないが、育っている事実が安堵をもたらす。
農民たちも、結果がみえはじめて、歓声の声まであげはじめ、明るい雰囲気が広がり始める。
しかし、このような農業のやり方は、源のリトシスがあってはじめて出来ることで、これを毎年やっていけるわけではない。肥料も混ぜ合わせたので、2年は持つかもしれないが、その後は、また死の土地になる。
そこで、新しい土地を肥やすために、シンダラード森林から木々を持って来て、源が作った小さい壁のさらに外側の土地に、その木々を植えはじめた。
そこに、木々が育ちはじめれば、その木の葉が落ちて、その葉が土地に栄養を与えていくという自然のサイクルが復活するのだ。もともとその土地は大きな森のように木が育っていたというが、ボルフ王国の発展のために大量に伐採されていまは、ハゲた土地になってしまっていた。
伐採したらすぐに木々の芽を植えればよかったのだが、そういうことをせずに開発を進めて、土地が死んでしまっていたのだ。もともと木々は育つ土地だということは分かっている。
木を規則正しく、植えていき、まるで農園のように綺麗な土地になっていった。
ハゲ山だったような土地に、髪の毛が生えていくように、規則正しい木々が立ち並んだ。何年先になるのか分からないが、将来のために、シンダラード森林の果物の種も沢山植えておいた。将来は果物の木が育てばいいが、育つかどうかは運任せだ。
貧民地も見栄えがよくなった。
規則正しく、広めの間隔で木々を植えたので、それらの木が腐らなければ、その木から実が落ちて、新しい木々も生えていくようになるだろう。
あとは、レジェンドでは、有機農法の研究をしてもらっていた。特にイモ類を使った発酵を繰り返し行ってきたので、それが上手くいけば、さらに土地には生き物が沢山集まる豊富な土地に生き帰って行くだろう。今は森に落ちている落ち葉で足していくしかない。
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そうこうして、数カ月が経つと、貧民地の基準で6倍もの収益になった。同じ土地の広さでは、3倍だったが、土地が2倍になったので、6倍の収益だったのだ。農民たちは、もの凄く喜び、セルフィに感謝した。その収益は、北側にも流され、均等に分けられたが、みなが均等に利益を増した。実際は、普通の収穫のはずだが、以前がひどすぎて6倍になったのだ。
それでも奇跡だった。これで北側の開発も着工することができれば、さらなる収穫が見込まれるようになるのだ。
源たちが、心配したボルフ王国の邪魔もなく、20万人の農民たちが、力を合わせて、耐え忍んだ結果、十数年来ぶりの収穫になったのだ。
みんなが、飛び跳ねて喜びを表した。
その日は、わざわざ国王が貧民地にやってきて、セルフィに開発成功の名誉ある授与を捧げられ、胸に金のパッチが付けられた。農民が一斉に歓声をあげた。
ボルフ王国全土の食料事情さえも変えてしまった出来事なので、多額の賞金がセルフィに贈られた。
その賞金は、すべて、20万人の農民に均等に分けられたので、ひとりは、スズメの涙のようだが、それでも、さらに農民の利益は増したのだった。
セルフィは、北側の土地も開発して、土地を振り分け、レジェンドへと帰って行った。
2回目の収穫には、今までの9倍になった。これで食べ物がなくて死ぬ人もいなくなり、この農業の改変は、伝説とまで呼ぶ者までいた。
栄養不足の状態が長かったために、今でも病気で死ぬものが多いがいずれはそういった悲劇もなくなるといいと思う。
有機農法も少しずつだが、はじめられるようになり、それが上手くいけば、本当の土地の復活になるだろう。
その後、ボルフ王国は、税をさらに増やして、農民を苦しめはじめるかとも予想していたが、そんなこともなく、農民は、そのまま利益を得ていった。もちろん、ボルフ王国の利益も上がったのだった。
何だか、気味が悪いほど、ボルフ王国とレジェンドの関係はよくなり、貧民地とレジェンドは交流も増え、とても仲良くなっていった。
まるで第二のレジェンドだと言われるほど、貧民地はゆとりを持ち、レジェンドと共生していくのだった。
源は、貧民地の人たちと仲良く喜びを分かち合ったのだ。