84章 貧民地発展計画1
源は、数日しっかりと休みを取った。数日間、セルフィの姿をみなかったので、何人かは心配していたようだが、何の心配もない。
本当は、レジェンドでも、まだやることはあるのだが、それよりもひどすぎる状態である貧民地を救うことのほうが優先順位は高いと源は思い、レジェンドのことは、地区長たちやロックに頼んだ。
防衛の強化のために、リリスも冒険者として雇って、レジェンドを守ってもらうことにした。
源が、数日、ロックハウスで休んでいたので、リタ・パームやバルト・ピレリリもレジェンドに滞在していた。
「リタさん。バルトさん。すみません。送り届けずにそのまま休んでしまって・・・」
「大丈夫よ。セルフィ。気にしないで、あなたは頑張りすぎてるから、本当はきちんと休んだほうがいい。それにレジェンドのリタ商店のやらなければいけないこともあったのよ」
バルト・ピレリリも頷いていた。
源は、二人にお辞儀をして、スッキリした顔付きで言葉を交わす。
「レジェンドのことは、みんなに頼んだから、貧民地の発展計画に向かいましょう。リタさんとバルトさんにも、アイディアを出してもらいますよ?」
「分かったわ。ありがとう。セルフィ」
源は、出かける前に、シンダラード森林の不必要な木々に、グラファイロープをつなげて、一気に木を大量に引き抜いた。
そして、教会から、ガラススペースの予備を持って来て、それも一緒に、持っていこうと思った。ガラススペースとは、声を大きくする拡声器だ。
リタ・パームとバルト・ピレリリにもグラファイロープでつないで、ボルフ王国へとかなりのスピードで向かう。
今では200km/hを超えて飛ばせるので、1時間ほどでついてしまう。
大量の木々が、空から飛んでくるのをみて、貧民地の人たちは、集まり始めた。
源は、地面に、ゆっくりと、リタとバルトを降ろすと、持って来た木々を少し離れたところに置いて、ガラススペースを集まった農民の人たちの前に置いて、中に入った。
「農民の皆さん。わたしは、シンダラード森林のセルフィという者です。」
そう言うと、農民のみなが、「知っている」と声に出す。
「ボルフ王国国王から、直々に、貧民地の発展の責任者に抜擢されました。貧民地のことは、すべてわたしにまかせると国王が言ったのです
どれだけのことが出来るのかは分かりませんが、何とかアイディアを出し合って、みなさんの生活を少しでも豊かにするよう努力します。みなさんが手伝ってくださるのなら、開発も早く進むでしょう。よろしくお願いします」
以前、亡命しようとしていた人たちが、大きな声で言う。
「セルフィ様!!貧民地も豊かにしてくださるのですか??」
「わたしは、全力で、みなさんに出来ることをしたいと思います。どうか皆さんもご協力ください」
小さいながらも歓声があがった。
亡命を望んでいた人たちが、率先して手伝おうとしてくれた。この人たちには、前は申し訳ないことをしたと思い、謝ったが、セルフィは、悪くないと言ってくれた。
まずは、人口調査からだ。ボルフ王国にいる貧民地の人々は、何人いるのかを調べた。大雑把だったが、約20万人という貧民地のひとたちの数が分かった。
この20万人の規模は、レジェンドの大雑把にいえば100倍だ。
しかも、貧民地は、森ではなく、すでに荒地のようになってしまっていて、土地は、貧しくなってしまっている。作物の育ちが悪いのだ。
正直言って、今使っている土地は、すべて捨てて、数年は、使わないほうがいいが、そんなことは出来るはずもない。では、どうすればいいのか。それは、栄養がない土地に、無理やり栄養をいれてしまうことだ。
そう、肥料の開発だ。本当なら有機肥料を発酵させて作りたいところだが、そんなことをしているヒマはない。
ボルフ王国を取り囲むかのように存在している貧民地の農民たちの家や畑は、20万人のほとんどが農業をして生計を立てていた。
畑も死んでいる状態なので、もし、そこに肥料をまぜて、土地を作り直すのなら、今ある作物はすべて取り出さなければもったいない。
20万人のすべての土地を数カ月、土地を慣らして、食べ物の芽を植えて、育つまでの数カ月を待つことなどできない。それまでの食料が持たなくなるのだ。なので、20万人の土地の何割かを開発して、分けて計画を進めていかなければいけない。
その土地を開発している間は、その土地からは食べ物は取れないので、どこかから食べ物を調達してこなければいけないのだ。
実はレジェンドは豊作で、食べ物を貯め込んでいる。地下倉庫に3万人分の食料が余分にあるのだ。
3700人の村なのに、3万人分の食料が貯め込まれている。しかも、今でも育ち続けているので、その3万人分をそのまま貧民地で使える。
そう考えれば、貧民地の20万人のうちの3万人の土地を開発してもやっていけるわけだが、そんなことをしていては時間がかかりすぎる。
この3万人の食料を何とか、貧民地の人たちの創意工夫をして、やりくりしてもらうことで6万人分の食料にしてもらう。それでも、今までよりも多く食べられるはずだ。
そして、秘策を源は持っていた。愛の情報から木を食べるという発想が飛び出した。木をスーパーウッドパウダーにして、食事の際に、そのパウダーで、もたせるのだ。
木ならシンダラード森林に大量にある。シンダラード森林は、長い間、好き放題植物が育っていたので、不必要な木は、腐っていっていた。なので、ある程度、木々の数を減らすことが森のためにもなるのだ。
このやり方で、20万人中、10万人の食料を確保できるので、10万人という半分の土地の開発を一気に進めることができる。
お世辞にもおいしいということはないだろうが・・・。
まずは、進めるためのやるべきことは
1、肥料づくり
2、今ある土地の食料の回収
3、循環計画
4、食料のやりくりの知識を広げる
これらが最低限、必要になってくるのだ。
貧民地の南側、10万人の土地からはじめることにした。
北側の10万人は、いままでと変わらず、やってきたことで生きて行ってもらう。
5万人には、まず今ある土地の作物の回収をしてもらった。その作物の芽を回収の時に、取って別で保存しておいてもらう。
そして、残りの5万人には、肥溜めを一カ所に集めてもらう作業をしてもらった。レジェンドにはなくて、ボルフ王国に大量にあるもの。それは肥溜めだ。人々が集まっている場所では食べて行かなければいけないので、それだけ出すものも多い。
源が、大きな穴を掘ってそこに、集中して集めてもらう。
その間に、源は、岩から巨大な500m×500mの巨大な板を作り、それを使って、リトシスで、空中から窒素の固形物を大量に集めた。
空気なので、どれだけでも手に入る。
そして、リン酸やカリ、カルシウム、マグネシウムをボルフ王国中から集めた肥溜めから手に入れて行くことになる。なので、現在、5万人に集めてもらっているのだ。
それだけではなく、源は、森の中に入って、その森の地面に、グラファイロープを張り巡らせ、地面に網状にして置いていき、落ちている落ち葉をリトシスで大量に集めた。
窒素の固形物をパウダー状にして、落ち葉と一緒に混ぜ合わせる。落ち葉も細かくパウダー状にした。
そして、シンダラード森林から持って来た大量の木々をファイアボールで燃やし炭を手に入れて、それもパウダー状にする。
あとは、肥溜めからの栄養素もリトシスでパウダー状にして、すべてを混ぜ合わせて、大量の肥料を作り上げるのだ。
5万人が、肥溜めを集めている間に、また源はシンダラード森林から木々と地下に保存していた3万人分の食料の一部を持ってくる。木々も大量に運んできた。
そして、その木々をスーパーウッドパウダーにした。
これで、二日が過ぎた。
二日間で、肥溜めを集めきり、そして、10万人の土地から今育っている作物を回収して、作物から芽を別で保管した。
肥溜めから、リン酸やカリ、カルシウム、マグネシウムを大量に手に入れて、初日に作った窒素などのパウダーと混ぜ合わせて、肥料を作り上げた。肥料の中には、亜鉛や銅なども含んでいた。栄養素満点の肥料を物凄く大量に手に作り終えたのだ。
これで、20万人の土地の肥料を手に入れたので、肥料の半分を使って、10万人分の土地の土を掘り起こし、混ぜて行くことになる。
500mの岩の板を使って、ボルフ王国の南側の土地をノートの上に線を書いていくように、源が空を飛んで移動しながら、土を巻き上げていく。リトシスを板に発動させて、物質を分解させたように土を耕かしていく。
だが、源は、今までの土地のさらに2倍の広さの土地を開発しはじめた。
1家族1a~2aという土地の広さは、狭すぎるからだ。4aは無理にしても、3aにまでは持っていきたい。
だが、その様子をみて、10人ほどの兵士がやってきて、勝手に土地を広げることは、許可できないと言ってきた。
早速、源の邪魔をしてきたと思ったが、源は、貧民地のすべての開発許可を国王からもらっていると話す。そして、国王に報告するように宣告した。
開発の邪魔をするのなら、この話は無しにすると言った。
兵士たちは戻って来て、国王からの許可が下りたと言ってきたので、作業を進めた。
今までの2倍の土地に、二日間で作った肥料を蒔いて、また、同じように、リトシスで、土地を巻き上げて、肥料を混ぜ合わせた。
源は、レジェンドの時のように、A1~A10000、B1~B10000、C1~C10000と標識を作るように指示を出して、3aで区切られた土地に、それらの標識を置かせていった。
10万人の農民の家族、それぞれに3aずつの土地を分け与えることになる。
南側は、約25000家族だ。
レジェンドの時のように、くじ引きにして、ぞれぞれ引かせて、25000家族のそれぞれの土地を与えた。
土地は、すでにリトシスで耕かされた状態なので、今までの農具があれば、3aの土地を家族で運営できるだろう。それらの土地には、肥料があるので、そこに、保存させていた。芽を均等に、わけて、植えさせていった。
芽の数が少なかったので、レジェンドからも芽を集めさせて、さらに増やした。
死んでいた土地に、無理やり肥料を混ぜ込んで作った土地だ。レジェンドのように肥えている土地で育てていないので、効果は、疑問だが、育てていくしかない。
その作物が育つまでは、何とか、レジェンドの3万人分の食料をやりくりして、6万人分にして、スーパーウッドパウダーで腹もちをよくさせ、10万人分で食べていく。もちろん、この中から税分を献上しなければいけない。それを差し引いたその量は、以前よりも多いほどなので、育つまでの食料は大丈夫だったが、育つのかが問題なのだ。
もし、失敗すれば、最後は、狼王の財宝を使って、他国から食料を買い取るということをしなければいけなくなるが、そんなことをしたら、シンダラード森林に財宝があることがバレてしまうので、最後の手段でしかない。